けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:こんぺし

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??-10「神を討つけもの」

「アンタ…セイリュウ…なの…?」

「…ええ、そうよ…。私の眠りを妨げるなんて…どういうことかしら」

「ア…アタシの友達がピンチなの!どうか、アンタの力を…」

「…また安易に私の力を…」

 

 そう言いかけたところで、遥か向こう…ゴコクエリア近海に浮かぶアトランティスに目を向けるとセイリュウは口を紡んだ。

 

「あれは…」

 

「…あそこでアタシの友達が神と戦おうとしてるの。あの大陸もその神が造ったものよ。アタシたちアニマルガールやヒトの力では絶対に勝てない…。だから…アンタの力を貸してほしいの…」

「………」

 

 セイリュウは神妙な顔をして黙っている。そして、その目は遠く一点を見つめている。一体どこを見つめているのか…。アトランティス…あの島にはポセイドンがいるはずだ。

 

「来る…!」

 

 瞬間、島全体を揺るがすほどの大きな揺れがアタシたちを襲った。初めて体験する大きな地震にパニックに陥る。恐怖に足が震えて立てなかった。大きく揺れる地面に足が立たなかった。

 

「カラカル様、前を!」

 

 シロサイが叫ぶ。シロサイに言われて前を見ると、大きく隆起する波の塊が見えた。

 

「あれは…津波ですわ!!」

 

 津波…?まさかあの波の塊がキョウシュウエリアに…?

 こんなの絶望だ。あんなのに襲われたら島の大半が水没してしまう。運よく生き延びることができたとしても、津波によって荒廃したキョウシュウエリアで生き延びるのは困難だろう。あの津波はすべてを呑み込んで破壊し尽くしていくだろう。深い絶望がアタシを襲うようだった。

 

「これは…」 

 

ぽつりとセイリュウが何かを呟いた。右手を前にして何かを念じるような所作を取ると、キョウシュウエリアからも何やら波の塊が現れた。やがて、それはゴコクエリアの波とぶつかると大きな水の柱を立てた。それから、またしても小さな波がキョウシュウエリアに向かっているのが見えたけど、あれでは、さしたる大きな問題にはならないだろう。

 セイリュウの力は本物と見える。彼女ならポセイドンに勝てるかもしれない。セイリュウはアタシたちを一瞥すると、一人ゴコクエリアへと飛び立っていった。セイリュウはアタシたちを認めてくれたんだ。青い影がゴコクエリアへと飛んでいく。神獣と神の一大決戦が始まるんだ。

 後は、セイリュウが勝ってくれるのを祈るのみだ。アタシたちに何ができるとかはないけど、それくらいはできるはずだ。決戦の時だ。遠く見えるアトランティスに視線を向けると、サーバル…セイリュウの勝利とみんなの無事を祈るのだった。

 

 

…………

 

 

 大きな地震の後に、大きな津波がキョウシュウエリアに向かっていくのが見えた。ポセイドンはフレンズさんたちが住まう一つの島を、落ち葉でも掃くかのように津波で消し去ろうとしているのだ。

 島全体を呑み込むかのような大きな津波が、キョウシュウエリアを呑み込もうと向かっていく。絶望と呼ぶには十分すぎるほどだ。視界が揺らいでいく。キョウシュウエリアで過ごした思い出が走馬灯のように駆け抜けていく。キョウシュウエリアで過ごしたたくさんの思い出も、ポセイドンが津波でさらおうとしているんだ。ポセイドンの勝手な気まぐれで、楽園の一つが消されてしまう。そんな事実にあたしは絶望した。そして、そんな無力な自分に打ち拉がれてしまった。

 

「何…?」

 

 ポセイドンが驚いたような声を漏らした。突如津波が大きく弾けたのだ。何が起きたか分からなかった。当のポセイドンも何が起きたか分からないといった様子だ。驚いたような顔を見せたかと思えば、遠く一点を睨んでいる。釣られてあたしもその方向に目を向けると、一つの青い影が真っ直ぐとこっちに向かってきていた。

