(第二回にじさんじProhect Winterの二戦目のssです)
第二回にじさんじプロジェクトウィンターも最高でした。
なので特にぐっと来た二戦目のアンジュとリゼを書きました!四戦目も書きたい!
これ以上ないほど独自解釈と独自設定の嵐です!このssでは人狼の正体を、雪山に潜む何かにとりつかれた生存者の凶行としています。なので、アンジュがアンジュでありません!ご注意を!
説明と前書き
アンジュに取り付いた雪山に潜むナニカが、リゼとアンジュの親愛の情にやられそうになるss。
 「最初に感じたのは、この体の持ち主の、彼女への深い深い親愛の情だけ。」

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雪山でナニカに体を乗っ取られたアンジュがリゼを殺す話

「リゼッ」

 

 

 驚いた。この雪山で仲間を増やすために何度も何度も人に取り付いて、数えきれないくらい殺してきたが、こんなことは初めてだ。私の意志とは違う行動を体が勝手にとるなんて。

 

「なにっ?」

 

「……ああ、ごめんなんもない!心細くて呼んだ。ごめん!なんもない。いいよ……」

 

 急ぎこの体の持ち主の話し方を模倣して誤魔化した。

 

「怖いよ!やめてよ!こわいよ。」

 

「ハハ!行かないでってなった。」

 

 離れている途中、いきなり叫ぶように呼ばれた彼女が驚いて振り返るのを、笑いながら冗談めかして言葉を放つ。

それが功を奏して、疑う様子もなく彼女が離れていく背を見送りながら思う。

 

 危険だ。リゼと呼ばれている少女は、この体の持ち主を厚く信頼しているようだったから、どこかへ呼び出せば簡単に連れ出せて、その最期を迎えるまでこちらを疑いもしないだろうと考えていた。だが、今のままではこの体の持ち主の残った意思が邪魔をして、ここぞという時に彼女を殺す手を鈍らせるだろう。

 

 そんなことになれば、彼女は逃げ出すことに成功し、仲間に真実を伝えてしまう。

 

 まずは、彼女以外の誰かを殺させて、心を弱らせてやるか。そして……

 

「とりあえず~あのー動ける人探索行こうぜ~」

 

 そこまで考えた時、ふぇありすと呼ばれるている女の提案が耳に入る。近くの資材をあらかた取りつくしたことに気づいたらしい。体の持ち主の記憶によればこの女は頭が切れ、生存者達をまとめる司令塔になりえる。ここで殺す。

 

「あたしももう行けまーす」

 

 すかさず声を発する。同じく私たちに取り付かれた笹木と呼ばれる少女と同調して、ふぇありすと3人で遠征することに成功する。運がいい。

 

 とりとめのない会話をしながら、遠くまで来た。放棄された資材置き場を開けようとしたところで吹雪いてくる。ふぇありすが焚火を焚いた。優秀ないい女だ。だからこそ、帰らせるわけにはいかない。

 

「やばいやばい!ちょっとここでもう一回焚いていいですか?死を感じる。」

 

 移動を始めたふぇありすに声をかけて止める。火を焚きながら、笹木と目を合わせて笑う。

 ここだ。

 

 

「いた!痛い!いやぁー!やめてぇー!やめてよぉ!」

 

 斧を振る。振る。振る。振る。振る。振る。

 

 斧で殴打するたびに、ふぇありすが形を変えていく。それに伴って、悲鳴がだんだん弱くなっていく。

 

「やれやれやれ!」

 

 笹木が言いながら斧を振る。笑っている。二人で笑いながら叩きつけ続ける。

 

 気づいたら、ふぇありすは動かなくなっていた。これでふぇありすもこの雪山の仲間だ。そうだ、生存者達に嘘の報告を。

 

『ふぇありすさんがクマに襲われて死んだぁ!』

 

『ふぇありすさんがやばい!』

 

 笹木がトランシーバーで話しているところにかぶせてしまった。まずい。嘘が不自然になる。いつもならこんな失敗は……。そこまで考えた時、この体がとても動揺しているのに気づいた。震えている。よほどこの女を殺すことに忌避感があったのだろう。私の行動に影響を及ぼすほど、動揺しきっている。

 

 そうだ。これでもうお前は何があってもリゼと過ごした日常には戻れないんだよ。アンジュ・カトリーナ。

 弱れ、弱れ、弱れ……。この体はもう私のものだ。

 

 行動を邪魔された恨みを少し晴らした。

 

 応答したリゼに急いで嘘で塗り固めた報告をする。

 

 一度戻るといった私にリゼが気を付けてと言ってくれたことに何か不思議な感覚を覚えた。

 

 

 

 戻った私たちがした説明が疑われているのを感じる。正体が露見する前に離れるか?

