けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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第4話「無双と双璧」

 あたしたちは今、平原地方に来ている。なんでもここで今から合戦が行われるらしい。敵はヘラジカさんとライオンちゃんの連合チーム。対するこちら側はアムちゃん一人だけ。なんでも因縁の対決らしい。あたしたちがここに来るとヘラジカさんたちは快く迎えてくれた。そしてあたしたちのパーティーにアムちゃんがいることをすごく喜んでくれた。それから紆余曲折を経て合戦が行われることになったのだ。

 

「どう?緊張する?」

「うん…手加減できるかな…」

「そっちかぁ…」

 

 アムちゃんらしい回答だ。相手を殺してしまわないよう、うまく手加減できるか心配なようだった。

 

「負ける心配とかはないの?」

「うん。全然」

 

 はっきりと言い切ってしまった。まぁ…あの超巨大セルリアンを相手にしたあの暴れっぷりからすると負ける心配をする方が変なのかもしれない。

 

「アレ、君たち…」

 

 かばんさんだ。思いがけない再会の早さにびっくりした。

 

「どうしてここに?」

「ここでヘラジカさんたちと合戦するんだ」

「合戦?あれ、たしかかばんちゃんが解決したはずじゃあ…また何かあったのかなぁ?」

 

 と、サーバルちゃん。前に一回何かあったのだろうか。

 

「前はライオンとヘラジカが合戦してたんだよ!ヘラジカが51回も戦いを挑んで51回も負けたって聞いたときはびっくりしちゃった!」

「ご、ごじゅういち…?」

 

 なんということだ。七縦七擒なんてものじゃない。これで諦めないヘラジカさんもヘラジカさんだ。対ビーストとの共闘ではすごく頼もしく思えたけど意外と…なのかもしれない。

 

「それで今回はどういうことになってるの?」

「アムちゃんがヘラジカさんとライオンちゃんたちを相手に一人で戦うんだ」

「「一人で!?」」

 

 驚くのも無理はないだろう。一人で森の王者と百獣の王の軍勢を相手にするのだ。

 

「あの戦いを見た者としてはちょっと信じられないけど…ちょっと気になるかも…」

 

 なんだかうずうずしているようだ。もしかして戦いたいのだろうか。

 

「かばんちゃん、もしかしてライオンたちと戦いたいの?」

「ま、まさか!ただちょっと…」

「ちょっと?」

「アムちゃん…アムールトラさんがどれくらいの実力なのか気になって…」

 

 そっちか。ここはちょっとかばんさんの驕りを静める良いチャンスかもしれない。少しウォーミングアップも兼ねてかばんさんの実力を見てみるとしよう。

 

「アムちゃん!かばんさんがアムちゃんと戦いたいって!」

「あたしと…?」

 

 アムちゃんがとことことこちらに歩いてくる。

 

「よろしく、アムールトラさん。そういえばよく見たら他のフレンズさんとは色々と違う格好をしてるんだね」

「元ビーストの不完全なフレンズだから…もう慣れたよ」

 

 両者見合う。デーンアックスを手に取り構えるかばんさんと棒立ちのアムちゃん。果たしてどっちが勝つのか楽しみです。

 

「よーい…はじめ!」

 

 瞬間、ドンと空気が張りつめる。まずは相手を威圧して怯ませるのがアムちゃんのやり方だ。かばんさんは一瞬怯んだようだけどすぐに立て直した。さすがは百戦錬磨の狩人だ。

 アムちゃんがかばんさんに飛びついた。鋭い爪がかばんさんを捉える。かばんさんは寸でのところでアムちゃんの攻撃をかわした。

 

「すごい覇気だ…気圧されないようにしっかりしないと…」

「…こないの?」

「ッ…!」

 

 ゴウと鋭い横なぎがアムちゃんを襲う。体をそらしてかわすと冗長ともいえるリーチでかばんさんを突くように攻撃した。

 

「甘い!」

 

 柄が懐に入る。そのままアムちゃんの顎にクリーンヒットした。

 

「かばんちゃんやっぱりすごいなぁ…フレンズ相手にもあんなに戦えるんだもん…」

「本当どっちが勝つか分かんねえな…」

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

「ッ!?」

 

 突如アムちゃんが絶叫した。目が光っている。どうやら野生解放をしたようだ。けどこの絶叫って…?