 

「……何者だ…貴様…」

「私はセイリュウ…。ジャパリパークの東方を守護する守護けものよ」

 

 二つの影が睨み合う。青いツインテールに、青い龍のような尻尾を持つ彼女はセイリュウというらしい。守護けものと彼女は言った。もしかして、このパークの危機に駆け参じたのだろうか…?だとしたら、これほど嬉しいことはない。その雰囲気や容姿からは、ただのフレンズさんではないことは分かる。

 

「…私の権能に屈しないとは…唯の水棲動物ではないようだな。青龍と言ったか?面白い奴だ…。良いだろう!蛟と神の神格の違いをこの私が直々に教えてやる!かかってくるが良い!」

 

 ポセイドンの身体に刻まれた刺青が激しく光る。神としての力を解放したのだろう。

 場の雰囲気がポセイドンに圧せられる。まるで島全体がポセイドンの力に押し潰されるかのようだ。

 セイリュウの背後からポセイドンに向かって高速の弾丸のようなものが飛翔する。どうやら海面から射出されているようで、海の水を直接自身の武器としているようだ。

 

「青二才が…甘いわ!」

 

 水の弾がポセイドンの前で静止する。すると、それらはセイリュウに向かって撃ち返されてしまった。

 

「人間というものは時に面白いことを考えつくようでな…。その一つを貴様に見せてやろう」

 

 セイリュウの周りに水の弾が近付くと、その一つがパンと弾けた。細かな水の破片がセイリュウへと襲いかかる。

 

「ぐっ…!?」

 

 無数に襲い掛かる水の破片にセイリュウが苦しんでいる。明らかにセイリュウの撃ち出した水の弾より多くのそれが撃ち付けられている。どうやら、ポセイドンも同じように海面から水の弾を打ち出しているようだ。

 

「そらそらそらあ!守りに徹するようではこの私は倒せんぞ!!!」

 

 アトランティスの街から、海面から水の弾丸が撃ち付けられる。そして、その弾の一つ一つが凶悪な爆弾となってセイリュウに襲いかかる。

 

「くっ…!」

 

 なんとか結界を張ってポセイドンの攻撃を防ぐも、その行動は遅すぎたようだった。ポセイドンがセイリュウへと襲いかかる。

 

「にぃ…!」

 

 ポセイドンの右腕に纏われた水の刃が白く唸る。抵抗も空しく、セイリュウの結界を容易く切り裂いた。

 

「私はただ人間の上に胡座をかいていた訳ではない!私も神として人類の行く末を見守っていたのだ!まったく人類は面白い!時に神ですら思いつかぬようなことをやってのける!これもその一つだ!」

 

 ポセイドンの周りに水が舞う。それは、アトランティスの建物から削った石を自身の操る水に馴染ませると、セイリュウに向けて勢い良く放った。白いレーザーにのようにも思えるそれは、ウォータージェットのように見えた。

 

「ぐうううううううううっ…!?」

 

 苦痛にセイリュウが口を歪ませる。青いジャケットに生々しく赤黒い血が滲んでいる。あのウォータージェットに耐えれただけでも凄いものだけど、それでもやっぱり守護けものといえども堪えるようだ。

 

「…つまらんな。期待外れもいいところだぞ、セイリュウ」

 

 心底がっかりしたようにポセイドンが言う。その目はセイリュウを軽蔑しているように見える。だけど、彼女に諦める様子はなかった。

 項垂れていた頭を上げて、鋭い目つきでポセイドンを睨む。その口は口角が上がっているように見えた。

 

「ふふ…。ヤタガラス…この島にいたのね…。…分かったわ…。ならば、せめて彼女の準備が整うまで私も足掻くとしましょう…。覚悟なさい!ポセイドン!!!」

 

