けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:こんぺし

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Ruin
Ruin-1「滅亡」


「きーらーきーらーひーかーるー…よーぞーらーのーほーしーよー…」

「何を歌ってるの?」

「サーバルさん…」

 

 遠くに星が瞬いている。サイレンは絶えず鳴り響いている。サイレンの音に交じって戦闘機が空を切る。その音は鋭く鼓膜を刺すかのようだ。

 水平線の向こうで大きな爆発が起きる。あの輝きは隕石でも落ちたのだろうか?…いや、アレはきっとどこかの国が核を撃ち込んだに違いない。国際連合が解散した今、国家間を縛るものは何もない。既に核を撃ち込まれて滅びた国はいくつもあるのだから、今更核が撃ち込まれたところで驚きもしない。

海面から曳光弾が上っていく。海上から上る炎が夜空を赤く照らす。まるで世界の終わりを象徴するかのようだ。

 

「それよりミライさん!早く逃げよう!?スタッフもお客さんも退避が完了したって!」

「そうよ!ボサッとしてたら本当に死んじゃうわよ!?」

「サーバルさん…カラカルさん…」

 

 逃げるって言ったってどこへ逃げるというのか…。絶海の孤島であるジャパリパークは既に洋上封鎖されている。指揮系統の壊滅した軍を相手に突破するのは自ら火中に飛び込み死にに行くようなものだ。

 遠くでまた一つ大きな輝きが見えた。とても立派で大きなきのこ雲だ。いつも見るきのこ雲よりとても近いように見える。

 

「な、なんだろう…。また隕石でも落ちたのかな…?」

「いいえ…。あれは…」

 

 白い壁が猛烈な勢いで迫ってくる。すべてを死に追いやる熱の壁が海水を蒸発させて私たちの元へと迫ってきているのだ。

 

「な、何あれ…!ミライさん!早く逃げないと…!本当に…!」

「ミライさん!!!」

 

 もはや私に動くことなんてできなかった。己の無力さに打ちひしがれてへたり込んでしまう。人間たちの勝手な都合のせいで、ヒトのみならずけものさんたちをも犠牲にしてしまうことが何よりも許せなかった。ヒトが造った究極の破壊兵器でけものさんが焼き払われてしまう。それどころか、生き物の住めない土地にすら変えてしまう。それを阻むことができない私の無力さが何よりも悔しかった。

 

「「ミライさん!!!」」

「………」

 

 二人の呼び声に振り向く。私に向けられた二人の顔は、絶望なんかではなくて私を心配する純粋なもの顔だった。この二人は最初から諦めてなんてない。諦めてぐずっていたのは私だけだったんだ…。私は…最後まで生きようとした二人に何もしてあげれなかったのか…

 

「うっ…!うぅぅ…っ!」

 

「ミ、ミライさん!?」

「ちょっと!どうしたのよ!」

 

 ゆっくりと立ち上がって二人を見据える。こうなってはもうどうすることもできない。諦めてはいけないとは分かっていたけど、あの炎を前にしてはもうどうしようもない。私は決して口にしてはいけないことを二人に告げた。

 

「皆さん…お元気で…」

 

 白い壁が私たちを呑み込んだ。サーバルさん…カラカルさん…。どうか苦しまずに逝けますように…。そして、二度と苦しむことのないよう、ヒトとの世界から隔絶された理想郷に行けますように…。一切の苦しみから解放されて…さようなら…。

 

 

…………

 

 

「この子が噂のゴコクエリアで戦ってたわたくしの騎士、クロサイですわ!」

「どうも…私が…クロサイ…です」

「ほら!しゃきっとなさい!あの時の勢いはどこへ行ったのですの!?」

「そ、そんなことを言われましても…」

 

 クロサイさんがシロサイさんに押されている。シロサイさんもクロサイさんと再会できたことが嬉しいのか、すごくべたべたとしている。

 

「ほぇ~…。シロサイ殿と同じく守りに堅そうなフレンズでござるね~…」

「でしょう?攻める時には攻めますけど、こと守りに関してはわたくしより堅牢でありますのよ!クロサイ、ゴコクエリアで鍛えた貴方の腕、ここでお見せなさい!」

「なっ!?ま、まさか姫と手合わせを…!?」

「まさか!ヘラジカ様、よろしくて?」

「む…。いいだろう。クロサイとやら、ゴコクエリアで培ってきたその手腕、存分に振るうといい。遠慮はいらんぞ!さあ、かかってこい!」

「…分かった。ならば私も遠慮なくいかせてもらう。覚悟!」

 

 二人のスピアが交じり合う。リーチで言えばヘラジカさんの方がずっと上だ。体躯的にもクロサイさんが不利をとっている。

 ヘラジカさんの矛が頭上から間断なく振り下ろされる。クロサイさんは間合いを測っているのかずっと守備に徹したままだ。軽やかに身をかわしてヘラジカさんの攻撃を避けている。

 

 ギン!

