けものフレンズR ~Re:Life Again~   作:韓非子

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第8話「鵺」

 夜、あたしとイエイヌちゃんとで図書館に来ていたタイリクオオカミさんと語り合っていた。図書館に来た目的はマンガのネタを探しに来たということだった。

 タイリクオオカミさんはマンガを描くために字を猛勉強したらしく字が読めるとのことだった。だから話の引き出しが豊富というわけだ。

 

「昼間の評議会、お見事だったよ。とても良いものを見させてもらったよ」

「えへへ…書記としてほとんど仕事できてなかったけどね…」

「いやいや、それを抜きにしても本当に良かったと思うよ。ヒトというのはああいうことをして話し合いを進めていくんだね。話としては知っていたけど、まさかこの目で見ることになるとは思わなかったよ。良い勉強になった」

「まあ、そう思ってもらえたらあたしとしても嬉しいよ」

 

 三人で楽しく談笑する。夜も遅く図書館で寝泊まりしているフレンズさんもいるので、お話もそこそこにお開きにしようと思う。

 

「そういえばどんな本を読んでいたんですか?」

「うん?そうだねえ…色々読んだんだけど…これが一番印象に残ったかな」

 

 百鬼夜行。とんでもなく恐ろしいものを取り出してきた。こんなものまでこの図書館においてあるんだ…そしてそれをチョイスしたオオカミさんもオオカミさんだ。

 

「これの…このページを見てごらん」

 

 そう言ってあるページを見せてくる。そこには鵺という妖怪が描かれていた。

 

「頭が猿、胴体が狸、足は虎で尻尾が蛇…鳴く声はトラツグミ…すなわち鵺に似ていたという妖怪だね。もしかしたらジャパリパークにもこんなフレンズがいるのかもしれないって思ったんだ。なんだかこんな不気味な妖怪だけどそれに何故だか惹かれてしまってね」

 

 なんだか楽しそうに話している。あたしはそんな得体の知れない不気味なものに遭遇したら間違いなく漏らす。そんなものに惹かれるとは作家というものは変わっている。と、思った。

 

「けどね、この妖怪にはよくわからないことがあってね…」

 

 そう言って別の本を取り出した。

 

「この本にも鵺に関する記述があるんだ。頭は猿、躯は虎、尾は狐、足は狸…鳴く声は鵺に似ていたという…そして私が最も怖いと思ったのはこれだ」

 

 明らかに他の本とは違う装丁をされた本を出してきた。なんだか非常に不気味な感じがする。

 

「これ…なんですか…?ヒトのニオイがします…」

「だろう?私もこの本だけは他と違う感じがしたんだ。どうやらこの本の表紙には…ヒトの皮が使われているようなんだ」

「「!!」」

 

 震えが止まらなかった。今オオカミさんが手にしている本には人間の皮膚が使われているというのだ。いったいどうしてなのか。ヒトの皮膚でなければならない理由があるのか。それほどまでに恐ろしい内容が記してあるのか。あたしはとても怖かった。

 

「それでこのページなんだけど…頭は虎、躯は猿、尾は狸、手足は蛇の如く…鳴く声は鵺に似たりけると書いてある…」

「…?」

 

 どこを読んでいるのか。ページには日本語がない。描かれてあるのは歪な線と幾何学的な紋様だけだ。けどそこにはオオカミさんの言っていた鵺のような生物が描かれていた。虎の頭、猿の体、狸の尻尾、蛇の手足…名状しがたき邪悪な生き物がそこにはいた。

 

「そして最後にこれを見てほしい」

 

 それは次のページに描かれてあった。震える指を本に這わせている。悪意を孕むそれは明らかにヒトの姿をしたものだった。

 

「頭は人、躯も人、尾は定かならずも羽は青赤取り取りに…鳴く声は鵺にぞ似たりける…」

 

 もはやどこを読んでいるのか分からなかった。手が震えている。ふとオオカミさんを見てみると酷く汗をかいていた。目は一点を見つめている。

 

「ヒトの恐怖や嘘、心を糧として歪に姿を変える獣…其れは神をも超越し、自身でさえ象る姿がわからなくなる…人に伝染する恐怖がさらなる化け物を生み出していき、次々と姿を変えていく…」

 

 ぶつぶつと何かを唱えるかのようにありもしない文字を読み上げていっている。もはや狂気としか思えないような有り様だった。何かに取り憑かれたのかとさえ思えた程だ。

 

「xxxxxxx xxxxxxxx xxxxxxx xxxxx xxxxxxxx xxxxxx」

 

 …今、なんて…?

