けものフレンズR ~Re:Life Again~ 作:韓非子
今までありがとうございました。
「私の髪の毛から生まれた…と、いうのは俄かに信じがたい話ではありますけど…。そうだ、簡易検査をしてみましょう。私の眼鏡にはセルリウムやサンドスターを鑑定する簡易的な機能が備わってます。その手袋でもいいですので、私に貸していただけませんか?」
「あ、はい。どうぞ」
そう言ってかばんさんは手袋を渡した。
ミライさんの眼鏡が赤く光って何か小さな文字のようなものが映し出されてる。簡単的なホログラムのようなものなのだろうか。
ミライさんの顔がみるみると険しくなっていく。やがて解析が終わったようで、かばんさんに手袋を返した。
「本当に…フレンズさんなんですね…。私の髪から生まれた…ヒトのフレンズ…」
「……信じてもらえましたか?」
「ええ…。まだ少し信じられないですけど…。認めるしかなさそうですね…」
そう言って深くため息を吐き出すミライさん。少し項垂れた後に、改めてかばんさんに質問した。
「そういえば、どうしてネメアーさんと戦ってたんですか?……やっぱり、ネメアーさんに襲われたとか…?」
「はい…。キョウシュウエリアで、このギンギツネさんが不思議な信号を受信したってぼくたちのところに無線機を持ってきたんです。そこでミライさんの声を聞いて…」
「無線機…。……まさか、私が昔発信した救難信号を辿ってきたんですか…!?」
「え…。はい…。ホッカイエリアではホロテープを辿ってきたんですけど…」
「……。まだあの信号…生きてたんだ…」
ミライさんが思案するように視線を逸らしている。そんなミライさんを見て、なんだかかばんさんがそわそわしてる。何か言いたい事でもあるようだ。
「あの…ぼくは…。ぼくは、自分以外のヒトを求めて10年以上も探してきました。その…。ぼくは…ようやくミライさんに会えて…とても、嬉しく思って…るんです」
「はぁ…」
「だから…その…。抱きしめてもらっても…いいですか…?」
「………」
絵に描いたようなあんぐり顔だ。かばんさんのお願いも意外なものだ。かばんさんも恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯いている。
やがて、その意図をくみ取ったであろうミライさんは、優しくかばんさんを抱きしめた。
「っ……」
「よしよし…。よく今まで頑張ってきましたね…。それも10年以上も私を探してただなんて…。本当に…えらいです…」
「っ…!ミライさん…!」
ミライさんに抱かれたかばんさんの体が震えている。初めて体験した人の抱擁に自身の感情が抑えれなかったようだ。……それも、初めての自分自身以外の人の抱擁なのだ。感極まるのも無理はないだろう。
「ほう、お主がミライか」
「あなたは…」
突如、ミライさんの山荘に不意の来訪者が現れた。赤いラインの入った真っ白なフード付きのパーカーに、赤と蒼の混ざったような不思議な瞳…。ヨルムンガンドさんだ。
「これは失敬。わしはヨルムンガンドと申す者だ」
「ヨルムンガンド…?私の知る限りでは、そのようなフレンズさんはいないはずですけど…」
「わしもここに招かれた記憶はないからな。海の中で眠っていたら、気付けばこのような姿になっていたのだ」
「…? ここに漂流してきたという事ですか…?」
「言葉の通りの意味じゃ。わしは神々の黄昏に敗れた後、永遠ともいえる眠りについた。そこでわしは夢の中で、お主たちミズガルズの民の営みを見てきたのだ」
「はぁ…。…って、神々の黄昏…?ヨルムンガンド…。……ま、まさか…北欧神話に名高いあの世界蛇さんなのですか!?ね、猫さんに化けたり、リヴァイアサンと同一視されるあの!?」
「わしは猫になぞ化けておらんしリヴァイアサンというのも知らん。いろいろと間違えておるぞ」「す、すいません…!つい興奮してしまって…。そういえば、あの巨人を倒した大きな竜みたいなのは…」
「あれはわしの本体ともいえるものだ。この体はサンドスターの生み出した仮初の姿に過ぎん」
「………。なんだか、私はとんでもないお方と話しているのかもしれません…。神々と人類が共存していた頃のけものさんの生の姿を目撃して、お話してるなんて…。これもジャパリパークだからこそ経験できる奇跡…」
