けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:韓非子
冷たい風が肌を撫でる。この寒風に負けないくらい、あたしたちのパーティーは冷え切っていた。
ゴマちゃんはネメアに連れ去られた。アムちゃんはあたしたちの元から去っていった。ヘラジカさんはあたしたちを助けるために自ら犠牲になった。
空気は重く沈んでいる。この重い空気に圧されて、あたしたちのパーティーはバラバラになってしまうんじゃないかと思ってしまうようだ。
「………」
誰も言葉を発さない。重なる犠牲の数にみんなが沈んでしまっている。次は誰が犠牲になるかなんではない。犠牲が出ること自体にみんなが怯えているのだ。誰だって傷つきたくないし、誰だって犠牲を出すのは嫌だと思う。あたしだって同じだ。
だけど、ネメアという圧倒的な存在の前にあたしたちは抗えずにいる。そして、仲間を失っていっている。神代の怪物の前にあたしたちは無力なのだ。
「ヨルムンガンド…。本当にあたしたちの答えが見つかるのかな…」
「奴は神代の時代から今に至るまで唯一生き残ってきた大蛇だ。もしかしたら、ミライのことも分かるかもしれんぞ?」
「………。今はそれよりもゴマちゃんたちの方が心配だよ。それに…」
「それに?」
「……なんでもない」
様々な思いが胸の中から溢れてくる。ゴマちゃんのこと、アムちゃんのこと、かばんさんのこと、ヘラジカさんのこと、そして、これからのこと…。言葉にもならない不安や焦燥があたしを焦がしていく。ホッカイエリアという魔の大地に、あたしたちはポツンと立っているのだ。
「さて、この山を越えたらヨルムンガンドの姿も見えてくるはずだ。…もう既に見えててもおかしくないはずなんだがな」
「また地面に埋まってるとかじゃないんですか?というか、わたしたちの言葉が分かるんですか?」
イエイヌちゃんが訊ねる。
「ああ、その辺は心配いらん。老人共が話好きなように、奴もおしゃべりは大好きだ。ラグナロクから大陸創造の話までいっぱい話してくれるだろうさ。奴がボケてない限り、お前たちの知りたいことも教えてくれるはずだぞ」
「……どういうお方なんでしょうか、ヨルムンガンドとは…」
「……さぁ…」
そんな話をしているときだった。突如、ギンギツネさんの耳がぴょこんと動いた。何か驚いたような顔であたしたちの来た道を見ている。
「どうしたの?」
「……なにかしら…。吹雪…?」
「……雪崩じゃなかったらいいですけど…」
「雪崩じゃないわ。雪崩だったらもっと低い音がするもの…」
そう言って不安そうに山の頂を見つめている。ギンギツネさんは荷台から降りると、かばんさんのいる運転席に向かって走っていった。
「かばん、少し速度を上げてもらえないかしら。何か山の様子が変だわ」
「…分かった。少し燃料が心配だけど、少し急いで大蛇の元へ向かおう」
キュラキュラと履帯が忙しなく動く。ネメアに襲われるかもしれないという不安と、ギンギツネさんの言う山の様子とやらに心が侵されていく。思えば、ホッカイエリアに来てからは心が休まったことがない。常に死と恐怖との隣り合わせだった。そして今もそれは私の隣にいる。
「ギンギツネ!」
「! サーバル?」
「ねぇ、やっぱり何か聞こえるよ!本当に雪崩じゃないの?」
「本当に雪崩だったら今ごろ私たち全員が雪の下になってるはずよ。山頂を見ても雪崩らしいものも見えないし…。……ちょっと待って、何かしらあれ…」
ギンギツネさんの指さす方へと目を向ける。逆光差す山の頂に、一つの人影を見た。
「アレって…」
「…!ネメアだよ!!!」
サーバルちゃんが叫ぶ。瞬間、黒い影があたしたちに向けて襲い掛かってきた。
ズォン!!!
