けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:韓非子
地面を蹴って相手から距離を取る。相手に不利な空中へ逃げて間合いを稼ぐも、あのビーストはそれを許してくれない。
「くっ…!」
稲妻と風を纏って少しでも心に余裕を持たせる。こんなの気休めにもならないくらい自分でも分かっている。アムールトラと言われるあのビーストの爪ならばこんな障壁程度簡単に切り裂くだろう。イエイヌとかいう並程度の戦闘力しか持たないビーストにも破られたんだ。アレの手にかかれば心臓をも抉り取られよう。
「風よ…」
心を静めて精神を集中させる。アタシの纏う風が勢いを増して嵐に変わるのが分かる。守りを捨てて攻めに出るのだ。攻撃こそ最大の防御はよく言ったものだ。曰く、敵の守りを崩すにはその三倍の戦力が必要なのだそうだ。ならば、守りを捨てて、その三倍の力で押し通すまで…!
「舞い上がれ…!」
「ぐう…ッ!!」
ビーストが荒れ狂う風の奔流に耐えている。しかし、そんなものは無意味だ。相手が守りに出た瞬間こそアタシのターンだ…!
「吹き飛べェ!!」
「ガア…ッ!?」
ビーストの体が宙へと投げ飛ばされた。風に揉まれる体に狙いを定める。右手に雷霆を纏わせ、腰を落として力を込める。狙うは心臓、すべての生物の弱点とするところだ…!
「くらえ…!」
雷霆をビーストに向けて放つ。ビーストはその目でしっかりとアタシの雷霆を認めると身を捻って器用にかわしてみせた。追撃に構えた体のテンションが行き場を失くして昂っている。
「くそっ…!けど…!」
風の力を弱めて軌道を修正する。ただが狙いが外れただけだ。狙いが外れたのなら狙い直せばいい。再び狙いを定めるとビーストへ向かって突進を仕掛けた。
「グッ…!」
「ジャスティストルネード!!!」
「ぐああっ!!!」
空気の塊でビーストの体を殴り飛ばす。高密度の空気の塊と雷霆を身に浴びれば、並大抵の生物であればタダでは済まないだろう。
ビーストが地に落ちていく。もはやこうなればアタシのものだ。追撃するルートを決めて急降下していく。風の力を借りて加速していく。
再び風で煽ってビーストを吹き飛ばす。風と天の力を得たアタシに恐れるものは何もない。ビーストだろうと悪魔であろうと絶対に倒してみせる。アタシはもう二度と負けないと誓ったんだ…!
「ここで決めてみせる…!終わりよ、ビースト!」
ダンッ!!
「なっ!?」
あの墜落から自力で体勢を立て直した…!?急いでエアブレーキをかけて制動をかけなくては、今の速度では確実にビーストに捕らえられてしまう…!
ビーストの鋭い眼光があたしを捉えている。確実にあたしを仕留める気だ。
「間に合わない…!」
「ギィ…!」
吹き荒れる風の合間を縫って、ビーストがアタシに飛びかかってくる。咄嗟に腕を組んだおかげで首や頭などを掴まれることだけは防ぐことができた。黒く伸びた爪が腕に食い込む。オウギワシの如き強靭な握力は、このまま握られているだけでも切り裂かれてしまいそうだ。どうにかして引きはがさなくては、地面に叩きつけられて八つ裂きにされてしまいかねない。
「ぐっ…!ケダモノが…離しなさいッ…!」
「誰が離すか…!降伏するか死ぬか選ぶんだな…!」
「そう…だったら…!」
全身から稲妻を放ってビーストを焼く。感電した反射からビーストの爪が食い込む。
「ぐうぅぅ…!けど、今がチャンス…!」
猛禽の本領は足にある。猛禽の強靭な脚力は、狙った獲物を確実に仕留めるためにある。もっとも今のアタシにはかつての爪は残っていないけど。
雷霆を足に纏わせる。足の甲が顎に命中するように、距離と間合いを調整する。後は、ビーストが立ち直るまでの数刻の猶予までに蹴りを入れるだけだ。
「ハァッ!!」
「っ……!!」
「やった…!」
目論見通りビーストの手から解放された。声も上げずにビーストが落ちていく。アタシもすかさず追撃に入る。右手に雷霆を纏って急降下していく。まっすぐ落ちるんじゃない。ビーストの下方向に急降下して、尾翼を使ってでじわじわとビーストに迫っていくんだ。真っ直ぐ突っ込んではまたビーストに捕まりかねない。アタシなりに考えた咄嗟の回避起動の一つだ。
「決める…!」
拳がビーストの腹部に命中する。手応えはバッチリだ。
雷霆が白く稲光を放つ。ビーストの体の中を焼いているのが分かる。
「う゛う゛ぅ゛・・・!き゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・! ! 」
「とった…!」
その時、アタシの本能が直感的な危機を感じた。身を引かなければ八つ裂きにされてしまう。咄嗟に身を引いて回避行動をとる。瞬間、黒い凶爪がアタシのいたところを薙ぎ払った。
「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛」
「ッ…!?」
ビーストが咆哮する。ビーストの雄叫びによって辺りの空気が一変した。アタシの纏っていた風の鎧も一瞬にして剥がされてしまった。対するビーストは黒いオーラをその体から放っている。アレがビーストの真の姿…。キョウシュウエリアを恐怖の渦に陥れた怪物の姿なんだ…!