 アムちゃんがかばんさんへ飛びかかる。体を翻すと両の爪でかばんさんへ切りかかった。アックスの柄が真っ二つに折れる。

 

「そんな…!?」

 

 鋭い眼光がかばんさんを捉えると強烈な突き上げがかばんさんを襲った。瞬間、かばんさんの体が宙へ舞った。

 

「ァ…グッ…!!」

「かばんちゃん!」

 

 アムちゃんは静かに佇んでいる。しかしかばんさんはまだ諦めていない様子だ。

 

「まだ勝負は…終わってない!」

 

 ナイフがアムちゃんめがけて飛翔する。ナイフをかわしたアムちゃんへ手斧を持ったかばんさんが襲い掛かる。

 アムちゃんはなんてことなく手斧を奪った後、足元をすくって転ばせた。

 

「調子に乗らないで」

「ッ…!」

 

 上から睨むようにかばんさんを見下ろす。ここまでくればもう王手だ。勝負は決したようなものだった。

 

「あたしの勝ち」

「……」

 

 

…………

 

 

「よ~いはじめ、です~」

 

 気の抜けるような号令と共に合戦は始まった。あたしたちはジャパリバスに乗りながら合戦の様子を見守ることにした。アムちゃんが平原を中を駆け抜けていく。まるで獲物を見つけた猛獣のようだ。黄金に輝くその瞳はまるでビーストを思わせるかのようだった。

 前方に二人のフレンズさんが見える。

 

「シロサイさんとアルマーさんだね。あの布陣は今でも変わらないようだ」

 

「テ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛」

 

 天高く飛び、指を絡めて勢いよく急降下する。地面に穿たれたクレーターがその破壊力を示している。振り下ろされた両手からはサンドスターらしききらめきが放たれている。

 

「こ、こんなものを相手にいたすのですか…!?」

「こ、こんなの勝てないよぉぉぉぉ!!」

 

 袈裟切りのような斜めに薙いだ爪がシロサイちゃんのスピアを叩き切った。

 

 ドン!

 

「グッ…!」

 

 強烈な蹴りでシロサイちゃんを10mほど交代させる。すかさず標的をオオアルマジロちゃんに変えるとその凶爪の糧とした。

 

「まだ…終わってません!」

 

 折れたスピアを片手にシロサイちゃんが突進してきた。

 

「しつこい…!」

 

 アムちゃんの横薙ぎの一閃がシロサイちゃんの鎧を大きくえぐった。さすがのシロサイちゃんも戦意喪失したようでぺたんと力なく崩れてしまった。

 そんなシロサイちゃんに目もくれずアムちゃんは次の獲物を探しに行くかのように走り去ってしまった。

 

 やがて次の相手が見えてきた。オーロックスちゃんとアラビアオリックスちゃんの二人だ。

 

「シロサイとオオアルマジロたちを突破したか…だが、守りは破れど力では負けんぞ!」

 

 二人は相見合うと両者勢いよく鉾を交えた。

 

 ズドンッ!

 

「グォッ!なんという力!これは一筋縄ではいかんようだな…!」

「一筋縄ではいかない…!?負けるのはお前たちだッ!!」

「オーロックス!」

 

 アラビアオリックスことラビラビの掛け声と同時に双頭の槍がアムちゃんの後頭部めがけて飛んできた。すかさずかわすとオーロックスを押しのけて標的をラビラビに変えた。

 

「ちょこざいナァ…!」

 

 遠くから眺めているあたしたちにもビリビリとその雰囲気が伝わってくる。段々とビーストの気を帯びてきているかのようだ。

 

「邪魔だアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 横一閃に大きく薙ぐ。ラビラビはひょいと軽い身のこなしで避けてみせた。

 

「ふん!ビーストかなんだか知らないけど、当たらなければどうということはないね…!」

「ほざけえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

 

 ぶんぶんと恐ろしい勢いで剛腕を振るう。しかしいくら振るえど攻撃は当たらない。目に見えてアムちゃんがイライラしていくのがわかる。

 

「ダアアッ!」

 

 アムちゃんの左側頭部からオーロックスちゃんのスピアが突き出る。アムちゃんはそれを掴むと自らの前に叩きつけた。

 

「グハァ!?」

 

 ズンッ!

