けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:韓非子
宙に胡座をかくバフォメットと名乗るフレンズ。…アレが神を冒涜する悪魔…。そして、ハクトウワシさんを唆して破滅へと追いやった、ゴコクエリアを混乱に陥れたエネミーなんだ…!
「バフォメット…!あなただけは絶対に許せない…!」
「ふっふっふ…。もっと怒ると良いぞ…。その怒りこそが我が力の源…。策を弄した甲斐があったというものよ…」
「一体何が目的だ!ハクトウワシさんを誑かしたばかりかゴコクエリアをこんなに滅茶苦茶にするなんて…!言え!!何が目的でこんなことをしたんだ!!」
かばんさんがバフォメットに向かって叫ぶ。普段の儚げで薄幸なかばんさんからは想像もできない程の激しい怒りだ。そんなかばんさんを見てバフォメットは不適にクツクツと笑っている。ヒトの感情の荒ぶりを見て愉悦を感じているのだ。これが悪魔…ヒトを堕落と破滅へと導く悪魔の本領なのだ。
「面白いことを言う…。目的などありはせん…。全ては我が愉悦の為…。この世全ては余を愉しませるための舞台装置に過ぎん…。うぬらが享楽に耽るように、余もまた享楽に興じているに過ぎんのだ…」
「ッ……!!たったそれだけのためにゴコクエリアのフレンズさんを……!!せっかく手に入れた平和をかき乱すなんて……!!絶対に許さないぞ!!バフォメット!!」
「ふっふっふっ…」
バフォメットに飛びかかろうとしたかばんさんの体が止まる。まるで見えない何かに体を縛られているかのようだ。
「ッ…!な、なにを…!」
「ふん、人間というのはどこまでも無力よな…。…余は、バフォメット…。余はこの世総ての悪であり、この世の総てを混沌に陥れる者…。うぬらヒトの子など、余の足元にも及ばぬ…」
「グァ!?」
バフォメットが指で弾くような仕草をすると、かばんさんの体が勢い良く吹き飛ばされてしまった。何が起きたのかわからなかった。バフォメットは一歩もそこから動くことなく、指を少し弾いただけで眼下のかばんさんを弾き飛ばしたのだ。
右腕を上げて左手を下げる。悪魔のシンボルである、あの姿勢をとっているのだ。
「溶解し、凝固せよ…」
短く奇妙な呪文を唱える。短くはあるけど、何やらひどく不気味で、恐怖を覚えるような呪文だ。未知に対する恐怖というのか、それに近いものを感じた。
「訳のわからないことを…!死ぬがいい!!!」
水と砂の混ざるウォータージェットをバフォメットに放つ。しかし、どういうことか。バフォメットの前にはまったくの効果が認められなかった。
「なっ…!?」
「面白いものを見せてやろう、ポセイドンよ…。全ての物質は、余の前には塵であり、宝玉である…。水は金に成り、銀は酸に成る…。なれば、この水は何に成るかな…?」
水と砂の混合液がバフォメットの手によって凝縮されると、なんだか透明の石のようなものに変化した。アレは一体…?
「これはうぬらの言うところによる金剛石という物だったか…。余からの贈り物だ…。ありがたく受け取るが良いぞ…」
ズンッ!
「ゴハッ…!?」
一瞬の出来事だった。ポセイドンの体に十センチ程の穴が開いていた。見るとポセイドンの背後にダイアモンドの石柱が突き刺さっている。
「おやおや、要らぬと申すか…。神というものも成長したものよのう…。下々の者からの供物を受け取らぬとは…」
クツクツとバフォメットが嗤う。
「どうだ、ポセイドン…。自らの着飾る装飾品に倒れるというものは…」
「くそォ…バフォメットォ…!貴様ァ…!この報い…!私を誑かした罪…!決して許さんぞ…!例え冥府に落ちようとも…必ず貴様も引き摺り込んでくれるわ…!」
バフォメットの攻撃に膝をつく。一体何が起こったのか…。バフォメットはポセイドンの放ったウォータージェットをダイアモンドに変えた…。何が起きたのかさっぱりわからなかった。
「ふん…!錬金術か…。この世の理すらねじ曲げるとはな…!さすがはサバトの黒山羊と言ったところか…。ますます相入れない存在だな、バフォメットよ…!」
「ふっふっふっ…。その言葉、褒め言葉と預かりおこう…。さあ、フレンズ達よ、余と戯れようぞ…」
バフォメットの周囲に黄金のつららのような物が浮かび上がる。その切っ先はあたしたちの元に向いている。バフォメットはアレらをあたしたちに向けて射出する気なんだ。
ビュウッ!