 

 特にこの叶と呼ばれている男は鋭い。遅かれ早かれバレるだろう。どこかで殺さなければ……

 

「どこまでいくの?」

 

 資材を取りに少し遠くまで離れたところで、リゼが話しかけてくる。

 

「なんかちょっと疑われてる感だよ」

 

 冷静に考えて、私はかなり怪しまれておかしくないというのに、リゼはまるで疑っていないように言う。

 

「え、めっちゃ怖いんだけど。やばいが……」

 

 アンジュの言葉遣いで話す。リゼの笑い声に、なぜか体が軽くなったような感じがする。

 

「やばいが……。まだ離れて行動してどうにか出来たら。」

 

「うんうん」

 

 他愛もない会話が続く。どうやって生存者を殺すか考えるべきなのに、リゼとの会話になぜか意識を取られてしまって集中できない。

 

 何度も生存者達を殺してきたが、こんなこと今まで――

 

 かすかな悲鳴と銃声

 

「……すけてぇー!あぁあ!殺されるー!いやだー!」

 

 だんだん銃声と悲鳴が近づいてくる。アンジュが椎名先輩と呼んでいる奴の悲鳴だ。

 

「殺される!笹木に殺される!」

 

 今笹木の中にいる奴は後先考えずに殺意だけが先行する癖がある。いつもは何も感じないそれが、なぜか今だけは恨めしく感じた。

 

 椎名に生存者達の意識が向いている間に無言で離れる。

 

 日頃先輩と慕っていた笹木が襲ってきて、さらにその相手が特別仲の良かった椎名だったんだ、リゼもそちらに意識が向いているはず。今なら……

 

「なに?これどうなってんの?ねえアンジュ何処まで逃げんの?どうしたの?」

 

 リゼ。

 

 ここまで来て、なんで私を疑わない。私を……

 

「リゼさんこれアンジュさん多分狼ですよ!」

 

 確信しているだろう叶の声が背後で聞こえる。そうだ。リゼ、そうなんだよ。私が――

 

「嫌!もう、どうしたらいい!?追います!?」

 

 普段公務で多くの決断をしているリゼが、人に決定をゆだねている。リゼが動揺している。リゼにばれてしまった。いや、これでいい。そのはずなのに。

 

 この感覚は?今まで感じたことのないこの、体が芯から冷えるような……。

 

 

 

 

「ハァ……」

 

 少し離れることができた。息を吐く。これは生存者から離れられた安堵の息?それとも……?

 

 そこまで考えて、目の前を横切る人影に気づく。葛葉と呼ばれている男だ。吸血鬼だという。しかしこの山では力なんぞ出せない。前から一人で行動するのが癖だったようだが、今もだ!都合がいい。こいつを殺す。殺せる。殺せ!

 

 斧を叩きつける。振る。振る。振る。

 

「おいおいおい!こいつこいつ!つかさー!司ぁー!」

 

 叫びながら葛葉が倒れる。これでこいつは終わりだ。天開司が近くにいるのか?そっちも……!

 

「こっちきてこっちきて!」

 

 ひっそりと追いかけてきていた叶が葛葉の悲鳴を聞きつけて助けようと叫んでいる。

 

「あんげ!あんげ!あんげるかとりな!」

 

 前々からこの葛葉という男はどんな場面でも独特のふざけ方をすると記憶していたが、まさか斧を叩きつけられて死に向かう間際でもそうだとは!吸血鬼というものの感性は普通の生存者達とは違うようだ。ハハ。ならば私も答えてやる。

 

 そちらに意識を向けた瞬間、狙い澄ましたように叶が張った煙幕で、一寸先も見えなくなる。やられた。だが、見えなくても振る斧の先に感触がある。肉の。

 

 煙幕が晴れたところで、叶がこちらに斧を振り上げているのが分かる。斧の一撃が何発か体に当たる。だめだ。この体が使い物にならなくなる。

 

「イタイイタイ!叶さん信じて!違うんですよ!」

 

 普通の生存者なら仲間からこう言われたらこちらを攻撃できなくなる奴らもいる。ダメ元でやってみたが、叶には通用しないようだ。構わず斧を振りかぶってくる。

 

 こちらを打ち倒すより、葛葉を動けるようにすることを選んだようで、二回目の煙幕に目の前が暗くなる。だが、それでもわかる。芳醇な血の匂いと、肉の感触が。

 

「ねぇ~ちがうんすよぉ」

 

 既に意味をなさなくなった偽装をしながら斧を叩きつける。何度も。何度も。

 

 叶は不利を悟ったのか逃げていった。賢明な男だ。葛葉、お前は見捨てられたんだよ。どんな気持ちだ?

