けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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Ruin-2「ホッカイエリア」

「ここがホッカイエリア…」

 

 バスを島へ漂着させて黒い砂泥の大地に立つ。空気は冷たく澄んでいて気持ちが良い。青々と広がる空はまさしく雄大な北国の自然を思わせるようだ。

 

「これじゃあ、バスでの移動は無理だね…。こんなにぬかるんでいたらすぐにスタックしてしまう…」

「確かにこれだとタイヤが沈んで思うように動かないかもしれないわね…。歩いていった方が良いかもしれないわ」

 

 かばんさんとキタキツネちゃんの提言もあり、あたしたちはホッカイエリアを歩いていくことにした。冷たい風が肌を撫でる。ある程度の防寒対策をしてきたとはいえ、やっぱり冷たい風というものは中々に沁みる。日が差しているのがこんなにもありがたく思えるとは思わなかった。

 

「うぅぅ…。かばんちゃん、寒いよぉ…」

「ほら、僕の外套を貸してあげるからこれでしのぐといいよ。歩いていたらじきにあったかくなるだろうから、それまで我慢だよ」

「うん…。ありがとう、かばんちゃん…」

 

 ヘラジカさんやギンギツネちゃんは平気なようだ。思ってみれば、二人とも元の動物では比較的寒い所に住んでいるんだから平気なのも当然なのかもしれない。

 

「? なんだこれは?」

 

 ヘラジカさんが何か奇妙なものを拾った。フロッピーディスクとも、カセットテープとも呼べるような記録媒体だ。

 

「ホロテープダネ。パークノショクインガ カンイテキニ ジョウホウヲ キロクスルタメノ モノダヨ」

「うんうん…。…ラッキーさん、近くのラッキーさんを呼んでもらえるかな。ちょっとデータの中を見てみたいんだ」

「ワカッタヨ」

 

 かばんさんの右腕についているレンズが忙しなく点滅している。どういう仕組みかは分からないけど、あれで近くのラッキーさんを呼び出しているのだろう。

 しばらくすると、ぴょこぴょこと跳ねながら一台…一匹?のラッキーさんがこちらに向かって跳んできた。

 

「チョットマッテテネ」

 

 こっちにやってきたラッキーさんの目が白く光る。カチャっという音が鳴ったと思うと、背後に何やらテープの挿入口のようなものが開いた。

 

「カセットコンポみたいですね…」

「だね…」

 

 そういう話をするあたしたちを後目に、かばんさんがラッキーさんの背中にホロテープを差し込む。すると、ラッキーさんから過去に収録されたと思われる記録音声が再生された。

 

「○月×日、△曜日。世界を襲った大災害の後、世界は完全に混乱に陥ってしまいました。ここ、ジャパリパークは、本島を連絡する連絡船も航空便も全てストップして、完全孤立の状態です。パークにはお客様もまだたくさんいらっしゃいます。どうにかして返さないといけないのでしょうけど…。…今はパークのお客様の安全を優先しなくてはいけませんね。いつセルリアンが湧くかもわかりません。まずは、フレンズさんやパークの治安維持隊の協力を以って、混乱の回復と治安維持に努めましょう。記録終わり」

 

 緊張した声色のミライさんと思われるヒトの報告が記録されていた。大災害…あたしの記憶に微かに残っている忌まわしい出来事がちらつく。あたしはかつてこの大災害に巻き込まれて…

 

「わたしたちは宇宙船で脱出したからわかりませんけど…。地上では混乱の中、懸命に頑張っていた人たちがいたんですね…。わたしもてっきりあの大災害でみんないなくなってしまったと思っていたのですけど…」

「イエイヌ…?何言ってるんだ…?」

「あ…。いえ、なんでもありません、ロードランナーさん」

「…ヘンな奴だな」

 

 ゴマちゃんが訝しげな目でイエイヌちゃんを見ている。かばんさんは何か考え込んでいるようだ。

 

「…まだホロテープがホッカイエリアのどこかに残っているかもしれない。注意深く見ていこう。イエイヌちゃんもサーバルちゃんもこのニオイを覚えて頑張って見つけてもらえるかな」

「わかった!」

「了解です」

 

 こと獲物探しが得意そうな二人が元気に答える。けど、パークの中でも特に広大であろうホッカイエリアのことだ。ホロテープ探しは中々に骨が折れそうだ。

 その時だった。ふと遠くから、こっちに向かって慌ただしく走ってくるフレンズさんであろう影が見えた。濃い赤みがかった姿に、フードを被っている姿から蛇のフレンズさんのように思える。こんな寒い地方にも変温動物の爬虫類っているのかな?

