新・世界樹じゃない迷宮 作:激遅新世界樹1ストーリークリア兄貴
君とシャルネルが作業スペースから出ると、一部の客は下世話な笑みを浮かべていた。何だこいつと思い、しかし周囲を見渡すとニコニコと微笑む客や出入り口で野次馬の壁を作る冒険者たちが君たちをみていたのだ。
すると瞬間、シャルネルの顔は姫リンゴの様に紅く染め上がり、カウンターにしゃがみ込んでしまう。ぷるぷると震えながら耳を真っ赤にして、小動物の様に縮こまってしまった。
君は何食わぬ顔でカウンターから出ると、下世話な笑みを浮かべていた客の冒険者に声をかけられる。
「ヒュー、お熱いねぇ〜。店の外まで聴こえる痴話喧嘩をするたぁな〜。しかも何食わぬ顔で出てくるとはなかなかに肝も座ってるじゃねえか」
君は何が痴話喧嘩だったのか分からず、聞き返した。
「おいおい、あれだけ騒いでおいて『何だ』はねぇだろうよぉ〜。どうやって
君は落とした、と言われてもよく分からなかった。ただ、シャルネルの武具を買い、そして先ほど契約とやらをしてきた、と答える。
「マジか!?ってーと、お前が噂の物好きか!前に見た時と服が変わってたからすぐに気づかなかったぜ。
まっ、俺もその物好きの一人なんだけどな!」
「物好き?」
「あぁ?ここ最近はテメェの噂で持ちきりだったぜ?アマゾネスが打った武具を買った物好きが居るってな。しかも、
安く売られていた?君はそれがどう言うことか問いただすだろう。
「おいおい、そんな事も知らねぇのかよ…お前もしかしてルーキーか?そんな雰囲気の癖して。まあ良い、軽く教えてやるよ」
四ヶ月くらい前か、ここにあの嬢ちゃんが店を出したんだ。ヘファイストスファミリアの一部のヤツしかテナントが出せねぇこのバベルでだ。ーー新人の作品は店に置かせてもらえるかも分からん場所にだぞ?ーー最初は物好きなアマゾネスが店を出したって見物しにきたヤツが多かった。ヘファイストスの気が狂ったなんて、冗談言う奴もいたな。なんせ、戦うことだけが脳のアマゾネスが武具を打つんだ。しかも、テナントを出すくらいだ。そりゃ初めは気が狂ったと思うだろうよ。俺だって鉄の打ちすぎで頭の中まで竈の熱にやられちまったか?って思ったさ。
だが、どの作品も一級品だ。しかもアマゾネスはだいたい喧嘩っ早い脳筋なやつばかりだが、あの子は違ったんだ。丁寧な対応で接客するし、置いてあるヤツについて聞くとこれまた饒舌に喋るんだ。珍しいヤツがいたもんだと思ったぜ。しかし、いかんせんヘファイストス製の武具ってのは高いんだ。剣一本で百何万ヴァリスも値がするモンばっかだ。ここも、最初は数十万で売ってたんだがな、アマゾネスが打ったって評判もあって中々買うやつは出なかった。ーー俺か?俺は良いと思うもんがあったがそん時に金がなくてなーー
開店から1ヶ月くらいか、作品を買う奴は現れなかったが懸命に商売をしてる嬢ちゃんのファンになった奴は少なからずいた。しかし、そんな物好きどもは生憎金がなくて手をこまねいてたところにだ、あのクソ野郎が来やがった。
あのクソ野郎、あの嬢ちゃんに何度も汚ねぇ言葉をかけやがって、終いにゃ歓楽街で待ってるだのほざきやがった!!しかも、何回もここに来ては俺の女になれだの、アマゾネスなんかが武具を打てるわけがねぇだの言いやがる。流石の俺もたまたま通りがかって目の前で聞いた時は、頭の血管がぶち切れるかと思ったぜ。だが、ここはバベル。ギルドの庭だ。ここで騒ぎを起こすと、嬢ちゃんの店の印象も悪くなるし、俺もここを使えなくなっちまう。だから、その場は引いたさ。だけど、日に日に元気が無くなってく嬢ちゃんを見て、俺を含め何人かの男どもが立ち上がったのよ。ダンジョン内では何があっても見過ごされる、それが暗黙の了解だ。まあ、あからさまなのは流石に報告されるが…
