【二次創作】 after Rance X-決戦- 作:むさん
ゆらゆらと、霞の中に溶け込んでしまったような感覚。紫とも藍ともつかない不思議な色彩を持つ空間で今までの記憶が混ぜあい溶け合い再構築されていく。
かつての仲間たち、かつての大戦争で渡り合った仲間たち。彼らがこちらに顔を向け笑っている。その背後から魔物の群れが近づく。声を張り上げるが出ない、喉という器官が備わっていないのだ。彼らに近づき必死に訴えかける。彼らは全く意にも介さずただただこちらに笑いかけている。まるで大丈夫だと、そう語りかけるように笑いかけている。
どんどん魔物が近づいてくる、もう逃げられない。魔物が振り上げたその拳が、かつての仲間を肉塊に変えようと――
「だめだっ!」
体を震わせながら叫ぶ。かつての仲間を救えただろうか。すがるようにあたりを見回す。先ほどの幻影は微塵も後を残さず消え去った。
彼の横に、アレクを見つけた。それはとてもとても安らかな顔をしていて、まるで不安はないといった様子で眠っていた。
わずかに胸が上下していることがわかる。息をしていて、つまり生きているということだ。アレクが生きていることを確認して、彼は一息をついた。
「いででっ!」
その瞬間激痛が走った、彼の全身は包帯でおおわれており、ミイラと見間違うほどだ。
「また、生き残っちまったなぁ」
命を捨てる、というつもりはなかったがどう考えてもあの絶望的な状況で生き延びることは難しかったはずだ。
「でも今回は俺だけじゃない。それなら命貼った甲斐があったってもんだ」
並んで横たわるアレクはまだ安らかに息をしている。かつてうしなった仲間たちを重ねたわけではない。だが、救えなかった自分が少し救われるのを感じた。あえて心の奥底に押し込んでいた。自分では気づかないふりをしていた。でも今ははっきりとわかる。自らの心の中では、かつての仲間はまだ生きている。それならば、自分の役目は仲間を見送ることではないのか。
彼らの墓はない。戦時中の混乱のなか死体を弔ってやることもできなかった、ただ形だけの墓を設けただけ。どうしてもそこに行くことができなかった。彼らに顔向けができなかった。生かされた自分が、あの時から何も変わっていないような気がしたから。
でも今は違う。
「こいつに救われたのかもな」
そういいながら、アレクに目をやる。面と向かうことはできないかもしれない、しかし今は、せめて足を運び救えた命があったことを報告するくらいのことはできるような。そんな気がしていた。
「う、うぅーん。ボルドンさんのことは忘れないよ、絶対に忘れないー……
ぐがー」
隣で横たわるアレクが間抜けそうにそういった。
ここはのどかなナジャコリャ村、裕福ではないが不自由な生活をすることはない自由都市カスタムの西に位置する村。
村の入り口を少し抜けたところには、一回り大きな家がある。そこでお茶をすする老人がいた。
「ふぅー、何も変わらない日々。それこそが人生最大の幸福、そうは思わんかね」
誰かに語り掛けているようだが、そこには誰もいない。そこに見えない何かがいるというわけではなく、ただ彼の性格がそうさせるのだった。この館を、この村を所有し治める立場の彼にとっては、この安全圏のなかにいるときこそ、すべてをさらけ出せる。独り言をつぶやこうが、何をしようがとがめるものは誰もいないのだ。
「しかし、しかしだな」
カップを机に置き、顔をわずかにしかめる。
「アレクがキノコの里に向かってから結構な時間がたっておる」
何かとトラブルを起こすアレク。いや、アレク自体はよくいる気の抜けた青年だ。その振る舞いに大きな問題はない。なのに彼の周りには何かとトラブルが付きまとう。彼がいるところでは、一つ歯車がずれたかのように問題が起こる。それは平和と平穏を何より重んじる村長―キタにとっては目の上のたん瘤といった感じだった。
「村におられても困った。じゃあ、外にやるしかあるまいて」
日常を維持するため、村を守るため、仕方ないと思いながらも、アレクに村の外での仕事を与えた。最初は簡単な採取から始めさせ、徐々に村から離れるよう仕向ける。これがキタの思惑だった。
「しかし、しかしだな」
一人にさせておくと何が起こるかわからない。こうして腕の立つボルドンを後見人として、お目付け役として、いや或いは厄介ごとを押し付ける形で、バランスをとった。
だから何の心配もいらない、はずだったが。
「いなかったらいなかったで、きれいにとれなかったイボのような後味の悪さというか、不安を残していきよる」
判断を誤ったか、そんな考えが頭をよぎった。
「キタのじいさん! 大変なことになった!」
勢いよくドアが開かれると同時に放たれた言葉が、キタの胸中の不安を打ち抜いた。
ナジャコリャ村 東の外れ
のっしのっしとあるく一団がいた。なにか言葉を交わすわけでもなく、ただ一点を見つめて歩く。
荷物や荷車は持っていないようだが、いや抱えている。
一人は筋肉質の男。一人は赤髪の男。抱えるには苦労しそうな体躯だが、それを優に超える巨体で二人を抱える者がいた。
パワーゴリラ、白い体毛を体中にまとうモンスター。人二人分はあるだろうか、その巨躯でアレクとボルドンを打ちのめした。
その一団が、一転を見つめてのっしのっしと歩いている目指す先は西。ひたすらに西。
その一団の中でひときわ大きなパワーゴリラがいた。体毛は白というより銀で、首飾りを首にかけている。その眼には、ほかのパワーゴリラとは違う、明確な意思が存在していた。
そして大きな口を開いて
「ニシ、ヘ」
確かに意味のある言葉でそういった。