 

「よかった…!おーーーい!助けてくれーーーーー!」

「え!?ちょ、ちょっと!!」

 

 そのフレンズさんはあたしたちの返答を待たずに飛び込んできた。なんだか酷く慌てている。セルリアンにでも襲われたのだろうか?

 

「げっ!アイツまだ追いかけて来てやがった!なんて執念だ…!お前ら!頼む!」

「え?え?どういうこと??」

「ッ…!!ライオン…!!」

 

 ヘラジカさんが信じられないものを見たかのような反応をしている。…ライオンって言った…?まさか…

 

「あれえ?ヘラジカじゃん。どうしたの?こんなところで」

「どうしたも何もない!お前こそこんなところで何をしている!?しかもフレンズを襲うだなんて…!いったいどうしたというんだ!ライオン!!」

「どうしたも何も狩りごっこしてるだけだよ~。それに、もしかしてあんた、ヘラジカたちを頼る気かい?ふふ~ん、腕が鳴るね~」

 

 肩を慣らして体をほぐしている。バキバキと指を鳴らす音があたしたちを威圧する。…なんだか様子がおかしい。あたしたちが過去に会ったときには、こんな好戦的な態度をするフレンズさんじゃなかったはずだ。あくまで戦うのはフレンズさんたちの為であって、自ら戦いに挑むようなフレンズさんじゃなかったはずだ。…それに右腕に羽織っている金色のマントはいったい…?

 

「やっぱり変だぞ、ライオン…。一体どうしたっていうんだ?」

「う~ん?質問の意味が分からないねぇ。私は私だよ~。ヘラジカたちこそどうしたってのさ。こんなところまで私を追いかけてきてさ~」

「…わたしはお前を連れ戻しに来ただけだ」

「私を~?またまた~」

 

 体を揺らしながら軽薄に答える。次の瞬間、全身に鳥肌を感じるほどの寒気を感じた。明確な殺意を感じる。あたしたちとやり合う気だ…!

 

「やれるもんならやってみな?」

 

 僅かな砂煙を残してライオンさんの姿が消えた。あたしたちに襲い掛かってきたことは明白だった。

 

「ッ…!!!」

 

 ヘラジカさんが迎撃の構えを取る。刹那、戦闘に狂うライオンさんが姿を現した。ヘラジカさんの矛を鷲掴みにして押し上げている。

 …なんと恐ろしい顔なのだろうか。ライオンさんの顔は血を求めるあまりに大きく歪んでいる。仲間のみんなを思うあのライオンさんのものとは思えない。もはや完全に別人の顔になっていると言えるほどに歪み切っている。

 

「オレを連れ帰るんだろう!?さあ、やってみせろよお!オレを殺してへばったキョウシュウエリアとやらに連れ帰ってみせなあ!!!」

「貴様…!」

 

 尋常じゃなく興奮している。あの物言いといい言動は明らかにライオンさんのものじゃない。…それともあの性格が本来のライオンさんのものだったりするのだろうか?

 

「ッ…!」

「アムちゃん!」

 

 アムちゃんがヘラジカさんとやりあうライオンさんの背中に向かって飛びかかっていく。

 

「ダァッ!」

 

 つるん!

 

「なっ…!?」

「効かんなぁ?」

 

 ドゴッ!

 

「ぐはっ!?」

 

 ライオンさんがヘラジカさんを蹴って引きはがす。ライオンさんの手にはヘラジカさんの矛が握られている。

 

「ハッ!お前が噂のビーストか!いいだろう!貴様となら楽しめそうだ!オレの体に傷の一つでも入れてみなァ!!」

「くっ…!」

 

 ライオンさんの手によってヘラジカさんの矛が振るわれる。型なんて無いむちゃくちゃなものだけど、粗削りながらも力強いその一撃は確実にアムちゃんを仕留めようと振るわれている。

 

「キィッ…!」

「ほう?」

 

 ヘラジカさんの矛を防いだアムちゃんが反撃に出る。引き寄せられたライオンさんの体がアムちゃんの射程内に入る。こうなれば後はアムちゃんのターンなんだけど…

 

「ッ…!?どうして…!」

「さあ…どうしてだろうなァ!!」

 

