けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:韓非子
パーク・セントラルにかばんさんが帰ってくるという報を受け取った。どこに行こうか考えていたけどまさかセントラルに戻ることになるとは思わなかった。なにしろあたしと同じヒトなのだ。この目で見ないわけにはいかなかった。
既に人だかりができている。かばんさんは有名人らしい。その中に博士ちゃんと助手ちゃんの姿があった。カラカルちゃんとアルパカちゃんもいる。あたしはその中の博士ちゃんたちに声をかけることにした。
「博士ちゃーん!助手ちゃーん久しぶり!」
「この声はとも…。っ!!?」
ばささささっ!
「うわ!なに!?」
辺りがざわつく。なにやら博士ちゃんがすごいことになっている。なんというか全体的に大きくなっている。
アムちゃんはまたかとうんざりしているようだ。アムちゃんも成長したものだ。
「アムちゃんはビーストじゃないよ!もしビーストだったら今ごろ大惨事になってるよ!」
「は~い静まれ静まれ~見せ物じゃないんだぜ~」
こういう時のゴマちゃんは頼りになる。みんなを落ち着かせようと自分から嫌な役を買ってくれるのだ。
「ビ、ビースト…!?」
「ふしゅーっ!ふしゅーっ!ふしゅーっ!」
どういう状況だろう。アムちゃんを見た助手ちゃんがうろたえてて、博士ちゃんが必死に威嚇しているようだ。まだアムちゃんをビーストと思っているのだろう。ここは説得しなくちゃ。
「あの、二人とも聞いて…」
説得しようと思った矢先にアムちゃんがあたしを引かせた。自分から説得しに行くらしい。
「は、博士、ビーストの様子がおかしいのです。どうやらいつものビーストとは違うようなのです」
「…ぷしゅう」
博士ちゃんが気絶してしまった。あの妙な上から目線とは裏腹に意外とメンタルは弱いのかもしれない。
刹那、辺り一面の空気がビリッと張りつめた。肌を刺すような殺気があたしたちを包む。見るとアムちゃんが尋常じゃない殺気を放っている。本能があたしに逃げるように警鐘を鳴らしてくる。
「…あたしにかけた最初の言葉を覚えているか?」
「…!」
ドスの効いた声で凄むアムちゃん。周りの騒めきも一瞬にして静まってしまった。ただその雰囲気に圧倒されるだけだった。あたしもあの時の再現が起きているようで足が震えてしまっている。
「あたしははっきりと覚えている…生かしておくか…殺す…食わせる…忘れるはずがない…あたしを狂気の渦に堕とした張本人だ…」
言葉を一句詠む度にビリビリと肌を刺すような殺気が辺りに満ちていく。もしかしたら本当にビーストに戻るかもしれない…そんな気がした。
「…忘れるな。あたしはお前たちを絶対に許さない。今ここで殺さないのもともえがいるからだ…彼女はビーストのあたしを救ってくれた。そしてフレンズとして、アムールトラとして認めてくれた、無二の恩人だ。それに免じて生かしているに過ぎん」
博士ちゃんが目を覚ました。瞬間シュッと細くなった。あの体どうなってるんだろう。
もはやあたしに状況を理解できる能力などなかった。
「…数多のフレンズに手をかけてきたあたしに今すぐお前たちを殺すことなど造作もないことだ。あたしは殺すと決めた時は躊躇いなく殺す。それだけは忘れるな」
辺りを包んでいた肌を刺すような殺気が薄らいでいく。するとアムちゃんがこちらにくるりと振り向いて謝ってきた。
「ごめん…やりすぎた」
…いつもの気が弱いアムちゃんだ。さっきの雰囲気とはまるで大違いだ。博士ちゃんたちがなにをしたかはわからないけど、アムちゃんがあそこまで変わるなんてよほどひどいことをしたのだろうか。
…博士ちゃんが白目をむいて泡を吹いている。アムちゃんのあまりもの殺気にかなりやられたらしい。トラウマになってなければいいけど…
「大丈夫…?」
あまり大丈夫ではないです。足が震えて言うことを聞いてくれません。
「ごめんね…あの二人にはどうしても言いたいことがあって…抑えきれなかった…」
「う、うん…大丈夫。ちょっと怖かったけど…」
まだ足がガクガクと震えている。アムちゃんもそれに気づいたのだろうか。
「あたし、ヒトを見てみたい。ともえちゃんも一緒に見よう?」
そう言うとひょいとあたしを担ぎ上げて肩車してきた。視点が一気に高くなった。たくさんのフレンズさんの頭が見える。狭かった海も一気に広くなったようだ。
「うううー!わたしも見たいですー!」
イエイヌちゃんがぴょんぴょんと跳ねている。ゴマちゃんは一人で飛んで知らん顔だ。おーっ!と驚きの声を上げると周りのフレンズさんたちも騒めき始めた。
「ともえちゃん、ちょっとごめん」
再びあたしを持ち上げると左肩に座らせた。
「ほら、イエイヌちゃんも」
膝裏に腕を突っ込むとそのまま草でも引き抜くかのようにひょいと持ち上げて自身の右肩に座らせた。すごい力だ。イエイヌちゃんをあたしと同じ高さに持ち上げてくれたことよりもそっちの方に意識が向いてしまう。
「わ、わふ…すごい力…。…ともえちゃん、あれ…」
「うん…何か見える…」
「かばんだわ」
不意に第三者の声が聞こえた。
「うわ!ト、トキちゃん!?」
「お久しぶりね。あなたたちも来てたのかしら」
トキちゃんだ。あの独特の掠れがかった声を聞き間違えるはずがない。
