【二次創作】 after Rance X-決戦- 作:むさん
「キタのじいさん! こっちだ!」
部屋に飛び込んできたや、すぐにキタの手を取って駆けだす農夫。弱弱しい老人をいたわることも忘れて、ただはしる。
「ば、ばかたれ! 何が起こっとるのか説明をせんか!」
いきなり手を引かれたものだから態勢を崩したキタが、不満を口にする。
「キノコ狩りに行った二人が戻ってきたんだよ!」
「とにかく東口まで来てくれ!」
「いったい、なにがおこっとるんじゃあ~!」
有無ともいわさず、とにかく連れていかれるキタであった。
「これは……」
目の前の状況を見て、何も言えなくなるキタ。たしかに二人は戻ってきていた。しかし。
「すぐに二人の治療を始めよ」
いい意味で気安い性格、住民から愛されていたキタであったが、それだけで村長になれたわけではない。
慎重な性格から下される冷静で正確な判断、それも間違えることはあったが的確にフォローができる存在だからこそ皆に支持されたのだ。
そんな彼が、目の前でぼろぼろになっている二人をみて、そう指示を下した。
「二人を最初に発見したものは?」
東口では徐々に騒ぎが大きくなっている。皆を黙らすために、よく通る声で周りの者に問うた。
徐々にざわめきが落ち着いていき、やがて一人の女性がおどおどとしながら、遠慮がちに一歩前へ出た。
「さきに私の館へ行ってなさい、そこで話を聞こう」
女性の緊張を解くために優しく声をかける。
「二人を治療室へ運びなさい。 皆よ、さあ仕事へ戻れ」
それでも取り巻きは好奇心と興奮でその場を離れようとしない。キタは一つため息をつく。
「今日の日没に集会を開く。そこで事態を説明しよう、さあ仕事じゃ」
手をぱんぱんと叩いたところで、取り巻きは納得したようで仕事に戻っていった。
ナジャコリャ村――領事館
ここはナジャコリャ村領事館、村の中央に位置する。領事館とは名ばかりで村長の生活の中心であり、来客を迎える場所であり、今は事情聴取に使われているのであった。
なにも彼女が悪いことをしたわけではない、したわけではないのだが、プルプルと震えてしまうのは彼女の性質なのだろう。
村長と彼女は丸いテーブルに腰かけ、お茶を楽しんでいる。というわけにはいかず、どうも緊張しぃの彼女がしゃべりだすのを、村長は静かに待っている。
「……わたしがそこについたとき、倒れている二人がいました」
声を震わせながらその女性は続ける。
「……そして、その場から立ち去ろうとしているゴリラの魔物たちがいるのを見ました」
「それは……怖かったじゃろうな。 それで?」
「……それを見て私は気を失っていたようです。 気づいた時には騒ぎになっていて……」
申し訳なさそうに尻すぼみとなる彼女の話を聞いて、キタはこたえる。
「つまり、その、ゴリラの群れが、失神した二人をここまで連れてきたということかな?」
彼女がそれを確認する術を持っていないと知りつつも、自分の考えを整理しながら彼女に問う。
「いえ……そこまでは……。 ただ去っていくゴリラの群れと、倒れている二人を見ただけです」
「あ、それと……」
「それと?」
「地面にこう書かれていました、『アス ヨル イク』と」
「なんと……」
事情を把握したキタは彼女を家に帰らせ、しばらく休むよう勧めた。
改めてテーブルに腰かけ、先ほどの聴取を反芻する。状況を考えると失神した二人をゴリラの群れがここまで運んできたように見える。しかし、モンスターがそんな気を利かせたことをするだろうか。
であれば、ボルドンとアレクが魔物の群れを撃退しながら村までたどり着き、失神してしまった? いや、それはもっとあり得ない、わざわざ戦闘した相手を見逃すはずがない。