無数もの黄金の巨槍が射出される。狙いさえロクに定まってないそれはまるで制圧射撃のようだ。
「タ゛ァ゛ッ!」
「ウ゛ア゛ッ゛!」
かばんさんとアムちゃんが黄金の弾幕を弾き飛ばす。人々を魅了するであろうそれはギラギラと輝いていて、あたしたちを貪欲の地獄へと誘い込むかのようだ。
「余の見てきた人間どもは余の作り出す金塊に目がなかったものだが…うぬらはそうでもないようだな…。金は好きではあらぬか…?」
「うるさいッ…!あたしはそんなものには興味ない…!だいたいあんたが生み出す者なんてロクなものがないってわかってるんだから!どうせもらったってロクな目に遭わないよ…!」
「おやおや、ひどい言われようよ…」
あたしの叫びにバフォメットが馬鹿にしたように嗤う。バフォメットの人差し指に光が灯る。それをあたしたちに向けると、心底軽蔑したように呟いた。
「非力なものよのう…。…余の期待に応えぬサルに興味はない…。疾く失せよ…」
青白い光と共に大きく衝撃波のようなものが放たれた。抗う術もなくあたしたちは吹き飛ばされてしまった。バフォメットという倒すべき者の前にあたしたちは無力だった。
捨てられたおもちゃのように転がるあたしたち。もはやバフォメットに対抗する術は残っていなかった。ポセイドン、ハクトウワシ、ペイルホース…。連戦に連戦を重ねたあたしたちは、肉体的にも精神的にも疲弊しきっていた。もはや立ち上がる気力すらも残っていない。あたしたちの命はバフォメットの手の上に乗っかっているも同然だった。
「ふっふっふ…。戦い気力はもう失せたか…?…ならば、余が地上へ出て世に号令を敷くときか…。悪魔によるパンデモニウムの幕開け…しかとその目で見届けると良いぞ…」
天井に大穴が開かれる。バフォメットが作り出した世界と現世が結合したのだ。空には暗雲が立ち込めている。まるでこの世の終焉を体現しているかのようだ。
これまでの戦いにおいて、あたしには何もできていない。あたしがやってきたことと言えば、ひたすらペイルの背中を追いかけていたことだけだ。ありもしない幻想を夢見て、虐げられるフレンズさんと仲良くなるのを夢見て、ただ背中を追いかけてきた。なんともめでたい話だ。反吐が出そうだ。
バフォメットが昇っていく。バフォメットが地上へ出たその瞬間が、終焉の幕開けという事だ。
「さあ、いざ見よ…。余の、バフォメットの降誕を…!」
「姿を現したな、サバトの黒山羊よ…!」
突如あたしたちとは違う別の声が聞こえた。空には幾百もの輝きが見える。その輝きは、あたしたちのいるバフォメットの作り出した地下世界へと向かっている。それにこの声は一体…。
「この声はヤタガラス様…!皆!バフォメットをこの世界から追い出せ!地上へ追い出して、ヤタガラス様の光の下へと照らし出すのだ!」
クロサイさんの号令があがる。それだけだったらあたしたちにもできるはず…!重い体を奮い立たせてなんとか立ち上がる。この中あたしにできるのは…
「トラツグミちゃん!ゴマちゃん!二人はシロサイさんとクロサイさんを地上へ出してあげて!二人を出し終わったらそのまま伝令をお願い!アムちゃんとサーバルちゃんとセイリュウさんはバフォメットの相手を頼むよ!ポセイドンはオイナリサマを守って…!オイナリサマは皆の手当てをお願い…!」
何もできないあたしでも皆の司令塔になることはできるはず…!皆の統率を図って少しでもバフォメットに近付かなくちゃ…!
