けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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豺キ豐-15「腐敗と悪意の獣」

「ク゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!゛!゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

 

 巨像の内側に張り巡らされている骨組みを次々と壊していく。体の真を貫く太い金属の骨組みは特に念入りに破壊しなくてはならない。この骨組みには、特に白い稲妻のようなエナジーが濃く流れているのが分かる。これを念入りに破壊すればコロッサスの活動も著しく低下するのは明白だ。

 

「フ゛ゥ゛・・・!゛カ゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 斬って、裂いて、叩いて、壊していく。激しく動き回っているのか、わたしもミキサーにかけらる食材のように振り回される。

 

「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!!」

 

 コロッサスが叫ぶ。体内を掻き回す害虫に苛立っているのだろう。だとすればこれ以上喜ばしいことはない。わたしもコロッサスを追い詰めているんだと思うと口元が歪むようだ。

 

 ガィン!!

 

 突如巨大な手が外殻を突き破って現れたと思うと、わたしを鷲掴みにして外へ引きずり出した。コロッサスが自らの体内に手を突き入れて、わたしを外へと引きずり出したのだ。

 

「ク゛ゥ゛ッ゛・・・!゛?゛」

 

 白く光る両目がわたしの前に迫る。自らの体内を荒らしまわった害虫を認めると、勢いよくわたしを地面に叩きつけた。地面に打ち付けられた衝撃がわたしの体内を破壊する。

 

「ク゛ッ゛・・・オ゛ォ゛オ゛・・・!゛!゛コ゛ホ゛ッ゛・・・!゛!゛」

 

 口から血が溢れてくる。サンドスターの枯渇と体へのダメージの蓄積で、わたしの体は確実に崩壊しかけている。だけど、迸る怒りと仇敵を討つという思いがわたしの体を突き動かしていく。

 頭の中をノイズが走る。その言葉は私を滅亡へと、滅びへと誘っていくようだ。

 

 目の前の敵を討て。怨敵を討て、斬り刻め、討ち滅ぼせ。お前の敵は何だ?倒すべきモノは何だ?斬れ、潰せ、殺せ、滅ぼせ。

 うるさい。五月蠅い五月蠅い五月蠅いっ…!

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!゛!゛」

 

 獣のような絶叫をあげて頭の中のノイズを吹き飛ばす。わたしはわたしだ…!理性を失くしたビーストなんかに絶対にならない…!わたしには愛すべきご主人がいて、仲間がいるんだ…!

 

「キ゛ッ゛・・・!゛」

 

 目の前の敵を睨む。鎖に繋がれたそれは、さながら囚人のように思えた。鎖に繋がれた哀れな囚人は獄卒に虐げられるのが定めなのだ。力を込める両腕に血が滾る。視点を一点に定める。狙うは右腕、必ず切り裂き、落としてみせる…!

 

「キ゛ィ゛ッ゛・・・!゛」

 

 両腕を高く上げる。乱れ舞う鎖が巨人を覆う。だけど、そんなのは関係ない。狙いを一点に絞る。狙うのは肘から先、手首を切り落とす…!

 巨人が右腕を引く。飛びかかるわたしを迎撃するようだ。ここからは寸分の油断も許されない。巨人が先に拳を繰り出せばわたしは死ぬ。わたしの爪が出し遅れれば死ぬ。少しの行動の遅れがわたしを死なす。

 すべての神経を集中させろ。五感を研ぎ澄ませ。巨人の攻撃と共に、振り上げた手を、爪を振り下ろすんだ。早くても遅くてもいけない。僅かなズレがわたしを死に追いやるんだ。

 しならせた体に力が篭る。巨人の目とわたしの視線が交差する。

 次の瞬間、巨人の拳がわたしへと突き上げられた。

 

「ッ゛・・・!゛!゛!゛」

「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!!」

 

 巨人の右手が宙を舞う。白い濁流が宙を乱れ舞う。鎖に繋がれた右手は大きく円を描くと、巨人の顔を殴打した。

 

「て゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛!゛!゛!゛!゛」

「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!!」

 

 アムールトラさんは一瞬の隙を逃さなかった。わたしが切り離した右手をフルスイングさせると、巨人の顔を力任せに殴り飛ばしたのだ。

 鎖がしなる度に拳が巨人へと叩きつけられる。もはや巨人など敵ではなかった。

 目標をハクトウワシへと移す。トラツグミがハクトウワシと死合っている。次なる討つ敵はアイツだ…!