「殺゛し゛て゛や゛る゛そ゛ォ゛!゛!゛」
「くっ…!」
さっきまでとは比べ物にならない程の鬼迫に圧される。威圧感のせいか、鬼迫に圧されてビーストの体躯が巨大化したように感じてしまう。
「カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛」
姿勢を低く構えてイカれた猛牛のように突っ込んできている。抱え込むように大きく広げた腕はアタシを威嚇しているのだろうか。
両腕を大きく振りかぶってアタシに飛びかかってくる。怒りに満ちたその目はアタシを捉えて離さない。
一歩二歩と大きく飛び跳ねながら後退して距離を稼ぐ。稲妻の柱を立ててビーストの突進を防ごうとするけど、奴には何の効果も見られない。稲妻を突き破って尚アタシ目がけて突進してくる。その姿はさながら荒ぶる野獣のようだ。ビースト化したイエイヌも恐ろしく感じたものだけど、このビーストの荒れようはイエイヌとは比べ物にならない。
稲妻の柱を何本も突き破って突進してくる。もはやこの攻撃で防ごうだなんて無意味だ。空へ逃げて体勢を立て直さねば…。
「はぁっ…!はぁっ…!」
恐怖から体が震える。息が乱れて正常な思考が保てない。あんなのはビーストなんかではない。戦うために生まれたバーサーカーと言った方が良い。
両手に雷霆を纏ってビーストへと狙いを定める。普通のフレンズであれば、身を裂き肉を焼く程の火力があるはずなのだが…
「…これで終わらせる…。死ねェッ!ビーストッッ!!」
二本の雷霆の矢をビーストに向かって放つ。ビーストはしっかりとその目でアタシの放った雷霆を捉えているようだ。あの様子ではビーストに通用しないのかもしれない。
「カ゛ア゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛」
バチィッ!バチィッ!
「っ…!くそォッ…!」
万事休すか。暴走するビーストが雷霆の矢を弾き飛ばした。一直線にアタシの元へと飛びかかってくる。
「くぅぅッ…!」
両腕を掴まれると再び地に落とされてしまった。振り上げられた右の拳がアタシの顔面を捉える。
ガッ!バキィッ!
「ぐっ…!調子に乗るなァッ!!」
体から旋風を巻き起こしてビーストを引きはがす。風圧に圧されてビーストが退く。アタシはすかさず体勢を立て直すと反撃の準備に出た。両手に稲妻を纏ってビーストを睨む。…これがアタシの最後の反撃になるかもしれない。ビーストの持つ殺意というのか、怒りのようなものが増していっているのが分かる。肌を刺すような鋭い殺意だ。アタシの本能が逃げろと早鐘を打っている。今はアタシに飛ばされて横たわっているビーストも、次に起き上がった時にはアタシを殺しに来るだろう。
「ク゛ゥ゛・・・」
緩慢とした動作でゆっくりと起き上がる。両手に纏う雷霆の出力を最大限にまで引き上げる。奴を感電死させる勢いでなければアタシがやられてしまうだろう。
ビーストの鋭い眼光がアタシを捉える。瞬間、目にもとまらぬ速さでアタシに飛びかかってきた。反射的に出した手を掴まれて取っ組み合いの状態になる。ビーストの握りしめる大きな手がアタシの手を締め上げる。
「ッッ…!!」
「キ゛ィ゛ィ゛ィ゛ッ゛・・・!゛!゛」
ビーストの巨体がアタシを威圧する。ビーストの荒い息がアタシの顔を撫でる。プレッシャーに負けて押し潰されてしまいそうだ。だけど負ける訳にはいかない…。ここで負けてはアタシのすべてが無駄になってしまう…!
