けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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Ruin-5「vsネメア前編」

「ネメア…!」

「よう。また会ったな、人間ども」

 

 山の頂にネメアの姿を見る。覇王、帝王とも思える出で立ちがあたしたちを威圧する。

 でもあの姿…。ライオンさんとは少し違っている。金色だった瞳はエメラルド色に、黄金の鬣には白いメッシュが入っている。両の腕にはアムちゃんのような、元の獣を表すネメアの獅子の体毛が現れている。指先に見える黒い爪は、鈍く怪しい光を放ってあたしたちを怯ませる。

 ネメアは鬼のような形相をしながら口元を歪ませてあたしたちを見下ろしている。むき出しの悪意と嘲りに満ちたその顔は、もはや悪魔と呼ぶに相応しいとも思える。

 よく見ると、右手に何かをぶら下げているのが見える。…見間違えるはずがない。あれは…。

 

「そんな…!」

「ッ…!アム…!てめえ!!!アムに何しやがった!!!」

 

 怒りにゴマちゃんが叫ぶ。隣にいるあたしにも、ビリビリとその怒りが伝わってくる。

 

「こいつか?愚かにもこいつは、オレに戦いを仕掛けてきたのだ。だから返り討ちにしてやったまでよ」

 

 ニヤリと口角があがる。アムちゃんの首に掛けられた手に力が籠っているのが分かる。抵抗する力も残っていないのか、苦痛に顔を歪めたままぐったりとしている。…あんなアムちゃんの姿を見るなんて初めてだ。ひどく胸が締め付けられるような感じがする。

 ゴマちゃんも怒りに体を震わせている。今にもネメアに襲い掛からんとしているようだ。

 

「ぅ…あ…」

「アムッ!!!」

「さあ…。どうしてやろうかな…?」

 

 ネメアは弄ぶように、アムちゃんの首を掴んだまま宙へと吊るした。アムちゃんの体は力なく垂れ下がっている。…何やら、ネメアはあたしたちの反応を見て楽しんでいるように見える。常勝無敗の自信からくる驕りなのだろうか。絶対無敵の体を持つ高慢か。そのどちらのようにも思える。

 

「てめェ!!!アムを離せェ!!!」

「ハッ!よかろう…」

 

 ネメアはゴミでも投げ捨てるかのようにアムちゃんを放り投げた。ズサリとアムちゃんの体があたしたちの足元へと横たわる。それを見たゴマちゃんは目を見開いて、わなわなと怒りに肩を震わせた。

 

「てンめぇ…。ぜってえに許さねえぞ!!!」

「ハッ!オレと戦う気か!?いいだろう!!!かかってこいッ!!!」

 

 ゴマちゃんがネメアへと飛びつく。行かせちゃいけないんだろうけど、あたしにゴマちゃんを止められる気がしなかった。

 …正直に言うと、あたしも許せなかった。あたしもネメアに一発入れてやりたかった。でも…あたしにはどうすることもできない。ヒトとしても未熟で、フレンズさんのような特別な力もなければ、けもののような鋭い爪や牙もない。あたしじゃ、どう足掻いてもネメアに報いることはできない。

 どうしてそう思ったか分からないけど、ゴマちゃんなら一発だけでもネメアに入れてくれるような気がした。それを期待していたのかもしれない。

 突然、ビュウと一陣の風が吹いた。一つの影がネメアに向かっていく。あの影は…。

 

「アムちゃん…!」

 

 ボロボロになったアムちゃんがネメアへと斬りかかっていく。そのスピードはゴマちゃんをも追い抜かさんばかりだ。

 

「ネメアああああああああああああああああああああ!!!」

 

 ゴマちゃんの拳がネメアを襲おうと振り上げられる。その時、アムちゃんがゴマちゃんの前へと躍り出て、ネメアへとその爪を振りかざした。

 

「あたしの仲間に…て゛を゛た゛す゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛!゛」

「アム!!?」

「ハッ!!!まだ戦えるだけの余力が残っていたか!」

 

