けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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ROP-終幕「エピローグ」

 ハクトウワシさんの亡骸を抱えたアムちゃんに連れられて海岸沿いにある峰に向かっていた。自身の理想に殉じたハクトウワシさんを埋葬するためだ。いくらあたしたちの敵と言ったって、ハクトウワシさんもバフォメットによる犠牲者の一人なんだ。無下に扱うわけにはいかない

 

「ここがいいかもしれない」

 

 アムちゃんがいう。確かに大きな海を一望できる立派な崖だ。振り返ればゴコクエリアの城塞も良く見える。ここであればハクトウワシさんも見守ってくれるかもしれない。

 

「そういえば、ハクトウワシさん、亡くなっても元のけものに戻りませんね。どうしてでしょう」

「彼女はもうフレンズではなくなっている。フレンズの形をとっているが、中身は全くの別物だ。けものからフレンズへ、フレンズから神へと昇華しているのだ。元のけものに戻らないのもその為だ」

「なるほど…」

 

 フレンズとしての生を捨てたと言っていたけどそういうことだったんだ…。理想に生きる激情家ということなのだろうか。自らの生を捨ててまで理想を求めて生きるだなんて素敵な気もするけど、やっぱりうまくいかなかったりするものなのかな。順風満帆に行くことができても、その後に転落する人生が待っていると思うと二の足を踏むような感じもする。

 そんなネガティブなことを考えてしまうあたしだけど、それをも顧みず、ただひたむきに前に進んで見事に散ってみせたハクトウワシさんは偉いと思う。その姿は世界に反逆する反英雄ともいえるものだけど、ダークヒーローというべきなのか…英雄と呼ぶに相応しいような気がする。

 

「………」

 

 目の前の死が現実のものと思えなかった。美しく眠っているようなその顔は、実はまだ生きているんじゃないかと思えるほどだ。

 崖の頂に着いた。ここがハクトウワシさんの眠ることになる陵墓だ。早速お墓を掘ってハクトウワシさんを葬る準備をしなければ。

 

「私に任せるといい」

 

 ボンッという爆発音とともに見事な穴ができた。確かにこれくらいならハクトウワシさんを埋葬するには十分だろう。

 

「流石だねポセイドンさん。あっという間だよ」

「………」

 

 何やら難しい顔をして黙り込んでいる。それに自ら進んで面倒なことを引き受けるだなんてカミサマとして何か変な気がする。けど、言わぬが花。黙っておいた方が良いだろう。

 ポセイドンが開けた穴にアムちゃんが丁寧に埋葬する。改めてハクトウワシさんを見るとその凄絶な傷の数に驚かせてしまう。衣服はめちゃくちゃに切り裂かれていて戦いの激しさを思い知らされるようだ。

 

「すごい傷だね…。こんなになるまで戦っていただなんて…」

「ですね…。ハクトウワシさんには絶対に譲れない理想というか、そういう思いがあったのでしょう…。そうでもなければ、ここまで傷ついてまで戦おうだなんて普通思いませんもん…」

 

 亡骸に刻まれた深い傷跡を見て思う。ハクトウワシさんの譲れない思い…。皆が皆らしく過ごしていける世界…?正義のために戦う…?ハクトウワシさんの真意はあたしには分からなかったけど、イエイヌちゃんの言う通り、ハクトウワシさんには自分の信条と誇りがあって、その為に戦ってきたのではという考えはあたしにも分かる。

 土を戻して埋めていく。ふと見るとトラツグミちゃんが神妙な顔をしてお墓を見つめている。

 

「どうしたの?トラツグミちゃん」

「…私はお前たちによって倒された。もしかしたら私のお墓もあったりするのかなってふと思ったんだ…」

「…えっ?」

 

 突然突拍子もないことを言われてしまった。トラツグミちゃんのお墓…?まだ死んでもいない自分のお墓があるのかってどういうこと…?

