けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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??-4「序曲」

 目を覚ますと視界を覆いつくすほどの木々が目に留まった。ここはどこだろうか。二日酔いにでも苛まれるかのような不快感がアタシを支配している。アタシは重い体を引きずるように持ち上げると辺りを見回した。

 頭がガンガンする…足取りがおぼつかない…呼吸をするたびにカピカピに乾いた喉が妙な音を立てる。アタシは一体誰なのか…どうにかして思い出そうとするけど今の頭では情報の整理をするだけで手いっぱいだ。

 自身の姿を確認してみる。手には白い手袋をはめている。衣服はどこかの将校のようだ。髪は茶色のグラデーションがかかった銀髪をしている。そしてその頭には一対の羽が生えている。

 …思い出してきた。アタシの名前はハクトウワシだ。しかし、どうしてアタシはこんなところで寝ていたのだろう?アタシには帰るべき巣があったはずだ。セルリアンに負けて倒れるかよほど疲れてでもいない限りこんな危なっかしい所で眠るはずがない。アタシの本能がそれを許さない。

 

「うっ…!」

 

 ひどい吐き気だ。全身を血が駆け巡る感覚というものはこんなにも気持ちの悪いものなのだろうか。心臓によって打ち出された血液が血管を伝って全身に余すところなく運ばれていく。アタシの全身に張り巡らされた神経がそれを逐一アタシの司令部に伝えてくる。キモチワルイ。止まってくれればいいのに。

 

「そういうわけにも…いかないわよね…」

 

 願ってどうにかなるわけでもないことをいちいち思っていたって仕方がない。アタシには帰るべきところがあったはずだ。…しかしどこに帰るべきだったか…。確か、アタシの営巣していた場所はセルリアンに破壊されたのだったか…。

 

「セルリアン…破壊…仲間…」

 

 頭の中に砂嵐が流れる。

 

「うっ…グッ…!」

 

 思い出そうとするたびに頭に砂嵐が流れてくる。頭が痛い。アタシの本能が思い出すことを拒否しているようだ。後頭部を思い切りバットで殴られたかのような痛みがアタシに襲い掛かってくる。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 呼吸を整えて意識を落ち着かせる。得体の知れない気分の悪さも幾分か落ち着いてきた。確か、アタシは何よりも大事にしていた自分の巣をセルリアンに破壊されてから、タカやハヤブサと一緒になってセルリアンを退治して回っていたんだっけ。…そこからの記憶が曖昧だ。なんだか黒い影がアタシに何かを言っていたような気がする。

 

「黒い影に…会わなくちゃ…」

 

 心当たりはある。この島の長のヤタガラスだ。滅多に姿は見せないが、彼女の部下であるハシブトガラスに伝えさえすれば協議の後にヤタガラスが解決してくれる。確か、アタシは倒れる前に一度ヤタガラスに会っているはずなのだ。

 …記憶が前後して形が歪なままのパズルピースが無理やりはめられていくかのような気持ち悪さが残る。なぜヤタガラスに会ったのか。何を相談しに行ったのか。なぜ倒れてからの記憶が曖昧なのか。そんなことを考えていると再び頭がズキンと痛んだ。

 

「っ…!やめやめ、早くヤタガラスに会わなくちゃ…」

 

 重い体を引きずるようにしてあたしはその場所へと向かっていった。

 

 

…………

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 体が重い…。まるで体が腐ってるんじゃないかと思うほどだ。大して動いているわけでもないのに息が切れてしまって仕様がない。アタシの体は一体どうしてしまったのだろうか。かつてスカイインパルスとして名を馳せたアタシだけどこれではその名も泣いてしまう。

 

「つ、ついた…」

 

 途方もない時間を歩き続けてようやく到着した。ヤタガラスたちが陣を構えるゴコクエリアの総本山、ゴコク防衛城塞だ。ここが陥落されたときはそれこそゴコクエリアの滅亡と言ってもいい。

 何がともあれようやく着いたんだ。中に入れてもらうとしよう。

 

「おーーい!アタシよ!ハクトウワシよ!中に入れてちょうだい!」

「!」

 