あいつが付き纏い始めて二週間が経たねぇくらいの時に決行した。あいつはレベル2冒険者だったらしいが、こちとらレベル3冒険者よ。ダンジョンに潜って何階層か進んだところを、拉致って18階まで連れてって口が聞けねぇくらいにボコボコにしてやって、二度とこの店に近づくんじゃねぇ、って脅してやったら尻尾巻いてリヴィラの街まで逃げちまったよ。ま、それ以降この店に顔をださねぇってこたぁ律儀に聞いてるみたいだがな。
しかし、あのクソ野郎が貶めた評判はそうそう取り戻せやしなかった。店の中には誰も入りやしねぇし、遠目からコソコソと広がっちまった噂話をしてやがる。しかも間が悪いことに、嬢ちゃんが商品の値段を落としちまったんだ。自分の打った商品に自信がないって言ったのも同然なんだよ。そのせいであらぬ噂に尾鰭が付いて、それがどんどん人を遠ざけた。最初は俺が商品を買って宣伝でもしようかと思ったが、あのクソ野郎をボコるのに使ったアイテムや顔を隠す装備で金がまた無くなってな…ーーおい、バカを見る様な目でみんじゃねぇ!真面目に話してんだよこっちは!ーー商品も買えず、何ヶ月かがすぎた。その間に値段は更に安くなったが、そんな状態の商品を買っちまって良いのか、それが嬢ちゃんのためになるのかって考えちまってな。手を出し兼ねてたところに、お前さんが来たってわけだ。
最初はちょっとやれそうなヤツと、明らかに新入りって感じのガキが店に入ってくもんだから、何かやったらボコしてやるって思ったさ。そしたら、嬢ちゃんが身の上話をしてるのを無視して、店の商品をひょいひょい選んでカウンターに持ってくじゃねえか。コイツ嬢ちゃんがどれだけ辛い思いをして何があったか話してる最中にと思ったら、買うって言うじゃねぇか。テメェさては安くなったところを狙いに来たハイエナ野郎だな、って思ったんだがよ、真剣に嬢ちゃんとカウンターに置かれた武具をみやがるんだ。コイツはマジで嬢ちゃんの店を選んで買いに来やがったんだ、って一瞬でわかった。
そっからはお前さんが見たまま聞いたままよ。嬢ちゃんの店の評判はゆっくりとだが回復していったし、値段も…ホレそこの剣は30万ヴァリスだ。自信を取り戻した嬢ちゃんは値段を適正なものに戻してった。
お前さんが一番最初に買った槍は、嬢ちゃんが初めて店に並べた槍だ。嬢ちゃんもそれがあって安く売ったんだろうな。
「と、まあこんな感じよ。
お前さんのおかげで俺はこの店で堂々と買い物ができるし、嬢ちゃんの笑顔も見れた。
感謝してんだぜ、勝手だけどな」
語り終えた山賊の様な少し悪人面なおっさんは、キミへ感謝告げると商品を手に取る。カウンターに向かう前にキミは話してくれたことに対して礼を言う。そして名前を聞こうとするが、
「俺はお前さんの名前を知らねぇし、お前さんも俺の名前を知らねぇ。そんなんで良いんだよ、冒険者なんてのはよ」
そう言って彼はカウンターへと向かった。カウンターにはしゃがみ込んでいたシャルネルがまだ頬に赤みを残し、恥ずかしげな表情で立っていた。
「ぁ…ぁのぉ…」
「?…あっ!買っていってくれるんですか?」
「(コクン)」
「ありがとうございます!こちら、30万ヴァリスになります。もし、振った際に違和感を感じたら当店まで来てください。無料で調整など行いますので!」
「ぁ…あり…が…とぅ」
「ハイ!またいらしてくださいね!」
おっさんは、シャイボーイだった。
おっさん
老け顔でちょいと年上に見られがちな28歳
レベル3冒険者
シャルネル商店のファン一号
どっかの中堅ファミリア所属の冒険者
同性や、同年代以上か親しい間柄の女性などと話す時は気兼ねなく話すのだが、年下の可愛い女の子と話すとなると途端にコミュ力が落ちる。
メイン武器は両手持ちの
普段は仲間と迷宮に潜ってるが最近はバベルのシャルネルの店に入り浸ってる。
適正な値段で武器を買えて満足だが、買う時の姿を仲間に見られてファミリアで一時それをネタに揶揄われていた。