 セイリュウは全身に水を纏うと、その姿を青い龍の姿に変えた。岩石と白波が混じり合うその姿は、禍々しくも幻想的に思えた。無機質なその姿はどこかセルリアンのようにも思えるけど、全身に刻まれたその紋様は、ポセイドンのように点滅していてどこか神々しさを感じる。

 

「面白い…どこまで私と渡り合えるか…見てやろう!!」

 

 ポセイドンはセイリュウと同じく全身に海水を纏うと、その姿を禍々しい巨人の姿へと変えた。頭に生えているカニのような脚が不気味に蠢いていて、これが神の本当の姿なのかと失望させられるようだ。下半身は蛇のような姿をしていて、その姿はさながら怪物・ゴルゴーンを彷彿とさせるようだった。

 

「さあ、死合おうかあ!!青龍!!」

 

 二つの大きな巨影がぶつかり合う。波と波のぶつかり合う音が大きく響く。二柱がぶつかり合うたびにあたしたちの元にも水飛沫が降りかかってくる。あたしは、二柱の水を司る神同士による戦いが繰り広げられているんだと、目の前で起きている光景を見て感じた。

 セイリュウが天高く昇る。その時、視界の端にぴかりと何かが煌くのが見えた。

 島全体から地響きのような音が聞こえてくる。周囲を見渡してみると、いくつもの空を駆ける流星のような軌跡が見えた。燃えるようなたくさんの赤い点があたしたちに元へ飛んできている。

 

「やべぇぞ…逃げろ!」

 

 ゴマちゃんの呼び声にハッとしたあたしたちはアトランティスから離れるように逃げた。あの流星のようなものはアトランティスに向かって飛んできている。何となくだけどそれがわかった。ポセイドンはセイリュウとの戦いに気を取られていてそれらに気付いていないようだ。

 やがて、それらの火の弾はアトランティスに流れるように落ちていった。よく見ると巨大な槍のような、矢のような形をしているのが分かる。クロサイさんの要塞に設置されていたバリスタから射出されたのだろうか?ゴコクエリアのに点在している城塞から、一斉に火を吹いたのだろうか?ゴコクエリアのフレンズさんたちがこのポセイドンという巨悪に立ち向かっているのだろうか?

 アトランティスに容赦なく火の弾が降り注ぐ。大きな音を立ててアトランティスの建物が崩壊していく。やがて、アトランティスはごうごうと唸る火の海に包まれていった。

 

「…何ということだ…。セイリュウとの戦いに気を取られていていたばかりに攻撃を許すとは…」

 

 ゆっくりとポセイドンの巨体があたしたちを見下ろす。その目は無機質なものを見ているかのようだった。

 火矢の第二波がアトランティスに向かって飛翔してきている。ポセイドンはトライデントを振りかざすとすべての弾が弾き飛ばされた。

 

「愚かな獣共よ…我が聖域に楯突くとはどういう意味を表すかを…その身を以って知るといい!」

 

 帯電した三叉の矛があたしたちに振り下ろされる。そのとき、不意に黒い影があたしたちの前に現れた。黒い甲冑を纏ったその子はポセイドンの槍を振り払うと、あたしたちの安否を確認するかのように振り返った。

 

「お前たち!無事か!?」

 

 あたしたちにかけられた声はクロサイさんのものだった。クロサイさんはあたしたちの無事を確認すると前に大きくそびえ立つポセイドンを睨んだ。

 

「くっ…!ポセイドン…!噂は本当だったのか…!バフォメットめ…神に類するけものでなく本当に神そのものを召喚するとは…!だけど負けない…!私たちはあの時のような守られるだけの弱い存在などではない!!!我々は強くなった!!!お前たちの庇護などいるものか!!!けものの領域を超え我々は発展し、強くなったのだ!!!お前のような驕れる神など我々の力で打ち砕いてやる!!!覚悟しろ!ポセイドン!!!」

 

 クロサイさんが叫ぶ。けものやヒトを弱い存在と、庇護すべき存在と見下していたであろうポセイドンの顔が大きく歪む。その顔は怒りに満ちているように思えた。

 

