けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:こんぺし

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??-5「決意」

 夜、ふと目を覚ますと外に明かりが見えた。下が石詰めの床であるにも関わらず意外にも寝ることができたようだ。

 

「いたた…体のあちこちが痛いや…」

 

 でもやっぱりダメだったようで体の節々がズキズキする。そういえば今見えている明かりは別に何かを作っているわけではないようだ。よく見てみるとクロサイさんが焚火をしているように見える。火は怖くないのだろうか。目も覚めてしまったことだし少しお話してみよう。

 

「こんばんは、クロサイさん。隣いいかな?」

「うん?なんだともえか。どうしたのだ?」

「ちょっと目が覚めちゃって。少しお話ししようよ」

「はなし?話くらいなら別にいいが…私と話しても楽しくないぞ」

「それでもいいの!それにクロサイさんのことももっと知りたいし…」

 

 クロサイさんの隣に座って一緒に火に当たる。パチパチと弾ける薪の音はいつ聞いても良いものだ。

 隣を見ると昼の険しい顔はどこへやら、どこか柔和そうな表情をしているクロサイさんの姿があった。大抵のけものさんは火を怖がるものだけどどうやらクロサイさんはそうでもないらしい。それともサイは火を怖がらないものなのだろうか?

 

「クロサイさん、火は怖くないの?」

「うん?ああ、そうだな。ゴコクエリアで過ごしているけものは皆最低でも火は克服せねばならない。そうでもしなければここで生き残ることは難しいだろうからな」

「そ、そうなんだ…。やっぱキョウシュウエリアとは大違いだなぁ…」

「それほどにまでゴコクエリアは逼迫しているということなんだ。私も心苦しくはあるが、皆が生き残るために心を鬼にして、試練として火を克服させている。おかげで皆から嫌われているよ」

 

 そう言って自嘲気味に笑ってみせる。その姿はどこか寂し気に思えた。

 

「姫は…元気にしているだろうか…」

「姫…?」

 

 急に姫という場に似つかない言葉が飛び出してきた。このゴコクエリアにはお姫様でもいるのだろうか。

 

「クロサイさん、姫って誰のこと?」

「ああ、すまない。姫とはシロサイお嬢様のことだ。お前と同じキョウシュウエリアにいるのだが…暦通りに数えればもう十年以上会っていないことになるのだな…。元気にしているだろうか…。毎日同じ空を見上げて互いに思いを強くすると思っていたものだが…いつしかそれすら私は忘れてしまったのだな…」

 

 悲しそうにつぶやいて空を見上げる。その目は悲し気とも寂し気とも見て取れた。かつてはこのクロサイさんの目もキラキラと輝いていたのだろう。けど、この過酷なゴコクエリアがそのカガヤキを奪い去ってしまったのだ。セルリアンは直接カガヤキは奪わなかったかもしれないけど、クロサイさんにそのカガヤキ無理やり捨てさせたのだ。なんと業の深いことか。あまりにも惨くあまりにも殺生だ。同じジャパリパークで起きていることとは思えなかった。あたしがキョウシュウエリアでのびのびしている間にもゴコクエリアでは生きるか死ぬかの戦いが繰り広げられていたのだ。

 

「………」

 

 あたしは何も言えなかった。何を言っていいか分からなかった。けど、伝えるべきだろうか。あたしが平原地方でシロサイさんと戦ったことを。

 

「シロサイさん、元気そうだったよ。あたし、キョウシュウエリアの平原地方っていうところでシロサイさんと会ったんだ。ヘラジカさんっていうフレンズさんたちと一緒に合戦ごっこして遊んでたんだ。あたしやイエイヌちゃんたちも一緒に遊んだんだよ。みんな笑顔がキラキラ輝いてて…すごく楽しそうだったよ」

「…!それは本当か…!?」

 

 クロサイさんはガバっと立ち上がるとあたしの両肩を掴んできた。なんだか気が気ではないといった様子だ。

 

「う、うん…。クロサイさんが思ってる以上にシロサイさんは元気にしているよ。心配しなくても大丈夫。今もヘラジカさんと一緒に楽しんでると思う。それにヘラジカさんはすっごく強いんだからね。何かあればヘラジカさん…みんなが守ってくれるはずだよ」

「ッ…!!」

 

 クロサイさんの顔がくしゃっと崩れた。シロサイさんが元気に過ごしているという情報を知っただけかもしれないけど、クロサイさんにとっては何よりも知りたかった事なのだろう。

 