 

「ひぃ!?」

 

 イエイヌちゃんが悲鳴をあげた。それもそのはずだ。アムちゃんがオーロックスちゃんの胸に全体重をかけて踏みつけたのだ。あれは…きっと痛い。

 オーロックスちゃんはピクリとも動かなくなった。…死んでないよね?

 

「ふーっ…ふーっ…」

 

 けもののような荒い息を吐く。体全体を使って大きく息をする様子はさしずめ野生のけものといった様子だ。

 

「くっ…」

 

 ラビラビが逃げ出した。すかさずアムちゃんも追いかけるが追いつく様子はない。やがてヘラジカさんとライオンちゃんのいる城まで逃げ込んだ。

 あそこにはツキノワグマちゃんとパンサーカメレオンちゃん、ハシビロコウちゃんがいる。

 さすがにあたしも城の中までは見えない。あたしたちも中に入ろうかな?

 

 

…………

 

 

 アラビアオリックスを追って城の中まで入った。中へ入るとなにやら迷路のようなところへ出た。フレンズの姿は見当たらない。いったいどこへ行った?

 

 ぷし!

 

「ッ…!?」

 

 妙なものを踏んだ。トゲが付いている変な木の実のようなものだ。よく見るとあちこちにたくさん落ちているのがわかる。

 

「あいつらの仕業かっ…!」

 

 注意していかなければ。浅い水溜めもそこらかしこにある。恐らくそこにもこの小賢しいトラップがあるはずだ。

 

「やぁっ!」

「っ!!」

 

 背後から不意打ちを仕掛けてきた。アラビアオリックスだ。大した腕もないくせにあたしを機動力で翻弄してくる。ビーストだった時のことを思い出す。あの時のあたしも今のような怒りを感じていたものだ。その怒りを燃料に力を開放していく。

 

「ツキノワグマ!」

「任せて!」

 

 彼女の背後からもう一人のフレンズが飛び込んできた。とっさに飛び退いて距離を稼ぐ。こいつらは不意打ちしかしてこない。正々堂々と戦うことはしないのか。沸々と怒りが込み上げてくる。

 

「………」

 

 ちくちくちく!

 

「グゥ!?」

 

 背中にちくちくした何かが当たる。あの木の実か…!もう一人いる…!

 

「今だ!」

「ぐあ!?」

 

 倒れた拍子に背中にたくさんの木の実が刺さる。背中がじっとりと血で濡れていくのがわかる。

 

「ぁっ…」

「気を抜かないで…くるよ…!」

「うん…!」

 

 取るに足らないと思っていたフレンズたちがあたしに血を流させた。あたしは何だかそれが許せなかった。

 ふらっ立ち上がって相手を視界に据えるとあたしは叫んだ。

 

「ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 ビクッとした様子で体を震わせる。

 

「殺゛し゛て゛や゛る゛そ゛オ゛!゛!゛!゛」

 

 振り下ろす、薙ぐ、殴る、踏みつける。かすりこそすれど辺りはしない。とくにこのアラビアオリックスはこんな狭いところでもひょいひょいとあたしの攻撃をかわしてくる。対するツキノワグマはしっかりとあたしの攻撃を受け止めて的確なタイミングで反撃してくる。非常に厄介だ。

 

 ちくちくちく!

