けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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??-6「731」

 あたしはイエイヌちゃんに導かれるままにペイルちゃんの後を追っていた。あれからだいぶ奥の方まで来たような気がするけど本当に合っているのだろうか。

 

「イエイヌちゃん、本当にこっちで合ってるの?」

「はい、間違いありません。確かにペイルさんのニオイはこっちの方からします」

「そっか…。ペイルちゃん…どこに行ったんだろう…」

 

 あたしたちに気を使って去って行ったのだろう。昨日要塞の中に入れてやれなかったことがすごく悔やまれる。中にさえ入れることができればこんなことにはならなかったはずだ。いったいどこに行ってしまったのか…。この森のどこか奥深くで身を隠しているのだろうか。

 

「…ともえちゃん、わたしからの提案です。そして今言うことは昨日ゴマちゃんやアムールトラさんと話し合ったことでもあります。どうかよく聞いて考えてもらえたらと思います」

「…なに?」

 

 突然イエイヌちゃんが話を振ってきた。いつになく真剣なトーンだ。話しながらもあたしたちは歩みを進める。

 

「これはわたしたちが持っていた共通の認識なんですが…ペイルさん…彼女は普通のフレンズではありません。うまく言葉にはできませんが…彼女はとんでもなく黒い悪意のようなものを持って生まれたフレンズのような気がします。かくいうわたしも嗅覚でそれを感じています。彼女から感じる冷たい死臭のようなニオイ…。死人から感じるそれと全く同じなんです…。アムールトラさんやゴマちゃんも同じように彼女を危険なフレンズと認識しています。ともえちゃんもどうか良くお考えになってください…」

「…イエイヌちゃんもペイルちゃんのことを危ないフレンズだって思うの?」

「…はい。けものの本能とでもいうのでしょうか…。とにかく、ペイルさんからはなんだか危ないような得体の知れない何かを感じるんです。それを頭の片隅にでも置いていただけたらと思います…」

「…わかった」

 

 けものの本能…。あたしにはよくわからないけど、クロサイさんだけじゃなくてイエイヌちゃんやアムちゃんもペイルちゃんが危険だと感じているようだった。…別にあたしも感じていないわけではなかった。あのすべてを呑み込むかのような真っ暗な瞳にはあたしも魂が吸い込まれると思ったんだ。けど、そう思っただけでそれが避けて良い理由にはならないと思った。それだけで避けてはいけない。避けるようではペイルちゃんをいじめることになるのではないかと思った。だからあたしは手を差し伸べて可能ならお友達になろうと思ったんだ。

 

「忠告ありがとう、イエイヌちゃん。あたしも気を付けてはみるよ」

「聞き入れてくれてありがとうございます。忠告はしましたけど、わたしは基本的にはともえちゃんの方針には従います。それがわたしですから」

 

 そう言ってにっこりと微笑んでくれた。この笑顔のためにもあまり危険なことには巻き込みたくないな…。少しだけあたしの心が揺らいだ。

 

「…!フレンズさんのニオイです…!伏せてください!」

 

 バッと身をかがめて地面に伏せた。どうやらペイルちゃんとは違うフレンズさんのニオイを感知したらしい。もしかしてハクトウワシちゃんの斥候だったりするのかな…?いずれにせよイエイヌちゃんの様子を見る限り身をかがめてやり過ごした方がいいようだ。

 

「…気付かれていないようです。フレンズさんの正体を探ってくるので、ともえちゃんはここで待っててください。わたしから合図があるまで動かないでくださいね?」

 

 そう言うとイエイヌちゃんはどこかへ行ってしまった。果たして大丈夫なのだろうか。どうも落ち着かなくてソワソワしてしまう。イエイヌちゃんを一人で行かせたことに対してちょっと後悔してしまうようだ。

 

 しばらくするとイエイヌちゃんが走ってこっちに戻ってきた。なんだか変なものを見たというような顔をしている。

 

