【二次創作】 after Rance X-決戦-   作:むさん

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突然の接近

自由都市地帯カスタム西部-ナジャコリャ村-近郊

 

 ぱかーん

 薪が真っ二つに割れる音が、小気味よく響く。

 

「ふぅ、やっと一息つけるぜ」

 

 肩にかけたタオルで額の汗をぬぐいながら、切り株にどかっと腰掛ける。

 

 彼の名はボルドン。

 ナジャコリャ村一の力持ちであり、力仕事担当であり、村の雑用係であった。

 

「ったく、かつての傭兵が、今じゃ村の力持ちおじさんなんて、笑えるぜ」

 

 先の大戦で、多くの命が失われるだけでなく、民の生活を奪っていった。ボルドンもその影響を受けた一人だった。

 もとは一人の傭兵として、魔物と戦っていたが、所属していた隊は壊滅。決して軽くない傷を負った彼が、命がけでにげた先がこのナジャコリャ村だった。決して裕福な村ではなく、村民は少ないが、食っていける程には土地が肥沃で、運よく魔物から襲われずに済んだ場所の一つだった。

 

 そんな村の近くに来たところでボルドンは力尽きてしまった。暫く経ってボルドンが意識を失っているところを、村人に介抱され、目覚めたのは三日後だった。

 

 最初はリハビリを兼ねて、恩を返すために手伝いをしていたボルドンであったが、ナジャコリャ村の居心地の良さにずるずると引きずられ、今日に至る。

 

 奇妙なめぐりあわせだ。と息をつきながら、ボルドンは胸の中で呟いた。

 

「それにしても、アレクの奴おせぇな。薪割さぼる口実じゃないだろうな」

 

 と、言い切らないうちに、遠くから声が。とてもとてもちいさな声が、ボルドンには聞こえた気がした。

 

「なんだぁ?」

 

 そういいながら声のするほうへ。森を抜けて平地へ出た。日の光をさえぎるものがない平地で、ボルドンは、その眩しさに目を細めながら、そこへ出た。

 

「ボルドンさぁぁぁぁん……!」

 

 眩しさによって視界がぼやけるが、どうやら人がこちらに向かっている様子を確認できた。そして先ほどよりかは、はっきりとその声をとらえることができた。その声の主は……

 

「あいつ、アレクじゃねぇか。何をそんな必死な顔で……」

 

 のんきそうな顔と声色でボルドンはそう言った。

 しかし、そんな顔をしていられたのは数秒で、ボルドンはたちまち顔を真っ青にし、さらに顔をアレク以上に強張らせた。

 

「お、お前! なんてもんつれてきとんじゃー!」

 

 思わず大口を開けて大声をあげてしまったボルドンの視線の先には、こちらへ走ってくるアレクと――それを追うパワーゴリラの群れがいた。

 

 

 

 

 時間をさかのぼること1時間。

 

 平地を抜けた先にある、緩やかな勾配をひぃひぃ息を切らしながら歩く男がいた。彼の名はアレク、赤い目と紅い髪が印象的な青年だった。

 

「ふぅ、ふぅ。 いまどのくらいまで来たのかなぁ」

 

 ボルドンに頼まれ、一人高地に行くことを命じられた彼は、キノコ狩りに来ていた。数少ないナジャコリャ村の特産品であるキノコを採って来いと命じられたことは、彼にとって誇らしいことだったようで。

 

「いよいよ、ついにぼくも認められるときがきたのかもしれないぞ。わくわく」

 

 リュックを担ぐ手に力を込めながらアレクはそう言った

 賢いわけでなく、剣を降らせてもダメ、そして何かとトラブルを舞い込む原因になっている彼は、ぐらぐらの自尊心を建て直すために、張り切っている。

 

 そうして一歩一歩歩みを進めていると、ひらけた場所にたどり着いた。

 

「おやや? ここであっているのかな」

 

 きょろきょろと首を振り、顎に手を当て首をかしげる。

 話に聞いていた場所は、斜面を抜けた先の林。しかし、ここはどうも鬱蒼としていて、なんとなくじっとりとした雰囲気だった。よくわからないぎゃあぎゃあとなにかが鳴くばかりで、後はしーんとしていた。

 

 なんか違うような、そんなことが頭をよぎった刹那の後、アレクは目の前にポコポコと生えているキノコを見つけてしまったために、先ほど考えていたことはすべて忘れてしまった……。

 

「大漁じゃ―! 大量じゃー!」

 

 るんるんとした足取りで拾ってはしまい拾ってはしまいを繰り返す。

 

「ふふふ、とりすぎだとボルドンさんに怒られてしまうかもしれないぞ」

 

 呑気にそんなことをつぶやくアレクは、リュックがぱんっぱんになったことに気づいた。そろそろ切り上げようか。そう考えながら、顔を上げて、気づいてしまった。

 