あたしたちに向かって火の玉が降り注ぐ。いくらバフォメットでも物質の変換はできても、高速で近付く物体の対処はできないようだ。
「ぐっ…!」
バフォメットに火球が命中する。当たらなかったバリスタの矢があたしたちへと降り注いでくる。サーバルちゃんたちも火球に阻まれてうまくバフォメットに攻撃できないでいるようだ。
「ふん!」
ポセイドンが火球を砕く。辛うじてあたしたちに火球が当たるのを防いでくれたようだ。
「なるほどな。私の役割がようやく理解できたぞ。ヤタガラス!バフォメットの奴に容赦なく火の雨を降り注がせるが良い!アムールトラ!サーバル!火球のことは心配無用!当たり損ねた分はすべて私が砕いてくれる!貴様らは臆せずにバフォメットの奴を斬り刻むが良い!」
「わかった!」
「やってやる…!」
三つの影がバフォメットを討とうと交叉していく。空からはバフォメットを目がけて無数の火球が降り注いでいる。ポセイドンは余裕の表情で一つも漏らさずに当たり損ねた分を的確に砕いていく。…あたしたちの連携は完璧だ。ポセイドンの受けた傷もオイナリサマが張った不思議な結界の力で徐々に癒えていっている。
「あっ…うっ…」
「イエイヌちゃん…!」
「と…ともえ…ちゃん…」
「よかった…!イエイヌちゃん…!あたしだよ、ともえだよ!分かる…!?」
「は…はい…ともえ…ちゃん…」
「っ…!良かった…!」
オイナリサマの治療によって目が覚めたイエイヌちゃんを抱きしめる。半分動物に戻りかけていた四肢も元のフレンズさんに戻っている。イエイヌちゃんは助かったんだ。
「ありがとう、オイナリサマ…!」
「いいえ、わたしはわたしにできることをしたまでです。イエイヌさんの絶対に負けないという心意気があってこその成果です。感謝するなら、あなたとの約束を果たしたイエイヌさんを感謝なさい」
「オイナリサマ…。うん…!イエイヌちゃん、よく頑張ったね…!よくあたしとの約束を守ってくれたよ…!」
涙が溢れてくる。考えてみたってそうだ。イエイヌちゃんはポセイドンと戦うために、自らの身を投げうってまでビーストになって戦ったんだ。そしてあたしとの約束…ポセイドンを倒して、ちゃんと生きて帰ってきたんだ。イエイヌちゃんは一つとしてあたしとの約束を違えずに果たしてくれた。あたしはそれを褒めずに自ら反故にしようとしたんだ。あたしってば本当にダメダメだ。
「えへへ…。わたし…頑張りました…。ともえちゃん…わたしを…褒めてくれますか…?」
「当たり前だよ…!ポセイドンどころかコロッサスやハクトウワシまで倒して…!イエイヌちゃんったら…!」
「えへへ…張り切りすぎちゃいました…」
息も絶え絶えなイエイヌちゃんを抱きしめて祝福する。その時、その場に合わないような禍々しい唸り声のような声が聞こえてきた。
「おぉぉおおおおぉおおおぉぉおおおぉぉお…!」
バフォメットだ。地上へ上ったバフォメットが地上のフレンズさんからの猛攻を受けて追い詰められているのだ。
「おぉぉぉ…!よもやこの余が地上の雑種を見くびっていたとは…!なんということよ…!少し本気を出さねばならぬらしいな…!」
グロテスクな触手がバフォメットの体を突き破って出てきた。化膿した体組織のようで見ていて非常に不愉快な感じがする。
地面から紫の炎が火を吹いてフレンズさんたちを追い払っている。バフォメットの触手が地面を叩くたびに体液のようなものが辺りに散っている。