そう言いながら恍惚の顔を浮かべるのはミライさんと言われるお方だ。もっとあたしは儚げな姿を想像していたのだけど、どうやら違ったようだ。あたしたちは今、ミライさんの中にある深淵をのぞこうとしているのだ。
「ミライさんのその顔を見るのいつぶりだろう。何十年ぶり?」
「そうですね…。たまに海を渡ってここにやってくるフレンズさんは居ましたけど…」
「だいたいメンバーは同じだもんね。見知った顔しかいなかったよ」
「ですね…。そういう意味ではとんでもないお方がいらっしゃいました。それも新たにいらした方もとてもいっぱいで…感激です」
ほろりと涙を流してあたしたちとの邂逅を噛みしめている。ヒトを探していたのはかばんさんだけではない。ミライさんもまた、ヒトを求めていたのだ。ミライさんの僅かに流した涙が、それを物語っている。
ヨルムンガンドさんは続ける。
「いやはや、目的も無事に達成されたようじゃな。無事にミライを見つけ、ネメアも倒した…。わしも夢の中ではあったが、お主たちの行く末を見守らせてもらったぞ」
「……ヨルムンガンドさんにとって、ぼくたちの旅路は…どんなものに見えたかな…」
「うむ…。お主たち人は、小さき存在ではあったが…。その足取りは、我らヨトゥンの巨人にも負けぬものであったと見える。目的に向かって団結し、おぼつかぬ足取りではあるが着実に進んでいく様は見応えがあったわい。わしも頽廃とした世界の中に、応援したくなったのも久々だわい」
「そっか…。それは良かった…かな」
かばんさんはそう言うと深く帽子を被って顔を隠した。何か照れているような不思議な感じがする。
そんなかばんさんをよそ目に、サーバルちゃんがミライさんにたずねた。
「ミライさんはこれからどうするの?まだここにいるつもり?」
「うーん、どうしましょう…。帰っても私はどうするべきか分かりませんし…。そういえば、キョウシュウエリアから来たってことは、まだパークは生きてるのですか?私の他にもスタッフたちは…まだいらっしゃるんですか?」
「ゴコクエリアでは見ませんでした。キョウシュウエリアにもいなかったような…」
「あたしが目覚めた施設はみんな機械が壊れてたよ。建物も半壊してたし、スタッフはいなさそうだった」
「そうですか…。やっぱり、私の居場所はないんですね…」
「……えっと…あの、ミライさんさえ良ければ…。ぼくといっしょに…キョウシュウエリアに帰ってきてもらえませんか…?ぼく…ミライさんにいっぱい聞きたい事とか…話したいことがあるんです。だから…ぼくたちといっしょに…」
「…いいんですか…?」
「はい…!ぜひいっしょに…!」
そう言って顔を輝かせたかばんさんがミライさんの手を握りしめた。心なしか、ミライさんの顔にも安堵のような、喜びのような柔和な表情が見て取れる。とうとうミライさんも、極寒の地から出て行く日が来たのだ。アークティカ地方における雪解けの日だ。
「よし、サーバルちゃん!早速船出の準備をしよう!ミライさんも、ちょっと長旅になるけど大丈夫ですか?」
「うーん、どうでしょう…。長い事運動もしてませんし、認めたくないけど年もとってきてますし…。ちょっと厳しいかも…」
「あはは!大丈夫ですよ!ここにはみんなもいるし、苦労させませんから!」
「ど、どうぞお手柔らかに…」
そう言って、かばんさんたちは部屋を出て行った。
あたしも少し探索しようと、家を出て外を辺りを周っていると、サタンと鉢合わせた。何やら神妙な面持ちで遠くを眺めているけど、何を思っているのだろうか。
「…どうしたの?」
「……。これで良かった…。そう思っているのだが、心のどこかでは納得のいかないところがあるような気がしてな」
「……?どういうこと…?」
何やら一人で思いつめているようだ。詳しく話を聞いてみよう。
「俺はお前たちと別れた後、一人でネメアの元へと向かった。そこで奴と契約したのだ。俺が奴を導く代わりに、魂を頂く、とな。そして、俺は奴と契約した。そしてここ、アークティカ地方へと導いたのだ」
「……どうしてそんなことを…。あたしたちを倒そうとしたの?」