 

「くっ…ハァッ…!」

 

 何かが弾けたように机に突っ伏してしまった。ひどく息切れをしている。

 

「やっぱりこの本はダメだ…読んでいるとサンドスターを吸われそうになる…」

「そもそもそれ…読めてるの…?」

「読めてるって何が…」

 

 あたしの問いかけの意味が分からなかったのかもう一回中を見ようとする。

 

「いや、止めよう。この本はなんだか危ないような気がする」

「あたしもなんだかそんな気がする…」

「…表紙に何も書かれてないようですけどタイトルってあるんですか…?」

「タイトル?」

 

 閉じた本をぐるっと見回す。

 

「ネクロノミコン…」

「……」

「……」

 

 ぶわっと鳥肌が立った。ひどく冒涜的な響きに思えた。この世に存在しても良いものとは思えなかった。

 

「っ…!!」

「ちょっと!キミ!」

 

 あたしはオオカミさんからその本を取り上げると窓から投げ捨てた。すかさず一階に降りてキャンプ場のかまどに火を点けると本を燃やした。

 

「ハァッ…!ハァッ…!」

「な、なんてことをするんだ!本を燃やすだなんて…!」

「こ、これはヒトが読んで良いものじゃない…!ヒトの道を外れたヒトが読む本だよ…!」

 

 焚き木が燃える音とあたしの息遣いだけが聞こえる。オオカミさんは観念したように言った。

 

「…かもね。あれはきっとヒトの読むものじゃない。燃やして正解かもしれないね」

 

 そのときだった。

 

 パリン!

 

 図書館で何か割れる音がした。中で博士ちゃんと助手ちゃん、かばんさんの騒ぐ声がする。

 

「…行ってみよう」

「…うん」

 

 図書館に近付くとそれらの声に交じってアムちゃんの苦しそうな声が聞こえてきた。何か大変なことが起きているのは間違いないようだった。あたしたちが中に入ろうとしたときだった。

 

「ダメです!ともえちゃん!中は危険です!」

「イエイヌちゃん…!?」

 

 イエイヌちゃんが道を塞いできた。奥の方を見てみると怯える博士ちゃんたちと尻もちをついたかばんさんの姿があった。それに割れたフラスコ、黒いものがまとわりついたアムちゃんの姿が見えた。

 

「と、ともえ…」

「アァッ…!ウゥ…ッ!ともえちゃ…見ないで…!」

 

 苦しそうに悶えるアムちゃんがあたしに切願するように言う。あの黒いのは何…?何が起きているの…!?

 

「博士たちが誤って研究用のサンドスター・ロウが入ったフラスコを落としてしまってアムちゃんがそれを浴びてしまったんです…!あのままだとアムちゃんがビーストになってしまう…!」

「そんな…!助けなきゃ!」

「ダメだ!危険です!」

 

 せっかくアムちゃんと博士ちゃんたちが仲直りしたのにこれじゃ台無しになってしまう…!早く取り除かないと…!

 

「ダメだともえちゃん!サンドスター・ロウに触れたらともえちゃんまで汚染されてしまう!逃げるんだ!」

「どうしたのだ!?」

 

 アライさんだ。アライさんが外から飛び込んできた。

 

「ア゛ッ・・・カ゛ア゛ッ゛・・・ア゛ア゛ア゛ッ゛・・・!゛!゛」

「アムールトラ!?いったいどうしたのだ!?」

「ウ゛ウ゛ッ゛・・・!゛ア゛ァ゛ア゛・・・ッ゛!゛!゛ア゛ラ゛イ゛・・・サ゛ン゛・・・!゛!゛」

 

 サンドスター・ロウが完全に吸収されてしまった。みるみる内に場の空気がアムちゃん…ビーストの殺気に圧されていく。

 ギロリと鈍く光る眼が博士ちゃんたちを捉える。

 

「ヒッ…!」

「ウ゛ア゛ア゛ァ゛ッ゛ッ゛!゛!゛」

「ダメなのだ!!!」

 

 凶爪をあげて襲い掛かるその瞬間、アライさんが小さい体で止めに入った。

 

「ダメなのだ!アムールトラ!落ち着くのだ!せっかく仲直りしたのだ!これではまた敵同士に戻ってしまうのだ!」

「ウ゛ウ゛ウ゛、ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!゛!゛!゛」

「アムールトラ!!!」

 

 ふとビーストの動きが止まった。場の空気が沈んでいく。見るとアライさんがビーストの背中をさすっているのがわかった。

 

