【二次創作】 after Rance X-決戦-   作:むさん

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ちいさすぎるテーブル

「よるおそう、もうしわけないんやけど。ちょっと、まってもろうてええかなぁ?」

 

 ポルトガル訛りの強い声が広間に響く。扉の奥からの来訪者だ。

 

 夜も更けているこんな時間にわざわざ声をかけてまでくる人物。一体誰だ、疲れて疲れてしょうがないのだ、そんな風にキタは考えていた。

 

 

「おい、アレク。絶対に声を上げてはならん! ここは居留守でごまかせ――」

 

 近くにいるアレクとボルドン二人だけしか聞こえないボリュームでこしょこしょと囁くキタ。絶対にばれてはいけない秘密を共有する子供のようなしぐさだった。

 

「はーい! 今開けまーす!」

 

 キタの言葉が耳に入っていなかったようで、アレクは扉に飛びついていった。お客さんを出迎えるのは当然だといわんばかりにニコニコとしながら、向かう。

 

 ボルドンは少しだけキタに同情の視線を送って、声には出さず慰めた。疲労困憊の老人はいつにもまして小さく見える……。

 

 

 

「いやー、ほんま申し訳ないわぁ、わざわざもてなしてもろうて」

 

 豊かな青い髪を腰まで伸ばし、人受けのする笑顔で感謝する彼女は、テーブルで軽食を取っていた。

 

「しかも、うちの兵隊さんまで面倒見てもろうたし、久しぶりにベッドで寝れるゆうてよろこんどるよ」

 

 軽食を共にするキタは、その人物に委縮していた。なぜなら彼女は――

 

「あぁ、ごめんごめん、自己紹介がまだやったな。あらためて、うちはコパンドン・ドット」

 

「コパ帝国の元首であり、コパHDの社長でありーってまあ肩書はええねん」

 

 そう、彼女は世界一の大金持ち、コパンドン・ドットだったのだ。

 

 キタは先ほどの疲れ切った顔から打って変わり、にこにこした笑顔を張り付けている。それもそうだ、リーザス・ゼス・ヘルマン・JAPANこれらの大国のトップと渡り合う能力、言わずもがな金稼ぎの天才。ここまでの大物に接触する機会は、こんな田舎の村長程度にあるはずもなかった。

 

「ややや、おいで頂いて誠に感謝しております。些末なものしかお出しできませんが、どうかおくつろぎください」

 

 皮がむける勢いで手もみをしながら、予想外の来客に対応するキタ。普段の彼がそうではないわけではないが、驚くほど低姿勢で人当たりのいい人物に見える。

 

「へへぇ、それにしてもコパンドン様。こんな辺鄙な場所にいらっしゃるなんて考えもしませんじゃ」

 

 彼女は力を持っている。この社会において、絶対的な力、権力と財力。だからこそキタは、考える。これは命がけの一攫千金ゲームだと。この絶対的な権力者に取り入ることができれば、この村の現在の窮状に力を貸してくれるかもしれない。それだけでない、今後村が発展するだけの融資を頼めるかもしれない。それは実に夢のあることだ、しかし、一つ失敗してしまえば、助けを得ることができないだけでなく、最悪この村が潰される。

 

 それだけの力を持つ人物と対峙しているのだ。だからこそ、慎重に、かつこちらがきれるカードを間違えないようにしなければいけない。だから、アレクとボルドンは下がらせた。お茶と軽食の用意ぐらいは容易にできる二人、厨房に立ってもらっている。

 

「ここだけの話や、うちらはゼス帰りやねん」

 

「ゼス……かの魔法大国。遠いところから、それはお疲れになるわけですな」

 

「ゼス王立博物館ってあるやろ? あっこのおえらいさんがな、魔具収集にオネツ上げとんねん」

 

「ほほう」

 

「目的はゼスの国力増強。ダンジョンに潜らせた冒険者に集めさせとるんやけど、なかにはな、まーたく使えんもんが混じっとるねん」

 