 アムちゃんの胴に左拳が思い切り叩きこまれた。

 

「のわ!?」

 

 ゴマちゃんの小さな体に吹き飛ばされたアムちゃんの躯が飛び込む。成す術もなく二人とも大きく後ろに飛ばされてしまった。

 

「ぐぁぁぁぁぁ…!」

 

 苦痛にアムちゃんが呻いている。前方には余裕の表情をしたライオンさんが仁王立ちしている。その不敵な笑みは確実にあたしたちを仕留めに行くものだ。

 

「さて…」

 

 ライオンさんは矛を構えるとヘラジカさんに投げ飛ばした。

 

「ッ…!」

「お前たちとはまだ楽しめそうだ。今のうちにオレを倒す術を探るといい。その時まで待っているぞ、ヘラジカ共」

 

 そう言うとライオンさんはどこかへ行ってしまった。後に残されたのはあたしたちとかばんさんたち、そしてこの赤い蛇のフレンズさんだ。

 

「た、助かった…」

「大丈夫…?どうしてライオンさんに追われてたの?」

「ンなこと俺が知りてーよ!アイツ急に俺を襲ってきやがったんだ!火すら恐れねえとか名実ともにバケモンだぜアイツ!」

「…?そういえば名前聞いてなかったよね。まさかホッカイエリアでも蛇の子を見かけるなんて思わなかったけど…キミは何のフレンズさんなの?」

「あ?俺は蛇なんかじゃ…。あー…。蛇…なのか?」

「???」

 

 なんだか妙な反応を見せている。どうしたのだろう?記憶が混乱しているのだろうか?

 

「フードを被ってたら蛇の子だってサーバルちゃんに教わったっけ。懐かしいね」

「だね!もしかしてキミって最近生まれた子だったりするのかな?」

「いやぁ、五年位前だな。最近という程でもないぞ」

「だったら自分のことがわかっててもおかしくないはずだけど…。なんていうの?」

「ふっふっふっ…。聞いて驚け」

「???」

「俺様は…サタン…だ!」

「なっ…!?」

「サタン!?!?」

 

 頭の中が真っ白になった。いや、本当にサタンなのか?フレンズさんは純粋で健気な子が多いし、わざわざサタンを名乗るはずがないとは思うけど…。そもそもサタンという名前を知る機会なんてそうそうないと思うし…。それにあの赤い体…毛皮って言えばいいのかな。…ああ、もう!頭の中がめちゃくちゃだよ!!!

 

「ほ、本当にサタン…なの…?」

「おうさ、フードがあれば蛇なんだろ?俺が最初の人類にエデンの果実を与えたのは知っているな?それに俺は何故かヤギの姿をしてることが多い。それもほら…こうだ」

 

 フードを脱いだ頭からビヨンと角を模したような髪が現れた。あのフードの下に隠れてたとは思えないほどの大きな角だ。

 

「ふっふっふ。俺はヤギと蛇とヒトのハイブリッドなのだ!何故だかここ、ジャパリパークに新しく生を受けた俺は、新たにこの世界にパンデモニウムを造るよう天命を受けたのだ!!!」

「サタンなのに天なんだね…」

「うるさい!」

 

 かばんさんが絶妙な突っ込みを入れる。

 しかし、サタンと言ったらゴコクエリアのバフォメットみたいな不気味なしゃべり方をすると思っていたけど、どうやらこのサタンを名乗るフレンズさんはいくらか陽気な性格をしているようだ。あたしたちもとんでもないフレンズさんを助けてしまったものだ。さて、どうしたものかな…

 

「そういえば、なぜお前たちはここに来たのだ?」

「ライオンさんを連れ戻すためだよ。それと、ミライさんを探しにやってきたんだ」

「ライオンってあのライオンか?止めておけ止めておけ。アレはお前たちの知るライオンなんかではない。お前たちも見ただろう?アレは見てくれはライオンだが、中身はまんま別物だ」

「…? どういうことだ?」

「俺も詳細までは分からんが、どうやらアイツの中には別の何かが憑依しているようでな。それに、アイツが羽織っていたマント…。アレは金羊毛と呼ばれるものだ。アイツの無敵の体を補助する物のようだな。アレもライオンの毛皮と同じく厄介な代物みたいだな」

「中身が別物…。道理で…」

 

 ヘラジカさんが悔しそうに唇を噛む。悔しさから手が小刻みに震えている。やがて抑えられなくなったのか堰を切ったようにサタンに質問を投げかけた。

 

