けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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Ruin-21「アークティカ地方」

 北海の荒波を裂きながら、舟は進んでいく。吹き荒ぶ波風を帆に受けながら、あたしたちはヴァルハラに向かっているのだ。

 操舵者は怪力自慢のアムちゃんだ。ロングシップに匹敵するほどの大きな帆を、たった二本の荒縄で制御している。

 風を受けたロングシップはすごい速度で海原を走っている。あたしの予想をも上回る速さだ。

 そんな船を制御しているアムちゃんだけど、なんだか苦しそうな顔をしている。見ると、緊張する荒縄が腕に食い込んでアムちゃんの腕を縛っている。風を受け止めるには帆が大きすぎたのかもしれない。このままではアムちゃんの負担が大きすぎる。血が滲んで負傷してしまうのも時間の問題だ。

 

「アムちゃん、大丈夫…?」

「ぐっ…。へーき…。まだいける…」

「無茶しちゃダメだよ…?あっ!血が…!」

「これくらいどうとでもない…!」

「……どうでもなくはないだろう。ほら、どけ。わたしが変わってやる」

 

 ヘラジカさんは荒縄を掴むと、無理やりアムちゃんをどかせた。瞬間、すべての反動がヘラジカさんを襲った。

 

「のわっ!?こ、これは…!」

 

 アムちゃんが甲板へ倒れこむ。胸を大きく上下させて、結構大きな負担だったのが伺える。

 しかし、両腕に滲む血の何と痛々しいことだろう。これを一人で制御するのは無茶だったのか。けど、かばんさんは一人で制御することを前提に作ってあるのだという。昔の海賊もこれを一人で操作していたのだろうか。

 

「かばん!無茶だ!これを一人で制御するなんて…!」

「う~ん…。滑車でも導入して機械化するべきかしら…」

「ああ、いや、ギンギツネさん、今はそうじゃなくて…。ええと、ヘラジカさん!縄を離して!ロードランナーさん!帆を巻き上げて!みんな!これからオールで漕いでいくよ!」

 

 各員がそれぞれオールを持って配置に着く。オールで漕いでいく以上、連携は不可欠だ。

 

「そーれ!せーの…!」

 

 オールを海中に突っ込む。めいっぱいオールを引いて、再び持ち上げる。かなりの重労働だ。手にマメができるかもしれない。貧弱なあたしの身体にはかなりの負担だ。

 みんなと一つになって舟を漕いでいく。誰一人として乱れてはいけない。これはチーム戦なのだ。

 オールの動きに合わせて舟は前へと進んでいく。非常に過酷だけど、今のあたしにできる唯一のことだ。

 

「よし!その調子だよ!そのままアークティカ地方まで漕ぐんだ!」

 

 自身を舟という機械の一部のようにしてひたすら漕いでいく。何も考えずに舟を漕ぐのだ。海を裂いて、船を前へ前へと進ませるのだ。

 オールを持ち上げて、再び海中に突っ込む。これだけでも水の抵抗に負けそうになる。だけど、これに負けて手を離してしまえば、舟は制御を失ってあらぬ歩行へ進んでしまうだろう。それだけは避けなければならない。

 かばんさんが船首で遠くを見つめている。その遠くを見つめる視線の先には、あたしたちの目指すアークティカ地方があるのだろう。途方もない距離なのだろうけど、頑張って漕いでいかなければならない。ひたすら機械のように…。

 

「かばん!こんなの無茶よ!アークティカ地方に着く前にみんなダウンしちゃうわ!あたしが帆を改造するから代わって!」

「……分かった。任せたよ」

 

 戦線からギンギツネさんが離脱する。早速ギンギツネさんは応急修復用の丸太を削ると、ボラードのようなものを作り始めた。やがてそれを側舷まで持ってくると、タールや木材で固定した。

 

「ロードランナー!帆を降ろして!あと、これをマストに固定してちょうだい!」

「あ、ああ!わかった!」

 

 降ろされた帆が風に煽られる。帆に取り付けられた荒縄が荒れ狂う鞭となってギンギツネさんに襲い掛かる。

 

「きゃっ!?」

「わ!す、すまねえ!」

 

 そうこうしているうちに、簡易的な帆走装置が完成した。ようやく漕ぎ手の重役から解放されるのだ。

 