「ともえちゃん、フレンズさんの正体がわかりました。一緒に来てもらえませんか?」

「うん。ところで誰だったの?」

「…ナマケモノさんです。木の上でぐっすりと寝てました。このゴコクエリアで単独で行動するフレンズさんはいないはずですし、もしかしたら何かしら情報を得ることができるかもしれません。一緒に来て少し手伝ってもらえませんか?」

「う、うん。わかった」

 

イエイヌちゃんに連れられてそのナマケモノちゃんの元へと向かっていった。果たして着いてみると確かに木の上でだらーっと気持ちよさそうに寝ているナマケモノちゃんと思われる姿があった。ボサボサの頭にずれた蝶ネクタイ、それと着崩れたカーディガンを羽織っている。一見してみるとケモミミもしっぽもないしなんだかヒトのようにも見える。これでもフレンズさんなんだろう。

 

「さあ、一緒に降ろしましょう」

「い、いいのかな…?怒ったりしないかな…?」

「大丈夫ですよ。ナマケモノが怒るなんてあり得ません!」

「だといいんだけど…」

 

怒られやしないかとビクビクしながらもあたしはイエイヌちゃんとこのナマケモノちゃんを木の上から降ろした。しばらくするとなんとも緩慢な動作で寝ぼけ眼をこすりながら目を覚ました。ナマケモノちゃんは特に警戒することもなくあたしたちを見つめると質問を投げかけてきた。

 

「ん~~?だ~れ~…?」

「あ、あたしはともえっていうの!この子はイエイヌちゃん!」

「あ~…そう…私はナマケモノ…あれ…木の上で寝てたはずなのに…」

「ごめんね、ちょっと聞きたいことがあって…」

「聞きたいこと…?あれ、そういえば初めて見る顔…どこのフレンズなの?」

「どこの…?」

「どこから来たの~…?」

「クロサイさんの要塞からだよ。ちょっとあるフレンズさんを探してて…」

「ああ、クロサイのところの~…。探してるって誰を?」

「えっと、ペイルちゃんっていうんだけど…」

「ああ、ペイルホース…あいつとはあんま関わんない方が良いよ~…。あんまいい話は聞かないからね~。私もあっち側のフレンズっていうことしか知らないんだけど…」

「あっち側?ハクトウワシさんのフレンズってこと?」

 

 嫌な予想が頭の中を駆け抜けていく。…あたしだって薄々感づいてはいた。もしかしたらって何回も思ったりもしたけど、どうしてもあたしは放っておけなかった。

 

「まー、もっぱらハクトウワシ側のフレンズの間でもあまり好かれてはいないみたいだけどね~。全然フレンズの前に姿を現さなかったり、帰ってきてもすぐにまた出て行ったり臭かったりってあんまり歓迎されてる様子はないみたいだよ~」

 

 そう言ってのそっと動くとナマケモノちゃんは器用に木を登り始めた。見た目に反してスルスルと緩慢ながらも登っていっている。なんとも不思議である。

 

「そういえば密偵がハクトウワシさんの元にいると聞いているんですけどナマケモノさんはどなたか分かりませんか?」

「ん~…たぶん私だよ~…もしかして私以外にも他にいるのかなぁ…?」

「ナ、ナマケモノちゃんが!?」

「な、なんと…」

 

 イエイヌちゃんが絶句している。かくいうあたしもそうだ。密偵、即ちスパイというからにはステレオタイプではあるがもっとキリッとしていてちょっとセクシーなフレンズさんを想像していた。けど、実際にはまさかまさかのぐーたらなフレンズさんだったのだ。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。

 

「ど、どうしてナマケモノちゃんが密偵に…?」

「それがね~、まさか誰も私がスパイだなんて思わないだろうからってらしいんだ…。ひどいよね~…」

「た、確かに誰も思わないだろうね…」

 

 確かに万が一にもこんなのがスパイだとは誰も思わないだろう。これではハクトウワシさん側のフレンズさんも何人かこのスパイを見逃しているはずだ。

 

「まー、無理に引き留めはしないよ。行くならしっかり準備をして行くことだね~。少なからず向こうにはヤタガラスに匹敵するほどの強力なフレンズがいるって話だからね~。名前は…なんて言ったんだっけ…?」

 