「効果の分からんもん、そもそも使えないもん。まあいろいろや、それをうちらが買い付けてきたんや。ほとんど二束三文のやっすいやつ、やから金になるわけやないんやけどな~、目的は別にあったりするねん」

 

「ゼスほどの大国ならわざわざ掘り出さんども、魔具制作など容易でしょうに」

 

「んー、今のゼスの技術では作れんようなお宝があるらしいで? とはいってもほんとの目的は別にあるんやろうな」

 

「っと、しゃべりすぎたな、それが思った以上に長引いてもうて、帰りの予定が狂ったんや。それを取り返すために、せっせっと馬走らせてたらちょうど、このナジャコリャ村やっけ? についたってわけなんや」

 

 まくし立てるコパンドンに圧倒されるキタ。ポルトガル訛りは、本来人懐っこい印象を与える。しかし、コパンドンの場合は異常な肩書と化学反応を起こして、聴くものに恐怖を与える。コパンドンにはそのつもりはなかったのだが、委縮させてしまったようだ。

 

「は、ははぁ。それはお疲れだったでしょうな、是非ゆっくりしていってください」

 

 そうキタはどうにかしぼりだして、一度息をつく。そして改めて、コパンドンに向き直る。

 

 流石に商才のあるコパンドン。イニシアティブをとって見せることは容易い。何気ない会話の中でも、常に優位を取っている。それは彼女の無意識がそうさせるのだが。

 しかし、キタはここを交渉の場だととらえている。そこにキタの勝機がある。この隙をうまいことついて、ナジャコリャ村の危機を解決しようと考えているのだ。

 

「コパンドン様」

 

「コパンドンでええよ、気ぃつかうならさん付けでもええし」

 

「コパンドンさん、改めてお願いがあります」

 

「うん、なに?」

 

「この村を救ってください! 力を、お貸しください!」

 

 力強く訴えるキタ、その眼は真剣そのもの。心をそのままコパンドンにぶつけた。慈悲深い人なら力を貸してくれるだろう。しかし、相手はコパンドン。無料(ただ)では転ばぬコパンドン、梃子でも動かぬコパンドン。

 必ず取引になるはず。それを覚悟して、コパンドンの要求を聞き出そうとするキタであった。

 

「ええよ、うちが力になれるんやったら、いくらでも貸すよ」

 

 キタはずっこけた、いや実際にずっこけたわけではない。重たい荷物を上げようとしたら実は軽かった……、みたいな肩すかしを食らった気分だった。

 ここからは、どれだけ相手から譲歩を引き出すか……、そんな戦いを覚悟していたキタにとってはコパンドンの快諾が大きな衝撃となった。

 

「ほ、ほんとうですか!? この村を……」

 

「うん」

 

 なんでもないように言うコパンドンとは対照的に、キタは緊張が一気に抜けて鋭気まで失ってしまった。

 

「ボ、ボルドーン! アレーク!」

 

 まるで召使を呼ぶときのように、手をぱんぱんと打ち鳴らし、二人を呼ぶ。

 

「交渉は成功した……、あとは……たのんだぞ……」

 

 すっかり力をなくしてしまったキタは、残りは二人に任せて大丈夫だと判断し、後を任せた。

 そのままよろよろとあるいて、寝室に消えていった。

 

 

 

 

「それで? なににお困りなん?」

 

 テーブルについているのはコパンドン、そしてアレクとボルドンの三人となった。

 自己紹介はすませたあとだったが、アレクとボルドンはどうにも緊張が解けない様子。

 

「それは……」

 

 ボルドンがぎこちなく事の経緯をコパンドンに伝えた。

 

 コパンドンはふんふんと頷きながらしっかりとボルドンの話を聞いている。

 

「なるほどなぁ、確かにこの村だけではパワーゴリラの撃退は無理や」

 

