俺の毒舌幼馴染のデレが少なすぎて辛い   作:島流しの民

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ふぇえ……時間過ぎるのはやいよぅ……


一番タチの悪いイタズラ

 10月31日、それは、日本国民が狂う日。

 人々は自らの承認欲求を満たすため、仮装という名の愚行を犯す。奇っ怪な服装を身にまとい、顔中に絵の具やらで傷を描きこんで、街へ繰り出してゆく。

 首都などは大いに盛り上がり、その熱に浮かされた馬鹿たちはありもしない勇気を奮い起こし国家権力である警察に喧嘩を売りに行く。

 ハロウィン、又の名を仮装大会。

 あんな馬鹿げたイベントに参加するやつはどうかしている。わざわざ人の多いところでよくわからん格好をしたがる物好きなんてそうそういないだろう。

 

 

 携帯をぼんやりと眺めながら、俺はそんなことを考えていた。

 ハロウィンだかなんだか知らないが、俺にとってはいつもの日常である。特別な日だからといって街へ行く必要は無い。

 幸い、この辺りは都会という程都会でもないので、夜中にはしゃぎまくる馬鹿はいない……はず。いや、わからん。ハロウィンは人を狂わせるからな、今日は朝まで遊ぶぞ! なんてとち狂ったアイデアを捻り出したヤベー奴が騒ぎまくるかもしれない。

 

 そんな偏見を盾にハロウィンに噛みつきながら、俺はちらりと窓の外を見た。

 梨乃の部屋の明かりは消えている。

 只今の時刻、夜の10時。つまり彼女は寝ているかどこかへ出かけているかということになる。

 もし出かけているとなれば、やはりその目的はハロウィンだろう。

 仮装した梨乃……ふむ、悪くは無い。

 前言撤回、ハロウィン、中々いいイベントではないか。

 

 まあ、この目で見なければ意味ないのだが。

 

 そんなことを考えていると、玄関のドアが開けられる音が聞こえてきた。この家の鍵を持っているのは、俺と、親と、そして小鳥遊家の姉妹である。親である可能性はかなり低い。こんな時間にこんな勢いでドアを開けるほど、彼らは彼らの人生を楽しんでいない(なんとも悲しい話であろうか)。もちろん俺でもない。となると、答えは一つ。

 しかもこんな時間帯だ。もしかすると、もしかするかもしれない。

 

 淡い期待に胸を踊らせながら静かに待つ。どたどたと廊下を走る音が聞こえてくる。

 足音は階段をのぼり、そのまま俺の部屋の前まで走り抜け、そして──

 

「トリートオアトリート! 今すぐこの家にあるお菓子を全てこちらに寄越してくださいお兄さん!!」

「お帰りはこちらからになります」

「窓じゃないですか!」

 

 俺の部屋のドアを勢いよく開けたのは、よく分からないマントを羽織った花梨ちゃんだった。よく見ると、その口からは安っぽい牙が二つ覗いている。

 

「せっかく一人寂しく泣いてるお兄さんのために仮装して来てあげたのに酷くないですか、その扱い!」

「余計なお世話だ。別に泣いてないし」

「その心、泣いてますよね」

「ドキュメンタリーみたいに言うな」

 

 現れたのが花梨ちゃんで少し残念。いや、めっちゃ失礼だ。もちろん花梨ちゃんの仮装も大層可愛らしいのだが、想像していた人物が違うかったので、失礼ながらがっかりしているというわけだ。

 

「お姉ちゃんが来なくてガッカリ、みたいな顔してますね」

「しししししししてないが?」

「そんな真顔で動揺されても……てか、表情で丸わかりですよ」

「マジ?」

「マジ」

「どんな顔してた?」

「鳩がスタンガン喰らったような顔」

「鳩が何したって言うんだ」

 

 動物虐待反対。

 

 それはともかく。

 

「梨乃は?」

「さあ、寝てるんじゃないですか?」

「そうか……」

「まああんな脳みそが昭和時代から追いつけてないようなお姉ちゃんは放っておいて」

「聞かれてたら殺されるぞ」

「それより! お兄さん、私の仮装見て言うことないんですか!」

「言うことねぇ……」

 