 そう言ってうんうんと悩み始めた。何とか頑張って思い出してほしいけど…。

 ヤタガラス…確か太陽の化身とも言われた三本足のカラスだったはずだ。他にも神の遣いとか神そのものであるとも言われていたと思う。ナマケモノちゃんの口から出たということはそのヤタガラスさんはこのゴコクエリアに住んでいるのだろうか。

 

「! 誰か来ます!」

「え!?か、隠れなきゃ!」

「あんまりそわそわしない方がいいよ~。落ち着いて~自然体にね~。私と話してりゃー怪しまれないさ~」

 

 腕をぶらぶらさせながらへらへらと笑ってみせるナマケモノちゃん。本当にそれでいいのだろうか。あたしも落ち着いてそのフレンズさんと話してみよう。もしハクトウワシさんのところのフレンズさんだったら情報も聞くだけ聞きだしてみようかな。

 

 

…………

 

 

「ったく~、ともえもイエイヌもアムのやつもみーんな私を置いていきやがった!いったい何だってんだよ!」

「お、落ち着いてロードランナーさん…」

「ま、まぁまぁ…」

「これが落ち着いていられるかってんだ!あーイライラするぜぇ!」

 

 私は怒っている。アムは守衛のフレンズの目を盗んで無断で外へ出て行った。ともえとイエイヌはペイルの様子を見に行ったきり戻ってこないままだ。気付けば私はかばんとサーバルと一緒に取り残されてしまっていたのだ。特に私はあの三人と同じパーティだと思っていたから、私一人だけ残して行かれてしまっては心外というものだ。ひどく裏切られたような気がする。

 

「でもゴマちゃんの気持ちは分かる気がするな~。私もかばんちゃんに何も言わずに置いて行かれたらショックだもん」

「僕はそんなことはしないよ!でもサーバルちゃんは僕に黙って僕のジャパリまんを勝手に食べてたでしょ!」

「あ、あれはお腹空いてたんだもん!」

「だぁー!痴話げんかはヤメロ!」

「ご、ごめん!」

 

 相変わらずお熱いことだ。一人置いて行かれた私の前で堂々とイチャコラしやがる。

 

「そういや、かばん。お前このゴコクエリアにいたんだろ?何かこの異変についてわかったりしないのか?」

「ごめん、それは僕にも全然わからない。ペイルホースもセイレーンも僕がここを去った後に生まれたもののようだし…」

「それに、みんなすごいピリピリしてるよね。セルリアンと戦ってたときは皆必死に戦っててこんなにギスギスしてなかったんだけど…。…みんなが言ってるハクトウワシは新しく生まれたフレンズなのかなぁ?」

「どうだろう…。一度死んだフレンズさんは生き返らないはずだし…。フレンズさんに限らず一度死んだ生き物が生き返るなんて普通あり得ないことだからね」

「…?どういうことだ?」

 

 唐突に不穏なワードがかばんの口から放たれた。一度死んだフレンズ…?一体どういうことなんだ?

 

「なぁ、どういうことなんだ?私にも分かるように説明してくれよ」

「えっと…どういえばいいのかな…」

「…ハクトウワシはセルリアンとの戦いで一回死んだはずなんだ。私もかばんちゃんもそのことを知った時はすごいショックを受けたんだけど…。けど、どういうわけか知らないけど、今はなぜかヤタガラスやクロサイたちと敵対しているみたいなんだよ。ハクトウワシが生きているだけでも不思議なのに、どうしてクロサイたちと争ってるんだろう…訳が分からないよ…」

 

 そう言うサーバルは耳と頭を垂れて悲しそうにしている。かばんもこの今のゴコクエリアの状況がうまく呑み込めないといった感じだ。

 そんな私たちの元にクロサイが小走りに走り寄ってきた。

 

「かばんさん!ちょっといいですか!」

「僕?」

「少し折り入って相談したいことがあるんです!…それにロードランナーとサーバル、お前たちにも協力してほしいことがある。」

「私にか?」

「私?」

「…少し付いてきてくれ。今から話すことはハシブトガラスから伝えられた機密情報ともいえるものだ。…かばんさんとお前たちを信頼した上で話す。くれぐれも外部に漏らさないように」