「つ、疲れた…。手が痛いよ…」

「……ちょっと甘く見てたね…。みんな、お疲れ…」

「ひー…!ギンギツネと二人がかりでやっと固定できたぜ…!」

「確かにこれは堪えるわね…。……もうちょっと設計を煮詰めればよかったわ…」

 

 風を受けたロングシップは再び前進し始めた。半機械化された帆走装置のおかげであたしでも舟のコントロールができる。あとは、アークティカ地方に向けて舟を走らせるだけだ。

 船首のかばんさんが再び遠くを見つめる。その眼差しは、不安と緊張を湛えたものだった。

 

「かばんさん…?」

「………」

 

 返事はない。なんだか深く考え込んでいるようにも思える。

 

「ミライさん…。いるのかな…」

「……分からない…。けど、ぼくはどんな結果であろうと、それを受け入れるつもりだ…。いなかったら……これをぼくの最後の冒険としようと思う…」

「……そう…」

 

 言葉が途切れる。少し間を置いて、かばんさんが口を開いた。

 

「今のうちに休んでおくといいよ。アークティカ地方はどんなところか分からないからね。またネメアが来ないとも限らないし…」

「……分かった。じゃあ、先にちょっと…」

 

 マストに背を預けて腰を落とす。ミライさん…どんな人なんだろう?会えるのかな…?かばんさんがずっと探していた人…。あたしにも会えることができたら…。

 ……あたしはミライさんに会ったら…どうするんだろう…?

 

 

…………

 

 

「誰か来てる…」

 

 ホッカイエリア本島から一艘の舟がこっちに向かって来ているのが見えた。驚いたことに、今まで音沙汰のなかったホッカイエリアから、誰かが訪れようとしているのだ。

 

「ミライさんに知らせなきゃ…!」

 

 崖を降りて、ミライさんの元へと走っていく。国連の人間だったらいけない。ミライさんも年を取って弱ってきている。ミライさんを守れるのは私だけだ。なんとしてでも止めてみせるんだから…!

 

 

…………

 

 

 ゴリっと舟底が岩礁に乗り上げる感じがした。とうとう、アークティカ地方に到着したのだ。

 ざばざばと海水を蹴ってアークティカ地方の大地を踏みしめる。相変わらずここも岩と泥に堆積した氷床でいっぱいだ。

 

「誰?」

 

 不意に声をかけられた。見ると、少し離れた岩肌の上に一人のフレンズさんが立っていた。

 

「あれ…?あなたは…」

 

 一瞬、サーバルちゃんとも思ったけど、どうも違うように見える。頭の模様が違うし、細部も何だかサーバルちゃんと異なっている感じがする。サーバルちゃんらしからぬ締まった顔つきは、とてもあたしたちと一緒にいるサーバルちゃんと同一種とは思えない。

 

「私はサーバル。あなたたちは誰?ここに何の用なの?」

「さ、サーバルだって…!?」

 

 かばんさんが食らいつく。

 

「ほ、本当にサーバルちゃんなの!?だったら…!」

 

 かばんさんが前へと足を踏み出す。かばんさんらしからぬ興奮のしようだ。

 

「来ないで」

「ッ…!!」

 

 サーバルと名乗るフレンズさんが強く言い放った。敵意を大きく孕んだその言葉は、あたしたちを牽制するのに十分だった。

 

「まだあなたたちが何者か聞いてない。周りの子たちがフレンズだっていうのは分かるけど、あなたとその青いジャケットを着た子は誰なの?名乗りなさい」

「ぁ……。ぼ、ぼくはかばんって言うんだ!ミライさんに会いに来たんだ!」

「ミライさんに…?どうしてなの…!」

 

 周囲の空気が一変する。目には光が灯って、野生解放したように見える。

 

「悪いけど、ミライさんには会わせられない…。警告するわ。今すぐ帰りなさい。さもなくば、あなたたちは海の底に沈むことになる…」

「な…!どうして…!ぼくはこれまで10年以上もミライさんを探してパークを旅してまわったんだ!!!それを今更ここで引き返すなんて…!それも目の前にミライさんがいるっていうのに…!どうしてミライさんに会わせてくれないんだ!!?」

「かばんさん!落ち着いて…!」

 

 興奮するかばんさんを制してなんとか落ち着かせようとする。だけど、かばんさんの興奮は冷めやらずにヒートアップするのみだ。

 

「素性の知れないあなたたちをミライさんに会わせる訳にはいかない。あなたが連れてきたフレンズみんなもよ。……最後の警告よ。今すぐ帰りなさい」

「ぐっ…!ここまで来て…誰が帰るか…!」

 

 かばんさんがあたしの拘束を振り払ってサーバルさんの元へと走りだす。

 その時だった。

 

 ズガンッ!