 

「…すまない、突然変なことを言って…。少し感傷的になりすぎてしまったみたいだ」

「う、うん…。よく分からないけど分かった」

 

 感傷的…?感傷的になるのは分かるけど、それだけでそんな言葉が出るものなんだろうか…?それにあたしたちに倒されたって…。あたしたちが倒したのは…

 

「よくやったぞ、お前たち」

 

 不意に声が聞こえた。振り返ると、全身が真っ黒で、不思議な雰囲気を漂わせるフレンズさんがいた。あの胸元の黄色い模様と頭のぽんぽんは、確かカンザシフウチョウちゃんの持つ特徴だったはずだ。

 

「カンザシちゃん…?」

「どうしてカンザシがここに…」

 

 どうやらトラツグミちゃんもカンザシフウチョウちゃんと知り合いみたいだ。意外なところに接点があったものだ。しかし、トラツグミちゃんの言う通り、どうして彼女がここにいるのか。いつもはカタカケフウチョウちゃんと一緒に行動していると思ったけど、今回は一人しかいないようだし、なんだか不審に思ってしまう。今回の事件の黒幕だったりするのか。猜疑心のようなものがあたしのなかに芽生えてくる。

 

「いや、少し様子を見に来ただけだ。今回の騒動はわたしとしても見過ごせなかったのでな。わたしもちょっとしたお使いのつもりでトラツグミ、お前を送り出したのだが…。まさか、神や悪魔が絡んでくるとは夢にも思わなかったのだ。しかし、よくぞ見事に邪神を討ち果たし、パークを、引いては世界を救ってくれた。この栄誉は決して言葉で言い表せるものではない。物で量るなどもっての外だ。そしてトラツグミ、お前の疑問は森林地方に行くと解決されるだろう。お前を打ち倒した者たちの心を、その目で見てみるといい」

 

 そういうとカンザシちゃんはふわりと舞い上がった。

 

「勝利の凱旋をするときだ。お前たちの帰還、待っているぞ」

 

 そう言ってカンザシちゃんは行ってしまった。波が崖を打つ音だけが聞こえる。照らす朝日が目に沁みる。

 

「行くといい。お前たちにも帰るべきところがあるのだろう。帰ってここでの英雄譚でも聞かせてやれ。私を、バフォメットを倒し、長きにわたるゴコクエリアの戦いに終止符を打ったのだ。胸を張って、いざ帰るのだ」

「…うん、分かった。じゃあ、行くね」

 

 ポセイドンの言葉を背にあたしは歩き出した。

 

「行こう、みんな。キョウシュウエリアのみんなが待っているはずだから…!ゴコクエリアのみんなも頑張って!あたしたち、またきっと遊びに来るから!その時までに元気いっぱいになってないと許さないからね!」

「案ずるな。余が必ずゴコクエリアをパーク一の名所にしてみせよう」

「…私も荒らして回った分、責任を以ってゴコクエリアの創造に努めよう」

「うん…!じゃあ、またね!バイバイ!」

 

 そうして別れの言葉を告げたあたしたちはゴコクエリアを後にした。あたしの胸には晴れやかな気持ちが残っていた。朝日に照らされるゴコクエリアを見て思う。あれほど禍々しく、島全体に暗い影を落としていたゴコクエリアはもう無いんだ。今はまだ小さいけど、新しく生まれ変わったゴコクエリアにはフレンズさんたちの新しい活力が芽生え始めている。島全体に輝きが生まれ始めているんだ。

 

「キョウシュウエリアに帰るのもなんだか久しいですね」

「そうだね…。どれくらい空けてたんだろう?」

「一ヶ月ないんじゃないか?いや、どうだろうな?」

「あはは、わかんないね…。まあ、いいや!早く帰ってみんなと遊ぼう!お絵かきも全然してないしぱーっと遊ぶぞー!」

 

 

…………

 

 

「………」

「目が覚めたようだな」

「…ここは…」

 

 目を覚ますと一面真っ白の世界がアタシの目に留まった。周りには枯れた木が辺り一面に生えている。少し離れた所にある枯れた木の枝に一人の真っ黒なフレンズが腰をかけている。

 

「ここは…?」

 

 まるで深い眠りから覚めたかのようだ。喉は潤っているけど、ちょっと喉が渇いているような感じがする。それを除けばバイタルはばっちりだ。しかし、ここは一体どこなのだろうか。アタシは確か、アムールトラに倒されて、それで…

 

「ここは死の世界だ」

「死の…世界…。じゃあ、アタシは…」

「死んだ…のだ…」

「………」

 

 アタシは死んだとそのフレンズは答える…。と、いうことはここは地獄…?地獄にしては少しじめじめしてて、想像するようなところと大きくかけ離れているような気もするけど…。地獄じゃなくて煉獄だったりするのかしら?