「うわぁ!」
ネメアの奇襲にハーフトラックが横転する。車外に放り出されたあたしたちは、その圧倒的な存在を前にただ混乱するのみだ。
「よう、お前ら。また会ったな」
「ネ、ネメア…!」
「しかし、まァ…。お前らと目的を同じにするとはな…。ここに来たという事は、お前らもあの世界蛇に会いに来たのだろう?だが、無駄足だったな。お前たちの旅もここで終わる…」
「なに…!?どういうことなの!ネメア!」
「お前たちはここで死ぬという事だ…。ミライの居場所を吐かないお前たちに用はない。それに、世界蛇にオレの倒し方を教えてもらおうだなんて考えられてたらオレの命も危ない。お遊びは終わりだ、ヒトの子よ…」
ネメアの顔から不敵な笑みが消える。あの眼差しは本気であたしたちの息の根を止めるようだ。
どこかに逃げ場はないか周囲を見回す。あるのは岩壁と雪と横転したハーフトラックのみだ。ギンギツネさんもイエイヌちゃんも敵わないと分かっているのか、臨戦態勢のまま様子を見ている。
その時だった。遠くから、一つの影がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
ズガン!!!
突如、地面が大きく弾けた。雪の舞う煙幕の中、もう一つの影が姿を現した。
大きなおさげに黒いカーディガン、見間違えるはずもない半獣のような両腕…。あれは…アムちゃんだ…!
「ネメア……。ネ゛メ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!゛!゛!゛」
怪物に向かって獣が咆哮する。ネメアはニヤリと口角をあげると、狂乱するアムちゃんを相手に応戦を始めた。
「現れたかッ!ちょうど退屈をしていたところだぞ!たっぷり相手になってやろうではないか!ビーストよッ!!!」
「ロ゛ー゛ト゛ラ゛ン゛ナ゛ー゛を゛返゛せ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」
絶叫しながら虎柄の大腕を振り回す。黒い爪がネメアの体を滑っては次の一撃が間断なく繰り出されていく。
「甘いな…」
ネメアの黒い爪がアムちゃんを捉える。しかし、その一撃はアムちゃんの手によって塞がれた。
「なに…?」
「タ゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」
アムちゃんの強烈な蹴りを受けたネメアが怯む。悔しそうに顔を歪ませたネメアがアムちゃんを睨む。
まるで何が起きたか理解できないようだった。今までであれば、頭上から爪を振り下ろして致命傷を負わせれたかもしれない。しかし、アムちゃんは明らかに発生した攻撃後の隙を完璧にカバーして、ネメアの攻撃を防いだのだ。まるで最初から分かり切っていたようだった。
「……サタンの力だ…」
自らのビーストとしての力をサタンに捧げたことにより、アムちゃんは圧倒的な戦闘の才能を手に入れた。その力を存分なく振るおうとしているのだ。
「貴様…。何をした…?今の一撃は防げなかったはずだぞ…」
「お前を…殺すッ…!」
「…ふん。聞くだけ無駄か…」
ネメアとアムちゃんが矛を交える。両者ともに一進一退の激しい攻防戦だ。ネメアも今までと違う戦い方をするアムちゃんに苛立っている。入るはずだった攻撃が悉く防がれているのだ。
戦いに慣れてきたのか、アムちゃんが攻めの姿勢に転じ始めた。
通じないと分かっていながらと細かく繰り出される小さな攻め。そして、その中に交じって繰り出される必殺の一撃。それらをネメアは一つ一つ対処せねばならない。見えない焦りが見えてくるようだ。
「くそっ…!明らかに今までの戦い方と変わってやがる…!この短期間に何をしたというのだ…!」
「殺すッ!殺してやるッ!ネメアアア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」