あれだけあたしやフレンズさんを見下していたバフォメットがフレンズさんたちに追い詰められている。触手が伸びればより遠くに退避すればいい。戦いが苦手ならば後方支援に回ればいい。狩りをするけものならば触手を払い除ければいい。フレンズさんの完璧な連携がそこにあった。
「上がお留守だぞ、バフォメット…!」
「ぬぅ…!」
ヤタガラスさんの両手に光が灯る。頭上に掲げられたそれは千の太陽よりも眩しいと思えるほどだ。
「ヤタガラスがバフォメットを討つようです…!わたしたちもここから退避しましょう…!ポセイドン!わたしはイエイヌさんとともえさんを地上へ連れ出します!あなたは祭壇内に残っているフレンズさんたち探し出して地上へ逃がしてください!」
「…わかった。必ずや成し遂げよう」
「…頼みましたよ」
オイナリサマがあたしたちを連れて宙へ飛ぶ。ふわっと浮き上がるこの感覚は何とも言い表しがたい感じを覚える。やがてあたしたちはオイナリサマに連れられて主戦場から少し離れた場所へと避難させられた。バフォメットの周囲からはフレンズさんたちの怒号が聞こえる。
火球がバフォメットの周囲を焼いていく。バフォメットに突撃するフレンズさんはそんなものを物ともせずに奴へと殴りかかっている。
オイナリサマが遠くにバフォメットを睨んでいる。バフォメットはグロテスクな触手を五本、六本と増やしながらフレンズさんたちを薙いでいる。触手を増やしていくにつれフレンズさんとしての姿を崩していっているようだ。
ポセイドンがかばんさんたちを連れて地下祭壇から飛び出してきた。ポセイドンはあたしたちを認めると、まっすぐにあたしたちの元へと飛んできた。
「地下祭壇は大丈夫だ。後は心置きなく奴の息の根を止めるといい」
「…分かりました。時にポセイドン、バフォメット…あの悪魔をあなたはどう見ますか」
「どういうことだ…?奴は討ち滅ぼすべき悪の化身だ。それ以外の何でもない」
「…そう、ですか…。ポセイドン、わたしにはアレが悪魔にも神にも見ることができません。確かにバフォメットからは悪魔のような悪意を感じますが…。魂の色と言いますか、バフォメット…奴の魂からは悪魔とも神とも精霊とも言えないような未知のものを感じるんです。…あなたにもそれが分かるはずです。ポセイドン…あなたは、バフォメットのことをどう思いますか」
「…言った通りだ。魂の色など関係ない。神だろうが悪魔だろうが、奴は討ち滅ぼすべき仇敵だ。そのような質問など、私には愚問というものだ」
「…そうですか。分かりました。ならば私も雑念を振り払って、奴を倒してみせます。バフォメットを倒して、ゴコクエリアを、パークを、世界を救ってみせます…!」
オイナリサマの目に光が灯る。野生解放だ。両手にサンドスターの輝きが灯らせると、バフォメットに向かってその両手を掲げた。
示し合わせたようにヤタガラスが頭上に掲げた光をバフォメットに向かって大きく解き放った。黄金の光線がバフォメットを包み込む。ヤタガラスさんの光に包まれたバフォメットが苦悶の声を漏らす。
「おぉぉぉぉおおおおおぉぉぉおおおおお…!なんということよ…!この余が地上の雑種に追い詰められようとは…!けものの力…侮っておったわ…!」
バフォメットが太陽の光に焼かれていく。体から生えている触手がヤタガラスさんを払おうとガムシャラに暴れている。
「バフォメット…。ヒトを誘惑しこの世に悪を敷く悪魔よ…。天に代わってこのわたしが誅してくれます…!無に…還りなさい!」
「おおおぉぉぉおおおぉぉお…!」
黄金の光線がバフォメットの体を焼く。太陽の化身と豊穣の神の放つ輝きは、まるで浄化の力のようにも思えた。二人の光線がバフォメットの体を焼いていく。