 

「ク゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!゛!゛」

「っ…!!」

 

 右手を振り上げ、胴体を引き裂こうと大きく飛びあがる。風と稲妻に守られていようと関係ない。彼女を守るものがあらば、それをもこの爪で引き裂くまでだ。

 狙いを一点に絞って爪を振り下ろす。左肩から斬り込んで右の脇腹に突き抜ける。そして奴の胴を突き上げるんだ。

 

 ズシャッ!!

 

「グアァッ……!」

 

 狙い通りだ。右手に彼女の鮮血が纏わりついている。肉を裂く感覚に全身が震えるようだ。獣の持つ爪や牙というのは、本来こういう時のために使うものなのだと思い知らされる。

 頭の中に声が響く。獲物を喰らえ。裂け。食い千切れ。己の欲望にその身を満たせ。

 獲物を睨む。

 

『喰らい殺せ!!!』

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!゛!゛」

「ッッ…!!」

 

 咆哮をあげてハクトウワシ目がけて突進する。狙うのはアイツの喉笛…すべての生き物の弱点とするところだ。

 

「負けない…!絶対に負けるものか…!」

 

 右手に白い稲妻が走る。すると、わたしの立つ地面からいくつもの雷霆の柱が突き出てきた。わたしを狙ってきているものと、牽制するためにわざと外しているものとが無数に交差している。

 これでは迂闊に近寄ることもできない。…関係ない。我が身を粉にしてもあいつをぶった切ってやる…!

 

「キ゛ッ゛・・・!゛!゛」

「ッ…!」

 

 一直線にハクトウワシに突っ込んでいく。予想通り、わたしを阻むかのようにいくつもの稲妻の柱が突き出てきた。稲妻が真下からわたしの体を焼いていく。わたしが突き進む柱はわたしの肉を焦がしていく。

 

 ヂュンッ!

 

「ク゛ゥ゛・・・!゛!゛」

 

 謎の光によって私の爪は弾かれてしまった。どうやらハクトウワシが自身の持つ力を使ってバリアのようなものを張ったらしい。

 

「あまりアタシを甘く見ないことよ!アタシは勝つ…!勝ってこの世に正義と秩序を敷くんだから…!」

 

 光弾が乱れ飛ぶ。弾幕に交じってハクトウワシがわたしに向かって飛びかかってきた。稲妻を纏っているせいか攻撃を受けたところがビリビリと痺れてならない。

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

 

 雄叫びをあげてハクトウワシを退かせる。わたしの咆哮に怖気づいたのか一瞬の怯みを見せた。

 両手の爪で乱れ引っ掻く。ハクトウワシの体から鮮血が飛び散る。わたしの腕を、体を血で汚していく。地面には生々しく彼女の血が尾を引いている。

 突如何かに首を掴まれた。ビリビリと痺れるような感じがする。首を絞める手を引きはがそうとするも、実体がないのか抵抗する手は虚空を払うばかりだ。どうやら見えない何かに首を絞められているようだ。

 

「ク゛ッ゛・・・ア゛ァ゛ッ゛・・・!゛!゛」

「ハァ…ハァ…アタシは…負けない…!!」

 

 ハクトウワシは勢いよく飛び上がるとわたしを地面に向けて打ち付けた。打ち付けられた衝撃から咳きこんでしまう。もはや満身創痍だ。立ち上がるのにも全力をふり絞らなければならない。

