新・世界樹じゃない迷宮 作:激遅新世界樹1ストーリークリア兄貴
君の新たな得物は、次の朝にはベルとの打ち合いに利用されていた。
お互いほぼゼロ距離での戦闘。鉄と鉄、肉体と肉体のぶつかる音が何度も何度も二人の耳を通り抜ける。まるで演舞のように振るわれる一撃一撃は、ベルの攻撃を相殺するように合わせられている。君は自分のステータスを存分に利用して、ベルの攻撃を捌いては反撃の一発を的確に打ち込むことに集中している。ベルも無闇矢鱈に殴りかかっているわけではなく、前日より複雑なパターンの攻撃を織り込んでいる。ナイフを袈裟切りに振るい返しの刃で突き刺すように踏み込む。後ろ足で蹴り上げるとその足を踏み込みに使い空いてる手で掌底を放つ。体を下に落とし足払いをする。その回転の勢いで横一文字にナイフを全力で振るう。至近距離から相手を離れさせないように詰めていく戦い方をするベルを、君は一手一手を払い、流し、躱し、打ち合い、防ぐ。だが、ベルのスピードは上がっていっておりそろそろ防ぐのも厳しいところだ。それほどベルの成長は著しいものであるともいる。かみさまが隠したがるわけだと、秘密の理由を何となく理解した君だった。
かみさまが今日は君に付き合って欲しいことがあるらしく、ベル一人でバベルへと向かっていった。君はかみさまにステータスを更新してもらったがレベルに変化はなく、それ以外にも変わったところはなかった。
「さて、ハイランダーくんに残ってもらったのは他でもない。君にボクの
君とかみさまの二人がやってきたのは少し古びた一軒家。ドアを開けるとチャランチャランと来客の知らせを告げる音がなる。
「いらっしゃいませ、ってヘスティア様でしたか。ミアハ様なら奥で調合をしていますのでお呼びしましょうか?」
「おお、ナァーザくんこんにちわ。今日はミアハに用があるからね、お願いするよ」
「わかりました、それとそちらの方は?」
「ふっふーん、聞いて驚け!ボクのファミリアに新しく入ってくれたハイランダーくんだ!!」
「それは良かったですねヘスティア様、では私はミアハ様をお呼びしますのd、ムギュ」
ナァーザと呼ばれた犬耳の少女はヘスティアの自慢話を軽く流すと、店の奥に行こうとしてちょうど誰かとぶつかったようだ。顔を胸に突っ込むようにしてぶつかったため小さなうめき声が口から漏れた。
「おぉ、すまないナァーザ。なにやら表が騒がしいからきてみればヘスティアではないか。それと君が先ほどヘスティアが言っていたハイランダーくんだね。私はミアハ。ヘスティアと同じく零細ファミリアの主神をしている。ヘスティアとは零細ファミリア同士の繋がりで良くさせてもらっているよ」
「ほら、ハイランダーくんも挨拶するんだ」
君はかみさまに促されて軽くお辞儀をして、名前、歳、使う得物を話していく。淡々と必用なことだけを言う。君はあまり話すことが得意ではない。それ以上話すことなく自己紹介が終了した。
「そうだ、お近づきの印にこれをあげよう。遠慮はしなくていい。この零細ファミリアを今後も利用してくれればそれでいいのだ」
「ミアハ様また勝手にポーションを無料で配布しないでください。ただでさえ数少ない売り物の一つなんですから、また赤字で食い詰めるのは嫌ですよ、私」
「しかしだなナァーザ、隣人に良くせよと言う言葉もある。いつか私たちに帰ってくるはずさ」
「それがいつになるかもわからないし帰ってくるかもわからないんですから言ってるんです。
すみません、変なところをお見せして」
君は金欠で装備もアイテムも買えなかった時のことを思い出す。あの時はどうやってやりくりしていたのだったか?ただ、金欠の辛さを知っている君は、こちらが金欠にならない程度になら利用することを約束した。
「ほら、ナァーザ。彼もそう言っていることだしそんはなかっただろう」
「いや、明らかに同情の類ですよこれは。ですが、そう言ってくれるならじゃんじゃん買っていってもらって、黒字に貢献してもらいましょう」