「なんと生意気な…その無礼…決して見過ごせんぞ!!!」

 

 ポセイドンの巨大な体から無数の水の弾丸が弾幕のように射出される。自身を覆いつくすような暴風ともいえる弾幕をクロサイさんはスピアを振り回して的確に弾いている。

 

「ほう!口だけではないようだな!ではこいつはどうかな!?」

 

 先ほどの弾幕に加えていくつものウォータージェットが縦横無尽に大地をえぐり取っていく。セイリュウの体をも傷つけた威力があるんだ。普通のフレンズさんであるクロサイさんであれば掠りでもすればあっというまに粉砕されてしまうだろう。

 だが、実際はどうであろうか。自身に当たるであろう弾幕をクロサイさんは弾き、軽やかにウォータージェットの水流をかわしている。

 クロサイさんが一点を睨む。やがて、クロサイさんは狙いを定めると手にしているスピアをポセイドンの胸へとめがけて勢いよく投げた。だが空しいかな、そのスピアもポセイドンに振り払われてしまった。

 

「くそっ…!」

「ふん!狙いは良かったが、その程度の狙い、この私が見切れぬとでも思うてか!?小癪な奴よ!我が津波でこの島もろとも貴様を攫ってやろう!」

 

 ポセイドンがトライデントを高く持ち上げる。その時、不意に響くような声が聞こえた。

 

「ゴコクエリアのフレンズよ、今こそ決戦の時だ!さあ、者ども、鬨をあげよ!」

『うらーーー!!!』

 

 あたしたちの周りにたくさんの光の点が見えた。その数は十にも、百にも見えた。やがてそれらはフレンズさんの輪郭を取ると、一斉にポセイドン…アトランティスに向かって突撃していった。 

 

「今こそ反撃の時だ!我々はセルリアンに打ち勝ち、ゴコクエリアの勝利を得た!ヒトの叡智を授かり、いかなる圧制者にも屈せぬ力を得た!今こそその力を見せつける時だ!我々は仲間の死を、踏みにじられる大地を見てきた!セルリアンの恐怖からの解放の為に我々は戦ってきた!自由を、解放を、平和を得るために我々は戦い、そして勝利を得たのだ!血と泥にまみれ、仲間たちの死の上に我々は勝利をつかんだのだ!そして今!愚かにも血と犠牲の上に成り立ったこのゴコクエリアの平穏を、バフォメット、ポセイドン、ハクトウワシめが、打ち壊そうとしている!同志たちよ!今こそ立ち上がる時だ!先陣はこのヤタガラスが切る!神を騙る愚か者共に、そして裏切り者に!我らの団結を見せつける時だ!者共!進むのだ!!!」

『うーらー!!!!』

 

 津波の如くフレンズさんたちがアトランティスに向かって進んでいく。先頭にはカラスのようなフレンズさんが先陣を切って突撃している。アレがヤタガラスを名乗るフレンズさんのなのだろうか。

 

「貴様も遠呂智と同じく土着の神霊か…痴れ者が、その思い上がり…真の神たる私が誅してくれるわアッ!!!」

 クロサイさんに放った弾幕とは比較にならないほどの密度の濃い弾幕がヤタガラスさんに向かって放たれた。しかし、ヤタガラスさんは如何することもなくただまっすぐと飛翔している。

 弾幕がヤタガラスさんに到達するその瞬間、弾幕が消滅した。消滅したというより煙となって消えたのだ。あれは一体…

 

「攻撃が効かない…!?」

「太陽の化身たる余にお前の攻撃は通らぬ…。悪逆無道無法千万の限りを尽くす海神の化身よ…。余の裁きを受けるがよい…!」

 

 黒い玉のようなものがヤタガラスさんの右手に浮かぶ。それはポセイドンの元へ飛んでいくと太陽のような眩い閃光を放った。

 