 二人のビーストが拳を交える。実力で言ったら互角かもしれないけど、アムちゃん対するネメアには、あらゆる攻撃を受け付けないという無敵の毛皮がある。それに加え、未だその真価の知りえない金羊毛というアイテムがある。

 

「た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛」

「面白い!さっきまでの貴様とは大違いだな!ほれ!オレを倒してみろォ!!!」

 

 理性を失くしたアムちゃんの大振りな一撃がネメアを襲う。ネメアも今のアムちゃんは危険と感じたのであろう、アムちゃんの攻撃をかわしながら様子を窺っている。

 

「うっ…!」

「ニィ…!」

 

 ネメアがゴマちゃんに目をつける。それに気付いたアムちゃんが、すかさず烈火の如き乱撃をネメアに叩き入れた。

 

「ス゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 乱撃を繰り出すアムちゃんに黒いオーラが立ち込める。アムちゃんがビースト化しようとしているんだ。今までアムちゃんは何回も凶暴化してきたけど、今回は少し違う気がする。

 今までは、相手に勝つために自身の枷を無理やり外してデミビーストになっていたにすぎなかったけど、今回は一撃を打つごとに、徐々にビーストに戻っていっているのが分かる。

 …まさか、体内にわずかに残っているセルリウムが増幅して、アムちゃんをビーストに戻していっているのではないのか?

 

「キ゛ィ゛!゛ク゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛」

「そらそらそらァ!もっとだァ!!!」

 

 アムちゃんの攻撃が勢いを増していっている。一撃、一撃と放たれるその爪と拳は、ネメアに反撃をの機会を与えることを許さない。防がれたのであれば次の一撃を、通じないのであればより強い一撃を。自身の滅亡を前提とした特攻ともいえる暴走っぷりだ。

 

「くっ…!アム…!」

 

 ゴマちゃんが悔しそうにアムちゃんの名を呟く。ゴマちゃんは足元に転がる石を一つ拾い上げると、何を思ったのかネメアに向けて投げ飛ばした。

 

 ガスッ!

 

「っ!」

「へ、へっ!背中がお留守だぜ!ライオンさんよ!」

「貴様…!死にたいらしいなぁ…!」

「…!なんておっかねえ奴だ…!」

 

 ネメアが肌を刺すような殺気を放っている。痛みすら感じるそれは、まるでネメア自身がバチバチと電気を放っているようにも感じる。

 

「けど…!」

 

 ゴマちゃんがどこかへ向かって走り出した。あの方向は…。

 

「逃がすかァ!」

 

 怒りに駆られたネメアがドスドスと地面を蹴り上げてゴマちゃんに突進していく。走りが得意であるゴマちゃんとの距離がどんどんと縮んでいく。

 

「オレに喧嘩を吹っ掛けながら逃げるとはとんだ卑怯者だなァ!簡単には死なさんぞこの虫けらがア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛」

「くっ…!」

 

 ネメアが跳び上がってゴマちゃんを射程内に収める。だけど、ゴマちゃんも計算していたのであろう、ネメアが飛びつくタイミングに空へと飛んで、真っ先に溶岩の露出する溶岩湖へと飛んでいった。

 

「小癪なァ…!」

「くっそぉ…!何としてでも成功させてやるからな…!」

 

 山の反対側へ向かってゴマちゃんが飛んでいく。あたしたちが見つけた、この山の溶岩湖だ。

 

「…あれ?」

 

 地震計の針の振れ幅が少し大きくなっている。これはいったい…。

 

 

…………

 

 

 ネメアをアムから引きはがして、私たちが見つけた溶岩の湧く溜め池みたいなところへと誘導する。少しでも判断を誤れば、一瞬にしてネメアの爪に引き裂かれてしまう。やるかやられるか、ギリギリの戦いだ。

 

「見えた…!」

 

 溶岩湖だ。私たちが見つけた時より何か様子が変だけど、あれにさえたどり着ければ、もはやこっちのものだ。

 

