けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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Ruin-17「過去と未来」

『ネメアーさんが私たちの元を去ってから…3ヶ月…でしょうか…。様々なことが起こりました…。中国軍がキョウシュウエリアに上陸して、国連軍と連日連夜のように戦闘を繰り広げているそうです…。合衆国からの解放だなんて…バカバカしい…』

 

 ホロテープからミライさんの音声が流れてくる。これまで聞いたことのないようなやさぐれた声だ。それにしても、中国軍の上陸だって…?まるで本物の戦争ではないか。

 

『海の方では海棲系のフレンズさんに被害が広がっています。水上艦はもちろん、潜水艦による被害が非常に大きいようです。マイルカさんやシロナガスクジラさんたちが潜水艦のソナーにやられて、聴覚をはじめとして様々な健康被害を訴えています。……戦争によるストレスでシナウスイロイルカのナルカさんは自ら命を絶ちました。こんな…こんなに悲しいことが…戦争のせいで…!』

 

 今にも泣きそうな声で訴えている。嗚咽としゃっくりのような悲しい声があたしたちの心を串刺しにしていく。

 

『……サイレンの音…分かるでしょうか…。空襲警報かとも思いましたけど…。……どうせ変わらないんです…。非常事態を知らせるサイレンなんですから…。……今日…現時刻は、核ミサイルが撃ち込まれる当日の朝です。こんなにも空は青く澄み切っているのに、次の瞬間には大きなきのこ雲が立っているんでしょう。…結局、私たちの抵抗は無意味だったんです…。ネメアーさんという怪物を生んでも、合衆国…人の文明の力には勝てませんでした…。……悔しいです、とても…』

 

 間を置いてミライさんは続ける。

 

『…フレンズさんとスタッフの大半はパークの外へと退避しました。その子たちは今ごろ元のけものさんへと戻っていることでしょう。その選択を止めてここに残ることを選んだフレンズさんたちもいます。……どうか、これを聞いている方がいらしたなら、覚えていて欲しいんです。私たちは、数時間後には核の光に包まれて亡くなっていることでしょう。でも、私たちや一部のフレンズさんはパークに残る決断をしたんです。みんな、パークが好きだから…最後までここを離れたくなかったんです。みなさんも納得してくれた上で残ってくださっています…。ああ…私は…私は…!』

 

 今まで我慢していたであろう感情が決壊したのが分かった。ホロテープの向こう側のミライさんが声をあげて泣いている。

 

『ミライさん…。大丈夫…?』

『…ぐすっ…。サーバルさん…』

『あんまりメソメソするんじゃないわよ、ミライ。みんな最後くらい笑いましょうよ!ほら、サーバル!いつかひっそりと作ってたアンタのサーバル音頭、今こそ見せてやりなさいよ!』

『そんな音頭作ってないよ!?』

『サーバル…音頭…』

『ええ、そうよ。聞いてよミライ。サーバルったらずーっと前から一人のときに変な踊りをしてたのよ。じっとのぞき見してたらね、それがサーバル音頭ってことが分かったの!』

『はぁ…』

『だから、ほら、ね?ほら、サーバル!あんたの必殺技のサーバル音頭でみんなを笑顔にしちゃいなさい!』

『……ええいままよ!どうにでもなっちゃえ!』

『あっはは!ヘンなのー!』

 

 サイレンをバックに、悲しみの中に二人のフレンズさんがじゃれ合っている。一人はサーバルちゃんというのは分かったけど、もう一人は誰だろう…?けど…うーん…。

 

「お主たちの求めるものだったか?」

「えっ。あ、あぁ…。うん…」

「そうか。それは良かった。…あぁ……。思えば、かつて、わしの背中で暴れる者が一人いたか…。遍く鉄の船をたった一人で破壊して回り、獣の如く雄叫びをあげる女人が…。ふむ…。よく似ておるわい…。だが、どうしてかな…。なぜ、奴だけがあの時の姿のまま現代にいるのか…」

 

 なにやらヨルムンガンドが悩むそぶりを見せている。かくいうあたしにも気になることがある。

 このホロテープの中のサーバルちゃんと現在のサーバルちゃん。そして、ホロテープの中に明言されているネメアーと呼ばれるフレンズと現代のネメア。二つの異なる時代に同名のフレンズさんが存在しているのだ。同一種の別個体が存在するという風には聞いたことあるけど、それと似たようなものなのか。……考えれば考えるほどわからなくなってくるようだ。いずれにせよ、まだまだ情報を集める必要がありそうだ。