「なっ…!?」

 

 次の瞬間には、水を纏った巨人であるポセイドンの右腕がなくなっていた。ポセイドンの右腕があったところにはまたしても白い煙のようなものがあがっている。よく見ると水蒸気のようにも見える。もしかして蒸発しているのだろうか。

 

「さて、どうする?アトランティスが荒らされているようだぞ」

「ぐっ…貴様ァ…!」

 

 ポセイドンが悔しそうに唇を噛んでいる間にもフレンズさんたちが容赦なくアトランティスで暴れ回っている。空からはまたしてもバリスタの弾幕が飛んできている。これではいくら何でもポセイドンも四面楚歌でしかない。

 

「おのれおのれ…!忌々しい畜生どもめ…!ならば我が権能を駆使して貴様らを駆逐してみせよう…!」

 

 ポセイドンはトライデントを空へ掲げると、青い稲妻と共に不思議な音が共鳴音のようなものが響いた。周りのフレンズさんたちから動揺のような騒ぎ声が聞こえてくる。

 

「忌々しいが、しばらくこれで時間を稼ぐとしよう…。ディアトリマ!私の傀儡と共にアトランティスを荒らして回る獣共の殲滅を任せたぞ!」

「オーケー!お姉さんに任せなさい!」

 

 赤髪で少し小柄なフレンズさんがポセイドンの前に躍り出てきた。ハイライトのないその笑顔にはどこか恐ろしいものを感じる。ディアトリマ…?その威圧感は確かなものだ。アムちゃんにも負けないものがある。

 

「まずはここいらのフレンズの掃除からね!最強の鳥類たるこのディアトリマお姉さんがまとめて相手してあげるわ!かかってきなさい!」

 

 熊のフレンズさんを中心としたゴコクエリアのフレンズさんたちがディアトリマへ突撃していく。熊の手を模した大きなスタンプが次々とディアトリマの小さな体へ襲い掛かる。

 

「おっと!危ない危ない!あんなものに当たったらひとたまりもないわね…!けど、当たらなければどうということはないよ!」

 

 ディアトリマの強烈な蹴りが熊のフレンズさんの一人に叩きこまれた。急所に入ったのか胃液のようなものを吐いてうずくまってしまった。

 

「私はディアトリマ!ハクトウワシの元で、私たちトリが地上最強ということを世に知らしめんとする者よ!腕に自信のあるコはかかってきなさい!お姉さんが相手になってあげるわ!」

 

 大きく名乗りをあげ、自身がディアトリマということを宣言する。まるで戦国大将のようだ。その腕は確かなもので、次々とフレンズさんたちを文字通り蹴散らしていっている。

 ディアトリマの周りにイルカさんやアザラシさんのフレンズさんが集まってくる。どの子たちも目がうつろで自我を失っているように見える。

 

「これがポセイドンの言う権能というものね…。海棲生物はみんなポセイドンの操り人形ということなのかしら…。あまり良い気はしないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないわね…!」

 

 華麗な足さばきで次々とフレンズさんたちを撃破していっている。

 よく見ると馬系のフレンズさんたちも集まってきている。どの子も目がうつろで操られているように見える。海棲系フレンズさんだけじゃなくて馬系のフレンズさんもポセイドンの権能の対象なのだろうか。

 

「おい!大変だ!アトランティスでシロナガスクジラが暴れてやがる!たった一人でフレンズを食い止めてやがるぞ!なんとかしねえとみんなやられちまうぞ!」

「ゴマちゃん!くっ…そうだね…!でもどうしたら…!」

 

 必死に頭を回転させる。ゴコクエリアのフレンズさんはみんな火を克服してるとクロサイさんは言っていた。克服しなくてもクジラさんは火を恐れないだろう。投石機やバリスタを使ってはアトランティスで頑張っているフレンズさんを巻き込んでしまう。弾道力学なんてあたしには分からないし…。

 