 

「これで終わりにしてやる…!」

 

 ハクトウワシの両手に巨大な雷霆が灯る。まるでこの空間全体を包み込むかのようだ。

 

「あっ…」

 

 一瞬だけ正気に戻った。終わりだと思った。雷霆を打ち付けようと体をしならせている。

 その時だった。一つの手斧が放物線を描きながらハクトウワシへ飛んでいっている。

 

「くっ…誰だ!!!」

「うみゃあ!!!」

 

 サーバルさんがハクトウワシに飛びついている。これではハクトウワシの雷霆を零距離で受けてしまう。

 

「…だったらまずはお前からだ!!!死ね!!!」

 

 ハクトウワシが叫ぶ。もうおしまいだと思ったその時だった。

 背後にハクトウワシに飛びつく影が見える。あの姿は…

 

「やあああああああああああああああああああああっっ!!!」

 

「なっ…!?しまっ…!!」

 

 湿ったような鈍い音と共に雷霆が光を失っていく。ハクトウワシが地面に落ちていく。

 

 ズサッ…

 

「アッ…グッ…!」

「かばんちゃん…!やったよ…!」

「うん…そうだね…」

 

 かばんさんがわたしに視線を送る。

 

「ハクトウワシさんのことは後は僕たちに任せて。ともえちゃんたちがオイナリサマの行方を追っているから、彼女たちが戻るまで少し休むといい。キミの体はキミが思っている以上にダメージを負っているだろうからね。キミが倒れてはキミのご主人さまが悲しむことになるかもしれないよ」

「ク゛ッ゛・・・ウ゛ゥ゛・・・」

 

 かばんさんの言う通りこの体にはわたしが思っている以上のダメージを受けている。緩んだ緊張から全身に鞭打つような痛みが走って仕方がない。

 

「ウ゛ッ・・・エ゛ホ゛ッ・・・!」

 咳きこむ口から血が溢れてくる。わたしは横になるとともえちゃんの帰りを待つことにした。

 

 

…………

 

 

「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!!」

「くそっ…!」

 

 暴れる巨人を鎖で制する。腹に穴が開いたというのに元気なことだ。捥がれた右手から火のようなものを撒いてはあたしたちを焼こうとしてくる。なんとかアレをかわして致命傷を負わせなければならない。

 

「助太刀するぞ!アムールトラ!」

「トラツグミ…!」

 

 トラツグミが巨人の左頬に大きな傷をつけた。巨人が怒りに吠える。怒りに我を失った今こそが反撃のチャンスだ。

 

「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!!」

 

 巨人があたしに向かって突っ込んでくる。タイミングを見て、反撃の時を窺う。

 勢いよく手のひらが地面に叩きつけられる。空間全体を揺るがすほどの衝撃が身を震わす。

 

「にぃ…!」

 

 ポセイドンの放つイカズチが膝の裏を貫く。普通のフレンズであれば致命傷になりかねないダメージだろうが、こいつには関係ない。自身を支える支柱さえあれば、何度でも立ち上がって襲い掛かってくる怪物なのだ。

 

「アムールトラ!鎖を!」

 

 トラツグミが突如あたしに鎖を寄こすよう要求してきた。何をするつもりかは分からないけど、巨人を御するこの鎖は、一歩間違えれば巨人の武器となってあたしたちを脅かす凶器となってしまう。

 

「ッ…!」

 

 鎖をほどくと待ってたと言わんばかりに巨人が暴れだした。あたしたちを薙ぎ払おうと、鎖が絡まる両腕を激しく振り回している。意にも介さずトラツグミは二本の鎖を握ると、乱暴に巨人を引っ張ってバランスを崩した。見かけによらず結構力を持っているようだ。

 …巨人の様子がおかしい。何やら苦しそうにもがいているようだ。体のあちこちから黒い霧のようなものが噴き出ているのが分かる。

 

