けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:韓非子
トムソンガゼルと遊んでいるときに不意に揺れを感じた。足の裏に感じるそれは確かに地震のように感じた。トムソンガゼルにはよくわからなかったようだけど、確かにアタシには地震のように感じた。ただの地震であれば良かったのかもしれないけど、アタシの目に映るそれを見た時には、ただの地震なんかではないと瞬時に理解できた。それは、絶望と恐れを体現するのに十分のように思えた。
サーバルはゴコクエリアに旅立っていった。そしてあの島が見えるのはどの方向にあるのか。ゴコクエリアに何が起こったのか。サーバルは無事なのか…。いろんな不安が頭の中によぎっていった。
「カラカル…?」
「ごめん、ルル。アタシ、行かなきゃ…!」
「ちょっと!カラカル!」
ルルには申し訳ないけど、遊んでいる場合ではなかった。まずは博士たちに話を聞きに行かなければ。幸いにもここからだと図書館にも近い。半日もあれば着けるはずだ。時は一刻をも争う。早く博士たちの元へ行かなければ…
…………
「博士!」
「しっ!静かにするのです!博士は今重要な会議の最中なのです!」
「はぁ!?それどころじゃないっての!アンタたちあの島を見なかったの!?」
「それについて今ゴコクエリアのかばんと話している最中なのです!いいから静かにするのです!」
「何ワケ分かんないこと言って…!っ…!ちょっとどきなさい!」
「な、何をするのですか!待つのです!」
図書館についてみると、助手から訳の分からないことを言われた。ゴコクエリアのかばんと通話している?よく分からないけど、かばんと話しているのだったら当然サーバルもいるはずだ。
図書館の中に飛び込むと、博士がボスに何か語りかけている光景が目に入った。アレが"通話"しているというものなのだろう。
「ちょっとどきなさい!」
「な、何するのですか!」
博士を押しのけてボスを鷲掴みにすると、アタシはボスに怒鳴るように話かけた。
「サーバル!聞こえる!?」
「カ、カラカル!?どうしたの!?」
「どうしたのじゃないわよ!アンタ無事なの!?あの島は一体何なの!?」
「お、落ち着いて!私は大丈夫だよ!あ、あれは…。うううう!かばんちゃん、どう言ったらいいんだろう…!」
「カラカルちゃん?いったん落ち着いて僕の話を聞いてほしい。外にミミちゃん助手はいるのかな?だったら中に入れて、僕とサーバルちゃんとそっちの三人で話し合おう。事は非常に深刻なんだ」
…………
「ポセイドン…本で読んだことがあるのです。ギリシャにおける海を支配する神で、神々の王様であるゼウスにも匹敵する強大な力を持っていたと…」
「アトランティスという島は、ポセイドンの血を引く王家が支配していたそうですね。かばん、その島が本当にゴコクエリア近海に出現したのですか?」
「うん、間違いない。確かにポセイドンはアトランティスと言った。石造りの町並み、大きな神殿に王宮みたいな建物…。どういう経緯でここに顕現したかは分からないけど、あれは本物のアトランティスであることは間違いないと思う」
よく分からないけど、ポセイドンというフレンズがアトランティスというあの巨大な島を出現させたらしい。冷静になってみればとんでもないことである。そういえば、サーバルはゴコクエリアにで跋扈する不気味なモノを退治しに行ったんだっけ。
なんだかアタシの勘が警鐘を鳴らしているような感じがする。もしかすると、ソレこそがポセイドンと関連しているのではないかと思ってしまう。
「ねえ、ポセイドンは博士たちが言ってた、あの不気味なモノとなんか関連があるんじゃないの?」
「それはないと思うのです」
「ポセイドンは大地と海の神なのです。セイレーン…でしたか。ポセイドンがそのようなものを使役したとは聞いたことがないのです。かばんはどう思いますか?」
「…僕も博士たちと同意見だ。あれはポセイドンとは無関係と思う。多分アレは…」
「アレは…?」
「…いや、こっち問題だ。さっきも言った通り、事は非常に深刻で複雑なんだ。…それに、今はそれ以外にも話すことがあるはずだよ」
「そ、そうですね…」
「かばんの言う通りなのです」
アタシとしてはもっと知りたいこともあるけど、かばんの言うことはもっともだ。ここは我慢してかばんの話を聞くとしよう。