 

「他にも似たようなホロテープがある場所を知っているが、どうする?」

「うん、お願い、ヨルムンガンドさん」

「あいわかった」

 

 そして、次の場所へとあたしたちは向かっていった。

 

 

…………

 

 

「あっははははは!サーバルってばホントおもしろいわね!」

「~~!すっごく恥ずかしいんだからね…!」

「…ふふふっ」

「あっ!ようやく笑ったわね、ミライ!ほら、やったじゃない、サーバル!」

「は…頑張った甲斐が…あったのかな…?」

 

 サーバルさんが目をぐるぐる回しながら、とても音頭とは言えないほどの激しい踊りを見せてきた。カラカルさんの無茶ぶりではあるのだろうけど、サーバルさんが私を励ますためにヘンテコな踊りを見せてくれたことがすごく嬉しかった。その健気な姿と、私を励まそうとする純真な気持ちが私の心に深く沁みていく。

 

「でも…」

 

 洞窟の外に目を向ける。サイレンの音は絶えず鳴っている。いったい誰に向けて鳴っているのだろうか。仮にも、パークからはスタッフやフレンズさんたちは避難したことになっている。無人となったパークにサイレンで警報を鳴らしているのだ。まぁ、こうして残っている物好きもいるのだけど。

 ふと、洞窟の外に視線を向ける。水平線の向こう側にはいくつもの軍艦の姿が見える。果たして国連軍のものなのか、中国軍を中心とした枢軸国のものなのか…。今いる私たちではとても分からない。

 

「………」

 

 ネメアーさんはどこかへ去っていった。ラジオからは国連軍の犠牲者を知らせる放送がずっと流れている。基地が襲われたとか、部隊ごと壊滅したとか、果ては軍艦ごと壊滅したとか…。今見えているあの船たちもいずれはネメアーさんの手にかかるのだろう。そう思うと、心が湧き立つと同時に空しくなるようだった。

 

「………」

 

 国連…合衆国は、特に憎い。死んでほしいとさえ思う時もある。だけど、本当に死んでほしいかと言えばそうでもなかったりする。

 遠くに見えるあの船には、合衆国を中心とした様々な国の人間が乗っているのだろう。それには一人一人に歩んできた人生があるはずだ。

 学校を卒業して、僅かな訓練をしただけで船に乗った人がいるのだろう。百戦錬磨の経験を積んだ大船乗りもいるのだろう。そう思うと、遣る瀬無い気持ちになるようだった。

 死んでほしい…。去ってほしい…。帰ってほしい…。いろんな気持ちがごちゃ混ぜになってくるようだ。

 サイレンは未だに鳴っている。核攻撃警報が発令されてどれくらい経ったのだろう。ナナちゃんは大丈夫なのだろうか。

 

 ピカッ。

 

 ふと、遠くで眩い光が放たれた。とても直視できないほどの眩い光だ。

 

「ぁ………」

 

 白い傘雲と白い壁が形成されていく。青い空に黄色い光が、ぽっと照らされる。あの方向は…キョウシュウエリアがあったところだ。

 

「ぁ……ぁぁぁ………」

 

 一瞬、何が起こったか分からなかった。とても大きな爆発が起こったのは分かった。だけど、それが核攻撃がされたものだと理解するのに、大変な時間を要した。

 

「な…なに…?何が起こったの…?」

「分かり…ません…。なにも…」

 

 頭が理解するのを拒否している。とうとう核攻撃がなされたのだと、頭が理解することを拒否している。

 すると…。

 

 ズォォォォォォォォォォン…。

 

「きゃっ……!」

 

 地響きのような猛烈な音と共に、真っ白な壁のようなものが私たちへと襲い掛かってきた。核の衝撃が周りの海水を巻き上げながら、白い壁となって押し寄せてきているのだ。

 

「あぐっ…!」

「ぐぁっ…!」

 

 洞窟の奥へと打ち付けられる。強烈な熱波が私たちを窒息させる。

 肺が酸素を求めて私に口を開けさせようとする。だけどうまく呼吸ができない。核の嵐が私から空気を奪っているかのようだ。

 徐々に意識が遠ざかっていく。隣には懸命に耐えるサーバルさんとカラカルさんの姿が見える。

 呼吸が浅くなっていく。視界がブラックアウトしていく。やがて私は、そのまま暗い水底へと沈むように意識を失っていった。

 

 

…………

 

 