「だけどどうすっかな…。どうやってアレにネメアの奴を落とせば…」

「ダアッ!!!」

「イィ!?」

 

 …危うくネメアの爪の餌食になるところだった。よく機転が利いたものだ。

 

「自ら背水の陣に立つとは良い度胸だ!さあ、どうするかな!?溶岩に焼かれて死ぬか!?」

「くっ…!あっちい…!こんなに離れてるのに背中が焼けちまいそうだ…!」

 

 容赦ない熱波が背中を焼く。二十メートルは離れてるというのにすごい熱さだ。

 溶岩の赤い光に照らされるネメアに足が震えてくる。赤い光に照らされた黒い爪は、今にも私を引き裂こうとしているようだ。

 

「っ…!だめだだめだ…!怖気づくな、私…!」

 

 震える脚に力を込めて、ネメアと対峙する。じっとネメアの目を睨んで私なりに威圧する。到底ネメアに効くとは思えないけど、私なりの精いっぱいの抵抗だ。

 

「ほう?良い眼をするな。矮小な存在ながらもオレに張り合うつもりか?だが…無意味だ」

「ッ…!」

 

 ネメアがじりじりと歩み寄ってくる。不敵な笑みは消え、獲物を狩るような鋭い目で私を威圧ししてくる。……喉を裂く気か、心臓を抉り取る気か、確実に私を仕留めに来る気だ。

 私と言えば、体中が緊張して動けずにいる。アムはこんな奴と戦っていたのかと思うと、申し訳なさやら何やらで押し潰されそうになる。

 

「っ…!」

 

 突如、ネメアが何かに反応した。次の瞬間、金色に輝く双眸を持つ黒い影がネメアへと襲い掛かった。アムがネメアを追いかけてきたのだ。

 

「貴様…!」

 

 アムがネメアに馬乗りになって顔面を殴打する。ネメアの口からは、これまでに見ることのなかった赤い飛沫が飛んでいる。…ネメアにダメージが入っている。これは勝てるんじゃないか…?

 

「いいぞアム…!そのままやっちまえ…!」

 

 だけど、その希望もあっという間に打ち砕かれた。

 

「ギッ…!」

 

 アムの拳が阻まれた。振り下ろされたアムの拳をガッシリと掴んでいる。

 

「雑魚が…!図に乗るなよ…!」

 

 ガツッ!

 

「ガッ…!」

 

 アムの胸ぐらを掴んで会心の頭突きを食らわせた。アムの額から血が流れている。

 

「よくもやってくれたじゃねえか…。このオレに血を流させたこと、褒めてやるぞ…。だが…オレの味わった痛み…十倍にして返してやるぞ…!」

 

 口元の血を拭ってネメアがアムに襲い掛かる。ネメアの背後には煮え立つ赤い溶岩が猛っている。二人は互いの両手を鷲掴みにして、溶岩に落とすか落とされないかの攻防を繰り広げている。

 

「くっ…!焼きが回ったか…!こうなるとは分かっていたのだがな…!」

「負け惜しみのつもりか…!このまま焼け死んでしまえ!!!ネメアアアアアアアアアア!!!」

 

 ネメアの腹部を蹴り上げると、顔面に渾身の一撃を叩きこんだ。

 

「ッ…!!」

 

 溶岩湖にネメアが落ちていく。上へ上ろうと突き出された腕も、やがては溶岩に呑み込まれていった。…勝った…のか…?

 

「…ハァッ…!はぁ…はぁ…!」

 

 アムが四つん這いになって激しく肩で呼吸をしている。緊張の糸がほぐれたのであろう、よく見ると全身が小刻みに震えているのが分かる。

 

「や、やったぞアム!ネメアの奴をやっつけたんだ!これでもう、アイツとはおさらばって訳だな…!」

「う、うん…。あたし、頑張った…。…っつぅ…」

「だ、大丈夫か!?ったく、おめえもよく無茶しやがるぜ…!こんなに傷だらけだっつーのに、よくあんなバケモンと戦えるよな…!」

「…あたしがやらなきゃ、みんなアイツにやられてしまう…。あたしは、それが嫌なだけ…」

「…すまねえな、何もかもみんなお前に任せちまって」

 