大気を貫くような重い音が炸裂する。ネメアも攻撃を受けることなく捌いている。しかし、慣れない動きをしているせいか、所々に攻撃を許してしまっている。それでもネメアにダメージはないのだが、目に見えて焦りの色が見えてきている。
「おのれ小癪な…!」
「カ゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」
「ぐァッ…!」
ネメアの顔面に強烈な一撃が叩きこまれた。アムちゃんの一撃を受けて吹き飛ばされたネメアも、たまらず顔を抑えて悶えている。
膝をついて顔を抑えるネメアにとどめの一撃が振り下ろされる。だけど、ネメアはそう簡単にくたばるような獣ではなかった。
「キ゛ィ゛ッ゛!゛?゛」
「調子に乗るなよ…。この虫ゲラ゛カ゛ァ゛ッ゛!゛!゛!゛」
ネメアの体から黒いオーラが放出される。ネメアのビースト化だ。
「がぁっ!!?」
「小゛賢゛し゛い゛マ゛ネ゛を゛す゛る゛ケ゛モ゛ノ゛の゛成゛り゛損゛な゛い゛か゛ァ゛ッ゛!゛!゛!゛こ゛の゛オ゛レ゛が゛叩゛き゛潰゛し゛て゛し゛て゛く゛れ゛る゛わ゛ァ゛!゛!゛!゛」
ネメアの切り裂くかのような乱舞がアムちゃんへと襲い掛かる。反撃を厭わない圧倒的な攻めの姿勢に、見ているだけのあたしたちの体も思わず震えてしまう。
しかし、アムちゃんは違うようだった。力任せに振るわれるネメアの攻撃をかわし、受け止め、捌いていた。
ネメアの苛立ちが頂天に達する。空間を歪めるような一撃が放たれると、たまらずアムちゃんの体は大きく後方へと吹き飛ばされた。
「ガァッ……!!」
「何故だ…!何故オレの攻撃が通じぬのだ…!怒りに任せて特攻するだけの畜生が短期間であそこまでの技量を付けれるとはとても思えんぞ…!」
肩を大きく上下させながらネメアが呟く。やがてその目はあたしたちへと向けられた。
「貴様の仕業か、サタンよ…。大悪魔が、それしか考えられん…。貴様が何かしら術を施し、あのビーストに小細工をしたのだろう?まったく、あの時に貴様をおめおめと逃したばかりにこんな面倒な事になるとはな…。つくづく慢心するオレも甘いと思わされる…」
ビリビリとした殺気があたしたちに向けられる。一歩一歩とあたしたちに近付くたびに、その覇気があたしたちを圧し潰していくようだ。
「グルルルルルル…!」
「ほう?威嚇のつもりか?」
威嚇するイエイヌちゃんにネメアが威圧を以って返す。
「雑種が、死に急ぐだけとも知らずにオレに楯突くとはな…。そうだな、まずはお前から始末してやるとしようか…」
バチバチと蒼い雷がネメアの右手に纏われる。どこかで見たような蒼い光に記憶がフラッシュバックする。
体の中に戦慄が走る。……そうだ。アレはポセイドンの纏っていた神の雷だ。神々の血を引くネメアの獅子もその力が使えるというのか?
「これは
「ぐっ…!」
迸る神々の力を見せつけるようにネメアが嘲笑する。そして、見てはならないものをあたしたちは見た。
トライデント…。禍々しい形をした三叉の矛がネメアの手から現れたのだ。アレは、ポセイドンの力と権力を象徴する絶対の神器のはずだ。それを何故ネメアが…。
「そ、それは…」
「これか?これはオレが祖父上から奪ってやったのだ。まったく、主神ゼウスの右腕にして大海の王であるポセイドンもあの程度だったとはな…」
「え…?」
「……ポセイドンに何をした!ネメア!」
イエイヌちゃんが吠える。くつくつと馬鹿にするようにネメアが答える。
「祖父上か?ああ、殺してやったよ。貴様らからロードランナーを奪ってやった後に、ゴコクエリアに行ったのさ。祖父上はまるでオレを待っていたようだったな。まったく、大海の王でもあろう者があのような場所に留まるとはな…。オリンポスの重臣ともあろうものが、さも矮小な存在であったとは思いもしなかったさ。……心底失望させられたよ」
心底見下すようにネメアは答えた。それを聞いてか知らずか、背後からアムちゃんが襲い掛かる。
ドンッ!