 

「ぬぉ!」

 

 スピアでヘラジカさんの矛を受け止めた。そのまま地面へと受け流すと、矛を踏みつけて反撃へと躍り出た。

 

 ダン!

 

「デヤ!」

 

 スピアが心臓部へと放たれる。ヘラジカさんは身を捩ってかわすけど、攻撃の機を失ったせいかいまいち余裕がない様子だ。

 

「やるではないか…!だが、その程度ではわたしは倒せんぞ…!」

「どうかな…!私に攻撃を許した時点で既に試合は決まっている!」

 

 クロサイさんが大振りにスピアを振り回す。ヘラジカさんも矛から手を放すとクロサイさんの攻撃を回避した。アレに当たっていてはただでは済まなかっただろう。だけど、ヘラジカさんが次にクロサイさんを視界に捉えた時には既に反撃の機会を失っていた。

 

「ハァッ!」

 

 間断なく乱舞ともいえる激しい攻撃がヘラジカさんを襲う。一刻の隙を見せない攻撃にヘラジカさんが手を出せずにいる。おまけに自身の得物を失っては反撃も厳しいというものだ。

 

「だぁっ!」

「ぬあ!?」

 

 スピアを軸に体を宙に舞わせるとヘラジカさんの体に飛び込んでいった。鉄の拳がヘラジカさんを襲う。

 

 ズン!ズン!

 

 地面を殴る鈍い音がする。自由を奪われたヘラジカさんが辛うじてクロサイさんの攻撃をかわしているのだ。

 

「ッ…!!」

「私の勝ちだな」

 

 冷めきった声でクロサイさんが勝利を宣言する。

 どこかに隠し持っていたであろうナイフがヘラジカさんの首を捉えている。勝負は決したようなものだった。ヘラジカさんが降伏の構えをとる。試合はクロサイさんの勝利に終わったのだ。

 

 

…………

 

 

「いやはや、まさかここまでやるとは思わなかったよ。さすがはゴコクエリア一の名将だな」

「わたくしの見込み通りですわ!さすがはわたくしの騎士ですわね!」

「な、なんだかくすぐったいです、姫…。それとヘラジカ殿、お前の矛には何か迷いがあるように見えた。何か隠しているのではないか?」

「………」

 

 沈黙が流れる。ヘラジカさんの顔には何やら陰りが見える。シロサイさんの顔もヘラジカさんと同じく曇っている。あたしがキョウシュウエリアを離れている間に何かあったのだろうか。

 

「実は…」

 

 

………

 

 

「ライオン殿が…」

「ああ、数日前に突如姿をくらましてな…。以前から様子がおかしいとは思っていたんだ…。声をかけてもボーっとしているし、突然びくっとしたかと思えば次の瞬間にはいつもの様子に戻っていたりとな…」

「勝負事をするときにも進んで前に出るようになっていましたわね。争いごとは好きではなかったと思うのですけど、好戦的になったような印象でしたわ」

「やはりお前もそう思うか」

 

 どうやらライオンさんに関する悩みがあったみたいだ。それのせいでいまいち本気になれなかったのかな?けど、ライオンさんに異変かぁ…。一体何があったんだろう?

 

「ヘラジカさんは何か心当たりないの?」

「そうだな…。ライオン…いつからか、あいつは、ある時から急にボーっとするようになってな。声をかけても上の空のようだし、わたしとしても心配ではあったんだ。そしてある時、ライオンは突如我々の元から姿をくらませた。オーロックスらも心労のあまりに寝込んでしまって大変さ」

「えぇ!?じゃあ、早く何とかしないと!」

「だな。シロサイ、クロサイ、カメレオン。わたしは図書館へ行く。しばらく留守にする故、頼むぞ」

「ええ。お任せください」

「うむ。任された」

 

 

…………

 

 

「ライオンが、ですか…」

「ああ、そうだ。コノハちゃん博士、ミミちゃん助手、なんか知っていることとか心当たりはないか?」

 

 図書館の訪れたあたしたちは、早速コノハちゃんたちにライオンさんの在り処を訪ねた。正直、急に失踪した行方不明者のことなんて知るはずもないと思ったけど、聞かないよりはマシかなと思った。

 

「正直それどころじゃないのですよ」

「鵺騒動の事後処理やゴコクエリアの救援の手配でいっぱいいっぱいなのです」

 

 なんとも心無い返事である。忙しいのはわかるけど、一応は失踪しているフレンズさんなんだし、もうちょっと気の利いたような発言はできなかったのか。

 