少し腹黒いセリフが聞こえてきたが、そんなこんなで一つ目の挨拶回りは終わりを迎えたのだった。
「やあ、タケ!久しぶりだね!」
「む?おう、ヘスティアか、久しいな!」
続いてはタケミカヅチ・ファミリアへやってきた。どうやら、冒険に出かけているようで団員たちはいないようだ。今は中に入れてもらっていて、君たちは東国のお茶をご馳走になっている。君は昔同業者からこういったものがある国があると、聞いたことがある。趣のある
「それで、そなたがヘスティアの新しい家族か」
「そうなんだよ、ハイランダーくんって言ってね。ちょっと抜けてるところもあるけれど優しくて、強いんだぜ!」
「そうか、ならいずれはうちのファミリアと合同でダンジョンに挑むことがあるかもしれないな。その時はよろしく頼むよ」
君は差し出された右手を握り返すと、タケミカヅチとしっかり視線を合わせた。
「いい目をしている、良き戦士なのは間違いないようだ。これなら俺の家族も安心して預けられるよ」
どうやらお墨付きを貰えたようだ。その後はかみさまとタケミカヅチがいくつか世間話をして、二つ目の挨拶回りは終わったのだった。
君たちは昼時を回ってお腹が空いたことを感じると、軽いものを腹に詰めてからヘファイストス・ファミリアの
「ヘファイストス〜、居るかーい?」
「居るかーい、じゃないわよ。あんたこんなところでなにやってんのよ?」
「バイトのシフトにはまだ余裕があるからね、サボってるわけじゃないよ!
ウォッホン、今日はボクの新しい家族を紹介しにきたんだ。ベルくんの時は余裕がなかったから行けなかったけど、最近ファミリアの懐事情も良くなってきたからね!」
「へぇ、なら借金は早く返せそ「シッ、シー!」…ヘスティア?…まさかあんた自分たちの
「え、えぇ〜、いや〜、そそんなことはないよ、うん!」
「はぁ…で、早く紹介してくれないかしら。一応私だって暇じゃないのよ」
「うっ、うんそうだね。この子がボクの新しい家族、ハイランダーくんだ!」
君はかみさまとヘファイストスの問答を後ろで見て居ると、矛先がこちらへ変わったことを察してミアハのところでやった時と同じように挨拶をする。しかし、返事は返ってこず、視界にいるヘファイストスは君の名前を繰り返し呟き、何かを思い出そうとしていた。
「ハイランダー…あぁ、あなたがシャルネルが言ってた子だったのね。へぇ、ヘスティアのところの眷属とは驚いたものね。
あなたには感謝しているわ。あの子の自信を取り戻すきっかけになってくれたんだってね?あの子、アマゾネスにしては珍しく鍛治をしたいって言ってくれた子でね。才能はあったんだけど根も葉もない噂話に尾ひれがついてね。最初は大丈夫そうだったんだけど、だんだん元気をなくしていって、前は困ってたら相談しにきてくれてたんだけど、急に来なくなっちゃって。それで心配だったんだけど少し前にすごい嬉しそうな顔で私に、
君はヘファイストスからの感謝と提案を受け取った。しかし、答えは変わらないのだ。自分が使いたいと思うようなモノを作ってくれれば、そうすればまた彼女の店にに来たいと思う。そして、彼女の作品を買いたいと思う。だから確約はできない。そう伝えるとヘファイストスはクスクスと笑って嬉しそうに微笑む。
「鍛治士にケンカを売るようなことを言ってくれるわね。でも、嬉しい言葉だよ。
あの子も厄介な相手を魅入っちゃったものね」
最後の言葉は聞き取れなかったが、慈母のような雰囲気を醸し出すヘファイストスに声をかけることはできなかった。
「いい話だな〜」
かみさまは空気となって君とヘファイストスの会話に涙を流していた。そして、ヘファイストスとの会話でシフトの時間が過ぎていたことに気がつかず、ヘファイストスに追い出されるようにして拠点を出ると、顔を青くしてバベルへと走っていくのだった。