「逆だ。ネメアは心身ともに弱ってきていたから、お前たちに倒してもらおうとしたのだ。それに、奴の中にあるもう一つの魂も顔を出してきていた。奴を蝕む呪縛から解放し、奴の魂に安寧を捧げる…。そうしたかったのだが…」
サタンが言葉を区切る。何やらうまくいかなかったことがあるようで、表情に陰りが見える。
「これが…正しい選択だったのかと、そう思わずにはいられないのだ」
「……悪魔がそんなことで思い悩むなんてあるんだね」
「俺は人類の生み出した虚像に過ぎん存在だ。俺は悪魔を演じてはいるが、それは偶像としての役割でしかない。奴の魂は今は俺の中にあるが…あるが…?」
ふと、何かに気付いたようでサタンの動きが止まった。見事なまでのフリーズであるが、いったいどうしたのだろうか。
「……ない。ネメアの魂がない…!どういうことだ!?確かに奴は俺と契約して、俺のモノになったはずだぞ!」
「お主が探しているのはこれか?」
不意に声が聞こえた。声のする方へと振り向くと、そこには壁にもたれかかってふわふわしたものを片手に持つヨルムンガンドさんがいた。
「その魂は俺のモノだぞ、世界蛇!俺がそいつと契約して、俺のモノとなると誓った魂だ!」
「残念だが、それはお主とネメアの間だけのものだ。ワシは存ぜぬし、その契約もワシの知るところではない。もし欲しいというのであれば、ワシから取り返すことだ。それっ」
そう言って、白いふわふわした魂と呼ばれるものを天高く放り上げると、天高く坐する巨大な大蛇が呑み込んでしまった。
「なっ…!?」
「こやつが地獄へ落ちるにはまだ早い。然る時が来るまで、ワシが預かっておく。ふんっ、残念だったな、天の御子よ。獅子は悪魔へと堕ちはせん」
「ぐぬぅ…!」
サタンは悔しそうな顔を浮かべると、そっぽを向いてしまった。天の遣いであり、地獄を統率する魔王と言えども、神々と肩を並べる巨人族には手を出せないらしい。
「勝手にしろ…!」
「うむ、そうさせてもらう」
そう言って、二人は別れていった。なんだか微妙な空気の中取り残されたあたしだけど、これで良かったのだろうか。
ヨルムンガンドさんは然る時が来るまで預かっておくという風に言っていたけど、一体どうするつもりなのだろうか。ネメアの魂は救われるのか。なんだか気がかりだ。
「ともえちゃーん!」
「イエイヌちゃん?」
遠くからイエイヌちゃんが走ってきた。久しぶりに見るイエイヌちゃんの明るい顔だ。見ているあたしまで心が雪解けするかのようだ。
「ともえちゃん!明日、さっそくアークティカ地方を発つようです!ミライさんも一緒に帰るそうですよ!色々準備があるようですし、ともえちゃんも一緒に準備しましょう!」
「うん、分かった」
イエイヌちゃんに連れられて小屋へと戻っていく。ふと背後を見遣ると、そこには青々と広がるホッカイエリアの海原が広がっていた。遠くに見える海の先には、あたしたちが冒険したホッカイエリア本土が見える。
「………」
胸の中が不思議な気持ちで満たされていく。あたしたちの残した小さな足跡が、そこには刻まれているのだ。それはいつかは消えてしまうものなのかもしれないけど、そこには確実にあたしたちの記憶が刻まれているのだ。そう思うと、なんだかちょっと誇らしい気がしてくる。
あたしたちはミライさんを求めて旅立ち、ネメアという強大な敵と戦い、ミライさんを見つけた。ライオンさんを救えなかった事が心に残るけど…。
「………」
改めてホッカイエリアの大海原に目を向ける。雲間から照らされる光芒があたしを照らす。暁光にも似たその光は、あたしたちに希望を与えるようだ。
「ともえちゃーん!」
「ん、今行くよー!」
ホッカイエリアを背にイエイヌちゃんの元へと駆けていく。希望で胸が満たされて清々しい気分だ。
「待ってよイエイヌちゃーん!」
目の前がキラキラと輝いて見える。あたしたちの旅はこれからも続くのだろう。次はどこへ行くのだろう?まだまだ行っていないところはいっぱいある。
無限に広がるジャパリパークには不思議がいっぱいだ。これからもつらい別れはいっぱい来るだろうし、素敵な出会いもまたいっぱい訪れるだろう。それらを乗り越えて、あたしたちは強くなっていくんだ。そして、また一つ思い出を刻んでいく。
足跡とわずかに舞う砂埃を残して去っていく。あたしたちはの冒険は終わらない。これからも立ち止まらずに、進んでいくのだ。