 

 そう言われて付いて行った私たちが通されたのは質素な個室ともいうべき簡易な部屋だった。ベッドにチェストに机と最低限のものしか置かれていないけど、これがクロサイの普段寝泊まりしている部屋なのだろうか。

 

「…かばんさん、この要塞の先にある小高い丘に廃墟となった教会があるのはご存じですよね?」

「うん。みんなであそこで籠城したこともしっかり覚えているよ」

「…ハシブトガラスによると、ハクトウワシたちがそこを占拠して妙な動きを見せていると私のところに報告が入ったのです。どうやらあの教会には隠された地下通路があって、そこでハクトウワシたちが妙な実験をしているのを確認したようなのです。…散々お世話になったかばん殿にあまりこういうお願いはしたくないのですが、どうかかばん殿にサーバル、ロードランナー、どうか貴殿たちにその様子を探って来てはもらえませんか…?」

「う~ん、そうだねえ…」

「実験って?どんなことをしてるの?」

「それはよくわからない…。ただ、悲鳴や叫び声が聞こえることから良くない実験をしている可能性は高いということだ。ヤタガラスの意向もあって見過ごせないことから教会から最も近い私のところへ話が回ってきたんだ」

「なるほど…」

 

 実験…。叫び声…。嫌な妄想が頭の中を駆け抜けていく。どんな実験をしているのか…。この戦争を勝ち抜くためにフレンズを犠牲にするような実験がされているというのか?なんだか嫌な胸騒ぎがするようだ。叫び声と聞いて私の中にはビースト化しているアムの姿が思い浮かんだ。まさかとは思うが…それを確かめるためにも私は行かなければならないと思った。

 

「いいぜ、行ってやるよ。なんなら私一人でもいいぜ」

「本当か!?」

「ゴ、ゴマちゃん!?」

「なんだか嫌な予感がするんだ。うまく言葉では言い表せないけど…。とにかく私はその教会とやらに行く。お前たちはどうする?」

「…私も行くよ。私は私にできることをしたい。…クロサイ、私も行くよ!」

「…僕も行く。いいよね?クロサイさん」

「…はい!私も貴殿たちなら安心して送り出せます!どうかご武運を…!」

 

 

…………

 

 

「あれがその教会なんだな…」

「うん…ちょっとボロボロになってるけど…」

「フレンズたちはいないみたいだし入ろうぜ」

「待って!サーバルちゃん、誰かいるような感じはしない?」

「うん。音もニオイもしないよ。入っても大丈夫と思う」

 

 かばんの案内に従って、私たちは件の教会へとたどり着いた。ぽつんと建っているそれは思ったよりもあっさりと見つかった。クロサイから聞いた前情報を聞いたせいか分からないけど、ボロボロに朽ちたそれはおどろおどろしく不気味に見えた。私たちはこれからその教会の中に入っていくんだ。

 

「じゃあ…行くか…」

 

 私たちは教会の中へと入っていった。中は思った以上に荒れていて、かつての戦いの傷跡をそのまま残しているかのようだった。

 

「隠し通路なんてどこにあるんだろう?」

「さあ…僕も隠し通路があることなんて知りもしなかったよ」

 

 各々が勝手に動き回り、隠し通路とやらを見つけるためにウロウロしている。椅子を動かしたり見台を動かしたりと色々試してみるけどまるで見つからない。本当にあるのかとすら疑わしくなってきた。

 

「あれ…かばんちゃん、これ!」

「サーバルちゃん?…あっ!」

 

 サーバルが何かを見つけたようだ。果たして見に行ってみると地下へと通じるほら穴のようなものがそこにはあった。

 

「でかしたサーバル。早速入ってみるか」

 

 私たちは中に入ると奥へと歩みを進めていった。幸いにも見張りや哨戒などはいなかった。しばらくはむき出しの洞穴が続いていたけど、奥へと進むにつれ金属製の外壁が現れ始めた。いかにも人工的に作られたといった施設といったところだ。