 自身の体の状態をチェックする。指は自由に動く。体温もきちんと感じる。胸の鼓動も確かにある。…アタシは本当に死んでいるのかしら?ここは本当に地獄なの…?

 

「ねえ、もう一回聞くけどここって本当に地獄なの?アタシって本当に死んだのかしら?…まさか、アンタもアタシを生き返らせて誑かそうとしてるんじゃないんでしょうね?」

「地獄とは一言も言ってないぞ。それに確かにお前は死んだ。そうして、転生したのだ」

「転生…?」

「御幣を恐れずに言うなら、生き返ったのだ」

「………」

 

 まるで要領を得ることができない。転生した?生き返った?…地獄っていうのはアタシの早とちりだったみたいだけど、死の世界っていうのも意味が分からない。まるで何も理解できない。それにあのフレンズは一体何なの…?

 

「…その前に一つ尋ねるのを忘れてたわ。アナタ、一体何のフレンズなの?」

「私か?私はカタカケフウチョウだ。この死の世界に住まう孤独のフレンズだ」

「それよ。死の世界ってなんなの?地獄じゃなかったらここは一体何なの?」

「死の世界は私が勝手に名付けただけだぞ。名前なんてない。それと、ここに隣接する地方は森林地方と平原地方だ」

「………」

 

 ひどく拍子抜けした。どうやらここは地獄でもなければ煉獄でもなく、ジャパリパークのどこかにあるエリアの一つということらしかった。だったら転生したっていうのも納得だ。あのカタカケフウチョウも特にアタシに何かしたわけでもなさそうだ。

 

「そう…。教えてくれてありがと。じゃあ、アタシは行くわ…」

「行くって、どこに行くのだ?」

「それは…」

 

 …どこに行けばいいんだろう。アタシに行くところは…。それにどこをどう行けばいいのかもわからない。そもそもこんな深い霧から出ることはできるのか。

 

「ほれ、じゃぱりマンでも食べるといい。新しく生を迎えたお前への私からのお祝いだ」

「…ありがとう」

 

 差し出されたじゃぱりマンを口にする。…思えば、久しくこの食べ物を口にしていなかった。こんな味だったんだなって思うと少し空しい気持ちになるようだ。

 

「元気がないな」

「それもそうよ。…アタシを迎え入れてくれるところなんてあるのかしら…」

「あると思うぞ。なんてったってジャパリパークだ。だれもお前を除け者にすることなんてない」

 

 適当なことを言われたような気がしてカチンときてしまった。怒りのままに言葉が溢れてくる。

 

「アンタに何が分かるっていうのよ…!アタシはゴコクエリアのフレンズたちにひどいことをしてきたのよ…!?アタシに縋る手を振り払ったり踏み躙ったりしてきた…!みんなの生活を徹底的に破壊してきた…!…こんな思いをするなら地獄に落ちてればよかったのよ…!」

「だが、天はそれを許さなかった。何故か分かるか?」

「…宿罪を果たせっていうの?」

「違う。再びお前にチャンスをくれたのだ」

「チャンス…?」

 

 意味が分からない。もう一度アタシにこの手を汚せと言っているのか。それともフレンズとしての生をやり直せっていうのか。…そんな虫の良い話があるはずがない。カタカケフウチョウは続ける。

 

「お前は生前、フレンズとしての道を誤った。そして、神の力にその手を染め、すべてを支配しようと暴走してしまった。そんなお前を天は哀れんだのだろうな。もう一度、フレンズとしての道を歩むチャンスをくれたのだ。もう一度、やり直してみる気はないか?」

