今回はオリ小説です。
神話歴としては中国神話よりエジプト神話のほうが長いんですけどこういう小説とか絵とか作品(?)にするのは中国神話ネタのほうがやりやすいんですよね…エジプト神話で何か書きたい…キャラは出来てるのに……。
月の明るい霊廟の門を、ぴょんぴょん跳ねてくぐった。
曲がらない腕をつきだして、ぴょんぴょん、ぴょんぴょんと霊廟の中を入っていく。
そして大好きな彼女を見つけて、飛んでいくのだ。
「あー!」
「きゃーっ!うふふ、いらっしゃいベビーキョンシー!」
「今日は何してるの?」
普段の霊廟には無いものが沢山あった。
するとテンテンは言った。
「今日は金おじいさんの命日だから…ちょっとね」
テンテンは明るく言おうとしたが、だんだん声が弱くなっていった。
「テンテン大丈夫?…そうだ、僕も手伝うよ!!」
~僵尸補助中~
「ありがとうベビーキョンシー、きっと金おじいさんも喜ぶわ」
「うん!」
精一杯元気付けようと返事をしたが、テンテンは悲しそうにぼうっとしていた。
まるで死んでるみたいに。
そういえばあれから大人になった他の人達はみんなばらばらになって、ここにはテンテンしかいない。
テンテンはもうすっかり大人だし、金おじいさんに似て強いから悪霊に殺されることはないと思うけど、もしかしたら…
…おかしいな。もう自分は死んでるくせにテンテンが死ぬことを考えるとすごく不安な気持ちになる。
「あのねっ、テンテン」
重たい空気の中で切り出した。
「僕…あのときと変わらないまま、そんなに強くないけど…テンテンのことは僕が守るから!」
テンテンは少し驚いていたが、クスッと笑ってくれた。それを見て僕は少し安心した。
しかしそれから数年後、天地を揺るがす程の人と神妖達との戦いでテンテンは命を落とした。
それも流れ弾の弓矢に当たりそうになった僕をかばって…。
「テンテン!!しっかりしろ!!」
霊廟に逃げ帰って、今にも死にそうなテンテンの肩を揺すった。
「………」
「僕が守るって言ったのに…なんでとっくに死んでる僕をかばったんだ!」
テンテンはか細く笑って
「…先にあの世で待ってるわね」
そう言って事切れた。
「嫌…嫌だ!!いかないで!!!またひとりぼっちになっちゃうだろ!!」
しばらくテンテンの名を呼んで咽び泣いた。
突然、意識がぼうっとしてきた。
貧血で見るような色に視界が変わる。
…血のせいだと本能でそれがわかった。
いままで野良と言えど餌付け状態にも等しかった僕は血を見ることはなかった。それがテンテンの血を見すぎたせいで…本来のキョンシーとしての僕が動き出したのだ。
首の傷口を爪で開いて、流れる血を吸った。
初めて吸った血はジャムのように甘かった。
もちろん長年慕っていたテンテンの血を飲むことに抵抗はあった。それに少しむせて血をこぼしてしまった。
しかし血を飲めば飲むほどそんな理性は遠ざかっていく。それだけ甘かったのだ。
麻薬みたいに。
夜があけて、また日が沈んで目を覚ました僕は骨と皮だけに変わり果ててしまった遺体を燃やした。それがテンテンがキョンシーにならないように、唯一僕にできることだった。
キョンシーになってこの世に残ったって、道師の彼女は喜ばないだろう。
骸になったテンテンを埋めてから急に焦燥に駆られた。
依りべを失った僕はこの先どうすればいい?
成仏してあの世に行く日までどうやって日を潰せばいいんだ?
いや、そもそも僕はいつになったら…。
気づけばもう真夜中になっていた。しかし人の声が聞こえる。
遅くまでかなりの酒を呑んでいたのだろう、声は飄々としていて呂律が回っていない。
途端に、また視界が変わった。
「…血……」
今度はハッキリと僕の意思で動いていた。
喉が乾いた。空腹だ。
「ヒック…んあ~?かみさんかあ?帰ったぞー…」
「…」
「なんで黙ってるんだー…ヒック…怒るなよぉ~」
…もういい。テンテンに何を言われようが知らない。
死体みたいにじっとしていたって腹が減るだけだ。
キョンシーはキョンシーらしく血を飲んでりゃいいのさ。そうすればそのうちどっかの道師が僕を退治して、本当に死なせてくれる。