「…いいぞ。アムールトラ!奴を徹底的に痛めつけてやれ!」

「言われなくても分かってる…!」

 

 ポセイドンと共に巨人の体を切り裂いていく。裂いた傷口から黒い霧が噴き出る。それは鎖を伝ってトラツグミに吸収されていっている。

 

「▓▓▓▓████▓▓▓████░███▓▓▓▓█████░░░░▓▓▓▓三三三!!!」

 

 巨人が最後の抵抗を見せる。ガムシャラに体を振ってあたしたちを散らそうとヤケになっているようだ。

 

「往生際の悪い奴だ…。潔く死ねいッ!!!」

 

 ポセイドンの青い稲妻が巨人の動きを止める。

 

「くっ…そんなことされると私にも来るってのよ…!でも良いわ!一気に吸い取ってやる…!」

 

 みるみると黒い霧がトラツグミに吸われていく。やがて白い霧のようなものが巨人の体から抜けると、それを最後に巨人は動かなくなった。

 

「や、やったか…?」

「…コロッサスから神力は感じられん。やったのだ。我々の勝利だ」

「…ハァッ…!」

 

 ガクッと力が抜ける。ひどい疲労感だ。力が抜けると同時に全身に鈍い痛みが走る。

 

「グッ…いっつ…」

「…まだ戦いは終わっておらんぞ。立つのだ」

「…?」

 

 ポセイドンは真っ直ぐと一点を見つめている。あたしもその先に視線を移すと、ゆらゆらと揺れる一人のフレンズがいた。…ペイルホース。まだアイツが一人残っていたのだ。

 

「ふふふ…あっはははは…!」

「…何がおかしい。追い詰められても尚笑うとは…気でも狂ったか?ペイルホース…」

「いいえ?なぁんにもありませんわぁ…?あははははは…!」

 

 何か様子がおかしい。元からおかしいと言えばおかしいのだが。だけど、今回は輪にかけておかしくなっている。

 

「最後の仕上げと参りましょうかぁ…。…このわたくし自らが相手になりますわぁ…」

 

 瞬間、ペイルの姿が消えた。その刹那、目の前にペイルの顔が現れた。

 

「ゴァ…!?」

 

 強烈な蹴りを腹部に受ける。そのままあたしは吹き飛ばされてしまった。

 

「ポセイドン…?」

「ぐっ…!?」

 

 体をそらしてギリギリのところで回避する。しかし、ポセイドンは間断なく繰り出された二撃目を直に受けてしまったようだった。ポセイドンが苦悶の声を漏らす。

 

「ぐうううううううう…!?おのれっ…!」

「わたくしの役目は儀式を完成させること…。だけど、わざわざそれだけの為に呼び出されたわけではなくてよ…?わたくしだって、必要とあらば戦うことだってできますわ…?貴女達は、わたくしが、か弱い乙女だと思っていたようですけど…。わたくしは、黙示録の四騎士の内の一騎、ペイルホース…。この世に死を招く者…。戦うことだって吝かではありませんことよ…?」

 

 ゆらゆらと揺れながらペイルホースが言う。その言葉は、あたしたちを心の底から見下しているかのようだった。

 

「あら…」

 

 トラツグミがアンブッシュを仕掛ける。ペイルは容易くかわすと、そばに黒色の球体を浮かび上がらせた。

 

「さすがに貴方達三人を相手にするのは骨が折れるというものですわ…。この子たちにも手伝ってもらいましょうか…」

 

 球体から白い半透明の物体が一斉に溢れ出てきた。よく見るとけものの姿をしているのが分かる。それにあれは…

 

「アムールトラ、貴方には良くお判りでしょう…?貴方が過去に殺めてきたフレンズの顔…全部覚えているかしら…?」

 

 白い影があたしの周りに群がる。…覚えている。忘れるはずがない。命に手をかけた感触だって未だにこの手に残っている。

 白い影があたしを罵倒する。

 

