新・世界樹じゃない迷宮   作:激遅新世界樹1ストーリークリア兄貴

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※このタイトルのBGMはございません


鉄華 死線王道

君は逃げ出してもいいし、かの強敵に挑んでもいい。

 

逃走は決して恥ずかしいものでは無い。仲間がいない君は無謀に戦う必要はないのだ。君は知っているだろう。迷宮を闊歩する彼らは君たちと同じように歩むことを。今ならまだ逃げ出すことも可能だろう。

しかし、この魔物を残した場合、見知らぬ誰かが犠牲になる可能性もある。冒険者は死と隣り合わせだ。確かに今の君より強い冒険者は何百といるだろう。果たしてその者たちが犠牲を生む前にこの魔物を討伐する可能性は絶対とは言えるか。答えは否だろう。

故に君は覚悟と無謀を手に戦いへ挑んでも良いのだ。

 

 

さあ

 

選択の時間だ

 

 

逃走か

闘争か

 

 

 

君は相棒(アルケス)を握りしめ

 

その足を一歩

 

 

 

 

 

前へ(・・)と踏み出した

 

 

 

戦闘する意思があるとみた角鹿は、大きく前足を振り上げて嘶くと、君へと突進してくる。

 

勢いのついた突撃を君は最小限のステップで回避する。走り抜けた角鹿はそのまま距離を取り、槍の攻撃範囲から離れる。追撃を許さない立ち回りは、ジリ貧の戦いになることを君に叩きつける。ならばと君はもう一度突撃してきた角鹿に向けて槍を構える。接触まであと数秒というところで、君は居合のごとくすれ違いざまに力を込めた一撃(ロングスラスト)を放つ。堅いものに突き刺した感触が手に残るが、角鹿の胴体にはわずかながら血が滲んでいた。しかし、角鹿の方は気にも留めないようだ。ダメージを受けたという感覚はないのかもしれない。

 

3度目の突撃、しかし突撃の途中で鹿は足に力を込めて君の目の前で静止、そしてその凶器(大角)を君に向けて掬い上げるように振り上げた。うまく仰け反ることで君はその凶悪な一撃を回避するが、角鹿は追撃に振り上げた体をそのまま振り下ろした。君は仰け反った体の勢いを使い地面を足蹴にするとバク転でなんとか回避をし、着地と同時に曲げた足をバネにして鹿へと一気に距離を詰めた。勢いの乗った一撃が鹿の眼前に迫るが、鹿は自慢の大角で槍の穂先と鍔迫り合う。勢いの止まった槍、頰を流れる汗を自覚した君の目には、ニヤリと目を細めた赤い瞳が映っていた。

 

怪物の力を余すことなく使い角鹿は君を一歩ずつ確実に押し込んでいく。力負けを理解し、君は力の方向を後ろへと変え槍を引き抜きながら一歩引いた。そして、今度は威力を重視するのではなく速さで隙をつくために何度も槍を突き出した。角鹿は力の抵抗がなくなり一瞬前のめりになるが、すぐに迫った槍の穂先をまたも大角でいなす。二撃三撃四撃と何度槍を放とうともその状態は揺るがず、果たして隙を晒したのは君であった。

 

放った一撃を大きく弾くことで体を仰け反らされた君は、大角の振り払いに対応することができずまともにその一撃を受けてしまった。突き上げるようにして繰り出された大角の一撃は君を大きく大きく跳ね飛ばし、君は強かに地面に打ち付けられた。二度の大きな衝撃、三半規管は揺れに揺れ内臓は悲鳴をあげて君の脳に警告をする。口からは血を吐き出し、意識が薄れる。しかし、何とか意識を取り戻すと無理やりに体を動かして無様ながら転がるようにして、角鹿は君の居た場所を踏み抜いていった。

 

角鹿は離れた位置で君のことを観察する。強烈な一撃を受け、無様に地面を転がってもなお生き残ろうとする。

角鹿には余裕があった。

這々の体の君を見て、慢心した。

力比べに押し勝った時、愉悦し顔を歪ませた。

だから角鹿は遊ぶことにしたのだ。

 

相棒(アルケス)を杖にして君は揺れる頭を抑えて立ち上がる。何度も息をこぼし口の端を流れる血には気にも留めない。まだ立てる、まだ生きてる、ならまだ戦える。君はなんとか戦闘姿勢に体を直すと、何故かその場に留まり続けている角鹿へと視線を向ける。君が立ち上がったことで鹿も行動に出る、しかしそれは奇怪のものだった。

 

角鹿は踊り出した(・・・・・)

 

全身を使い君を煽るように、君など敵ではないと、踊る余裕すらあると言わんばかりに踊っている。君はそれがなんなのかを知っていた。しかし、それを回避するための気力が残っていなかったのだ。

 

意識が希薄になる。

視界がブレる。

本能が叫ぶ。

敵を倒せ、敵を殺せ、理性など意味がない。

 

視界が赤く染まり、体の痛みを脳が弾き出す。

 

この鹿が、狂乱の角鹿と呼ばれる所以はこの奇妙なステップだ。四本足によって繰り出される舞は、冒険者たちの意識や理性への直接的な働きによって相手を混乱させ同士討ちさせたり、力任せな戦い方を強制させ技を使わせないようにするのだ。それ故に何十何百の初心者冒険者たちがこの角鹿によって叩き潰されたことは、記録に残されているほどだ。

つまり、仲間がいない今の君にとってこの状態は危険でしかないのだ。いや、絶体絶命といっても過言ではない。状態異常を治す医者(メディック)もいなければ、相手の攻撃をかばってくれる頼もしい騎士(パラディン)もいない。

 

ダメージや三半規管の揺れによって体をうまく動かすことができない。角鹿は君を挑発するために君の周囲で踊っている。君はむき出しにされた殺意に従い鹿に襲いかかろうとするが、しかして叶うことなくうずくまることしかできない。

絶望的な状況。

動くことができない体。

剥ぎ取られた理性。

 

 

残念だが、君の冒険はここで…

 

 

 

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