それに、地面に書かれた言葉……。今は騒ぎに集まった村民によってかき消されているために確認は不可能であるが、明らかな理性。理性を持ったものが明確な意味を持たせる行為を残している。命を奪わず、そして再び訪れるというメッセージ。これらが意味をするものとは……
「二人から話を聞くか……」
知性を持っていると思わなかった存在から、知性をにおわせる行動をとられている。ゾワゾワと身体に何かが這うような気持ち悪さを感じた。それならば、実際に対峙したものに話を聞けばよいのだ。そう考えたキタは、村野唯一の治療院へ足を運ぶ。
ナジャコリャ村――治療院
「ぐがぁ~ んごお~ むにゃむにゃあーん」
普段使わることのない一室、簡素なベッドが二つあるだけへやに間抜けな声が響いていた。その声の主はアレク。声だけでなく何とも間抜けな顔をしている。
「いい加減うるさいんじゃ! こんのばかたれがー!」
それを突き破るように大男の怒声が響く。延々と聞かされるこの意味なき声に、ついに堪忍袋の緒が切れてしまったようだ。声の主はボルドン、アレクより先に目覚めしばし感傷に浸っていたようだが、そのことは忘れたように額に血管を浮き出させている。
「ぐがっ ぐぅーん……」
どうも定まらない声でいびきをかくアレクだったが、ボルドンの喝によって。
「あれ、きのこ……」
がばっと体を起こすや否や、状況をつかめない様子。
「やっと起きたか、このクソボウズ」
「あ……ボルドンさん。 ボク、またやっちゃたんですかね?」
「やっちゃったんですかね? じゃねぇよバカ。 危うく二人そろってお陀仏だ、それどころかナジャコリャ村全滅の危機だよ」
包帯でぐるぐる巻きのボルドンを見ながら、徐々に記憶を取り戻したアレクはうなだれる。自らのせいで、また迷惑をかけてしまった。いや、今回はそんなレベルではない。多くの命が失われてもおかしくなかったのだ、それをまた、ボルドンにしりぬぐいをさせてしまった。
昔から、トラブルメイカーだった。というよりはトラブルピッカーというべきか、とにかくアレクの行動にはトラブルがついて回る。本人に悪気はなくともトラブルが彼に狙いをすませてタックルをかましてくるかのようだ。
それゆえ彼は孤立をした。幼いころからずっと、周囲からいい顔をされることはなかった。しかし彼の父だけは守ってくれた、気にするなと豪快に笑ってくれた。その父は大戦で命を落とし彼は天涯孤独の身になり、唯一の守ってくれる人を失ったのだ。
だからこそ彼は、認められたいと願った。才能は開花しなかったが、彼なりに努力をした。出来ることは何でもした。しばらくすると、村長がボルドンをアレクの世話役としてつけてくれた。決して立派といえるような人物ではなかったが、アレクにとってボルドンの背中は十分すぎるほど大きく見えた。アレクはついていこうとに決めた、ボルドンの下で経験を積みいつかみんなに認められるように。知らず知らずの内にボルドンと父を重ねていった。
それがどうだ、今はそのボルドンが死にかける事態になってしまった。結局変われなかったのだ、父を失うまでのあの時のように、ただ守られているだけだったのだ。守られているくせして、それを忘れて少し強くなったような浮かれた気分でこんなことになってしまった。
「ボクっ……うぅ……! ごめんなさいッ……!ボルドンさん……!」
悔しさからこらえきれず涙を流してしまった。何もできなかった、出来ているつもりだけだった。
「ほんとに……何もできなくてっそれがッ……悔しくてッ……!」
「起きたとたんに……、なくこたぁねえだろうよ」
いきなり泣き出したアレクに困惑してしまい、うろたえてしまう。
「いつもなにやってもだめで……!みんなに迷惑をかけて……!うぅ……!」