 

「ク゛ウ゛・・・!゛!゛」

 

 さっきから姿も見せないフレンズの一人がいたことを忘れていた。姿も見せずちくちくと木の実のようなものを投げてあたしに攻撃している。気に入らない。そいつに向かってあたしは叫んだ。

 

「出゛て゛こ゛い゛!゛!゛!゛臆゛病゛者゛か゛あ゛!゛!゛!゛さ゛も゛な゛く゛は゛こ゛い゛つ゛ら゛を゛引゛き゛裂゛く゛そ゛お゛!゛!゛!゛」

 

 後ろで隠れていたと思われる一人のフレンズが姿を現した。どうやらこいつがあたしに木の実を投げて攻撃していたらしい。

 

「貴様か…」

「ひっ…」

 

 背後から地面を蹴る音が聞こえる。アンブッシュだ。すかさずそいつの頭を掴んで持ち上げる。

 

「アッ…ガッ…」

「相変わらず不意打ちだけは得意なようだな…」

 

 ツキノワグマだ。渾身の一撃で頭突きを喰らわす。こうなったらあたしのものだ。あたしはもはや戦うことが目的ではなくなっていた。

 殴る。蹴る。叩きつける。投げ飛ばす。あたしを見ていたアラビアオリックスが巻き添えを喰らったがどうでもよかった。ひどく怯えたような目であたしを見ている。それがたまらずゾクッと快感があたしの中を駆け巡った。

 這うように逃げるツキノワグマの頭を掴む。抵抗しようとあたしの前に腕を突き出すけどそもそもあたしとは体躯が違う。無意味だった。あたしは右手を力の限り叩きつけるとそいつは気絶してしまった。

 

「ふーっ…ふーっ…」

 

 アラビアオリックスを睨む。腰が抜けているようでほとんど動けないようだった。頭を掴むと壁に思い切り叩きつけた。次いで浅い水溜めにそいつの頭を沈める。うめき声をあげて抵抗が激しくなったところで引き上げると腹部に爪を突き刺してやった。

 

「ァッ…!?」

「よくもあたしを愚弄してくれたな…ただでは済まさんぞ…」

 

 前にある扉に向かってそいつを投げた。勢いよく扉を突き破るとボロ雑巾のように転がっていった。やがてふらふらと立ち上がりあたしを横目で確認するとまたも逃げ出した。得物もボロボロで使い物にならないだろう。それにあの様子ではまともに戦えないはずだ。このカメレオンも完全に戦意を失っている。あとはヘラジカとライオンだけか。早く最上階を目指すとしよう。

 アラビアオリックスが血を流してるのか、この血の跡を辿っていくとヘラジカたちの元へと辿っていっているような気がする。二階、三階、四階、と登っていき、ついに最上階に着いた。奥にはヘラジカたちが見える。その前にはアラビアオリックスが力なく倒れていた。

 

「い…行かせるものか…」

 

 あたしの足首を掴んでくる。少し振り払うだけですぐに離れた。

 

「だいぶ派手に暴れたようだな。手が血まみれだぞ」

「襲い掛かってきたやつが悪い。あたしは迎え撃っただけだ」

「侵攻してきたのはお前の方だがな」

「ま、そういうゲームだしねぇ…やるからには勝たせてもらうよ…!私らのために犠牲になった部下のためにもね…!」

 

 ズン!

 

 ライオンと取っ組み合いになる。中々の力だがそれではあたしに勝てない。

 

「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛・・・ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛・・・!゛!゛」

「ギィ…!」

 

 潰す勢いでライオンの手を締め付ける力を強めていく。

 

「ダァッ!!」

 

 ライオンの手を振り払ってヘラジカの横やりをかわす。狙いも的確でかわさなければ間違いなく急所に入っていただろう。アラビアオリックス達とは違う正確な狙いだ。戦いの心得はきちんとあるようだ。ライオンをも巻き込む横薙ぎがあたしたちを襲う。

 

「よそ見してるしてる暇はないよ!」

 

 ライオンの爪が乱舞のごとくあたしを襲ってくる。だが当たらなければ無意味だ。飄々とライオンの攻撃かわしていく。

 なんだか妙な笑みを浮かべている。瞬間、強烈な回し蹴りがあたしに打ち付けられた。

 

「グァッ…!」

 

 倒れた先、真上からヘラジカの牙突があたしの頭めがけて襲い掛かってきた。すかさずかわして距離を取るが、踏み潰すかのような斬撃が間断なく繰り出される。転がって距離を取るのは無理があると判断して跳躍して距離を取る。

 すかさずヘラジカは距離を詰めて得物をあたしに打ちつける。…一撃がとても重い…こんなものをまともに食らってはただでは済まないだろう。

 稲妻のような鋭い斬撃と突き上げが容赦なくあたしに襲い掛かる。力もさながら技の繰り出しも速い。

 