「忌々しいビースト…!なんで私を殺したの!?」

「このろくでなし!」

「また私を殺す気か!?」

「私の目の前で友達を殺すだなんて末代まで祟ってやるわ…!」

「またお前か!」

 

 声があたしを責め立てる。あたしは動けないでいた。あたしがこの魂たちに手を出しては二度も同じ命を殺めることになってしまう。それだけはしたくなかった。

 怨嗟の声は止むことなくあたしを追い詰めていく。体が震えて止まらない。もう消えてしまいたいと思うほどだった。

 

「ふふふ…」

 

 突如体に衝撃が走った。ペイルがあたしを蹴り飛ばしたのだ。あたしに抵抗することはできなかった。この魂たちの前で暴れることはできない。無差別にフレンズを襲って回るビーストに戻るような気がしてならなかった。

 

「………!」

「ほら、どうしたのかしら…?そのような調子ではわたくしは倒せなくってよ…?」

「アムールトラ!」

 

 トラツグミがあたしを呼ぶ。

 

「どうしたんだ!?いきなり攻撃の手を止めて…!」

「…これらは過去にあたしが殺めたフレンズの魂たちだ…。あたしに傷つけることはできない…」

「…!ペイル…!なんて卑怯なマネを…」

「…どこまでも腐っているようだな、ペイルホース…!」

「ふふふ…。少しでも戦いを有利に進めるための手段ですわ…」

 

 揺れながらペイルが告げる。フレンズの魂たちの怨嗟が止むことはない。

 

「さあ、やっておしまいなさい。つらかったでしょう?意味もなく自らの欲望の為に殺されて…。貴方達の無念は察するに余りあります…。このわたくしが許しましょう。ビーストを…やってしまいなさい」

 

 白い影が一斉に襲い掛かってくる。憎悪が、憤怒が、怨嗟があたしの内側を駆け抜けていく。振り上げられた拳があたしの中を通過するたびに、フレンズの呪いがあたしを蝕んでいく。呪いの声があたしの中で木霊するようだ。

 

「散れいッ!!」

 

 ポセイドンが一喝すると青い稲妻と共に白い影を消し去った。

 

「ッ…!何を…!」

「死者の声に耳を傾ける必要はない!死者に語る口は持たん!あんな奴らの声は無視すれば良いのだ!」

「…!そんなことあたしにはできない…!ましてや傷つけるなんて…!あたしの勝手で殺してしまったフレンズを二度も傷つけるようなことだけはしたくない…!」

「…ならば私たちがお前の代わりに討つまでよ。できるな?キマイラ」

「……」

「そんな…!止めろ!」

 

 ポセイドンの右手に光が灯る。…なんとしてでも二人を阻止せねばならない。二度とあたしが殺めたフレンズを傷つけさせてはならない…!

 

「正気か貴様!?なぜペイルの味方をする!?」

「あたしが殺めたフレンズを傷つけることだけは絶対にさせない!!もし手を出すようであればお前はあたしの敵だ!!」

「アムールトラ!過剰に自分を責め立てるな!お前がいくら償ったところで、そいつらは付け上がってお前を永遠に責め立てるだけだぞ!」

「それでいい…!あたしはそれだけのことをしてきたんだ…!」

「…なんと後ろ向きな奴だ…。ペイルめ、こやつの弱い心に付け込んで愉しんでおるな…」

 

 狙いの対象を二人に変えて威嚇する。あたしはケダモノに戻ってでもあの子たちを守ってみせる。ケダモノに戻ろうとも構わない。あたしは二度とこの魂たちを傷つけたくない。二度も同じフレンズを殺したくないんだ…!