 

 流石の葛葉もこちらを恐れているらしい。こいつやばいなんて繰り返し叫んでる。

 

 ははは

 

「ハハハハ。ッハハハハハ!アッハッハハハ!ハ ハ ハ ハ ハ ハ !」

 

 そうだ。さっきこちらを恐れなかった仕返しをしてやる。

 

「はじめまして!アンジュカトリーナっていいます!よろしくお願いします!」

 

「っあ!はじめまして!ほんとにいいんですか!?初対面これで!ほんとにいいんですかね!?」

 

 この男……まだふざける余裕があるのか。

 

「いや~ほんと申し訳ないっす!」

 

 お前の長い長い命をここで終わらせて。

 

「いやでもここでね!名前を憶えて帰ってもらえたらなって思います!」

 

 お前はもうどこにも帰れないけど。

 

「アンジュ・カトリーナっていいます!」

 

 私がそう言いながら斧を振り下ろしたのを最後に、葛葉は動かなくなった。

 

 何か言ってたようだが、言い切る前にこと切れた。思わず笑いがもれる。

 

 アンジュの手が震えている。これで二人目だ。リゼはお前になんていうかな?

 

 

 

 

 

 さらに遠くまで離れて物資を探す。銃があればずっと楽になる。

 

 風の吹く音と、時折漏れる自分の吐息しか聞こえない静かな世界。

 

 そんな中で、突然懐のトランシーバーが音を発する。

 

『ねえ!狼でしょ!どこにいるの?』

 

 リゼの声だ。

 

 もう私に会っても仕方ないのに、一体どうするつもりだろう。

 

 もう見飽きるほどずっと過ごしてきた雪山なのに、知らない場所のように感じている自分に気づいて、驚く。

 

『アンジュ居場所どこやよ~』

 

 今度はリゼが慣れない笹木の真似をして通信してくる。そんなのに騙される奴なんていないよ。まったくリゼはほんとに……。

 

 ――いつもの私ではありえない思考をしていた。これはこの体の持ち主のアンジュの……だめだ。こんなことは初めてだ。こんな。よほどアンジュはリゼのことを……。

 

 もう連絡してくるな。リゼ。もうお前の声を聴いてはいけない気がする。これ以上聞いていると……。もう話しかけるんじゃない!

 

『全員殺すからよぉ……!』

 

 これでもう通話してこないだろう。そうだ。これでもう。

 

 リゼからの返事は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 物資を探していると、私の周りの空間だけが急に冷えたように感じた。まれにある。死んだ生存者の無念がそうさせるのか、不可解な妨害が。

 

「誰か死んでんなぁ。あそっか。殺したわ。ハハ」

 

 お前らは死んでる。もう何もできない。永遠にこの雪山に囚われる仲間だ。

 

 トランシーバーを使って笹木と会話をして生存者を挑発し、冷静な判断を失わせようと試みる。

 

 挑発を続けながら、誰もいなくなった山小屋に戻れば、葛葉の遺体が放置されている。アンジュの体と違って、皮だけしか変えられないが、こいつの皮をかぶれば、死ぬ間際でも余裕だった理由が少しでもわかるか?それに、この理由の分からない胸のもやもやからも逃れられるかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、皮をかぶって、残された死体の周りに罠を仕掛ける。遺体に気を取られたやさしい生存者が、ここで命尽きるように。

 

 生存者がどんなに頑張っても、もう遅い。もうじき誰も逃れられない吹雪がやってくる。もう、遅い。

 

 

 

 

 それでも、必ず皆殺しにするため笹木と合流を試みる。そう時間はかからず合流できた。しかし、出会ったとたんこちらを攻撃してきた。今笹木の中にいる奴は、よくこういう刹那的な行動をとる。騙された!なんて言ってるが、人狼がお互いを見間違うわけがない。もう放っておいても生存者を皆殺しにできると考えて、悪趣味なふざけ方をしているのだ。

 

 よし、これでもうリゼを私が殺さなくても。もしかしたらたまに存在する一人用の脱出ポッドで逃げている可能性だって……

 

 

 

 あ……。遠くから声がする。

 

リゼの声だ。

 

 こっちに向かってくる。こっちに近づいて……。

 

 殺さなきゃ。私がリゼを、殺さなきゃ。殺さないと。

 

「殺すか」

 

 銃を構えながら声がするほうに近づく。

 

 ハハ。この期に及んでまだ助け合おうなんて言って……。本当に優しい皇女様。

 

 狙って。撃つ。あっ、外した。もう一発。外れた。

 

 狙って。狙って。狙って――――

 

 あたった

 

「……ハハハ……!死んじゃったねえ!死んじゃったねえ!ハハ……」

 

 そんな言葉を発しながら、なぜか私の頬は涙でぬれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良かったところを教えてください。

  • リゼアンの親愛
  • 原作の再現度
  • 読みやすさ
  • 物悲しい感じ
  • その他


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