「ぐぁッ!?」
見えない衝撃に再びアムちゃんが吹き飛ばされる。そして、ネメアの電撃に拘束されたアムちゃんは地面にとらわれてしまった。
「ぎィィィィィィィィ…!」
「しばらくそこで見ているんだな。こいつらが無残に殺される様をな」
「ネメアァァ…!」
ネメアの鋭い眼光があたしたちを貫く。蛇に睨まれた蛙という言葉がこれ以上に合う状況はないだろう。死を待つだけのあたしたちに、もはや立ち向かう術はなかった。
「でりゃあああああああああああああああああ!!!」
不意に誰かがネメアに襲い掛かった。青いシャツに灰色の頭髪、そして、黒い羽根を持つフレンズ…。……見間違えるはずもない。グレーター・ロードランナー……ゴマちゃんだ。
「ゴマちゃん…!?」
「もうこれ以上好きにさせてたまるか…!覚悟しやがれ!!!ネメア!!!」
「………」
汚物でも見るかのような目でゴマちゃんを見るネメア。けど、いったいどうやってネメアの手から逃れたというのか…。……今はそんなことを気にしている場合ではない。この絶体絶命の危機を脱する方法を考えなければ…。
「オレを裏切るか?ロードランナー…」
「へ!誰が裏切ったんってンだ!私はお前に拉致されただけだってーの!」
ゴマちゃんが答える。そして、あたしたちに振り向くと焦るように答えた。
「おい!さっさと逃げるぞ!このままじゃみんなアイツにやられちまう!」
「え!?に、逃げるって…!それにアイツって!?」
「ヘラジカだよ!いや、セルリアンなのか…!?あーもう!アイツどうしちまったってンだ…!ともかく、ソイツが今こっちに来てンだよ!さっさと行くぞ!」
「へ、ヘラジカさんが…!?」
「ああ、そうだよ!…って、ヤッバ…!もう来やがった…!逃げるぞ!!!」
そう言ってあたしの手を取って走りだした時だった。鋭い風切り音と共にソイツがあたしたちの元へと襲い掛かってきた。
ズガンッ!!!
「あ………」
白い煙幕の中、あたしたちは信じられないモノを見た気がした。
その子は、ヘラジカさんというにはあまりにも異形だった。セルリウムによって黒化した身体、その身体に散らばるセルリアンのような無機質な単眼の目、そして、赤く染まった左目…。本当にヘラジカさんなのか、とても信じられなかった。
「へ…ヘラ…ジカ……さん…?」
「と……と、も…え……」
ワナワナとした様子でヘラジカさんがあたしたちの元へと歩み寄ってくる。ゾンビとも思えるようなその異質な様子に、あたしたちは怯えるしかなかった。
「く、来るな!!!これ以上来たら…!」
「ぁ……あぁぁ……」
「お、おい!こっちに来るな!!!お前の敵はあっちだ!!!」
イエイヌちゃんとゴマちゃんが懸命に威嚇する。それでもなお、ヘラジカさんは震える脚であたしたちの元へと足を進める。もはや、あたしたちの声すら届いているか分からない。
セルリアンの目があたしたちを捉える。それは、部分部分だけを見れば、ヒト型のセルリアンに見えるかもしれない。むしろそうであってほしかった。だけど、それはフレンズでもあり、セルリアン…。ヘラジカさんというフレンズに寄生したセルリアンなのだ。
「や、やめて…。こ、怖いよ…ヘラジカさん…」
「グゥゥゥゥゥゥゥ…!」
「あ…ぁ……ど…ど、ぅし……て……」
セルリウムに汚染されたスピアーが振り上げられる。あたしたちを叩き切ろうとしているのだ。それはヘラジカさんの意志かセルリアンの意思か分からない。だけど、それは確実にあたしたちを仕留めに来ていることだけは分かった。
ザシュ!