「それにシロサイさんはクロサイさんが心配するほどの弱いフレンズさんじゃないはずだよ。シロサイさんもクロサイさんみたいに強くてかっこいいフレンズなんだってあたし知ってるんだから。それと、クロサイさんは心配するんじゃなくて信用してみたらいいんじゃないかな。そうしたらクロサイさんも少しは気が楽になるはずだよ。シロサイさんもあんまり心配されると…ちょっと苦しく思うんじゃないかな」

「……そうかも…しれないな。お前の言う通り私も姫を信じてみることしよう。しかし、十年か…。お前も少しは私の気持ちが分かるはずだ。何の連絡もなく、生きているか死んでいるか、病気をしているか元気をしているかすらわからない。私としても気が気ではなかったんだ。だが…お前の知らせを聞けて本当に良かった。私も安心したよ。感謝している」

 

 涙を拭ってクロサイさんが気を取り直したように取り繕ってみせる。どうやら少し元気になったようだ。この騒動が収まったらクロサイさんをキョウシュウエリアに連れて行ってシロサイさんに会わせてあげたいな。最後にシロサイさんに会ったのはだいぶ前だけど今も元気にしているだろうか。鵺にやられたりしてないかな…?

 

「すまないな、ともえ。おかげで少し元気が出たようだ。お礼と言ってはなんだが、私の鍵を預けておくから私の部屋で眠るといい。綿花のベッドは気持ち良いぞ。私はまだ少し起きておく。私のことは気にせずにゆっくり休みな」

「うん、ありがとう。クロサイさん。お言葉に甘えて使わせてもらうね」

 

 クロサイさんの言葉に甘えてあたしはクロサイさんの部屋へと向かっていった。質素な検問所から想像はしていたけど思った通りの質素な部屋だった。部屋にはベッドとチェストと机、それとゴミしかない。真面目な分ガサツなところでもあるのだろか。

 ふと見ると少し黄ばんだベッドが目に映った。綿花のベッドとは言ってたけどなんだか少し潰れて見える。この様子では一度もベッドの手入れをしていないようだ。…気は引けるけど少し横になってみるとしよう。

 

「う、う~ん…。やっぱり固い…」

 

 綿花がつぶれて圧縮されてしまっている。ベッドのスプリングのおかげである程度の快適性はあるけどやっぱり固くて少し体が痛む。けど床で寝るよりはマシだしこのままこのベッドで寝ようかな…?

 

 

…………

 

 

 朝の光に照らされてあたしは目を覚ました。何やらざわざわとフレンズさんたちが外で騒いでいる音が聞こえる。何かあったのだろうか。それを確かめようとあたしは寝ぼけ眼をこすりながら外へ赴いた。

 

「なんだろう…」

 

 外へ出るとクロサイさんを中心に複数のフレンズさんたちが何やら騒いでいるのが見えた。よく見るとイエイヌちゃんやゴマちゃんの姿もある。けどなぜかアムちゃんはいない。

 

「何かあったの?」

「ともえちゃん!」

「ともえか。実はだな…」

 

 

…………

 

 

「密告者…」

「ああ…まただ…。我が手の内を外部へ密告している者がいる…。お前たちが来る以前からこうして誰かが外部へ情報を漏らしていているようでな…。大きな悩みの種さ…」

「そんな…でもどうして情報が漏れてるってわかるの?」

「ハクトウワシというフレンズがいるんだが…。そいつはセルリアンとセイレーンとは違うもう一つの敵対勢力なんだ。私の放している密偵の情報を総合すると、どうもハクトウワシは我々の行動を真似したり要塞を破壊するための破壊工作を企んでいるみたいでな…。…もしも密偵を出していなかったら…考えただけでも恐ろしいよ…」

 

 …どういうことだろう…?ハクトウワシちゃん…?フレンズさん同士で争ってるってこと…?