「おぉぉおぉぉおお…!余の体が…崩れていく…!おおお…!余の醜い体が…見るでない…!余の醜い姿を見るな…!」
もはや抵抗は無意味だった。体から生えている触手が二人を薙ぎ払おうと空しく抵抗するのみだ。もはや勝負は決したようなものだった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛! ! 」
金属の焼かれる音のような、金切り声ともともいえるような甲高い絶叫が響いた。あのバフォメットの放つ叫び声なのだろうか。気でも違えたかのような絶叫が辺りに木霊した。
絶叫が聞こえたその時、突如、巨大な肉塊が光線と光の中から姿を現した。
「な、なんだあれは…」
「あ…あ…」
「な…なんなの…?あれ…」
ポセイドンが絶句している。オイナリサマもその異様な、この世ならざる不条理と不合理を体現したかのような"生物"を見て言葉を失っていた。
「─────………───!─────……─────…──!」
泡立ち爛れた雲のような肉塊、のたうつ黒い触手、短い脚、粘液を滴らせる巨大な口、無数に生える黒い角…。形容しがたい巨大な山羊のような生き物が、そこにいた。
体を震わせて何かを呻いている。アレがバフォメットの正体…?アレが悪魔の本当の姿なのか? 皆がその姿に絶句して動けいないでいる。無数に光る目は一つ一つがあたしたちを捉えて離さない。
「──────…───!」
黒い触手がフレンズさんたちを薙ぎ払う。バフォメットの放つ触手よりは緩慢ではあるものの、太く、長くなった触手は致命傷を与えるには十分だ。幸いにも、特別大きなダメージを負ったフレンズさんはいなかったようで、ヤタガラスさんたちも胸をなでおろしていた。
「この化け物…!」
再びヤタガラスさんが光線を放つ。さっきよりも威力は低いようだけど、威力は十分で、バケモノの体の一部を大きく抉った。泡立つ肉塊が弾けて何か体液のようなものを散らしている。ヤタガラスさんの攻撃に反応したのか、のたうつ黒い触手がヤタガラスさんを襲った。
「グァ…!」
ヤタガラスさんが落ちていく。幸いにも、落下地点には他のフレンズさんがいたようで、落ちるヤタガラスさんをキャッチしてくれた。
「─────……────…………!」
足を引っ込めて肉塊が宙へ浮かぶ。肉塊からは様々な動物の脚と尻尾が生えてくる。様々な動物の尻尾などを模した触手をうねらせながら肉塊は宙へと上っていく。ゆっくりながらも遠く空へと上っていっている。
「奴め、逃げる気だな…!」
ポセイドンが言う。
「逃がさんぞ…!聞こえるか!!!ゴコクエリアのフレンズよ!!!あの宙に浮かぶ肉の塊はバフォメットの真の姿だ!!!奴は、正体を暴かれた今、我々の元からから逃げようとしている!!!ゴコクエリアに災厄をもたらしたあの忌々しい悪魔を撃ち落とすのだ!!!」
ゴコクエリアの周囲から水の柱が立つ。柱の一本一本が肉塊の体を穿つ。白い海水と弾ける肉の汁が細かな粒子となって散っていく。肉塊は低い唸り声をあげて悶えているようだ。
「なぜだ…!?何故ゴコクエリアのフレンズ共は攻撃しないのだ…!?」
「…かつてはゴコクエリアの敵として振舞ってたんだし、誰もあなたのことを信用していないんじゃない…?悔しいけど、クロサイさんやヤタガラスさんの号令じゃないと攻撃しないと思うよ」
「くっ…!おのれ…!どうすれば…!このままでは、奴に逃げられてしまうぞ…!」