ボルドンは知らなかった、普段の気の抜けたアレクの様子からは分からなかった。こんなにも思い悩んでいたなんて。自分と向き合えていないのに、他人と向き合えるはずもなかったのだ。しかし、今は違う。命を懸けてアレクを助けて、死にかけて、やっと、やっとのことで、守れなかった仲間たちのことを思い出した。守れなかった自分を責めていることに気づけた。だから
「なぁ、アレクよ」
ボルドンが問いかける。
「お前は、自分が何の役にも立ってないバカで阿呆で間抜けだと思っているのか?」
「そこまでは思ってないですけど……かねがねそう思ってます……」
「それは、お前の思い上がりだよ。アレクよ」
「でも……、ボクはみんなに迷惑をかけてばかりで……。 ボルドンさんを殺しかけちゃいました……」
「ばかたれ、そう簡単にくたばるか。 ってそうじゃなくてな」
後ろ手で首をぼりぼりと書きながらボルドンは続ける。
「俺は、お前に救われたんだよ。 なぁ、アレク」
「えっ……?」
「昔戦争で戦ってた時のはなしだ。傭兵でならず者崩れみたいな俺にもな、仲間といえるような奴らがいたんだよ。 ほんとにろくでもないような奴らさ、でもな共に戦って生き抜いてきた仲間だ」
一度息をつくボルドン。
「俺はな、そいつらをな殺しちまったんだよ。10人くらいの隊だ、そこでリーダーをやってた俺が殺した」
「リーダーってのは常に仲間のことを考えねぇといけねぇ、独りよがりじゃダメなんだよな」
自らに言い聞かせるように続ける。
「勝利に酔って、戦局を見誤って、突っ込みすぎたんだ。俺の指示で。」
「結果みんな死んじまった、俺以外全員な」
「そのことを俺はずっと忘れようとしてきた、臭い物に蓋をするってやつ。要は逃げてきた、自分の心から」
「でもな」
アレクの方をじっと、強く見つめる。
「お前が思い出させてくれた。なーんにも守れなかった俺が、アレク。お前のために命張って気づいたんだよ」
「俺は、あいつらを守りたかったんだ、ってな。お前を守ってはじめて気づいたんだよ」
「だから、俺はおまえにすくわれたんだ」
言い切ってボルドンは無意識に入っていた力を緩めた。
「でも……それは違うんです。 ボクは、いいや、ボクだって! 誰かを守れるようになりたいんです!」
「守られるだけじゃ、嫌なんです!」
それを聞いたボルドンは、しんでいったなかまたちをおもいだしていた。俺を生かすために、逃がすために死んでいった仲間たち、守られた自分を思い出していた。
「ふっ、なんだかな、因果ってやつなのかね」
なにか奇妙なものを感じながら、ボルドンは続ける。
「じゃあよ、あれく。お前は、守られるのが嫌なお前はどうしたいんだ?」
「ボクは……、ボクは! 強くなりたいですッ!」
「答え、もうでてんじゃねーか。 俺がどうにかするまでもなかったな」
泣き崩れるアレクを見て、励まそうとしたボルドンだったが今のアレクにそんな必要はなさそうだった。
「ボクを元気づけてくれたんですね……ボルドンさんのくせに……」
「かっちーん、お前くせにってどういうことだ! くせにって!」
「ち、違うんです! その、うまく言えなくて、ボルドンさんがそんな風にしてくれる人だと思わなくて……。 ……感謝しているんです!」
「けっ、似合わねぇことして悪かったな。これからずっとお前に意地悪してやる」
「そ、そんなぁ……。子供みたいなこと言わないでくださいよぉ」
シリアスな雰囲気をふきとばし、いつもの調子を取り戻してきた二人であった。そこに
「村長、こちらです」
「うむ」
ドアをガチャリと開けられ、ナース風の女性とキタが部屋に入ってきた。
「話を聞かせてもらおう」
キタにとっては、本日二度目の事情聴取。ボルドンとアレクにとっては、本日二度目の修羅場が始まった。