 アタシが中に入れるよう声をあげると見覚えのある顔が反応を示した。あれは…ハヤブサ?まさか彼女が門番をしているとは。頭も切れて戦闘力も高い彼女が門番をしているなんてなんだかちょともったいない気もするけど…視力の良さを買われたりしているのだろうか?いずれにせよ外でバタバタとセルリアンを倒していたアタシたちスカイインパルスの一員が門番をしているのだ。それがなんだか意外だった。

 

「ハ、ハクトウワシ!?」

「そうよ!久しぶりね!ねえ、ハヤブサ!中に入れてちょうだい!」

 

 なぜか驚いたような反応をするとアタシの元へと下りてきた。一体どうしたのだろうか。

 

「ハクトウワシ!?本当にハクトウワシなのか!?」

「え、ええ…。何をそんなに驚いているのかしら…?」

「だ、だってお前…」

 

 そういうとハヤブサは黙ってしまった。俯いて何か言いたそうな顔をしている。

 

「と、とりあえずそこで待っててくれ。フレンズを呼んでくる」

 

 言うや否やハヤブサは飛んでいってしまった。なんだか信じられないものを見たかのような反応をしていた。なにかおかしい所でもあるのだろうか。確かに目覚めた場所が場所だから草や泥で多少汚れてはいるけどあそこまで驚かれるのはアタシとしても心外というものだ。特に彼女とは旧知の友である分より一層そう思えてくる。

 しばらくするとハヤブサと一緒に二つの黒い影がアタシの元へやってきた。ハヤブサが呼びに行ったというのはこの二人のことらしい。ヤタガラスとハシブトガラス直々のお出迎えだ。

 

「して、この者がハクトウワシということか。なるほど…」

 

 真っ赤な瞳がアタシを捉える。見えているか分からない左目は瞳孔までもが赤く染まっている。腰から生えている三足もの足は不気味にうねっていていつ見ても気味が悪い。この異様な外見もさながらアタシは彼女の持つ雰囲気がどうも苦手だ。できることなら早く分かれて中に入れてもらいたいものだけど…

 

「ヤタガラス、アタシがわかるでしょ?アタシは長い距離を歩いてもうへとへとなのよ。中に入って早く休みたいわ。早く中に入れてもらえないかしら?」

「…よくできているではないか、この傀儡人形は。追い返すがよい。死人に居場所はない。在るべき場所に帰るのだな」

「はぁ!?ちょ、何言ってるのよ!?ア、アタシが死人!?どういう意味よ!?」

「お前はゴコク防衛城塞においては死者として登録されている。それに…今のお前は"誰か"によって生かされているように見える。お前を通じて内部をその"誰か"に知られるわけにもいかん。悪いがここでお前を通すわけにはゆかぬ」

 

 淡々と理解に苦しむようなことを言ってのける。アタシが死者ですって?アタシは今こうして生きている。この呼吸は本物だ。この体に流れる血の循環は本物だ。アタシの感じているすべての感覚は本物なんだ。誰かに操られているなんてあり得ない。アタシはアタシだ。それ以外の何でもない。

 

「ヤタガラス様の命令です。早急に立ち退きなさい」

「嫌よ!苦労してここに来たんだもの!中には絶対入れてもらうわよ!」

「苦労して、か…」

 

 ヤタガラスに対して威嚇するように構えをとる。すぐさまハシブトガラスがアタシを牽制するかのように迎撃の構えをとった。

 ヤタガラスの手に赤黒い火球のようなものが浮かぶ。あの火球は…

 意識が一瞬だけ飛んだ。気付けばアタシは地面に仰向けになって倒れていた。一体何が起こったのか。

 

「あまり余の手を煩わせるな。二度とここには近付くでないぞ。次に余を拝謁するときは余自らがお前に手を下す時だと思え」

 

 そう言うとヤタガラスとハシブトガラスは飛び去って行った。アタシをここに招き入れるわけにはいかない、あたしをここに入れるわけにはいかないと言われた。理由はアタシは死人で誰かに操られているからだと。そんなの納得がいかない。納得のいく説明をしてもらわないとアタシの気が済まない。

 

「ちょっとヤタガラス!!!戻ってきなさい!!!戻ってアタシに納得のいくような説明をしてみなさいよ!!!」

「よせ!ハクトウワシ!」

 

 ハヤブサがアタシの腕をとって止めるようけん制してくる。

 

「ハヤブサ!アンタはどっちの味方なの!?」

「わ、私は…」

 