ポセイドンが悔しそうに唇を噛みしめる。いくら神と言えどもあの巨大な肉の塊を撃ち落とすには限界があるらしい。パッと見ただけでもゴコクエリアの半分ほどの大きさがあるのが分かる。それを一柱のカミサマに撃ち落とせというのも酷な話というのではないだろうか。
「何をボサっとしている…!ゴコクエリアのフレンズよ!弩に弾を込めよ!各位射撃の準備をするのだ!狙いを定めよ…決して外すな…!狙いはあの宙へ浮かぶ悪魔…バフォメット…!さあ、撃ち放て…!これが我らゴコクエリアのフレンズ最後の戦いだ!!!各位一斉射!!!撃てぇ!!!」
ゴコクエリアの至る所から光の弾が放たれる。狙いはあのバフォメットの成れの果て…。これであたしたちのゴコクエリアの戦いが終わるんだ。
「これで…トドメだァ!!!」
「終わりだ、バフォメット!!!」
ポセイドンとヤタガラスさんの一撃が放たれる。光の筋は一直線にバフォメットに向かって伸びていく。
ゴコクエリア中の光弾を受け、ヤタガラスさんとポセイドンの一撃を受けたバフォメットの肉体は激しく弾けた。四散したバフォメットの肉片は闇となって消えていく。
「や、やった…?」
「…バフォメットの放つ邪悪な気配が小さくなっています。…やったのです。わたしたちの勝利です…!みんな…!」
「あ…あぁぁ…勝った…私たちが…バフォメットに…!う…うぇぇぇぇぇ…!」
クロサイさんが泣き崩れる。その姿にかつての面影はない。重い鎧に身を纏ったクロサイさんはもういない。自身の持つ理想を捨て、自身の愛するパークの為に血を、心を、魂を捧げた、かつてのクロサイさんの姿はもうないんだ。今、ここにいるのはただ一人のフレンズさんなんだ。
「もう…泣くんじゃありませんわ、クロサイ…。…よしよし、よく頑張りましたわね。わたくしの誇り高き騎士…」
「シ、シロサイお嬢様…!うっ……うわあああああああああああぁぁぁぁ…!!!」
「もう、この子ったら…」
心なしかシロサイさんの目にも涙が浮かんでいるように見える。十年以上に渡る長き時を超えての再会なんだ。ここは変に水を差さずにそっとしておいてあげよう。…感化されてしまったのかあたしまで泣いてしまいそうだ。
「…まだ、終わってないわ…」
「…!?」
突如、場に似つかわしくない低い声が聞こえた。声のする方を振り返ると、白い稲妻を身に纏った一人のフレンズさんが俯いたまま立っていた。あの姿は…ハクトウワシさんだ。
「そんな…ハクトウワシさん…!どうして…!」
「…アタシはアタシの理想を叶える…。そのためにアタシはどんなことだってしてきたわ。…ポセイドンと結託してゴコクエリアを混乱に陥れたわ。ペイルを使ってフレンズから生気を奪ったりもした。そして、悪魔に魂を売ってフレンズとしての生も捨てたわ…。そしてその先にアタシが得たものは何か分かるかしら…?何にもないわ…。何にもよ…!」
必死に泣くのを堪えるかのような震える声で語る。
「今更引き下がることなんてしない…。決して最後まで諦めない…!アタシは最後まで戦う!絶対に諦めてたまるか!!!屈辱を受けるなんてことなんて絶対にないのよ!!!」
ハクトウワシさんが号令をかけるかのように叫ぶ。そこにいるのは、自身を絶対の正義とした最後のフレンズさん、ハクトウワシだ。
バフォメットを倒した今、本当の最後の戦いが始まる。絶対に負けることはできない。あたしたちは彼女を倒して、最後の凱旋をあげるんだ。ゴコクエリアの夜明けはもうそこだ。
「最早アタシに失うものなんて何もないわ…。さあ、行くわよ!このハクトウワシが、混乱に終止符を打つわ!」