 

「はははは…!あっははははははは…!あーっはははははははははは!!!」

 

 狂ったようにペイルが笑う。笑われてもいい。術中に嵌ったあたしを笑うだけ笑うといい。こんなこと願ってもない機会だ。あたしはこの子たちに罪を償って命を終えてやるんだ。

 

「目を覚ませ、アムールトラ!今はペイルを倒すことだけを考えるんだ!罪を償うのはその後でも良い!死んで償う必要などないのだ!お前が殺めたフレンズの数だけ生きて償うのだ!勝手に死ぬことはこの神である私が許さんぞ…!」

「そうだ!アムールトラ!生きて償うことだって出来るはずだ!死んで償いたい気持ちも、死んでほしいと思うこいつらの気持ちは私も痛いほどよく分かる…!だけど、生きて罪滅ぼしすることだって出来るんだ!生きて生ける者に奉公して、死者の思いに寄り添うのも一つの贖いとなるはずだ…!」

「ぐっ…!ああああああああああああ!!!」

 

 呵責の念と死者の呪詛に頭が割れそうになる。堰を切ったように涙が溢れてくる。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」

「くっ…あいつはもうダメか…!キマイラ!私はこいつらを片付ける!お前はペイルを頼むぞ!」

「分かった…!」

「っ…!さ゛せ゛る゛か゛ァ゛ッ゛!゛!゛」

「何っ!?」

 

 フレンズの魂に手を賭けようとしたポセイドンを全力で妨害する。何が何でも手を出させはしない。誰が何を言おうとそれだけは絶対にさせない。二度も同じ苦痛を味わわせてなるものか…!

 

「野生解放をしてまで私の邪魔をするか…。愚か者がッ!こいつらはお前だけでなく、お前の親しき者すら呪い殺める悪霊なのだぞ!お前の勝手な思いから親しき者をも危険に巻き込むというのか!?」

「た゛ま゛れ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

 

 理性もなくただ本能のままに斬る。感情が止めどなく溢れてくる。涙で視界が歪む。ポセイドンは呆れているような、怒っているような、イライラした様子であたしを怒鳴っている。

 

「ポセイドン!」

「私のことは構うな!お前はペイルとの戦いに集中するんだ!」

「くっ…分かった…!」

 

 ペイルと戦うトラツグミなんてどうでもいい。あたしはこの子たちを傷つけるポセイドンが許せないだけなんだ。

 

「バカな奴だ」

「自分を呪う奴に肩入れするだなんて…」

「どこまでも身勝手なビーストね」

「このまま勝手に苦しめばいいのよ!」

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛!゛!゛」

「…哀れな奴よ」

 

 心の底から軽蔑するかのような目であたしを見ている。…分かっている。こんなこと何の意味もなさないっていう事くらいあたしにだって分かっている。この魂たちはあたしを絶対に許しはしないだろうし、どれだけの時が経とうとあたしを呪い続けるだろうということだって、ちゃんと分かっている。けど、あたしにはそれくらいしかできない。この方法しか知らないんだ。生きて償うって言ったってあたしには何をすればいいか分からない。いつかは償おうって思っていた。そうしたら望んでもいない展開が訪れた。直接殺めたフレンズの魂に面と向かって立ち会えるんだ。これを活かさない手はないって思った。だからあたしは、この場でフレンズに贖罪をするんだ。

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 

「うっ…ぐぅっ…ぅあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・っ゛っ゛!゛」

「………」

 

 ズシャッ!

 

「…えっ?」

 

 突如、肉体を裂くような鈍い音が聞こえた。見ると、ペイルの体に太いランスが貫かれている。

 

「お前たち!無事か!」

「クロサイ…シロサイ…?」

「アムちゃん!」

「ともえ…それにオイナリサマ…」

「はぁ…はぁ…よ、よかった…!皆さん、無事でしたか…!」

 

 ひどく疲れた様子でオイナリサマが言う。アレがたった一人でバフォメットを封じてたというのだろうか。

 

「ヒトの弱き心に付け込んでたぶらかすなんて許せません!このわたしが誅してくれます!無に…還りなさい!」

 

 フレンズの魂が霧のように消えていく。心なしか悪い気はしない。それにペイルの様子もなんだか変だ。体が…崩れていってる…?