全神経を集中させろ。こんなケダモノに負けるな。アタシの体中に走る回路をすべて開くんだ。
「うあああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
「ッ゛!゛?゛」
体に走る力をすべて雷霆に変えてビーストの体を焼いていく。
「か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛!゛!゛!゛」
苦痛にビーストが叫ぶ。明らかに咆哮ではない叫びを聞けて心にに少し余裕ができた。
…だけど様子がおかしい。反射でアタシの手を握るビーストの力が少し強くなったけど、それが弱まる様子がない。嫌な予感がアタシの中を駆け巡る。
…気付いたときには既に遅かった。怒りに迸るビーストの目がアタシを捉えると嫌な音がアタシの右手から聞こえてきた。
グシャッ!
「ッ…!っぅぐああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛!゛」
…右手が握り潰されてしまった。痛みに視界が歪むようだ。対するビーストは容赦なく追撃を仕掛けてきている。振りかざす凶爪はアタシの体を引き裂こうと高く掲げられている。
「ッ…!させる゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!゛!゛」
ヂュンッ!
「チ゛ィ゛ッ゛!゛」
右手が潰された以上左手で戦うしかない。だけど、これではあまりにも不利が過ぎるというものだ。ビーストは冗長ともいえるリーチでアタシの身を刻もうとその剛腕を振るっている。
ブンッ!
おおよそ蹴りとは思えないような風切り音を放ちながらビーストがアタシに蹴りを入れる。今の一撃を食らっていれば骨は砕かれて、内臓は破裂して死んでいただろう。
「くっ…!」
距離を取って左手に力を込める。アタシの体を走る回路は開き切っていてもうボロボロだ。今のアタシには過ぎたる力という事なのだろうか。最後の抵抗と思って振り絞った力も使い果たし、後に残るのはその残りカスのようなものだけだ。
「はぁ…はぁ…」
「フーッ…!フーッ…!」
一方のビーストは衰える様子もなく、アタシに対して殺意の目を向けている。…まるで体内に無限の核融合炉を持っているかのようだ。あんなものに勝てるのか。今更だけどそんな疑問がアタシの頭の中をよぎった。
…考えていたって仕様がない。最後の力を振り絞って左手に力を込める。バチバチと左手に白い雷霆が迸っていく。
「キ゛ィ゛ッ゛!゛!゛」
「これが最後よ…!」
「カ゛ァ゛ッ゛!゛!゛」
残る力をすべて使って最後の一撃を放つ。
…だけど、無常にもビーストはアタシの攻撃をかわしてアタシに迫ってきた。黒い爪がアタシを捉える。
「ガッ…!」
四本の赤い傷がアタシの体を走る。一撃、一撃とアタシの体に傷が刻まれていく。腹に、顔面に容赦なくビーストが攻撃を加えてくる。
ガツッ!
「ッ…!」
一瞬視界が暗くなった。目の前がチカチカする。頭に鈍い痛みが広がっているのが分かる。
「は…ぁ…はぁ…」
息も絶え絶えで意識も徐々に薄らいでいく。もはやこれまでなのか。
「ハクトウワシィィィーーー!!!」
「……ハ…ハヤブ…サ…?」
突如聞き覚えのある声が聞こえてきた。アタシの旧友であるハヤブサの声だ。
「大丈夫か!?ハクトウワシ!!?」
「…に…逃げなさい…。あ、あいつは…貴方の適う相手じゃないわ…。アイツは…ポセイドンやコロッサスに立ち向かって…生還した奴なのよ…!死ぬ前に退きなさい…!」
「……!アイツが…!けど…私は…!」
「ダメ…逃げて…!」
無謀というべきか、蛮勇というべきか…。アタシを庇ってくれる気持ちは嬉しいのだけど、今はとりあえず逃げてほしい…。バフォメットの権能とポセイドンから授かった神の力を以ってしても、ビーストというフレンズが凶暴化しただけの存在に勝てないんだ。ただのフレンズであるハヤブサが勝てるわけがないんだ…!