 

「ねえクロサイさん。そのハクトウワシちゃんが敵対勢力ってどういうこと?ゴコクエリアではフレンズさんたちが結託してセルリアンやセイレーンと戦ってるんじゃないの?」

「…詳しいことは私もよくわかっていない。お前もあまり首を突っ込まない方が良いぞ。この件に関しては私としても良い気はしない…。…私もできればアイツとはあまり戦いたくない…。今は敵でもかつては共に戦った仲間なんだ…」

 

 そういうクロサイさんの顔は暗かった。頭を抱えて深く項垂れている。どうやら事はあたしが思っている以上に深刻なようだ。キョウシュウエリアで聞いていた"不気味なモノ"…ここではセイレーンと呼ばれているあの化け物にセルリアン、そしてハクトウワシ…。次々と問題が浮き彫りになってくる。あたし個人としてもペイルちゃんというフレンズのことも気になるし…。

 …そういえばどうやってペイルちゃんを中に入れてあげよう…。すっかり忘れてたよ…。

 

「ペイルちゃん…」

「…まだアイツのことを気にしているのか?言っておくが中に入れようとしても無駄だぞ」

「わ、わかってるよ!でもどうしても気になって…」

「…そうか。別に外に出るだけなら構わないが…少しでも外へ出るなら…分かっているな?」

「う…うん」

 

 あの面倒な書類一式を思い出す。アレを思い出すだけでも尻込みしてしまいそうだが、迷っている場合ではない。あたしは詰所で一通り書くものを書くと外へ出た。

 

「…あれ?ペイルちゃんは?」

 

 ペイルちゃんの姿が見当たらない。昨日寝ていた木の木陰にもペイルちゃんの姿はない。あたしたちを置いてどこか別のところにでも行ったのだろうか。自身がお荷物になるからとあたしたちの元を去っていったのか。

 

「…イエイヌちゃん、ペイルちゃんがどこに行ったか、わかる?」

「はい。ニオイはあっちの方からします。…跡を追いかけましょうか?」

「…うん。お願い。ペイルちゃんは放っておけない…。ペイルちゃんはあたしが守ってあげなくちゃいけないんだ…」

「……」

 

 そばにいたイエイヌちゃんにペイルちゃんの所在を訊ねる。あたしの言葉を聞いたイエイヌちゃんの顔がやけに険しい。もしかしてイエイヌちゃんもペイルちゃんのことを警戒しているのだろうか。けど、それならどうしてあたしのわがままを聞いてくれているのだろうか。

 …かつてイエイヌちゃんの言っていたことを思い出す。あたしを愛し、共に生きると言ってたっけ。…それがどんな結果であろうとイエイヌちゃんは受け入れるのだろうか。

 …なんだかあたしはとんでもないことにイエイヌちゃんを巻き込んでいるような気がする。けど、イエイヌちゃんは黙って付いてきてくれている。イエイヌちゃんも相応の覚悟はできているということなのだろうか。…心苦しくはあるけどイエイヌちゃんにはあたしのわがままに少し付き合ってもらうとしよう。

 …今回の戦いは鵺騒動の比ではない。ゴコクエリアの全地方を巻き込んだ戦争のようなものになるだろう。そうでもあたしは戦っていくつもりだ。例えハクトウワシちゃんやクロサイさんと戦うことになるとしても…。あたしは弱い子を放ってはおけない。あたしはあたしの成すことをやり遂げるんだ。それがどんな結果になろうとしても…

 長い戦いが始まる。

 

 

…………

 

 

 少しみすぼらしい野営地ではあるがこれだけの設備が整っていれば簡単に落ちることはないだろう。機を熟して反撃の時を待つのだ。幸いにも意外なことにアタシに賛同してくれる同志はいっぱいいた。イヌワシが各地に潜り込んでアタシたちに協力するよう扇動してからは、それぞれの要塞の技術やフレンズがアタシたちの元へと集まって来ている。アタシが眠っていた間にもこのゴコクエリアの技術はものすごく進んでいたらしい。あのかばんがもたらした技術はすごいものだ。特にこの火薬を活かさない術はない。これがあるだけでアタシたちはゴコクエリアを掌握できるというものだ。

 それに今、アタシたちには心強い仲間がいる。黒ヤギの魔術師バフォメット、青いたてがみを持つ海神ポセイドン、そしてそんなアタシたちに協力してくれる、ペイルホース。どれも心強いアタシたちの仲間だ。バフォメットはなかなか外には出てこないけど、着実にアタシたちを勝利へと導いてくれている。ポセイドンは最近アタシたちの陣営に加わったばかりで実力は未知数のところが多いけど、その雰囲気からはただならぬフレンズとは見て取れる。ペイルホースは外回りで走り回ってばかりいるからアタシも良くわからないけど、アタシたちのために動いてくれているのは確かだ。この子たちとアタシたちの持つ技術があればゴコクエリアの解放も近いというものだ。アタシたちは勝つ。勝ってけものの本来あるべき姿を取り戻す。そのためにもアタシはいかなる代償をも支払ってやる。アタシたちは勝ってその栄光を手にするんだ。

 

 


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