 ボロボロのアムを肩に抱いて、山を下りる準備をする。すると、下からともえたちが私たちの元へと駆け登ってきた。

 

「ゴマちゃん、アムちゃん!あ、あれ?ネメアは…?」

「へ、へへっ…。アムの奴がやっつけたんだぜ!あの溶岩湖に叩き落としたんだ!」

「う、うそ!?本当に!?本当にやったの!?ネ、ネメアを…やっつけた…」

「へへ、すげーだろ。後は、ミライだったかの跡を追うだけになるのか…」

「ですね。おおよその目星は付いています。まずは、ホッカイエリアのセントラルに向かいましょう。軍事基地や管制塔なんかもあるので、何かしらの手掛かりがあるかもしれません。ボス、案内頼みます。」

「了解いたしました。セントラルへ案内いたします。所要時間はおよそ三時間になります」

 

 そうして歩き出そうとしたときだった。

 

「ッ!?」

 

 突如アムがビクッと体を震わせた。バッと驚いたように後ろを振り向くと何かを見つめている。

 …そこにあるのはネメアが落ちた溶岩湖だ。…嫌な予感が頭の中を駆け抜けていく。まさかだとは思うが…。

 

「…なあ、アム…。どうしたってんだよ…。ネメアの奴…死んだんじゃねえのかよ…」

「この気配…。生きてる…!みんな離れて…!ここはあたしがやる…!」

 

 私の肩から腕を離すと、すかさず戦闘態勢に入った。やっぱりさっきの戦いで弱っているのか、どこか弱々しく感じる。

 

「うそ…。本当に生きてるの…?」

「な、なんて奴だ…!」

 

 ドシャ!

 

「ば、バケモンだ…」

 

 そこには、金羊毛を体に纏わせたネメアの姿があった。バサッと金羊毛を翻すと、無傷の姿のネメアが姿を現した。…赤く光る溶岩がネメアの体にこびりついている。溶岩に耐性があったのだろうか。それとも、あの金羊毛の持つ力なのだろうか。

 

「………」

 

 無言で私たちを見下ろしている。さっきまでとは違い、何やら軽蔑しているような見下した目だ。

 

「…今のはオレも死ぬかと思ったぞ…」

 

 ぽつりと一言だけ、そう呟いた。

 

「易々と策に乗ったオレも馬鹿だった…。…オレも貴様らを見くびり過ぎていたようだな…」

 

 ビリビリとネメアに殺気が帯びていくのが分かる。押し潰されんばかりの圧力だ。

 

「…これからは一切の手加減をせんぞ…。オレを追い詰めるとはどういうことか、その身で味わうと良いッ…!」

 

 エメラルド色の瞳に光が灯る。ネメアの野生解放だ…!

 

「グアッ!?」

 

 突如襲い掛かってきたネメアがアムを殴り飛ばした。吹き飛ばされたアムの体が山肌を滑っていく。

 

「ぐっ…!」

「…オレに血を吐かせるどころか、命の危機にまで晒すとはよくやったものだ…!だが、少し知恵が足りなかったようだな…!」

「ッ…!!」

 

 岩肌に頭を叩きつけられて、声にもならない悲鳴をあげている。しかし、ネメアは追撃の手を止めることなくアムを攻めていく。

 

「くっ…!」

 

 アムに放たれた蹴りを受け止めて、足元を薙いでネメアとの距離を確保する。コンマ1mmでも、わずかな距離や間合いはどんな戦闘と言えども非常に大事なものだ。アムはそれがよく分かっている。

 

「そうでなくてはな…!」

 

 アムとネメアが睨み合う。ネメアも一切の慢心と手加減を捨てて、本気でアムと戦おうとしている。溶岩で焼くことすらできず、あらゆる攻撃を一切受け付けない神代の怪物に勝つことができるのか…。

 私たちは勝てるのか…。それとも、ここで死ぬのか…。

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