「私は二度とハクトウワシを傷つけさせたりしない…死なせたりしないって…誓ったんだ…!ハクトウワシをやりたければ、私を倒してからにするんだ!ビーストッ!」
「雑゛魚゛か゛ぁ゛・・・そ゛ん゛な゛に゛死゛に゛た゛い゛か゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛」
「ッ…!!」
ビーストの殺気に圧されている…!あのままじゃ…!
「か、からだが…」
「くっ…ハヤブサッ!!」
動かない体を必死に引きずってビーストのキルゾーンからハヤブサを押し出す。ビーストの爪がアタシの背中を捉える。次の瞬間にはアタシの背中を抉っていることだろう。近い未来の死を見た気がした。
ズシャッ!
「…ガァッ…!」
「ハクトウワシ…!」
ズンッ!
「ゴハッ…!?」
突如背中を踏みつけられた。血が喉を上って溢れてくる。
…ハヤブサは完全に怯え切ってしまっている。空へ逃げるという事も忘れているようだ。
殺気立つビーストの興奮は覚めるところを知らない。それどころか無限に膨らんでいっている。今のままでは確実にハヤブサは殺されてしまう。
ズシっ…
「ひっ…」
アタシの背中から足をのかしてハヤブサへと歩み寄る。いよいよハヤブサを仕留めに行く気だ。
「さ、させるもんか…!」
「………」
ビーストの足に延ばした手は簡単に振り払われてしまった。赤い足跡だけがハヤブサへと延びていく。
「あっ…あぁ…」
ビーストがハヤブサの前に立つ。すると、数刻の猶予もなく右手でハヤブサの首を持ち上げた。
ハヤブサの体が宙に浮いている。ハヤブサは必死に逃れようとビーストの腕を引っ掻いている。
「悪の禍根を断つ…!せめて、苦しまずに逝け…!」
瞬間、ぱきっというくぐもった音と共にハヤブサの体がだらんと垂れ下がった。
ハヤブサが…殺された…。アタシのかけがえのない友達を…アタシの良き理解者であった親友を、こいつは…!
「ハヤブサ…。そ、そんな…嘘よっ…!」
怒りに体が震えてくる。たった一人の大切な親友をアタシの目の前で殺したんだ…!
「ビ、ビースト…!貴様、よくも…!」
「………」
ゴミでも見るかのような目でアタシを見下している。心底アタシを哀れんでいるようだ。
無いはずの力を振り絞って立ち上がる。もはやこの体も死に体だ。限界なんてとっくに超えている。体中の至る所が悲鳴をあげているのが分かる。そんな体に鞭を打って、引きずるようにビーストに立ち向かっていく。
「ぐううぅぅ…!」
「………」
アタシの攻撃は簡単に流された。胸倉をつかまれてゴミでも捨てるかのように投げ捨てられた。アタシの倒れていたところには赤い血だまりができている。
震える脚を制して再び立ち上がる。もはやビーストはアタシを敵として見ていないようだった。肌を刺すような殺気も消えてなくなっている。今、アタシの前に立っているのはただの一人のフレンズと思えるほどだった。けど、こいつはアタシのかけがえのない親友を殺した敵なんだ。決して許してはいけないんだ…!