 

「うわっ!?」

 

 突如、大地を穿つような大きな音と共に砂煙が舞った。

 砂煙の中に影が見える。それも二人だ。あれは…。

 

「ネメアと…サタン…!?」

「………」

 

 白眼とエメラルドの瞳がゆっくりと開かれる。どうしてここが…。それに、どうしてサタンがネメアと一緒に…。

 

「っ……」

 

 突如現れたモンスターにサーバルさんが目を見開く。まるで、信じられないものを見たといった面持ちだ。

 

「……ここにミライがいると聞いた。お前たちがいるという事は、間違いなさそうだな。なあ、サタン…」

「お前は黙って俺に従えばいい。さあ、行け」

「そんな……。どうして……。い、生きてたの…?」

 

 体を震わせて目の前の現実を拒んでいるかのようだ。しかし、ネメアは知ってか知らずかズカズカとサーバルさんの元へと歩いていく。

 

「待って!!!来ないで!!!」

 

 叫ぶサーバルさんを無視してズカズカと歩みを進めていく。まるで聞こえていないとでも言わんばかりの態度だ。

 

「ぐっ…!」

 

 迫りくるネメアにサーバルさんが飛びかかる。しかし、その行動も空しく、ネメアに振りかざした爪も軽くはじき返されてしまった。

 

「くっ…。ネメアー…!」

「……久しぶりだな、サーバル…。元気にしてたか…?」

「どうして…死んだんじゃ…」

「……冥府から舞い戻って来たのさ。さあ、教えろ。ミライはどこにいる?」

「ッ…!ミライさんをどうする気…!?」

「……オレはただ、ミライに会いに来ただけだ」

 

 なんだか様子がおかしい。まるで既に知り合った仲のようだ。

 

「い、行かせないから…!」

「……邪魔だ」

 

 掴まれた手を軽くあしらって引き剥がす。ネメアは奥へとどんどん進んでいく。

 ……行かせてはいけない。ネメアはミライさんに何するか分からない。どうにかして止めないといけない。

 

「……アムちゃん」

「………」

 

 ドッとアムちゃんの闘気が辺りを支配する。それに気付いたネメアがこちらに振り向いた。

 

「………」

 

 鋭い眼光がネメアを貫く。アムちゃんから放たれていた闘気が肌を刺すような鋭い殺気へと変わっていく。少しでも刺激すれば爆発しそうなほどの緊張具合だ。

 

「ッ…!!」

 

 身を捻り、腰を低く落としてネメアへと飛びかかる。対するネメアも迎撃の構えを取ってアムちゃんを迎え撃った。

 

 ガッ!!

 

 二人のビーストが互いに矛を交える。ガンドに侵されたネメアはやはり本調子ではないのか、やや押され気味だ。対するアムちゃんは、サタンから授かった力でネメアを圧倒している。

 

 ドゴォッ!

 

「グゥッ!?」

 

 みぞおちに強烈な一撃を受けたネメアが怯む。アムちゃんはその隙を逃さず、ネメアの顔面に痛恨の蹴りを入れた。

 

「ッ…!!」

 

 ネメアが膝をつく。これまでの経験で言えば、これからが本番だ。激昂したネメアが本気を出して狂乱するのだ。

 

「ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 ネメアが咆哮する。黒いオーラを放ちながら、獣は絶叫する。

 

「おのれおのれおのれェ…!小癪な獣畜生か゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

 

 獣が叫ぶ。だけどその時、戦闘は突如終わりを迎えた。

 

「ッ!!?」

 

 突如ネメアが後ろを振り向いた。その視線の先に、一つの影が見える。あの影は…。

 

「ミ、ミライ…?」

「あなたは…」

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