「トキさんはかばんさんのことを知ってるんですか?」
「知ってるも何も私の大切なファンだもの。私の歌を純粋に聞いてくれたのは彼女だけだったわ」
「そうなんだ…」
「それにアルパカのカフェを繁盛させたのもかばんの功績なのよ。忘れるわけがないわ」
「そういえばアルパカさんもそんなことを言ってましたね。いろんなところで名前を聞きますし、すごいお方なんですね」
「そうね。かばんがセルリアンに食べられたときにもパーク中からフレンズたちが集まって来てたし、人望も相当厚いはずよ。ほら、着いたみたい」
フレンズさんたちの騒めきが大きくなる。
「アムちゃん、もっと前!」
「うん」
人ごみ割いてのっしのっしと前に進んでいく。
そこには二人の姿があった。
少し背の高い、赤いシャツに黒い外套をまとった女の人と大きな耳の全体的に黄色っぽいフレンズさんの二人だ。前者の方はなんとなくかばんさんとわかるけどもう一人の方は誰だろう…?
みんなの声援を一身に浴びる二人。さしずめアイドルといったところだろうか。ふとかばんさんらしきヒトと目があった。しばらく見つめ合った後心底驚いたようにこう言った。
「君…もしかして…ヒト…?」
辺りが静まり返る。急ぐように人ごみをかき分けてあたしの元へ走り寄ってくる。いったいどうしたというのか。あたしがヒト…?どういうことだろう…?
「ねえ!君!」
「あ、あたし…?」
「うん!その帽子…フレンズさんらしき特徴もないし…僕と同じヒトだと思うんだ!違うかな!」
「ともえちゃんはヒトですよ。イエイヌであるわたしが保証します。あなたのことは聞いたことがあります。確か同じヒトを探し求めてゴコクエリアに旅立ったって聞きます」
「うん…10年あそこで探し続けたけど結局見つけれなかった…けど驚いたな…まさかキョウシュウエリアにずっと探し求めてたものがいたなんて…」
「じゅ、10年!?」
驚いた。10年もゴコクエリアでヒトを探し続けていたなんて…あたしだったら1年もしないうちに諦めて帰りそうなものだけど…
「まあ、探し続けてたっていうよりセルリアン退治の方がメインになるのかな。最初はやっぱり探していたんだけど、キョウシュウエリアとは比較にならないくらいセルリアンが多くてね。そこにいるフレンズさんのためにも、あそこのサーバルちゃんと一緒にずっと退治し続けてたんだ。それが10年かかったっていう方が正しいかも」
「そんなー、私、ほとんど何もしてないよー!」
「そんなことないよ。サーバルちゃんがいなかったら僕どんな目に会っていたか…」
なんか妙だ。ヒトのかばんさんがフレンズさんのサーバルちゃんよりも強いってこと?
「かばんちゃんってすっごいんだよ!テツっていうものを作ってセルリアンをバッタンバッタン倒していくんだ!私が苦労して一匹のセルリアンを倒してる内に五匹も六匹も倒してるんだもん!」
「あはは、でもサーバルちゃんの耳とか鼻とかのおかげで早くセルリアンにも気付けるからね。そこは適わないよ」
「でもそれだけじゃん!」
なんだか妙な距離感があるような…サーバルちゃんっていう子がなんだか拗ねているようなそんな態度をしているように見える。まるで痴話喧嘩を見ているようだ。
向こうではみんなが船のような乗り物を陸にあげる作業をしている。ゴマちゃんが音頭をとってみんなを指揮しているようだ。ゴマちゃんもたくましくなったと思う。
「そういえば君、名前を聞いてなかったね。なんていうんだい?」
「あたしはともえ!この子はイエイヌちゃんでこの子はアムちゃん!向こうで指揮を執ってるのがゴマちゃんだよ!」
「イエイヌちゃんはわかるけどアムちゃんとゴマちゃんは…?何のフレンズさん…?」
「あ、ごめんなさい…アムちゃんはアムールトラちゃんでゴマちゃんはロードランナーっていうフレンズさんなんだ!」
「な、なるほど…よくわかったよ…」
若干ひきつったような笑顔を見せてくるかばんさん。言いたいことはよくわかる。あたしも最初はそうだったからね。恐らくゴマちゃんとロードランナーの関連性のことが気になるんだろう。実はあたしもよくわかっていない。そして当の本人もわかっていないのだ。
「そういえば君もヒトなんだよね?よければ話を聞かせてくれないかな」
「うーん…聞かせてあげたいのは山々なんだけど実はこのパークにくる以前の記憶があまりなくって…」
「え、そうなんだ…」
露骨にしょんぼりしてくる。そんな反応されるとあたしもどう応じればいいかわからない。
「あたしも目覚めた場所がセントラルの施設にあるカプセルの中なんだ。どうしてそこで眠っていたのか記憶がなくって…」
多少の真実と若干の嘘を混ぜる。以前のあたしだったら全部真実なんだろうけど今のあたしのことを言ったって話がひどくこじれて訳が分からなくなるだろう。ここは全部セルリアンの女王によって再現された世界なんだから。
…なんかすごく恐ろしいことを言ったような気がする。
「そうなんだね…うーん、どうしてだろう。僕が最初に目覚めたときはサバンナ地方の真ん中にポツンと立っていて…後にミライさんっていう人の髪の毛からフレンズ化したっていうのがわかって…」
「そ、そうなの!?」
驚きの真実!かばんさんはヒトのフレンズだった!