「怯むな!!!ここで負けてはゴコクエリアのみならずパークそのものが滅亡することになるんだ!!!私たちの敗北こそパークの滅亡と思え!!最後の一兵になろうとも戦い続けるんだ!!!」

 

 クロサイさんがフレンズさんたちを鼓舞する。

 

「火を克服したのは何の為だ!仲間の死を乗り越え前へ進んだのは何の為だ!血と泥にまみれながらも這い上がったのは何の為だ!!!我々は必死に生き、いくつもの別れと犠牲を経験し、強くなっただろう!それは何の為だ!生きる為ではないのか!?私たちが愛するパークの為ではないのか!?今!ハクトウワシやポセイドン共がそれを蹂躙し、破壊しようとしている!我々はそれを決して許してはならない!奴らは、我々が築き上げてきた平和を、秩序を!容赦なく破壊しようとしている!我々の血を!肉を!魂を捧げてきたこのゴコクエリアを奴らはなんとも思わず、我が私欲の為に踏み躙ろうとしているのだ!決して膝を折ってはいけない!決して負けてはならない!我々は最前線であり、最後の守りなのだ!我々は団結し、強く!最後まで戦い抜くんだ!!!」

 

 クロサイさんの号令と共にフレンズさんが奮起する。スピアを失ったクロサイさんは徒手空拳のまま戦場へ躍り出ていった。

 その時だった。不意に空からフレンズさんが飛んできた。地面に叩きつけられたランスから放たれた衝撃波がディアトリマたちを吹き飛ばす。見覚えのある白い甲冑…。もしかして、シロサイさん…?

 

「助けに来ましたわよ、わたくしの騎士…!」

「あっ…。ひ……姫…?」

 

 ぽかんとシロサイさんの顔を見上げている。目の前にあるものが信じられないといった様子だ。現にあたしもキョウシュウエリアにいるはずのシロサイさんがここにいるのが信じられなかった。よく見るとシロサイさんの他にもカラカルちゃんやプロングホーンさんたちの姿もある。一体どう言うことなんだろう…?どうしてシロサイさんたちがここにいるんだろう…?

 

「ひ…姫…?本当に…シロサイ…お嬢様なのですか…?」

「他の誰に見えますの?ほら、早く立ち上がりなさい!敵を片付けますわよ!」

 

 ぽかんとしているクロサイさんにシロサイさんが手を差し伸べる。おずおずと差し出されたクロサイさんの手を力強く取ると、グイっと引っ張り上げた。

 

「さあ、やりますわよ!わたくしの騎士!後れを取らないようにしっかり付いて来なさい!」

「っ…!は、はい…!姫の御身は必ず私が守り切ってみせます…!」

 

 二人の騎士がディアトリマに突撃していく。後ろではサーバルちゃんとカラカルちゃんが再会を喜んでいた。

 

「もう!本当に心配したんだから!ねえ、大丈夫なの!?ケガはしてないの!?」

 

「ご、ごめんね!カラカル!でも来てくれて嬉しいよ!ちょっとポセイドンにやられちゃったけど…。でも、へーきだよ!」

「もう…アンタって子はぁ…!」

 

 カラカルちゃんが泣きだした。どうやら本気でゴコクエリアに来ていたサーバルちゃんのことを心配していたようだった。

 

「…やるわよ、サーバル。ポセイドンなんて奴、ぶっ潰してやりましょ!」

「うん!今の私たちなら負けないよ!行こ!カラカル!」

 

 カラカルちゃんとサーバルちゃんもクロサイさんたちに続いて前線へと飛び出して行った。ディアトリマもこの四人を相手にするのは堪えるようで、少し押されているように見える。クロサイさんも得物がないながらに善戦している。

 アムちゃんがセイリュウと戦っているポセイドンを睨んでいる。どうやらポセイドンを相手に戦う気らしい。

 決戦が始まろうとしている。早くこの戦いに終止符を打たなければいけない。あたしもできる限りの全力のサポートをしよう。


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