 大きな口に大きな牙。そして湿った生臭い息。

 

 あ

 

 とアレクが声を上げるより早く目の前のそれが、大きく息を吸って、渾身の咆哮を上げた。

 

「ぎょわあああ!?」

 

 と、アレクは声を上げたつもりだったが、至近距離の咆哮に聴覚が犯されたために、自分の声が聞こえなかった。恐怖が全身を犯していながらも、脳の妙に冷静な部分が、不思議だな、と感じているのが、さらに不思議に感じられた。

 

 ――死ぬ

 

 死を直感したアレクは駆けだそうとする、が、自分が立っているのか座っているのか、はたまた突っ伏しているのかわからなくなった。聴覚だけでなく、平衡感覚も喪失していた。

 

「あ、あ、あああ!」

 

 まともに距離をとれずしりもちをついたアレクは、咆哮を上げたソレを、初めて視認した。アレクの二倍はあるかその体躯は、白い毛に覆われ、ギラギラと野蛮な筋肉を隆起させている。

 不思議なことにソレは、襲い掛かることなくぎゃあぎゃあと声を上げている。アレクの様を嘲笑しているかのようだった。

 

 徐々に平衡感覚と聴覚を取り戻したアレクは、がくがくと笑う膝を叱咤し、何とか立ち上がり、駆けだした。一心不乱に走り距離を取ったところで、アレクは振り返った。

 どうやら、追っては来ていないようだった。しかし、獰猛な影が増えている。ソレはが咆哮を上げていたのは、獲物を見つけたぞと周囲の仲間に知らせていたのだとわかった。

 

 そのことを悟ったアレクは、ソレの野蛮な体躯の中に暴力的な知性を感じ、言葉にならない絶叫を上げた。すがる思いで、声を上げたが、だれも助けには来なかった。

 そしてアレクは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ボルドンのいる伐採場へ駆け出した。

 

 

 

「お、お前! なんてもんつれてきとんじゃー!」

 

 パワーゴリラの群れに追いかけられているアレクを見て、ボルドンは叫んだ。

 

アレクがぜぇぜぇと息を吐きながらボルドンの足元に倒れこんだ。疲労と恐怖のあまり足はがくがくと震え、ごめんなさいとしきりに呟く。

 

「っこの馬鹿垂れが。 おめぇは村に戻って全員にこのことを知らせろや、あとは村長がうまくやる」

 

 決してやさしくない言葉だったが、アレクにはボルドンの思いやりが感じられた。

 

「立てるか?」

 

 アレクは何とか立ち上がろうとするが、力が入らない。ここまで気力が持っただけでも十分奇跡だった。ふらりと態勢を崩し、再び地面に伏す。その拍子にアレクの荷物が散乱する。

 

 

 

 斧を握るその拳に、無意識に力が入る。確かに武器となりうる。しかし、本来薪を割るそれは、パワーゴリラに傷をつけることすら難しいだろう。

 

 

「それがどうした」

 

 意味のないことだとわかっていても、やらなければならない。弱気になる自分に発破をかけるために呟いた。更に斧を握る拳に力が入る。

 

 この様子では、アレクが村にこの状況を伝える事はできない。

 ボルドンがここで、命を捨ててパワーゴリラに向かっていったとしても、動けないアレクは食い散らかされるだろう。更に村にいる人間も皆殺されてしまう、なぜならボルドン以上に実力のあるものはナジャコリャ村にはいないからだ。

 ここでアレクを見捨て、ボルドンが村に向かうとどうなるだろう。有能な村長は、事態を把握し的確な指示を下し村の人間は救われるだろうか。しかし、アレクは間違いなく死ぬ。

 ――では、アレクを見捨て、村には向かわず、自分だけ逃げおおせるのはどうか。かつての命の恩は、ボルドンの働きによって十二分に返されている。そろそろ潮時だ、せっかく拾った命。恩を返すために自らの命を差し出すなんて。

 

「ありえねぇだろ」

 

 窮地でありながら、最善を尽くそうとするボルドンはそれらすべてを吐き捨てた。

 

「はっ、今更逃げたって目覚めがわりぃぜ」

 

 ボルドンの心は決まった。何かを犠牲にして生きることも。自分の命を投げ捨てて、ほかを救うこともやめた彼は。

 

「話は単純なことだ。 俺がゴリラどもを全員倒して、アレクを担いで村に帰る。――それだけだ」

 

斧を軽く振り、確かめる。かつての戦争を、自らの全盛期を思い出す。

 

「久しぶりに暴れてやるか」

 

そう不敵に笑い、パワーコングの群れに向かって一歩踏み出した――。




3千文字少々を書き上げるのにとても時間がかかってしまった……。
当たり前のように、書き上げる他の投稿主さんに敬服してしまう( ;∀;)
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