新・世界樹じゃない迷宮   作:激遅新世界樹1ストーリークリア兄貴

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一方そのころベル君は…

少年の感情は如何に変わっていくのか、たとえ歩む道は少し違えど少年は英雄であることを望む


幕間 とある(少年)の願望

こんなの聞いてない、どうして、誰が、何のために…

 

楽しいお祭りだった。神様と会ってクレープを食べたり、ジャガ丸くんのオススメの味を教えてもらったり。そんな中だ。あのモンスターが現れたのは…

 

「神様!逃げますよ!」

「なんなんだいあいつ!ボクとベル君の邪魔をするんじゃなーい!」

「神様、そんなこと言ってる場合ですか!?」

 

とにかく逃げることしかできなかった、神様をお姫様抱っこで持ち上げて僕は走り出す。まるで何かに取り憑かれたかのように僕たちを追いかけてくる大猿、確かシルバーバックというモンスターだ。純粋な身体能力や破壊力で叩き潰してくるタイプだが、誰かを集中的に、いや妄執するようにして追いかけてくるというモンスターではなかったはず。神様がいる以上下手に戦うこともできない。それに怖いのだ。強者からの純粋な殺意はとにかく怖いのだ。

路地裏へと入り込む。しかし、路地を形成する家々を破壊しながらシルバーバックは僕たちの後をまるで猟犬のように追いかけてくる。走って逃げた先は、ダイダロス通り(地上の人工迷路)!?くっ、でもここに入るしか道はない。

このまま逃げていても何もできない。しかし、今日は武器を持ってきていない。たとえ何かするにしたって得物が無いのは心許ない。僕に奴を倒すことができるだろうか。答えのない自問を路地を曲がりながら繰り返す。

 

逃げた先に広場がある一本道に出る。走り続けた身体は休息を求めてやまない。体を隠せるかわからないが、遮蔽物となる石の板がある。そこの裏に隠れると大きく息をついて深呼吸をする。一時的に撒くことができたが、見つかるのも時間の問題だろう。

 

もう逃げられない、残る道はやるかやられるか。いや、僕が囮になってその間に神様に逃げてもらえばいい。そうすれば神様は助かる。

 

本当にそれでいいのだろうか

 

良いわけがない…僕は何をするためにこの(オラリオ)に来たんだ?強くなるため?女の子と出会うため?爺ちゃんの遺言に従って来ただけ?

 

違う…強くなりたい、けど根本的なことではない。

違う…女の子と素敵な出会いをしたい、素敵な出会い方ではなかったが果たすことはできたし、もっといろんな人に会ってみたい。

違う…遺言に従っただけ?でも爺ちゃんの夢は受け継いであげたい。

 

ならば何を為すためにここへ来た?

 

それは、

 

 

英雄になりたいから

 

小さい頃から変わらない、御伽話の英雄たちに憧れたから

その物語たちに憧れてしまったから!

 

だから逃げない

 

臆病にならないって決めたんだ、あの人(憧れ)に追いつきたい。隣で一緒に戦いたい。あの人(英雄)の片鱗を見せつけられた。でも諦められない。

 

 

覚悟は決まったかい?

 

 

「神様、ステータスの更新をお願いします」

「ベル君、何を、するつもりなんだい?」

「僕があいつを倒します。ですから少しでも勝つための可能性が欲しいんです」

「でも、ベルくんが戦う必要なんて無い。逃げ回って他の冒険者に助けてもらえば…」

「ダメなんです神様、それじゃダメなんです。僕は英雄になりたいんです、ここで逃げてしまったらもう追いつけなくなってしまう気がするんです、あの人(憧れ)に!」

 

神様は少し悲しそうな表情をしていた。でもそれはうつむいて影に隠れてしまう。ただ一言、頼んだよ、と。

背中が熱くなる感覚、ステータスを更新した時の感覚。強くなったのだろうか?いや、そんなことはどうでも良いんだ。あいつを倒して僕は神様と生きて拠点(ホーム)に帰る。それだけを考えろ。

あいつを倒すために全力で観察しろ、力を振り絞れ、神様に傷一つ付けさせるな、何があっても倒す、それだけを考えろ。

 

「ベルくん、最後にこれを渡しておくよ」

「神様これって!」

「うん、君が求めていた新しい武器、その名も《ヘスティア・ナイフ》!」

「ヘスティア・ナイフ……ふふっ」

「あー、笑ったなベル君!まったくもう…

 

ねぇ、ベル君」

 

神様はヘスティア・ナイフを渡してくれた。ついつい、神様の名前がそのまま武器の名前になっていて笑ってしまった。神様は僕にプンプンと怒って、そして覚悟を決めた表情を見せた。

 

「僕たちは一蓮托生だ。ここで死んじゃったらハイランダー君は1人になってしまう。この戦い、絶対に負けられない。わかってるね」

「はい、神様」

「絶対に死なないでくれよ、僕はベル君が死ぬ姿なんて見たくないし、死んでほしくない。家族(ファミリア)に悲しい思いはしてほしくない。だから…」

 

「絶対に勝ってくるんだぞ、ベル君!ボクは信じてるから、絶対にベル君なら勝てるって!!」

 

「はい、神様!」

 

 

大猿(シルバーバック)の咆哮がダイダロス通りに響き渡った

 

 

ズシン、ズシンと石畳を踏み歩き、ダイダロス通りが文字通り揺れる。神様を追いかけて来たシルバーバックは、僕の目の前に現れた。大きく咆哮を上げる。瞬間、僕のトラウマ(ミノタウロス)が幻覚を作る。だけど、負けないって決めた。だから僕は吼えた。

 

「ウオオォォォ!」

 

