けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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??-7「ポセイドン」

「他人の日記を盗み見るとは感心しないな、人間」

 

 不意に声が聞こえた。声のする方を見ると、流れるような水のたてがみを持つ馬のフレンズがそこにいた。全身に刻まれた蒼く不気味に点滅する入れ墨がなんとも禍々しい。

 

「な、なんだお前!?」

「私の名を知らないというのか?かつてオリンポス十二神の一柱に数えられたこの私を?遍く海を支配し、ゼウスと共に双璧を成したこの私を知らないというのか?」

「…!まさか、ポセイドン…!けど、そんなバカな…!なんで神のお前が…!」

「バフォメットが私を馬として召喚したのだ。そしてサンドスターの奇跡を与え、私をこんな姿にした。忌々しくもあるが、これはこれで良いものだ。ヘルメスのように良く走れる」

 

 クツクツと不敵に笑うポセイドンと名乗るフレンズ。ペイルもそうだが、こいつもただのフレンズではない。かばんは神といったか?オリンポス十二神…?よくわからないけど、ただ者ではないことだけは確かにわかる。

 そういえばサーバルの姿が見当たらない。確か近くの警戒に当たっていたはずだけど…

 

「お、おめえ!サーバルはどうしやがった!」

「…!そうだ!サーバルちゃん!」

「サーバル?こいつのことか?」

 

 そう言ってボロ雑巾のように後ろの影からから首根っこを掴んでサーバルを取り出した。まるで物をあしらうかのようだ。

 

「サーバルちゃん…!貴様ッ…!」

「ふん、こんなもの…。お前の仲間だったか。返してやるぞ」

 

 片手で物を投げるかのようにサーバルを私たちの元へ投げ捨てた。気絶したサーバルの体が私の足元に転がり込む。それを見たかばんは我を忘れたようにデーンアックスを構えるとポセイドンへと切りかかった。

 

「ふん、愚か者が…」

 

 ドンという音と共にかばんの体が大きく吹き飛ばされた。

 

「ガッ…!」

 

 かばんが壁に勢いよく背を打ち付け、激しく咳込んでいる。いったい何が起きたんだ…?まるで見えない壁に吹き飛ばされたかのように見えたけど…

 

「人間風情が神に歯向かうか…。生意気な奴だ…。大人しく我が足元に跪くといい。そうすれば我らが庇護のもとで平穏無事に暮らせることを約束してやるぞ。私に牙を剥いたその罪も、赦してやろう」

「な、なんなんだてめえ…!こんな傲慢なフレンズ見たことねえぞ…!ヤマタノオロチだってもっと愛嬌があった…!」

「…あんな土着の雑種と私を同列に語るか…。愚か者が!」

 

 突如亜空間から現れた三叉の矛をポセイドンが手にすると私に向けて振りかざした。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 蒼白い電撃が私の体を容赦なく焼いてくる。どうやらあの矛の持つ特別な力らしい。ぶすぶすと肉の焼けるニオイがする。

 しびれるような痛みに身悶えする私を奴は汚物でも見るかのような目で見下している。

 痛みに耐えながら眼前の敵を睨むように捉える。くそっ、あんなのにどうやって勝てってんだよ…!

 

「そういえば、お前たちネズミ三匹の他に別なネズミがいたか…。バビルサと言ったか?そいつを殺した奴だ。そいつもお前の仲間だったりするのか?」

「な、何言ってやがる…」

「キョウシュウエリアのビースト、だったか…。あの血走った眼はまさしくビーストの名にふさわしいものだったなぁ…」

「まさか、アム…!てめえ!!!アムをどうしやがった!!!」

「ああ、私を見るなりそそくさと逃げていったよ。お前はどうする?私と戦うか?それともそのアムとやらのように尻尾を巻いて逃げるか?」

「くっ…」

 

 答えは一つしかない。こいつと戦ったって勝てっこない。恐らく私が全力で走ったところで馬のフレンズであるアイツから逃げ切るか分からない。けど今の私には逃げることしかできない。だったら…

 

「おい!かばん!立てるか!」

「う、うん…なんとか…」

「に、逃げるぞ!サーバルは私に任せろ!」

 

 ポセイドンの横を潜り抜けると私たちは全力で走りだした。ややかばんが苦しそうにしているが、あまり構ってやれる暇はない。私は私で恐怖のせいでうまく走れないでいる。来た道を全力で戻っていく。後ろからはじりじり迫るかのようにゆっくりとポセイドンが歩み寄ってきている。

 

「さて、私から逃げきれるかな…?」

 

 三叉の矛を振りかざして蒼白い雷を私たちに向かって放ってくる。わざと外して私たちの反応を楽しんでいるようだ。恐ろしく趣味の悪いカミサマだ。かつてキュウビキツネの言っていたことを思い出す。与えたのだから奪う、そして有無を言わさず崇拝させる…。あれがキュウビキツネの言っていたカミサマというものなのか。キュウビキツネが軽蔑するのも分かる気がする。