「どうにかならないのかサタン!?どうすればライオンを救える!?知ってるんだろう!?教えてくれ!!」

「教えてもいいが…お前は俺に何を捧げる?」

「なに…!?」

 

 ヘラジカさんの声に怒りの感情が混じる。対するサタンは不敵な笑みを浮かべてヘラジカさんを煽っている。怒りに震えるヘラジカさんは我を失ったようにまくし立てた。

 

「俺の持つ知識や力はタダではない。俺は悪魔だ。俺の知識を授かりたくば、貴様の持つ輝きの一つでも俺に捧げるのだな」

「何を…!?こんな緊急の時に何を抜かすか!!!」

「良く吠えるわ。だが、俺も完璧に知っているわけではない。それに、今回は事情が事情なだけに特別に教えてやる。…まずは徹底的に痛めつけてやれ。あのライオンの中にいる魂も、ボロボロになった体を後生大事にするような馬鹿じゃない。出て行きたいと思えば勝手に出て行くだろう。もっとも確定したことではないがな」

「けど、どうやって痛めつけるの?アムちゃんの爪もまったく効いていなかったみたいだし…。それに、攻撃が効かない上にあんなに暴れるんじゃ近付くに近づけないんじゃ…」

「…奴の毛皮…。アレは戦車の砲弾どころか、核の衝撃にも耐えうる強靭さを持っている。攻撃が効く箇所と言えば、毛皮の覆っていない露出したヒトの部位か…。それか、毒や水で内側から攻めるかになるであろう。…かつて奴と戦ったヘラクレスという人間は、三日三晩もの間、首を絞め続けて殺害したのだそうだ」

「ヘラクレスに殺された獣…?聞いたことがあるような…。…まさか、アレはネメアの谷に住まうと言われる獅子…」

「ご名答だ、かばん。追い出すのであれば、早くした方が良いぞ。ライオンの体は既にネメアの獅子によって侵食されている。奴の毛皮に傷が入らなかったのもその為だ。早くせねば、奴は身も心も完全にネメアの獅子となってしまうぞ」

「…!!そんなこと…させるものか…!」

 

 ヘラジカさんが目を見開いて奮い立つ。ネメアの獅子にライオンさんが身も心も乗っ取られるのが、どうにも許せないようだ。かくいうあたしも、のんびり屋だけどカリスマのあるライオンさんが、ネメアの獅子に良いようにされるのは嫌だと思っていた。

 

「…行こう、ヘラジカさん…。ネメアの獅子からライオンさんを取り戻すよ…!」

「ああ…。ネメアの獅子だかなんだか知らないが、わたしの大切なライバルを奪われるのは決して許してはおけない…!皆!付いて来てくれるか!?」

「もちろんです、ヘラジカさん…!」

「私も異論はないぜ」

「…私も!かばんちゃんはどうかな…?」

「…僕もヘラジカさんに付いていく。アレは放っておいては危険だ。アレは自分の快楽の為に無差別に殺傷して回る通り魔でしかない」

「………」

 

 アムちゃんがかばんさんの言葉に黙りこくっている。かばんさんの言葉にかつての自分を重ねたのだろう。ネメアの獅子は快楽を貪るためにフレンズに手をかけているのかもしれないけど、アムちゃんは違ったはずだ。少し顔を顰めて俯いている。

 

「大丈夫だよ、アムちゃん。アムちゃんの過去はあたしもちゃんと分かってるし、アムちゃんがすごく反省しているのも分かってるから。アムちゃんが苦しむ必要なんてないんだよ」

「…ありがとう。…あたしも二度とあんな惨劇を繰り返したくない。そのためにも、ネメアの獅子というフレンズを止めてみせる」

「…だね。一緒に頑張ろう、アムちゃん!」

「…うん。頼りにしてる」

 

 こうしてあたしたちの新たな旅が始まった。ライオンさんの体を乗っ取ったネメアの獅子と呼ばれる謎のフレンズ。生きている島という謎の噂。そしてミライさんという、かばんさんが追い求めるかつてのヒト…。それらの謎をあたしたちは解き明かしていくんだ。それに、あたしたちの旅に同行するサタンと名乗るフレンズも気になる。ゆくゆくは明らかになるといいけど…。旅は始まったばっかりだ。寒さに負けないためにも気を引き締めていかなくちゃ…。

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