「ねえ…端的に聞くけど…アンタたち……大丈夫そうなの…?ポセイドンに…勝てそうなの…?」
「………」
かばんが沈黙する。この沈黙はどう言うことなのか。まさかポセイドンに勝てるか分からないとでも言うのか。
「…なんで黙るの…?ポセイドンに勝てるか分からないっていうの…?」
「…正直に言って、勝てる見込みはかなり低い…。前に一度、奴に戦いを挑んだんだ…。結果は近付けすらできなかった…。正直どうしようもないよ…」
今にも泣き出しそうな声でかばんはそう告げた。その声には諦めのような声色も聞いて取れた。
「…かばん。ひとつだけ…ひとつだけ望みがあるのです」
「…え?」
かばんが間抜けな声を漏らした。かく言うアタシも博士の思わぬ発言に耳を疑った。島を作り、かばんたちの攻撃を一切寄せ付けない敵に対抗する手段があると言うのか。
「かばん…四神は覚えていますか?」
「うん…覚えてるよ」
「博士…何を…?」
「セイリュウ…彼女の力を頼むのです…。もっとも、はるか昔にパークを護る礎となった守護けもの…もとい、神獣なのです。必ずしも成功するわけではありませんが…私の考えうる最善の方法であり、唯一の希望なのです…」
沈黙が流れる。何を言っているか分からなかった。すでに滅んでしまったフレンズの力を借りると言っているのか?正気とは思えなかった。もっと現実的な方法を以って挑むべきだと思った。
「それで本当に成功すると思ってるの…?」
「…それ以外に最良な方法があると言うのですか…?」
「………」
ない。あるわけがない。何も思い浮かばない。アタシとしても、セイリュウとやらの力を借りることができれば、それがベストな選択と思うのだが、博士も言ったように成功する可能性は限りなく低い。それどころかなんの成果もなく徒労に終わる可能性の方がずっと高いのだ。
そうは思ってても、いても立ってもいられなかった。徒労に終わろうとも、アタシは行くしかないと分かっていた。
「…アタシが行ってみる…。場所は…あのサンドスターの結晶が伸びてる山で良かったかしら。」
「はい…。…カラカル、今回の任務は、恐らくお前一人では難しいと思うのです。ですので、一人お供をつけるのです。そいつがいれば、成功する可能性がわずかにでも増えるかもしれないのです。カラカル、今はお前だけが頼りなのです。頼みますよ」
何もできないアタシに出来ること…。それが聖なる山に向かってカミサマに祈る事だなんて…。直接サーバルを助けることができないのがとっても悔しかった。
お供なんて待っていられなかった。アタシは一人で聖なる山に向かっていった。
…………
山に登ってしばらくが経った。麓を見下ろしてみると、だいぶ高いところまで登ったように見える。サーバルは大丈夫なのだろうか。それだけがどうしても心配だ。アタシがこうしている間にも、ポセイドンの攻撃を受けているかもしれない。そう思うと気が気ではなかった。
「カラカル様ー!」
不意にアタシを呼ぶ声が聞こえた。声のする方を振り返ると、白い甲冑を見に纏ったフレンズが、アタシに向かって走り寄ってきているところだった。鎧を纏って走っているせいか、ひどくバテているように見える。シロサイだ。かつて平原地方でサーバルと戦った相手で、ヘラジカの配下にあったフレンズだ。
「はぁ…はぁ…ひ、ひどいですわ…!わたくしを置いていくだなんて…」
「…アンタを待っている暇なんてなかったのよ。今、こうしている間にもサーバルがポセイドンにやられているかもしれない…。そう思うと気が気ではないのよ」
「…それはわたくしも同じですわ」
「同じ?」
目を伏せてシロサイが言う。
「わたくしには、もう十年以上会っていないフレンズがいますの…。その子の名はクロサイ。最初はゴコクエリアに遊びに行くだけだったはずなのですが…。それがゴコクエリアに行ったっきり、なんの連絡もなく、気付けばゴコクエリアに行く手段もなくしてしまいました…。風の噂では、ゴコクエリアではセルリアンが大量発生しているとか…。最初こそうるさいのがいなくなったと安堵していたのですが、いつしか寂しさを覚えて、喪失感が胸の内を占めていくようになりましたわ…」
「シロサイ…」
思わぬ告白を受けた。まさかこの子にもアタシと同じようにかけがえのない友達がいただなんて…。なんだかひどい扱いをしたような気がした。