 

「あああ…体が…腐っていくわ…!せっかく手に入れたこのカラダ…。貴方…オイナリサマ…許せない…」

「な、なんですの…!?き、キモチワルイですわ!!」

「くっ…姫!!お離れを!!ペイルホースはこの私めが…!」

 

 ランスを引き抜いたシロサイが飛び退く。ペイルの体からべしゃべしゃと皮膚や肉が重力に耐え切れずに崩れ落ちていっている。その体には自身を形作る真っ白な骨が覗いている。

 

「ぁぁぁ……」

「な、なんて奴だ…。これがフレンズの姿というのか…!」

「元よりこの世に存在しえないけもの…。わたしの術で化けの皮が剥がれたというものです。何をせずともこのまま自壊して消えることでしょう。後はわたし一人でも十分です。あなたたちはバフォメットの元へ急ぎなさい」

「消える…?わたくしの肉体を剥がしただけなのに…?ふふふ…。ペイル・ホースとしての真の姿を現しただけなのに面白いことを言いますわね…!」

「ッ…!」

 

 腐肉を撒き散らしながら疾風のような速度で距離を詰めてきた。標的はオイナリサマだ。

 

「まずは貴方の命からいただきましょうか…」

「な、なにを…!」

 

 腐った肉と不気味にのぞく白い骨がオイナリサマの顔面に迫る。

 

「させるかぁ!」

「がぁっ…!」

 

 クロサイの鉄拳が炸裂する。ぐしゃりという音と共にペイルが倒れる。溶解する肉体が邪魔でうまく動けないようだ。

 

「クロサイ!これを!」

 

 シロサイから得物が投げ渡される。シロサイの誇りとも言える彼女のスピアだ。

 

「感謝します、姫…!…シロサイお嬢様のスピアを手にした以上勝たせてもらうぞ、ペイル…!」

「あ、あぁぁ…」

 

 スピアが腕を砕いていく。鋭い突きは肉と骨を散らしていく。戦いは一方的だ。ペイルは何も手を出せないままクロサイの苛烈な攻めを黙って受けている。

 

「あは、あははははは…!」

「な、何を笑っている!」

「すべては整いましたわぁ!わたくしの魂を、貴方に捧げましょう、バフォメット…!今、戴冠の儀は成りましたわぁ!わたくし自身を貴方への供物とすることで、貴方は真に降臨なさるでしょう…!イア、シュブ=ニグラース…!あぁああああああああああああああああああ!!!!」

 

 ペイルは絶叫するとそのまま絶命してしまった。後にはドロドロに溶けた肉と真っ白な骨だけが残っている。

 突如地面から光の筋が差した。幾何学的に描かれるそれは魔法陣のように思えた。

 黒い霧が立ち昇る。寒気を感じるほどの禍々しい悪意の塊だ。それは、ヒトの形を成すと一人のフレンズが現れた。

 

「余は、バフォメット…。戴冠の儀、大儀であった…。うぬらの働きによって、余は晴れて自由の身となった…。さあ、子羊たちよ、余と戯れようではないか…」

 

 バフォメット…。フレンズならざる異様な外見に身震いがするようだ。頭部こそ、黒い山羊のフレンズの特徴を持っているものの、背中に生えている大きな羽や、毛皮のない裸同然の上半身が不気味な存在感を醸しており、この存在を特に異質な存在と思わせてくれる。ペイルはまだフレンズとして見ることができたけど、こいつはフレンズの名を騙る悪魔そのものとしか思えない。

 

「うぬたちを新たな余の供物とすることで、余は更なる高みへと上るのだ…。さあ、おいで…。余の慈愛と母性を以って、うぬらに甘美な夢を見せてくれよう…」

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