幻覚をはらい飛ばして、シルバーバックに向かって走り出す。ヘスティア・ナイフはよく手に馴染んでいた。まるで僕の手に収まることが役目だと言わんばかりに、それがさらに背中を押してくれた。振り下ろされる拳をサイドステップで回避する。一撃でも食らったら防具をつけていない僕なら、きっと動けなくなる。だから、慎重に、でも攻めるときは攻める。

地面に叩きつけられた拳にヘスティア・ナイフを一振り通す。硬いけど切り裂けないわけじゃない!切りつけた腕を振り払ってくる。あえて、シルバーバックの懐に突っ込む。それによって振り払いを避けてシルバーバックの腹を切りつける。先ほどより手応えの鈍い感触に表情が歪むが、気にせずに股下を通り抜け背後を取る。当然シルバーバックも振り返ってくる。今度は鷲掴みしようと両腕を交互に振り回す。一回一回をバックステップで躱す。避けられていることにイラついたのか両手を組んでこちらへと飛びかかり、地面へと腕を叩きつけた。腕を叩きつけられた石畳はバラバラに砕け、それをギリギリで回避するが叩きつけた衝撃波で吹き飛ばされる。

態勢を維持したままなんとか着地するが、目の前にはイノシシのように突撃してくるシルバーバックがいた。

怖くない!怖くない!

見えた、四肢の隙間を通り抜ける!

全力で地面を蹴り飛ばしスライディング、シルバーバックの中心線をなぞるようにヘスティア・ナイフを突き立てながら石畳の上を滑る。

熱い熱い!

摩擦熱でお尻が焼けそうになるけど我慢する。ヘスティア・ナイフはシルバーバックと僕の勢いが交差して胸から股の間に一筋の傷を刻みつけた。傷からは少なからず血が吹き出し、地面を濡らす。しかし、シルバーバックはまるで何事もなかったかのように立ち上がると、さっきよりも大きな声で吼えた。耳が痛い。

 

このままじゃジリ貧だ、こっちが大ダメージを与えれないと体力切れや不意打ちで倒される。腕?いや、ナイフの刃では切り裂けない。足?腕と同じだ、脚の腱を切るにしても効果が現れる頃にはこっちがヘトヘトだ。なら頭?無理だ、頭は頭蓋骨に守られてる。ヘスティア・ナイフでも脳まで到達させれる可能性は低い。なら、胸…一番リスキーだけど希望は見えてる。シルバーバックについた傷から更に胸にあるはずの魔石にナイフをねじ込んで、仕留める。なんとか勢いをつけられればきっと突き立てられるはず。この狭い空間の中でどうやって…

 

思考を遮るようにシルバーバックの攻撃が始まる。さっきよりも力が入ってるのか振るわれる腕は速度を上げていた。それを何度も何度も薙ぎ払うように振り回す。その分一回一回の攻撃には隙ができる。でも致命的な一撃を入れるための隙はまだ生まれない。

探せ、探せ、探せ!どこかにあるはず、この状況を一変させる何かが、あいつを倒すためのヒントが!

 

あった、ひとつだけ。人型である以上欠かせない弱点、そこさえ突ければ!

 

一度シルバーバックに背を向けて走りだす。突然の逃走にシルバーバックは、大きく飛び掛ることで逃さないように距離を一気に詰める。あと少しで潰される、そんなギリギリのところでベルは大きく前転をして、それを何とか回避する。シルバーバックは砂埃を立てて地面に衝突するがそんなものじゃ死にはしない。すぐさま姿勢を起こし砂埃を払うために一度大きく腕を振るう。砂埃が風に煽られ搔き消えるとシルバーバックの目の前にはベルの姿はなく、自分が叩きつけたことで陥没した地面があるのみ。ベルがどこにいるか首を回して探すとあっさりと見つかった。シルバーバックは、見つかった瞬間にこちらへと飛び込んでくるかのように方向転換したベルを嗤った。迎撃と今までのお返しと言わんばかりに大きく腕を引きしぼり、矮小な人間へ向けて叩きつようとした。しかし、叩きつける直前シルバーバックの目の中に異物が入り込む。砂だ、叩き砕いた石から細かくなった砂や石の粒を目に叩きつけられたのだ。シルバーバックは遮二無二構わず拳を振り下ろすと、拳には石を砕く感触しかなく、シルバーバックにとって矮小で自分の邪魔をする人間の叫び声が聞こえたとき、ときすでに遅くーー

 

 

拳を外した!いける!

ベルは叩きつけられる拳の軌道を見て石と砂の粒を投げながら大きく飛んだ。そして、ベルを殴り飛ばすことが叶わなかった右腕を、ベルは大きく踏み抜いて胸へと直線上に飛び出した。

 

ーー「イッケェェェェェェ!!!」

 

ヘスティア・ナイフはシルバーバックに刻んだ傷へ一直線に突き刺さる。筋肉はまるで頑丈な木材に突き立てたかのような硬い感触、だが切っ先が筋肉の壁を貫通したとき、ピシリと、ナニカがひび割れた感覚を経てーーベルにだけナイフを伝わってきたパリンと砕ける音ーー大猿(シルバーバック)は弾けるようにして塵へと変わり、空の彼方へ舞い上がっていった。

 

 

 

 

 

その後のことは記憶がおぼろげだった。近づいてくる神様、泣きながら僕のことを抱きしめると僕は糸が切れた人形のように倒れてしまう。ただ、

 

「頑張ったね、ベル君!君はボクにとっての英雄さ!!」

 

そんな神様の泣きじゃくった声だけを聞いて僕の意識は深く深く沈んでいった。




固有名詞が多すぎて一文が長くなってしまう。

さて、英雄の片鱗、いったい彼は誰の背中を追いかけているのだろう。
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