 どれだけの時が経ったのだろうか、眩暈と鈍い痛みの中に、私は目を覚ました。壁に打ち付けられた痛みが背中や後頭部にじくじくと感じる。

 

「うっ…ったぁ…。さ、サーバルさん…カラカルさん…無事ですか…?」

 

 隣で倒れている二人に視線を向ける。二人は未だに気を失っているようだ。幸いにも目立った外傷はない。意識を失っているだけでちゃんと呼吸をしている。

 今のうちに状況を把握しようと洞窟の外に踏み出した。

 

「…………」

 

 遠くで煙を吐きながら航行している船の姿が見える。艦影からしてどこかの軍の船という事は分かる。概ね合衆国が中国軍あたりと戦っているのだろう。私にはどうでもいいことなのだけど。

 

「………」

 

 戦闘機が轟音を立てて飛行している。合衆国のF-35だったか、それが編隊を組んで飛行しているのだ。

 やがてそれらは件の船の近くまで行くと、数発のミサイルを撃ちだした。

 ミサイルが着弾する。ぽっと赤い爆炎を吐いて船が爆発する。数秒遅れて、私たちにも爆発音が聞こえた。

 戦争が起きたのだと、初めて実感した。そしてその中心地に、私はいる。ここは戦場なのだ。

 

「……このままじゃいけない…」

 

 急いで洞窟の中に戻って二人を起こす。私に抱き起された二人は、バッと身を起こして状況を把握しようと辺りを見回した。

 

「あ、あれ!?な、何が起こったの…!?わ、私は確か…」

「いったぁ…。おもいっきし頭打ったぁ…。何が起こったっていうのよ…」

「……二人とも、落ち着いて聞いてください…。私たちは今、窮地に立たされています。ここにいては危険です…。ホッカイエリアの奥地に避難しましょう。沿岸で敵に見つかっては危険ですし、内陸であれば多少は安全かもしれません」

 

 そう言って外へ出ようとした時、不意に男の人たちの騒ぎ声が聞こえてきた。英語とは違う独特の声調とイントネーションだ。この言葉は…。

 

「中国軍…!二人とも、気を付けてください!」

 

 私の言葉に二人が身を低く屈める。洞窟の外にいる中国軍に最大限の警戒をしている。その気になれば戦闘でも起こりそうだ。

 そして、一人の兵士が洞窟の中へと入ってきた。

 

「ッ…!!」

 

 腰に掛けてあるピストルを手に取る。そうして、男に銃口を向けた時だった。

 

「落ち着いて!私たちは味方だ!」

「味方…!?」

「そうだ!おい!ここにも民間人がいたぞ!…さあ、こっちへ来るんだ!」

 

 恐る恐ると外へと出て行く。外では数人の中国軍兵士が周囲を警戒していた。さっきまで戦闘機が空を飛んでいたけど大丈夫なのだろうか。

 そう不安に思いながら辺りを見回していると、軍用トラックと思しきものを見つけた。そばには兵士の一人が何かを叫びながらこっちへ来いという動きをしている。

 警戒しながらトラックの中に入ると、私たちの他にもたくさんのフレンズさんとスタッフが中に入っていた。カコの姿は見当たらない。

 

「………」

 

 未知の経験にサーバルさんが不安げな表情を見せている。やっぱりフレンズさんのこういう表情を見るのはつらいものがある。

 トラックが発進する。さすがに開けた土地を移動するのではなく、木々の生い茂る林の中へと入っていった。やはり中国軍とはいえども、空からの監視を警戒しているように思えた。

 林の中を走っていく。外の兵士からはピリピリとした空気が伝わってくる。国連軍との戦闘を警戒しているのだろうか。

 もし、国連軍と鉢合わせたらどうなるのだろうか。やっぱり、私たちも殺されるのだろうか。

 ……そんなのはごめんだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。合衆国の兵士になんて殺されてたまるか…!