「ぁ……。そんな……」

 

 言葉が出なかった。こんなアタシにまたフレンズとしてやり直せだなんて…。胸の内に溜まったものが溢れるようだ。

 

「これを機に、やり直してはみないか?」

「…いいの…?アタシは…みんなを…」

「…お前と戦ったトラツグミは覚えてるか?あいつはキョウシュウエリアで、地上に生きるもの全てに復讐しようと暴れ回った過去を持つ。そいつもこの死の世界で再び生を受けて、宿罪を果たす旅に出た。トラツグミの過去はお前よりひどいものだったぞ。手にした力は外なる神から授かった復讐の力、力の行使の目的もお前と正反対と来たものだ」

 

 カタカケフウチョウは続ける。

 

「…それに、さっきも言ったように、ここではフレンズを除け者にしようとする者はいない。悪いことをしたって思うなら謝るといい。ただ、二度と同じ轍を踏まないように気を付ければいいのだ。それで皆、お前を迎え入れてくれるはずだ」

 

 そのフレンズはアタシのところへ降りてくると、手を差し伸ばしてきた。

 

「行こう。私がお前を導いてやろう。怯える必要はないのだ。私と共に、新たな世界へと足を踏み入れようではないか」

 

 手を引かれてアタシとカタカケフウチョウは歩き出した。奥へと進む度に霧が薄くなっていく。奥へ奥へと手を引かれ進んでいく。不安は未だ拭えずに胸の中でぐるぐると渦巻いている。

 霧が晴れていく。やがて遠くに青い草原と、ぽつぽつと立つ樹木が見えてきた。

 

「…っ」

 

 太陽がアタシを照らす。青い空はどこまでも広がっている。この空の雄大さを知ると、アタシの中に眠る野生の血が騒ぐようだ。

 

「………」

「どうしたのだ?」

「空って…こんなにも広かったのね…」

「そりゃあな?」

「…ふふ。ずっと下ばかりを見てセルリアンを蹴散らしたり、地下にこもって悪魔と策を練ってばかりいたんだもの…。気付かなくて当然よね…」

 

 相変わらず後ろ向きな感情がアタシを支配している。生前の愚行と敗北を味わったせいで自信を失っているんだ。情けないことこの上ない。

 …だけど、立ち止まってはいけない。今、カタカケフウチョウはアタシの為にこうして手を引っ張ってくれている。その思いを無駄にするわけにはいかない。アタシは今、小さくてもその一歩を踏み出す時なんだ。

 

「ッ…」

「そうだ、共に頑張ろう。お前は一人ではないんだ。私も、カンザシも、パークのみんながお前が自立するのを手伝ってくれるだろう。そして、ゆっくりと過去の行いを清算するんだ。それがお前のできる唯一のケジメと知るのだな」

「…わかったわ。ありがとう、カタカケフウチョウ」

「礼には及ばん。かく言う私もこういうことしかできんのでな」

 

 新たな大地をカタカケフウチョウに連れられて駆けていく。アタシの新たな物語はここから始まるのかもしれない…。どんなにありふれたものでも、どんなに面白みがなくても、それはアタシというフレンズが生きた立派な証になるんだ。アタシはアタシだ。変に物事を考えずに今まで"ハクトウワシ"として過ごしてきたように、正義を愛するフレンズとして生きていくんだ。

 決意を胸に遠く空を睨む。青い空を見ていると胸の内の不安が晴れていくようだ。それに、新たに湧くこの感情は何だろうか。なんだかとても清々しい気持ちになってくる。

 

「…よし」

「どうしたのだ?」

「カタカケ、アタシの早さについてこれるかしら!?」

「お?お?どうしたのだ?」

「アタシは正義に生きるフレンズ、キャプテン・ハクトウワシ!新しく生まれ変わったアタシがパークの平和を守ってみせるわ!さあ、ついてらっしゃい!一緒にパークの悪を正していくわよ!レッツ・ジャスティス!」

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