「ぁ………」
突如、ヘラジカさんの動きが止まった。見ると、ヘラジカさんのお腹が血に濡れている。そこには、ヘラジカさんのお腹を貫く三叉の矛があった。
ズルリとそれが引き抜かれる。風穴の空いたヘラジカさんのお腹の奥にフレンズさんの姿が見える。よくは見えないけど、その姿はネメアのものだとはっきりと分かった。
「どけ、デミセルリアンめ。そいつはオレの得物だ。貴様のものではない」
「ぁ……。ぁぁぁぁあぁあぁぁぁあああああああああああああああああ!!!」
不気味な絶叫をあげながらヘラジカさんがネメアに突進する。ネメアは難なくヘラジカさんの突進をかわすと、その背中を斬りつけた。
血のような黒いモノが飛び散る。気体でも液体でもない黒い何かだ。アレがセルリウムとでもいうのだろうか。
ヘラジカさんは本当に変わってしまったのか。あの強くも優しい森の王は本当にいなくなってしまったのか。……胸が締め付けられるようだ。あの変わり切ってしまった姿を見ていると、胸を突き刺されたような痛みが湧いてくる。
『あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ───────!!!!』
セイレーンの不気味な叫び声のようだ。地上でありながら、海中に響く海底火山の噴火を思わせる叫び声だ。
赤い目を光らせながら乱暴にスピアーを振り回す。無機質なセルリアンの目は、一つ一つがネメアを追いかけている。まるでネメアの持つ輝きを欲しているかのようにも思える。
抉るような重い一撃がネメアに何度も打ち付けられる。だけど、相変わらずネメアにダメージは入っていない。入っていないとわかりながらも、本能のままに何度も打ち付けている。
「はっ…」
ヘラジカさんの心臓部にトライデントが伸びていく。あのままヘラジカさんの心臓を貫くつもりだ。
ガシッ!
「っ…!」
だけど、それは阻まれた。
ヘラジカさんの腕から黒い触手のようなものが伸びていく。やがてそれはトライデントを覆いつくすと、ネメアを呑み込もうと触手を伸ばし始めた。
「ッ…!こいつ…!」
珍しく焦りの色を見せたネメアが神器を取り戻そうと乱暴に引っ張る。しかし、それは叶わず、ネメアの腕を侵食し始めた。
「くっ…!まずい…!」
もはや取り戻せないと考えたのか、自身の体だけでも逃れようと、自由だった左手でトライデント諸共ヘラジカさんの腕を切り裂いた。
切り裂かれた腕からはセルリウムと思われるモノが溢れている。火のような、靄のような禍々しいモノだ。
「あ……あぁぁ……」
「チッ…これではいくらか分が悪いか…。喜べ。貴様らと決着をつけるのはまだ後だ。ここは引かせてもらうぞ」
そう言ってネメアが去ろうとした時だった。
ゴゴゴゴゴ…。
「うわっ!地震!?」
突如、地響きのような音と共に地面が大きく揺れ始めた。まともに立っていられないほどの大きな揺れだ。
「だ、大丈夫ですか!?ともえちゃん!」
「ぜ、全然大丈夫じゃないよ!うわっ!?地面が割れてる!!!」
どんどん大きくなる揺れにひどく混乱するあたしたち。盛り上がっていく地面に崩壊する山、あたしたちの来た道を見ると、大きな雪崩が起きていた。もはや絶体絶命、万事休すだ。
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「ぁ……」
すべての情報が止まる。その圧倒的な存在の前に、視界以外のすべての情報が止まった気がした。
盛り上がる地面から"何か"が現れた。眼?目蓋?……ともかく、眼としか言えないような赤い塊が見えた。
やがて、それは大きく空へと上っていくと、その大きな"頭"であたしたちを見下ろした。
「ヨルムンガンド…」
……世界蛇が姿を現した。ヨルムンガンド…。ネメアが、あたしたちが求めた、世界蛇の姿が、そこにあった。