 

「くそっ…!アイツ、遊んでやがる…!何が神様だ…!あれじゃ悪魔にすら劣るケダモノじゃねえか…!」

「聞き捨てならんなぁ?ヒトですらない雑種が…」

 

 電撃が私の体を焼く。

 

「う゛ああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 電撃に体を焼かれ、たまらずダウンする。後ろからはゆっくりとポセイドンの足音が近づいてくる。ポセイドンは私を殺しはしないだろう。アレは弱い者をいじめて楽しんでいるのだ。つくづくシュミの悪いカミサマだ。

 

「ロードランナーさん!サーバルちゃん!ぐっ…」

 

 かばんが手斧を構えてポセイドンと相対する。

 

「幻滅したよ、ポセイドン…。まさか、かの有名なオリンポスの神がこんなにも悪趣味な性格をしていたなんてね…。無意味にフレンズさんを傷つけたりなんてして…。お前のその言動が神の本当の姿というわけなんだね…!」

「ふん、減らず口を良く叩く…。神の庇護なくしては生きていられぬ土くれが良くここまで成長したものだ。嬉しく思うぞ、人間」

「なにを…!」

「少し試練を与えてやろう。ペイル」

「…はい」

 

 突如ポセイドンの後ろからペイルが現れた。この場にペイルはいなかったはずだ。まさかポセイドンはあらゆるものを転送できるというのか。

 

「私は下々の人間どもに馬を与え、馬を使い大地を駆る術を教えた。そして今一度、お前にその術を教えてやるとしよう。この試練を乗り越え、見事このペイルを手懐けてみせよ」

 

 ペイルの虚ろで真っ黒な瞳がかばんを捉えると、その姿に似つかわない疾風のような動きでかばんとの距離を縮めた。

 

「やれ、ペイル」

 

 ペイルの拳がかばんの体に叩きこまれた。かばんの体が宙に浮く。

 

「ぐあっ…!?」

 

 すかさず二撃目が背中に叩きこまれ、馬の強靭な脚が胴体に叩きこまれると、かばんは私たちの遥か後方へと蹴り飛ばされてしまった。かばんは小さく呻きながら腹部を抑えて苦しんでいる。どうやらかなり堪えたようだ。大地を駆る馬の脚に蹴られたのだ。生きている方が不思議なくらいだ。

 

「口ほどにもない。これでは人間どもから馬を取り上げるべきか」

「か…ばん、ちゃん…」

 

 サーバルが目を覚ましたようだ。サーバルはこの惨状を確認するとふらふらとおぼつかない足取りで立ち上がった。

 

「…!ポセイドン…!」

「目を覚ましたか。残念だがお前のトモダチはくたばってしまったようだぞ。早くそいつを連れて逃げ帰った方が賢明だぞ?」

「ッ…!ゴマちゃん、行こう…!」

「あ、ああ」

 

 針を刺すような痛みに耐えながら立ち上がると、おぼつかない足取りながらも私たちは逃げ出した。少しでもアイツから離れなくては…

 

「私は許してもこいつは許さないようだぞ?ペイル、お前の好きにするといい」

「あぁぁぁぁあああ…あああああああああ!!!」

 

 不気味な叫び声を上げながらそいつは飛びかかってきた。もはや何の抵抗もできない、そう思ったときだった。

 

 ザシッ!!

 

「ああ…」

 

 謎の影がペイルへと飛びかかった。体を大きく抉られたペイルの体が大きく後方へと吹き飛ばされていく。

 

「あっ…」

 

 …間違いない。私たちがゴコクエリアに来た時に助けてくれたあのフレンズだ。茶色い体に黒いぶち模様、そしてアムみたいな虎の腕…。間違いない、あのときのフレンズだ。

 

「お、お前…」

「…行きなさい。ここは私が食い止める。こいつには、昔からの借りがあるからね…!」

「ほう、お前は…」

 

 ポセイドンがそのフレンズに興味を示している。何か知っているかのような反応だ。

 

「貴様、キマイラか…。あの頃とは全く違う姿をしているが、魂の輝きはキマイラのそれと同一のものと見える。貴様もバフォメットに召還されたのか?」

「…違う。それに私はキマイラなんかじゃない。キマイラなんて弱い奴は知らない。私はトラツグミ…鵺だ…!お前を倒し、復讐する者だ!」

「ほう…?」

 

 トラツグミがポセイドンに飛びかかる。けど、鵺と名乗ったか…?それにキマイラ…?キマイラって確か…

 ポセイドンになんとか対抗しているがあの巨躯の前ではやっぱり不利のように見える。時折りその体に蹴りや拳が叩きこまれるのを許している。しかし、トラツグミはそれにもくじけずポセイドンに戦いを挑んでいる。