 空から耳をつんざくような轟音が響いている。やっぱり空は国連軍に制圧されてるようで、合衆国の誇る最新鋭機が轟音を立てて飛翔している。

 やがて、私たちはある場所へと到着した。それは、かつて合衆国軍が築いたベースキャンプのようだった。

 トラックを下りた私たちを兵士がどこかへと連れていくようだ。私たちを先導してどこかへと向かっている。収容所にでも連れていかれるのだろうか。

 もはやどうでも良かった。収容所でもどこへでも連れていけばいい。どうせ待っているのはハッピーエンドなんかではないのだから。それにあの中国軍だ。チベットウイグルの対応を見ていればどんな目に遭うかなんて火を見るよりも明らかだ。

 しかし、私の予想と反して私たちを待っていたのは、いたって普通の鉄筋コンクリートのビルのような建物だった。町中にありそうなごく普通のビルだ。

 

「これは…?」

「いいから入れ」

 

 ビルの中に入っていく。そこにあったのは何の変哲もないエントランスだ。

 ……いよいよ不気味だ。私たちの他にも、先に来ていたであろうスタッフやフレンズさんがいくつかのグループを作っている。特に決まった基準がある訳でもなく、各々が好きに集まっている。

 

「ミライ!」

「! カコ…!」

「無事だったか…!」

「あなたこそ…!あの、これはいったい…」

「私にも分からない…。ただ、合衆国が撃ち込んだ核ミサイルがパーク近海に着弾し、その後に中国軍が上陸したのは確かなようだ。それ以上のことは私にも分からん…」

「そう…。そういえば、ネメアーさんは…」

「それがまったく…。所在も行方もまったく掴めていない…。国連軍を相手に暴れ回っているのは確かなのだが…。……完全に私たちの元から離れてしまった…。奴は、もはや理性を失くした、ただの暴風だ。私たちの元へと戻ってくることはないだろう…。体内のサンドスターが尽きるか、パークの外へと出て元の遺物へと戻るか、だ。残念なことだが…」

「そう…ですか…」

 

 重い空気が流れる。私たちの作った怪物は、私たちの手から離れ、虐殺の限りを尽くしている。その為に作ったとはいえ、いざこうしてみると、後悔とも悔恨とも知れぬ感情が私たちを埋め尽くしていく。

 私たちは国連に抵抗するためにネメアーの獅子という怪物を作った。だけど、抵抗することは叶わなかった。もはや私たちにはどうすることもできない。後悔してもしきれない。ネメアーさんは時間の許す限り虐殺を続けていくことだろう。私たちは遠くからそれを傍観するのみだ。とても…とても空しい気持ちだけが、私たちを支配する。

 

「まったく、人というのはいつまでも愚かしいのです」

「あなたは…」

「…ワシミミズクか」

「いかにも、ワシミミズクです」

 

 いつ頃からいたのだろうか。ワシミミズクさんが私たちの前に現れた。しかし、どこか雰囲気がいつもと違う。見てくれはワシミミズクさんそのものなのだけど、どこか違うというか…。同一種の別個体とでもいうべきか、そうとしか表現しようのないものを感じた。

 

「人は争いを繰り返す…。些細な争いごとから権利の闘争、物資の奪い合いから絶滅戦争まで…。父の言う事が私にもようやく理解できたのですよ」

「何を……言って……」

「なんでもないのです。お前たち人はどこまでも愚かと思ったまでなのですよ」

「……お前に何が理解できる」

「お前たちの考え得るあらゆる事、とでも言っておきましょうか。…あの時、わたしの父は、火を得たことでいつまでも争い合うお前たちに愛想を尽かし、大洪水によって人々洗い流したのです。当時はあまりにもやり過ぎだともわたしも思ったものですが、今ではそれも理解できるのです。お前たちは人間は、あまりにも愚かしい」

 

 人々を下に見るような見下した目で私たちを見下ろす。その目は明らかにワシミミズクさんのものではなかった。

 ……ひどく嫌な感じがする。この子は明らかにフレンズさんなんかではない。私の勘がそう告げている。

 

「……あなたは…何者ですか…」

「言ったでしょう。わたしはワシミミズクなのです」

「……嘘ですよね。私の知っているワシミミズクさんは、そんな人々を下に見るような発言はしません。たしかにちょっと意地悪なことは言ったりしますけど、今のあなたのような驕り高ぶるようなことは言ったりなんてしません…」

「そう思いたければ思っていると良いのです。お前の知る世界だけがすべてではないのですから」

 

 そう言ってワシミミズクさんは私たちに背を向けた。

 

「これからあの獅子を始末しに行くのです。アレを止めれるのはわたししかいないのです。まったく、わたしも多少はアレにも期待していたのですが…。結局は失敗物の贋作だったのです」

 

 そう言ってワシミミズクさんは姿を消した。……得体の知れない不気味なものを感じる。あれは絶対にワシミミズクさんなんかではない。それに、いくら猛禽のワシミミズクさんといえども、どうやってネメアーさんという神代の怪物に勝てるというのか…。……もうすべてがどうでもよくなってきた。私もしばらく休むとしましょう…。

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