「よくも…アタシの…!」
足をビーストに向けて走らせる。なんだかとても遠いように思える。距離にして10mも無いはずの距離を懸命に走る。なんとも情けなくて惨めだ。
左手にわずかに電撃が走る。ビーストの体に入れたかったけど、なんてことなく阻まれて体をロックされてしまった。
「……ぁっ………」
体にビーストの爪が刺さるのが分かった。痛みは麻痺していた。洪水の如く流れてくる外部の情報が一部遮断されているのか、痛みの一部が欠如しているように感じる。
「夢から覚めるんだな、ハクトウワシ…」
「アタシ…は…」
意識が遠のいていく。走馬灯のように過去の記憶が駆けていく。アタシは一体何を成し得たのだろう。そう思うと心が非常に空しくなるようだった。
…………
アタシは、一羽の鷲としてパークに生まれた。空を自由に舞い、獲物を狩ってはその生を謳歌していた。
そして、フレンズとしての生を新しく受けた。己の内に滾る正義感を胸に戦った。ゴコクエリアで皆が安心して暮らしていけるように身を砕いて戦った。そして、志半ば戦いに命を落とした。
総てを犠牲に戦った。守るべきものをも傷つけてきた。気付けば、フレンズでも神でもない血まみれの暴君になっていた。数多の犠牲の果てに得たものは、仲間の死と荒廃した郷土だけだった。
為すべきことも為せず、犠牲だけが増え、その果てに待っていたものは虚無の二文字だけだった。アタシはいったい…何を成したのだろうか…。
…………
「何を…為したのかしら…」
ハクトウワシから急速に敵意が消えていく。体を支える力もないのか、腹部に穿つ左腕にズシリと重みがかかる。
彼女の腹部から左手を引き抜く。ハクトウワシはべしゃりと力なく倒れる。バチバチと放っていた白い稲妻も、力を失っているのか輝きを失くしている。
うつ伏せでと倒れている彼女を抱きかかえて様子を見る。目は虚ろで今にも泣きだしてしまいそうな様子だ。
「あ…あぁぁ…」
虚空に手を伸ばして何かをつかみ取ろうとしている。或いは何かに縋ろうとしているのか。見ていられなかったのでアタシがその手を握ってやった。
「ぁっ……」
ぽかんとした表情であたしの顔を見つめてきている。目からは抑えきれなかったであろう涙が溢れている。
「アムールトラ…アタシは…」
「…何も言うな。もう頑張らなくていい…。お前はお前の為すことをしたまでだ。…眠れ、安らかに…」
指を使ってまぶたを閉じさせると眠るように息を引き取った。これを以って、ゴコクエリアの戦いは真に幕を閉じたのだ。気がかりと言えばまだ生きているポセイドンであるが…。
「終わったようだな」
「………。お前はどうするつもりだ、ポセイドン」
「敗者は早々に去るのみ…と、言いたいところだが、ここでは私の行くべきところもない。お前たちさえ良ければここの復興を手伝いたいと思うのだが…どうだ?」
振り返ってゴコクエリアのフレンズに問う。ヤタガラスは答える。
「今のお前には反逆する力も残っていまい。ここに残り守護けものとして礎を築くというのであれば、我々もお前を歓迎しよう」
「…分かった。このポセイドン、オリンポスの名の元に、このゴコクエリアの新たな守護者となることを約束しよう」
ポセイドンがヤタガラスに右手を差し出す。ヤタガラスはそれを認めると、差し出された右手をあつく握り返した。ゴコクエリアに新たな礎が築かれようとしているのだ。
「皆が皆らしく、個性と尊厳を以って生きる世界か…。皆の者、もう少しだけ余に付き合ってもらえぬか。荒廃したこのゴコクエリア、皆の力を以って復興させたいと思っている。ハクトウワシが目指した世界、余が引き継ぎ、他のエリアに負けない程の理想郷を築いてみせよう。皆の者、付いて来てくれるか…?」
フレンズたちは黙って頷いている。ゴコクエリアの新たな夜明けだ。二度の危機を乗り越え、ゴコクエリアのフレンズたちは強くなった。フレンズたちの顔には希望が満ちている。
朝日が眩しく照らし出す。その光はフレンズたちの新たな希望のようとも思える。悪魔によって遊ばれたこのエリアも、フレンズたちの団結によって乗り越えることができたんだ。
「アムちゃん!」
「アム!」
「アムールトラさん!」
「みんな…」
ともえたちが駆け寄ってくる。
「アムちゃん、大丈夫…!?」
「うん。だいじょーぶ…」
「本当に大丈夫なのかよ…!?ハクトウワシの一撃をモロに食らってたじゃねえか…!」
「本当に大丈夫だから…。それよりも見て…。すごくきれいだよ」
水平線に向かって指をさす。そこにはきれいな朝日が昇ってきている。ゴコクエリアの未来を照らす、希望の光だ。
「本当だ…きれい…」
「今まではここのフレンズたちには見れなかった物なんだろうな…」
「…これが遍くフレンズの皆さんを照らす光なんですね…」
昇る朝日を見て皆が感慨に耽っている。日の光というのは、地上に生きるすべての命に慈愛の光をもたらすものだ。これからは、その光がゴコクエリアのフレンズを、パークに生きるすべての命に希望をもたらしてくれることをあたしからも祈ろう。戦うことでしか罪を償えないあたしからもそれくらいはできるはずだ。
戦いは終わった。今ある希望の光が明日へと続いていきますように…。