 ハヤブサが言葉に詰まる。なぜ言葉に詰まる?私とハヤブサは無二の親友のはずだ。その親友ですらアタシを信用できないというのか?こうなってはアタシは誰も信用できなくなってしまう。

 

「ハヤブサ…」

「…私は…ハクトウワシ…私は、お前が生きて戻って来てくれて、嬉しいと思う…。ヤタガラスの言ったことは真実かどうか私にはわからない…。でも…お前がこうして歩いて、喋って、私の名を呼んでくれただけでも…私は、とても嬉しいと思っている…。それだけは確かだ」

 

 そういってアタシの目をじっと見つめてきた。

 

「おかえり…ハクトウワシ」

「ハヤブサ…」

 

 おかえり…。おかえりという言葉がこれほど胸に沁みるとは思いもよらなかった。ヤタガラスはアタシを突っ返したけどハヤブサはアタシを迎え入れてくれた。この胸に感じる暖かさはなんだろうか。これがフレンズ化したアタシたちが感じる温もりというものなのだろうか。

 

「この先に小屋があるのは覚えているか?先にそこへ行っててくれないか。私はまだ少しやることがある。それを済ませたら私も向かう」

「…覚えてるけど…どういうこと?」

「…お前を一人にすることは私にはできない…。だけど、私としてもお前をここに入れる訳にもいかない…。だったら私はここを出てお前を守る。どんな結末が待っていようと今度こそお前を守ってみせる…!」

 

 そう言うとハヤブサは城塞内に飛んでいった。今度こそアタシを守る…。やっぱり何かがおかしい。本当にアタシは一回死んでいるのだろうか?目覚めたときのあの不快な感覚を思い出す。アタシは何故あんなところで眠っていたのだろう?アタシの身に何が起こったのだろう?思い出そうとするけどノイズでもかかったかのような奇妙な砂嵐だけが脳裏に思い浮かぶだけだ。

 考えたって仕様がない。ゆっくり思い出していくにしよう。アタシはハヤブサに言われたようにこの先にある小屋へと向かっていった。

 

 

…………

 

 

「…本当に良かったの?」

「ああ…後悔などない」

 

 ハヤブサはアタシのためにゴコク防衛城塞から去ったのだという。ヤタガラスに黙って無断で飛び出したらしく城塞内はパニックになっているだろうとハヤブサは言っている。最低限親しかったフレンズに挨拶と引継ぎだけして去ったのだそうだ。当然ながら心配されたり引き留められたりもしたのだそうだが彼女の意思を覆すには至らなかったらしい。なんだか申し訳ない気もするけどアタシとしては仲間は多い方が良いし、その仲間もハヤブサであればなおのことやりやすいというものだ。

 

「それに私はヤタガラスのやり方には不満を持っていたんだ。いくら生きていくためとはいえ、私たちで作った物をすべて没収するなんて私は気に入らない。パークの掟は自分の力で生きていくこと。いくらセルリアンが多くて危ないからってかばんのやり方に何の疑問も持たず従うなんて私はおかしいと思う。私たちはフレンズでありけものなんだ。私たちフレンズはけものらしく自由に生きていくべきなんだ!ヤタガラスたちのやり方は間違っている!」

 

 ハヤブサがヤタガラス…引いてはかばんのやり方に反発している。アタシもよくは覚えていないけど、ハヤブサの言葉を聞く限りこのエリアのフレンズたちに自由なんてものはないような気がした。

 

「自由…。けものとしての本来の在り方…。…そうね、ハヤブサ。今のままでは生きているなんて言えないわ。ただ死んでいないだけよ!こんなの間違っているわ!アタシたちで皆を解放してやりましょう!レッツジャスティスよ!ハヤブサ!」

「ああ!私たちでヤタガラスたちに抗おう!共にけものとしての本来の在り方を取り戻そう!」

 

 アタシたちは互いにガッシリと手を取り合うと固く握手を交わした。アタシたちの戦いが始まる。目指すはゴコクエリアの"解放"だ。圧制者からの解放…。そして間違った束縛からの解放をアタシたちは成し遂げてやるんだ。けものとしての、フレンズとしての本来の在り方を取り戻す。絶対に成し遂げてみせる…。ジャパリパークの正しい在り方をアタシたちは取り戻してやるんだ。

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