「あっはは…訳が分からないよね…人のヒト化って…そうだ、アリツカゲラさんのロッジに行こうか。そこでゆっくりと話そう。ついでに鉄の作り方も教えてあげる。鉄の作り方をマスターしておくとセルリアンとの戦いにも役に立つよ」
そう言うと背中に括り付けてあった、丈は2メートルはあろうかという戦斧を持ち出した。
「これはデーンアックスっていって僕のメインウェポンなんだ。あとは投げ斧とかナイフとか…この刃の部分を鉄から作り出したんだ」
そう言って体中のいたるところから武器が出してくる。確かにこれならセルリアンに勝てるかもしれないしサーバルちゃんよりも強いかもしれない。
「かばんちゃん楽しそう…人に会えたのがそんなに嬉しいのかな…」
「かも…ですね」
どこか寂しそうな顔をするサーバルちゃんと、どことなく渋い顔をするイエイヌちゃん。なにか気に障ることでも言ったのだろうか。イエイヌちゃんがあんな顔をするとは珍しい。後で謝っておくべきかな…?
…………
「いらっしゃいませ~、ロッジアリツカにようこそ~…って、かばんさん…ですか…?」
「うん。久しぶりだね、アリツカゲラさん。ここも何も変わってないな~。あの時のまんまだ」
「うわ~、お久しぶりです~!真っ先にここに来てくれたんですか~?嬉しいです~!」
ほんわかしたしゃべり方をするのはアリツカゲラちゃんだ。このロッジの店主らしい。オオミミギツネちゃんが経営するホテルと同じ宿泊施設らしい。向こうと違ってちゃんといろんなフレンズさんが利用してるとのことだ。
チェックインを済ませると部屋に案内される。なんでも以前かばんさんが泊まった部屋と同じ部屋らしい。かばんさんとサーバルちゃん、あたしとイエイヌちゃん、ゴマちゃんとアムちゃんというペアに分かれるとそれぞれの部屋に通された。
「えへへ~ふかふかです~」
「そうだね~このお布団はもっふもふだね~」
イエイヌちゃんとこのベッドの組み合わせは最強だ。ふかふかですべすべのベッドとイエイヌちゃんのもふもふだ。最強と言わざるを得ない。どんな人やフレンズでも一瞬で落ちること間違いなしだ。
「わ、わたしはお布団じゃありません!」
「えっへへ~もふもふ~」
イエイヌちゃんもじゃれるようにいたずらっぽくあたしを離そうとする。イエイヌちゃんもまんざらではないようだ。
どったんどったん!
ゴマちゃんたちの部屋からどたばたと暴れるような音が聞こえる。
「なにやら二人で暴れているようですね。枕投げでもしているんでしょうか」
枕投げ。こういうところに来た時の定番の遊びだ。子供であれば誰しも一度はやったことがあるであろう。それが壁一枚隔てた向こうの部屋で行われている。
「い、行ってきます!」
イエイヌちゃんが行ってしまった。程なくしてゴマちゃんの声が聞こえたと思うとイエイヌちゃんの"わふぅ!"という鳴き声が聞こえてきた。再びどたばたとすごい音が鳴る。もはや大乱闘だ。
ふと外を見るとかばんさんとサーバルちゃんが何かしているのが見えた。なにやらあの乗り物から荷物を降ろしているようだ。果たして荷物なのだろうか。荷物にしてはあまりにも大きく、物のようには見えない。言うなれば装置…鍛冶場といったところだろうか。あれからかばんさんは鉄を作るのだろうか。
今日はもう遅い。しっかりと寝て明日に備えよう。