「大丈夫なのだ…怖くないのだ…」

「ア゛・・・ア゛・・・」

「…落ち着いたか?」

「ア゛ラ゛イ・・・さん・・・」

「大丈夫なのだ!お前をいじめる悪いやつはアライさんがまとめてぶっ飛ばしてやるのだ!だからフレンズを襲う必要もないのだ!アライさんにお任せなのだ!」

 

 …驚いた。ビーストと化したアムちゃんをたった一人で静めた。アムちゃんもポカンとした顔でアライさんを見下ろしている。

 

「ほら、こっちに来るのだ!一緒に寝るのだ!」

 

 アムちゃんの手を取ってアライさんは行ってしまった。シンと辺りが静まり返る。

 

「な、何が起こったのですか…?」

「わ、わからない…アライさんが、アムールトラさんを…」

 

 博士ちゃんとかばんさんが唖然としながらさっき起きたことを確認する。

 ふらっと博士ちゃんが立ち上がると、様子を見に行ってくるのですと言い残してふらふらと出て行った。

 

「と、ともかくビーストを元に戻す方法を考えるのです!ともえたちはどうやってビーストをフレンズにしたのですか?」

 

 助手ちゃんが訪ねる。

 

「え、えーとセルリアンに半分だけ食べられてから…サンドスター・ロウだけ吸われたのかな。ビーストとしての気配が消えていったんだ」

「セルリアンに食べられたと…その時はたまたまサンドスター・ロウがきれいに吸われただけなのかもしれませんが、サンドスターだけを吸われる可能性も否定できませんね…」

「「うーん…」」

 

 頭を悩ませていると突然機械音声が聞こえてきた。

 

「ユキヤマチホーニ キュウビキツネト オイナリサマガ キテイルヨ。ソコヘ イクト イイカモネ」

「ラ、ラッキーさん!?」

 

 ラッキーさん…?この場にラッキーさんというフレンズがいるのだろうか。変なしゃべり方をするフレンズさんだ。

 

「オ、オイナリサマとキュウビキツネ…恐ろしいメンツなのです…な、なぜ雪山地方に…」

「オイナリサマ?キュウビキツネ?フレンズさんなの?っていうかさっきの声は?」

「ああ、ごめんね。僕の右手につけてるこれが喋ったんだ。ラッキービーストっていうガイドロボットなんだよ。外にいっぱいいる青くて小さい子たちと同じガイドロボットなんだけど、僕のこれはボディーがなくなっちゃったんだ。そうだ、ちょうど外にいっぱいいるしともえちゃんも一つどうかな?バスも運転してくれるしフレンズさんの解説はしてくれるしとても役に立つと思うよ」

「う~ん…」

 

 しばらく悩む。今まであたしたちは四人で旅をしてきたけどどうなのかな…?

 

「う~ん、あたしはいいかなぁ…今まで不自由したことないし今のままでもいいかも」

「そっか。まあ、ラッキーさんはあちこちにいるし、もし欲しいと思ったら適当な個体に話しかけるといいよ。きっとともえちゃんの力になってくれるから」

「うん!」

 

 ラッキービースト。あの小さくてぴょこぴょこしてるものがそう呼ばれてるみたいだ。あたしも力を貸してほしいときはお願いしてみようかな。

 

「ただいま戻ったのです。ビーストはアライとフェネックと一緒にぐっすり寝ているのです。しばらくは安心だと思われるのです」

 

 博士ちゃんが戻ってきた。アムちゃんはぐっすり眠っているらしいことが伝えられた。

 

「なら安心ですね。ともえたちは明日にでも雪山地方に行ってオイナリサマに助けてもらうのです。くれぐれも失礼のないようにするのですよ。相手はフレンズといってもカミサマなのです」

「? 助手。オイナリサマが来ているのですか?」

「オイナリサマとキュウビキツネが雪山地方に来ているらしいのです」

「なんと」

 

 特別驚いた様子もなくよくわからない反応を返してきた。そして助手ちゃんと同じような注意を補足するような形でアドバイスしてきた。

 

「オイナリサマは我々フレンズに対してとても親身に接してくれるから特に心配はないと思うのです。けどキュウビキツネに対しては注意するのですよ。アレは傾国の美女と呼ばれたあの九尾の狐と全くの同一個体なのです。どういう謀略を謀ってくるかわからないので、最後まで気を抜くのではないのですよ」

「う、うん。わかった」

 

 こうしてあたしたちはアムちゃんを助けるために雪山地方に行くことになった。雪山というだけあってとても寒いのだろう。防寒対策にじゃぱりまんの補給もしておかなくちゃ。きっと過酷な旅になるはずだ。今のうちに準備して明日の出発に備えなければ…

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