 そう言われ、花梨ちゃんの仮装をじっくりと見てみる。

 多分コンセプトはドラキュラなのだろう。マント羽織ってるし、牙出てるし。

 しかし如何せんちゃっちぃ。なんか小学生が工作の時間に色鉛筆で描いたヒーローみたいな感じ。

 

「もう少し頑張りましょう」

「まさかのダメだし! サイテー!」

「いや、仮装が適当すぎるでしょ」

「あーあ、もう知りません。お兄さんには呪いをかけました」

「ドラキュラなのに呪いで攻撃するのか……」

「そんなのどうでもいいでしょ! それより、私がかけた呪いは恐ろしいですよ〜」

 

 イッヒッヒと、些か古い方法で脅かしてくる花梨ちゃん。両手を顔の前まで持ち上げ、手の甲をぶらりと垂れ下げる。それはお化けのポーズじゃないのか……。

 

「どうせタンスに小指ぶつけるとかそんなんだろ」

「そんなちゃっちぃもんじゃありません! なんと、一回13錠くらい飲まなきゃいけない胃薬の残りの数が絶対12錠になってしまうという恐ろしい呪い!」

「しょっぼ」

「これでお兄さんは毎回あと1錠で足りるのに新しい胃薬を買わなきゃいけないのです!」

「いや別に12錠で飲むわ」

「ぐわぁあああ!」

「どうした」

「ぐ、の、呪いの反動が……!」

「まずいなそれは」

「の、呪いの反動とは、一回誰かに呪いをかけるとその代償に自分の命を捧げなければならないというアレなやつです……!」

「あんなしょぼい呪いに命かけてたのか」

「こ、この呪いを癒すためには……この家にあるお菓子を全て私に寄越さなければ……な、なりません……ガクッ」

「安らかに眠ってくれ」

「……もう! お兄さんノリが悪いですよ!」

「どう接すれば正解だったんだよ」

 

 うつ伏せの状態からムクリと起き上がり、頬を膨らませながら腕を組んで座り込む花梨ちゃん。可愛い。

 

「そこは大人しくお菓子をくれたらいいんですよ!」

「賊か?」

「もういいです。お姉ちゃんには、お兄さんが『俺は狼男だぞ〜』って鼻の下伸ばしながらセクハラしてきたって言っときます」

「よし、いくらでもお菓子をあげよう」

 

 わざわざ災いを選ぶほど、俺も馬鹿ではない。花梨ちゃんの呆れた視線が痛い。

 用意していたお菓子を取りだし、花梨ちゃんに手渡す。

 その手際の良さに、花梨ちゃんは驚いたようにこちらを見た。

 

「随分と用意がいいですね……もしかして、元々用意してました?」

「ま、お菓子あげるくらいそんなに難しい事でもないしね」

「はぇ〜、カッコイイですねぇお兄さん! モテないけど!」

「返せ」

「セクハラ! 触んないでください! この狼男!」

「どちらにせよ狼男にされんのかよ! なんて野郎だ!」

 

 花梨ちゃんはするりと俺の腕をかわし、廊下に立つ。

 

「じゃ、お菓子も貰ったんで帰りますね!」

「ホントに奪いに来ただけかよ……あ、待って花梨ちゃん」

「なんですか──っと……なんですかこれ?」

「お菓子。梨乃に渡しといて」

「む、仮装もしてないお姉ちゃんが私より豪華なお菓子貰ってます。これは贔屓です」

「そんな変わらんだろ。ま、イタズラされるよりかはマシだしな」

「何言ってんですか、お兄さん」

「?」

 

 花梨ちゃんはお菓子の入った袋から顔を上げ、とびっきりの笑顔を見せた。

 

「お姉ちゃんにとって、このお菓子こそが一番心臓に悪いイタズラですよ!」

 

 そう言い残し、どたどたと階段を降りていった花梨ちゃん。ほどなくして、玄関のドアが閉まる音が聞こえる。

 残された俺は、呆然と廊下を眺めながら、呟いた。

 

「まんじゅうこわいみたいな感じ……?」

 

 




好きな人から貰えるプレゼントほど心臓に悪いものはありません。

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