「どうした!?その程度か!?私の知るビーストはもっと猛々しく猛獣の如く荒れ狂っていたぞ!」

 

 あたしの中で何かが弾けた。

 

「ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 ケダモノの如き雄叫びを挙げる。あたしの中でビーストが生まれる。目の前にいるこいつらは狩るべき敵だ。狩って、潰して、葬る。

 

「いいねえ、ビリビリ来るよ…!これが私の求めていたものだ!」

 

 手加減なんてしない。力の限り、爪の先から力の乗る全ての個所にありったけの殺意を込めて殴りかかる。

 

「ライオン!」

「任せな!」

 

 背中を抉るような一撃を受ける。二撃目を待ち反撃を加える。不意打ちを食らわせてからの予備動作が長いというものだ。

 頭を鷲掴みにすると柱に叩きつけて、砕いていく。二本目を砕いてから思い切り壁に投げ飛ばしてやった。

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 ライオンはしばらくは立ち上がれないだろう。残るはヘラジカだ。せめてライオンが立ち上がる前に潰さねば。

 

「でやああああああああああああああああああああっっ!!!」

 

 ブンと低いうめき声のような音を立てながら獲物が宙を斬る。今のあたしには遅く見える。すかさず肩から脇腹にかけて凶爪を叩き入れる。

 

「うおっ!?」

 

 ヘラジカの獲物が真っ二つに折れた。残念ながらヘラジカ自身に打撃は入らなかった。

 

「ふん!槍が折れたって戦える!甘く見ないことだ!」

 

 動きが素早くなった。得物をコントロールしなくなって良くなった分フットワークが軽くなったのだろう。小賢しい。さっさと沈めてくれる。

 

「ダァ!!」

 

 脇腹に獲物が刺さる。痛みなど感じなかった。ヘラジカの腕をとると大きく振り上げて畳へと叩きつけた。

 

「ぐああああああああああああああああ!?!?」

 

 呻き悶えるヘラジカの足を掴み持ち替える。二~三回畳に叩きつけた後ライオンの元に投げ飛ばした。

 苦しそうな声をあげている。やってみればあっけないものだ。とどめをさそう。

 

「ま、まだだ!」

 

 手に持っていたもう一つの槍があたしの足を切る。不意の攻撃にバランスを崩して倒れこんでしまった。

 

「よくもやってくれたな…!これで終わりだ…!」

 

 切っ先をあたしの胸にめがけて振り下ろしてきた。ここで負けるものか…負けないッ…!!

 

「ウ゛ウ゛ッ゛・・・!゛ク゛ゥ゛・・・ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 握りつぶした。ヘラジカの獲物は粉々になった。このうなったらあたしのものだ。

 

「なっ…!?そんなっ…!?」

 

 ヘラジカを壁へと叩きとばした。もはやヘラジカは丸腰だ。後は叩き潰すのみ…

 

「さ、させないよ…!」

 

 ライオンが立ち上がった。ヘラジカが丸腰になった今、さしたる問題ではない。手早くかたをつけてやる。

 

「だあああああッ!」

 

 二~三撃攻撃ををかわした後、再び鍔迫り合いになる。力が弱い。あたしの攻撃でだいぶ弱っているようだ。少しひねればかたがつくだろう。あたしは押し返すとそのまま叩き切った。

 

「かは…」

 

 力なくバタンと倒れた。目をヘラジカに見やる。なにやら覚悟を決めたような目をしている。やがて立ち上がると丸腰のままあたしに突撃してきた。玉砕覚悟なのだろう。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 拳を振り上げてあたしに突進してくる。左肩から右の脇腹ににかけて思い切り斬る。そのまま力なくドンという音を立ててヘラジカは倒れた。勝負はあっけなかった。もはやあたしに立ち向かうものはいない。あたしは勝ったのだ。

 

 

…………

 

 

 アムちゃんの咆哮が城の中から何回も聞こえた。まるでビーストのようだった。まさか本当にビーストに戻ったとかはないよね…?