 金属製の床を踏むたびにカンカンと無機質な音が鳴る。無味乾燥なその音は着々と私たちの精神を蝕むかのようだ。ピンと張った糸のように私の中に緊張が走る。

 

「うみゃあ…ヘンなところ…」

「教会の地下にこんなところがあるなんて…いつからあったんだろう…」

 

 もっともな疑問だ。ざっと見る限りずっと昔からあるわけではないようだし、きちんと手入れもされているように思える。ここもボスによって管理されているのだろうか。

 しばらく歩いているとラボのようなところに行きついた。中には一匹の動物が倒れている。壁には傷のような跡や何かが焼けたような跡が付いている。何とも異質な光景だ。

 

「何か実験をしていたようだね…。あまりこういうものは見たくないな…」

「…同感だ。早く行こう…」

 

 進む足を速めて早々にこの場を立ち去った。少し進むとヘンな臭いが鼻を突いた。

 

「なんだ?このニオイ…」

「…これ、血のニオイだよ…」

「血…?」

 

 血のニオイと聞いて身震いがした。…まさか"そういう"実験もやっているんじゃないだろうか。

 

「…警戒しよう。なにかこの施設で暴れているかもしれない」

「あ、ああ…」

 

 奥へ進んでいると似たようなラボが何回も目に留まった。壁に刻まれた鋭い切り跡や殴られてへこんだ壁、そして力なく倒れている様々なけもの。どれも目に余るようだった。

 奥へ進んでいくたびにニオイが濃くなっていく。やがてそのニオイの根源のある部屋へとたどり着いた。中に入ってみるとそこには赤い眼鏡に白衣を纏ったフレンズが血を流して倒れていた。

 

「こ、これは…」

「誰かにやられたようだね…」

 

 心臓が早鐘のように打っている。この現場の近くにこのフレンズを殺った誰かがいるんだ。そんな気がしてならなかった。

 

「サーバルちゃんは近くの警戒をお願い。僕は…ちょっとこの部屋を調べてみる」

「わ、わかった!」

 

 そういってかばんは変な箱のようなものをいじり始めた。どうやらパソコンというものらしい。カタカタと忙しなくキーボードを打っている。

 

「バビルサ…どうやらこの部屋で倒れている白衣を着たフレンズさんのようだね…。…この施設を取り仕切っていたみたいだ…」

「つまり…」

「この施設全体を使ってあらゆる実験を繰り返してきたマッドサイエンティストだよ…」

「そ、そんな…」

 

 この部屋で血を流して倒れているフレンズがバビルサというらしい。そして今かばんが使っているパソコンがバビルサの使っていたものということだ。…この施設で行われた実験の記録が記されているのだろうか。少し怖いけど妙な好奇心が私の中に湧いてくる。見たくないけど見たいような…奇妙な感情が私の中に湧いてきた。

 

 ○月×日 キョウシュウエリアでビーストというフレンズの変異種が確認された。コノハ博士によるとフレンズ化する際にセルリウムを吸収したことによる出来損ないらしい。続報が待たれる。

 

 ○月×日 どうやらビーストがキョウシュウエリアで暴れ回っているのだそうだ。ハクトウワシに報告すると海岸線を封鎖してビーストの侵入に警戒することになった。私としてはここで捕縛して生態を調べてみたいものだが…。まあ、無理だろう。末端の科学者はおとなしく研究に勤しむとしよう。

 

 ○月×日 キョウシュウエリアでビーストがフレンズ化したという知らせが入った。どういう方法を以ってフレンズ化したかまでは不明だが、ビーストをフレンズにする方法があるということだけはわかった。幸いにもセルリウムの採取箇所は見つけてある。適当な被検体を用意してセルリウムを摂取させてみよう。まずはビーストを用意せねばならない。

 

 ○月×日 チルーにセルリウムを注射したところものの数分で凶暴化した。モリイノシシによってラボに閉じ込めれたのはいいものの、どうやって沈静化を図るか悩むこととなった。しばらく様子を観察することにする。

 

 ○月×日 セルリアン数匹をチルーのラボに放ったが、十秒もしないうちにすべて倒されてしまった。これでは実験にならない。このままでは私の望む実験はできないので殺処分にすることとする。