「クロサイはわたくしのことを姫やらお嬢様と呼んでいましたわ…。そして、自身のことを姫の騎士と自称していたのですのよ…?今ではそれも遠い昔の話のようですわ…」
なんと言っていいか分からなかった。きっと、アタシにとってのサーバルのようなものなのだろう。それだけは分かった。アタシと同じ気持ちを持っているのであれば、断る理由はない。…きちんと博士の話を聞いておけば良かったな。後悔先に立たずとはこう言うことを言うのだろう。アタシはシロサイの手を取ると、山頂に向かって歩みを進めていった。
…………
山頂につくと、すぐに石碑のようなものが目についた。四つあるうちの一つがセイリュウの物ということなのだろう。果たしてどれがセイリュウの物なのだろうか。
「どれがセイリュウの石碑なのかしら…」
「スザクが鳥類で、ビャッコが虎、ゲンブが亀と蛇の複合種と聞いておりますわ。セイリュウが龍のフレンズのようですので、そのような紋様のある石碑を見つければ良いのではないでしょうか」
「龍…ってなんなのかしら…?」
「蛇みたいなものですわ。大きなトカゲみたいな場合もありますわ」
「ふーん…。じゃあトカゲかヘビを探せばいいのね。なんだ、簡単そうじゃない」
四つのうちの石碑からそれを探せばいいのだ。鳥と虎と亀と龍、見分けるのは簡単だ。問題があるとすれば、龍のフレンズがどんな特徴をしているか分からないということだ。
といっても、どうせ四つしかないのだし、総当たりすれば良いのだが。
「あれ、これかしら」
「みたいですわね」
思ったよりもあっさりと見つかった。小さな手足の生えた蛇のような紋様が目印だったのだ。どうやら変に難しく考えすぎていたようだ。
あとは…これにお願いすればいいのかな?
「どうすればいいのかしら…」
「祈る…お願いする…って博士たちは言っていましたわ」
「やっぱり…それしかないのかしら…」
半ば投げやりになりながら、天に乞うかのようにアタシはセイリュウの石碑向かってお願いをした。
「セイリュウ様!今、アタシの友達がゴコクエリアで最大のピンチを迎えています!どうかあなたの力を貸してください!お願いします!」
…当然ながら何も起きない。こうなるのは分かっていた。期待なんてしていなかった。期待していなかったのだけど、やっぱり心のどこかでは期待しているアタシがいたんだと思う。
何も応えない石碑にひどく失望させられた気がした。物言わぬ石碑にイライラさせられるようだった。
「カラカル様…」
「…だぁーっ!何だってんのよ!」
地団駄を踏んでイライラを紛らわせる。こうなることは分かっていた筈なのに、いざこうして物言わぬ石碑を前にすると、やり場のない怒りのようなものが湧き上がってくる。
「アタシの友達が!ゴコクエリアで!戦ってるのよ!サーバルだけじゃない!かばんだってそうよ!みんな戦ってる!パークを守るために!」
石碑を蹴ってアタシの怒りをぶつける。所詮伝説は伝説で、過去の遺物でしかないのだ。そんな物に頼っているアタシが情けなくて仕方なかった。怒りは収まらずただ募っていく。
「なんで何も言わないのよ!?アタシ知ってるのよ!凶暴なセルリアンを封じてパークの平和を保ってるのも、セルリウムを浄化してパークにセルリアンが溢れないようにしてるのも!なのに、眼前の脅威には目を向けようとすらしないワケ!?信じられないわ!」
物言わぬ石碑に向かって叫び続ける。アタシの感情はサーバルへの感情やこの石碑に対する感情でいっぱいだった。アタシはひたすら感情に任せるがまま叫び続けた。
「何か言いなさいよ!言いなさいってばぁ!お願いだから…!」
色んな感情に流されて、耐えれなくなったアタシは力なく崩れ落ちてしまった。膝をついて項垂れると、無力な自分が情けなく思えてポロポロと涙が溢れてきた。
隣では、シロサイが膝をついて祈りを捧げるような構えをとっている。呼吸は不安定で、彼女なりに押し寄せてくる感情に耐えているようだ。
「わたくしからもお願い致します…。どうか、わたくしたちに、ポセイドンに勝つためのお力添えを…!」
石碑は応えず、風の吹く音だけが辺りを支配している。やがて、アタシは天にも叫ぶような、胸の中の思いを吐露した。
「応えてよ…動いてよお!」
その時だった。
目を覆いたくなるような眩い光がアタシたちを包んだ。次の瞬間、目の前には、見たことのない青い姿をしたフレンズがそこにいた。
「セイ…リュウ…?」