 

「恐ろしい咆哮…理性がはちきれたみたいだ…」

「ライオンたち大丈夫かな…前に来たときはケガ人が出そうで嫌だって言ってたけど、今やってることは狩りごっこでもない殺し合いだよ…」

 

 言っていることはもっともだ。アムちゃんの戦闘スタイルは型なんてない粗野なものだ。故に手加減なんてものは知らなくて当然だ。ひたすら本能のままに暴れる獣そのものといってもいい。だから誤ってフレンズさんを殺してなきゃいいけど…

 

 ゴマちゃんが険しい顔をしている。あたしたちの中で一番アムちゃんのそばにいたのはゴマちゃんだ。ホテルのときもロッジでペアを組む時も二人は一緒だった。再会したときもアムちゃんはゴマちゃんたちと一緒にいた。二人はあたしが思っている以上に仲が良いのだ。

 

「アム!」

 

 ゴマちゃんが叫んだ。見ると城の中からアムちゃんが出てきているところだった。けどあたしたちはその異様な姿に驚いた。お洋服はボロボロで全身いたるところから血が滲んでいるのだ。両手は血で濡れている。本当に殺し合いをしてきたかのような出で立ちだ。

 

「お前、大丈夫かよ!?どうしてこんな…!」

「…やられたからやり返した。それだけ」

「そんなんじゃねえだろこんなの…!お前殺していないだろうな!?」

「…たぶん…」

 

 ゴマちゃんが本気で心配している。あの姿に幾度ともなく聞こえたあの咆哮を聞くと心配にもなるはずだ。そして今いるアムちゃんは血まみれなのだ。そういうことがあったと思われてもおかしくないはずだ。

 

 そうこうしている内に中からフレンズさんたちが出てきた。ライオンちゃんとハシビロちゃんが他の四人を背負っている。なんだかラビラビとツキノワグマちゃんとヘラジカさんはひどくぐったりしているようだ。カメレオンちゃんは…他の三人と比べるととくにぐったりしている様子もない。

 

「ハシビロちゃんもいたんだ。でもハシビロちゃんだけ無傷みたいだね。どうしたんだろう?」

「…あたし、あの子だけ見てない。どこかに隠れてたんだと思う」

 

 あたしたちの前にラビラビたちが降ろされた。三人ともひどくボロボロだ。

 

「改めて見るとひどいねぇ、これは」

 

 ライオンちゃんがぽつりと漏らす。言うことはもっともだ。ラビラビなんて腹部を思い切り刺されている。恐らく爪でグサリとやられたのだろう。ツキノワグマちゃんも頭部をひどくやられているようだしヘラジカちゃんは左肩から右わき腹にかけてひどい裂傷ができている。

 

「ハシビロコウをセーフキーパーとして城に待機させておいてよかったよ。これだけのフレンズを一人で背負うのもきついし、もしかしたらわたしもアムールトラにボロボロにされてたかもしれないしね」

 

 あたしとしてはライオンちゃんがまだシャキッとしている方が不思議な気がする。

 

「で、ヘラジカ。これで満足かい?」

「あ、あぁ…満足だ…」

「アムールトラはまだ満足していないようだよ?」

「なっ…!?」

 

 本気でビビっているようだ。そりゃあ自分から申し出た合戦にボロボロににされた挙句アムちゃんがまだ満足してないと言われればね。もっともライオンちゃんの嘘なんだけど。

 

「まだやるというならやる」

「も、もう勘弁してくれ!私の負けだ!もう…動けん…」

「…わかった」

 

 ヘラジカさんが正式に敗北を認めた。この試合はアムちゃん一人の勝利に終わったようだ。何がともあれ無事に終わってよかった。ケガ人いっぱい出たけど。アムちゃんも全身に傷を負ってるしこれはアリツカゲラちゃんのロッジでしばらくは休憩かな。

 

「ロッジに戻るんなら僕が連れていくよ?」

「あ、ごめんなさい。じゃあ、お願いしてもいいかな」

「わ、私たちも頼む…」

「いいよ。さ、みんな乗って!」

 

 こうしてアムちゃんの傷が癒えるまであたしたちはロッジで休息することになったのだった。

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