 

「そんな…」

「な、なんなんだ…?」

「殺処分…。意図的にフレンズさんをビースト化した上に殺して処分するって…」

「な、なんだよそれ…」

 

 ○月×日 ビースト化する前の基本的な情報を取った上で新しくフレンズをビーストにした。今回から私の使う被検体は番号で呼ぶことにする。今回使う被検体は識別名ビースト1だ。この被検体のデータは留鳥類の中ではあらゆる面で平均的な個体だ。だが、セルリウムを注射するとあらゆる数値が倍以上に膨れ上がった。五感はもちろん筋力瞬発力どれをとっても大きなブーストがかかっているようだ。だが、理性は消滅して鳥ならざる声で叫んでいる。以降経過を観察する。

 

 ○月×日 翌日ラボに来てみるとビースト1が元のけものの状態になって息絶えているのを発見した。どうやら一晩中暴れ回って著しくサンドスターを消耗したように見える。どうやらビースト化すると体内のサンドスターを急速な勢いで消耗していくようだ。そのことがわかっただけでもビースト1の犠牲は無駄にはならなかっただろう。課題は多い。

 

 ○月×日 いちいちフレンズの基礎能力を取るのも面倒なので、ハクトウワシに頼んで入場するフレンズすべてに体力測定を義務付けることにしてもらった。早速適当な被検体を選んで、これをビースト2と呼ぶことにした。まずは暴れないよう拘束してごく普通のサンドスターを注射して様子を見ることとする。

 

 ○月×日 翌日ラボに来てみると特に衰弱している様子もなく、健康を害している様子もなかった。サンドスターを適量与えてやれば延命は可能らしい。以降サンドスターを与えて様子を観察してみることとする。ビースト化の解除、理性を持つビースト、もしくはビーストの能力を持つフレンズを誕生させることが私の大きな目標だ。

 

「………」

 

 私には書いてあることはわからないが、かばんの顔を見る限りは良くないことが書かれているのは確かだ。果たして私が文字を読めたとしてこのバビルサの日記に耐えれるだろうか。怒りで爆発してしまうかもしれない。

 次の瞬間かばんの目が見開いた。その手は怒りに震えているようだった。

 

 ○月×日 ビースト13は肺を焼く毒ガスに耐え、蛇の出血毒に数時間耐えた。腐食性の毒ガスで全身を溶かされたりもしたが翌日にはわずかな痕を残してほぼ完治していた。これを使わない手立てはない。急いで他のフレンズに応用できるように研究を進めねばならない。

 

 ○月×日 数か月に及ぶ私の実験に心が折れたのかビースト13が一切の抵抗を示さなくなった。ペストの罹患と治療に使ったビースト14と16は敗血症を起こし死んでしまった。せっかく用意したワクチンもこれでは無駄だ。ペストは適当な被検体を用意して引き続き実験を行う。

 

 ○月×日 ビーストの急激な再生能力は実に興味深い。同じペストでもビーストによっては再生する前に死んでしまう個体もいる。ペストの進行状況によっても再生能力の違いから延々と苦しむビーストもいれば自らの免疫だけで完治するビーストもいる。ビーストからワクチンを作り、ビーストを細菌爆弾として活用することだってできる。風が吹けば骨が折れそうなペイルなど目ではない。実験が成功すれば、吹き荒れる暴風と細菌爆弾の両方の特性を持った究極の生物兵器を持てることになるのだ。これさえあればゴコクエリアの平定など目ではないだろう。

 

「ッ…!!」

 

 かばんが怒りで全身を震え上がらせ、歯ぎしりしている。何が書いてあるかは分からないけど、あのかばんがここまでになるとはよほどのことが書かれていたに違いないだろう。きっとあのラボに関することだ。何の実験をしていたか気にはなるけど、聞かない方がかばんや私のためであることに違いはないだろう。

 

「他人の日記を盗み見るとは感心しないな、人間」

 

 不意に声が聞こえた。声のする方を見ると、流れるような水のたてがみを持つ馬のフレンズがそこにいた。

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