 

「何をしている!早く行け!」

「っ…!あ、ああ!すまねえ!」

 

 ポセイドンと戦うトラツグミを背に私たちはこの場から逃げていった。後ろからは二人が激しく打ち合っている音が聞こえる。ポセイドンの放ついかづちか、トラツグミの爪が切り裂く音か、二人の激しくぶつかり合う音が聞こえていた。

 

 

…………

 

 

「ハァッ…!ハァッ…!な、なんとか逃げ切れたな…!」

「そうだね…。うぅ…あんなフレンズがいるなんて聞いたことがないよ…。なんかすごく私たちのこと馬鹿にしてくるしビリビリしてくるし…。…かばんちゃん、大丈夫…?」

「う、うん…。ごめん、サーバルちゃん…」

 

 這う這うの体でなんとか地下施設から逃げ出した私たちはポセイドンから逃げきれた安心感からひどく脱力していた。次に会ったら命はないだろう。もう二度とあんなのに遭遇するのはごめんだ。

 

「ゴコクエリアを救うっていうことは、あのポセイドンも倒さないといけないっていうことなんだよね…私たちにできるのかな…」

「やらなきゃいけないんだろうね…。でも、まさか神話クラスのフレンズがいるだなんて…。心が折れそうだよ…」

 

 緊張からの解放のおかげで冷静に戻れた二人が改めて現実を認識させられたようだ。非常に重苦しい雰囲気が二人を包み込んでいる。なんだか私まで沈んでしまいそうだ。

 

「ッ!!かばんちゃん!!伏せて!!」

「サ、サーバルちゃん!?」

 

 瞬間、地面が割れるかのような大きな地震が私たちを襲った。教会の壁が崩れていく。…ここにいては危険だ。なんとかここから離れないと…!

 

「私につかまれ!」

「ロードランナーさん!?」

「ど、どうするの!?」

「いいから早く!」

 

 飛ぶのはあまり得意ではないけど、短距離なら二人を抱えて飛べるはず…!頭の羽を羽ばたかせると数十メートルは飛ぶことができた。これだけ離れればあとは瓦礫なんかがこっちに飛んで来ないことを祈るだけだ。

 地震も治まり一安心した私たち。しかし、その安心も一瞬のうちに崩れ落ちた。かばんもサーバルもソレを見て絶句している。かくいう私もソレを見て絶望を感じずにはいられなかった。

 ポセイドン…。瓦礫の山からそいつが現れたのだ。宙に浮くそいつは、私たちに見せつけるようにトラツグミの首を絞めながらクツクツと笑っている。体には蒼白い電気を纏っている。

 ポセイドンは、私たちに気付いた素振りも見せずに、トラツグミを私たちに向けて放り投げた。

 

「あっ…!」

 

 うまいことサーバルがトラツグミをキャッチしてくれた。やっぱりアイツは私たちに気付いている。気付いていながら気付いていないふりをしているんだ。…このままではいくら逃げても無駄だろう。私たちの命は既にアイツの手の上ということだ。

 

「…面倒な奴が来たな。お前たち!今回は見逃してやる。精々我が手中で足掻くんだな!はっはっはっ!」

 

 そう言ってポセイドンはどこかへ去っていった。

 

「だ、大丈夫!?トラツグミちゃん!」

「だ、大丈夫…ぐっ…はぁっ…!」

「全然大丈夫じゃないじゃん!どうしよう、かばんちゃん…!」

 

 見た目以上にダメージを負っているようで、苦し気に荒々しく呼吸をしている。ポセイドンの放つ電撃に苦しめられたのだろうか。

 

「…とりあえず一旦クロサイさんの拠点に戻ろう。あそこだったら医療施設もあるし、鎮痛剤なんかもあるはず…。きちんと運営していればだけど…」

「そ、そうか…。一応安心はしていいんだな…?」

「うん。っつぅ…。僕もペイルにかなり強く蹴られたせいでまだお腹が痛いや…。僕も診てもらおうかな…」

 

 嫌な音が聞こえたもんな…。アレは鍛えられていなかったら死んでたかもしれないぞ…?

 

「っ!誰か来るよ!」

 

 サーバルが何かに反応した。今回は地震ではないようだ。…そういえば面倒な奴が来たと言っていたな。ポセイドンが歯向かえないフレンズということなのだろうか。だとしたら…。

 空から一人のフレンズが舞い降りてきた。軍服のような毛皮に白い髪、そして黒い羽根を持っている。かばんが信じられないものを見たというように目を見開いている。もしかすると彼女がかばんの言っていた、かつてセルリアンと戦って命を落としたというフレンズ、ハクトウワシなのかもしれない。

 

「あなたたち…」

「ッ…!ハクトウワシさん…!」

 

 ハクトウワシと呼ばれるフレンズがそこにいた。

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