「そういえば博士、ヤマタノオロチが奇妙なことを言っていましたね」

「それがどうかしたのですか。ライオンと何か関係があるとでもいうのですか」

「ミミちゃん助手。何か知っているのか?」

「いえ。ふと、この間ヤマタノオロチの奴がゴコクエリアが生きていると妄言のような事を言っていたのを思い出しただけなのです。…もしかしたら、ホッカイエリアに呼ばれたのではないのかと思っただけなのです」

「あんな妄言信じるのがおかしいのです。生きている島だなんて神話の中だけなのですよ」

「う、うーむ…。すまない、ミミちゃん助手。貴重な情報感謝する」

「別にお礼を言われるほどでもないのです。ただの妄言に妄想を重ねただけなのです」

 

 島が生きているかぁ…。神話の中で生きている島なんてあったっけ?創作の中だと、島だと思っていたものは、実は巨大な亀の背中だった!みたいなモノはちらほら見かけるけど…。…なんだかちょっと気になるなぁ。

 

「博士ー!助手ー!」

「おや、今日は来客が多いですね」

「キタキツネですか。一体どうしたのですか」

 

 遠くからキタキツネさんが走ってくる。腕には何やら箱…無線機らしきものを抱えている。よく分からないメーターやいっぱいあるつまみを見てると混乱してくるようだ。しかし、一体どうしたのだろう。コノハちゃんたちに修理を依頼するとかかな?

 

「どうしたのですか、キタキツネ」

「ちょっとこれ、聞いてほしいんだけど…」

「どれどれ…」

 

 音量のつまみを回してラジオのボリュームを上げる。そこには女の人の声で助けを求める声が記録されていた。

 

『エス・オー・エス。こちら、ジャパリパーク調査隊長、ミライです。現在、ホッカイエリア臨時キャンプ場にて、民間人、パーク職員、その他保護動物含む多数の負傷者を抱えており、取り急ぎ救援を要しています。このメッセージを聞いた方は何でも構いません。ホッカイエリアはなるべく多くの支援を要しています。繰り返します。こちら、ジャパリパーク調査隊長の…』

 

「これは…」

「ミ、ミライさん…!?」

 

 かばんさんの様子が一変した。顔を強張らせて無線機に食らいついている。

 しかし、ミライさん…。さっきの録音メッセージから察するにパークの職員の名前なのだろうか。

 

「キタキツネさん!これ、一体どこで見つけたの!?しかもこのラジオチャンネルは…!」

「お、落ち着いて!この箱は雪山でたまたま拾ったものなの!この音もたまたまここを回してた時に鳴り始めて…」

「ご、ごめん…。けど、このミライさんの声…。どうやらホッカイエリアで何かに巻き込まれてるみたいだ…。セルリアンの大群にでも襲われたのかな…」

「かばんちゃん、ずっとヒトのこと…。特にミライさんの手がかりを探してたんだもんね…。ミライさんも無事だったらいいけど…」

「…だね…」

 

 かばんさんの顔に陰りが見える。その雰囲気は、どこか諦めに似たようなものを見て取ることができる。

 

「コノハちゃん、ミミちゃん…」

「わかっているのです、かばん。行きたかったら行くといいのです」

「…ホッカイエリアは一般的に寒帯と亜寒帯を一つにまとめたような所なのです。場所によっては多少温暖なところもありますが、それでも一年中雪が降り積もっている所や、積雪はなくとも砂泥と枯草ばかりのところもあるのです。元々その地域に住むけもの意外にはとても厳しい所なのです。もし行くなら、それなりの用意をしてから行くのですよ」

「…分かった。ありがとう、ミミちゃん、コノハちゃん」

「…必ず帰ってくるのですよ、かばん」

「…うん。行ってくるね…。行こう、サーバルちゃん」

 

 図書館を背にして歩き出す二人。…もちろんあたしたちもついて行くつもりだ。ヤマタノオロチさんが恐怖するホッカイエリアっていうのも気になるし、かばんさんが長年追い求めてきたミライさんというヒトも気になる。ついて行かないわけがなかった。

 

「かばん!あたしも行くわ!」

「…わたしも付いて行ってもいいか。もしかしたらライオンもホッカイエリアにいるのかもしれない。なんとしてでもライオンを連れ戻したいんだ」

「分かった。みんな一緒に行こう。…ともえちゃんたちも行くつもりなんだろう?」

「うん…。今回もちょっとお邪魔するね」

 

 あたしたちの三度目の旅が始まる。今度の舞台はホッカイエリア…。生きている島という奇妙な情報もある。失踪したライオンさんやミライさんというパークの従業員の謎もある。今度の冒険はゴコクエリアとは違うベクトルの危険さがあると思う。まだ誰も行ったことのない未知の大地だ。気を引き締めていかなくちゃ…。


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