 きっぱりと言い切るコパンドン。アレクとボルドンの間には重たい空気が流れる。

 

「んー、でもなぁ。 お猿さんが来る時間、うちはコパ帝国に戻っとる予定やし」

 

 なんとも煮え切らない様子のコパンドン。その様子を見て二人は動揺する。

 

「そ、そんな! せめて私兵の皆さんをここに残していただけませんか!」

 

 悲痛な声でアレクが声を上げる。コパンドンは顎に指をあて、んー、と考えてから。

 

「そしたら、うちが帰るまでに盗賊にでも襲われたら大変やん。 例えば戦力を分けるにしても、パワーゴリラを撃退できず、うちも無事ではすまんかったーってなるかもしれんし」

 

 アレクの額に冷汗がにじみ始めた。コパンドンは助けてくれるといったから、キタはここを任せてくれたのに。話が違うじゃないか、そう声を上げかけたとき。

 

「……つまり、コパンドンさん。 あなたがここに残る理由があればいいんですね?」

 

 今まで沈黙を守っていたボルドンが静かに声を上げる。

 アレクとコパンドンがボルドンを見る。

 

「そうすれば、兵隊さんをわけずに済む」

 

 それを聞いたコパンドンの口角がわずかに上がったように、アレクには見えた。

 

「それはそうやけど、うちがこの村に残る理由はうちにはないで?」

 

 ボルドンの方をまっすぐとみて、楽しそうに問いかけるコパンドン。

 

 ボルドンは気づいていた、なんの対価もなしに彼女を動かすことはできないと。また今までのやり取りで、言外に対価の要求をしていることを。

 

 ここまでのやり取りを見て、アレクがやっとハッとする。

 

「……何をすればいいんですか」

 

 アレクは観念したようにつぶやく。

 

「ボクにできることならなんでも――」

 

 己のすべてを差し出す覚悟で真剣に伝える。その眼はコパンドンをしっかり見据えている。

 

「いや、それはちゃうやん」

 

 コパンドンは少し幻滅したような表情で、アレクを見つめ返す。

 

「うちは別に困ってないし、困っとるのはおたくらやろ? うちが要求しているわけとちゃうんやで」

 

 そう、あくまでこれは、アレクとボルドンがコパンドンに要求をのませる交渉だ。コパンドンは助けても助けなくてもいい、ならば村陣営の二人がコパンドンを曲げることのできるカードを切らなければならない。でなければ、村を助ける代わりに対価を要求したコパンドンというシナリオになってしまう。つまりは、村を助けるためにコパンドンに妥協させた二人、というシナリオをコパンドンは期待しているのだ。

 

 実際のところコパンドンはどちらでもいい。どちらのシナリオでもいい、どちらにせよ助けるつもりなのだから。しかし、前者のシナリオで事が進んだ場合、コパンドンを動かすためには奴隷になればいいということになる。それはコパンドンが奴隷の奴隷になるということを示しかねない。

 

 後者のシナリオにこだわるのは、それを回避するためであり、この交渉がこの二人の成長につながると考えたからだ。

 

「で、でも、ボクにできる事なんて……」

 

 そう、彼はただの気の抜けた青年。どこにでもいるような彼が、この超大物コパンドンドットと渡り合うことなどできるはずがなかった。

 

「ちゃうで」

 

「キミやない、うちがここに残りたくなるような理由を教えてくれればええんや」

 

 アレクは、自分に何ができるかを考え続けている。実際この大富豪に対して人っ子一人ができる事なんて知れているのだ。だから、本質は、自分に何ができるかではないのだということを暗に示したコパンドンだったが――

 

「?」

 

 首をわずかに傾げ、当のアレクは一切ピンと来ていないようだった。

 ボルドンはわずかに首を横に振り、やれやれと静かに息をついた。

 

「アレク、お前にできる事なんて知れてるんだから。 お前ひとりでどうにかしようとするなってことだよ」

 

 ボルドンもうすうすコパンドンの思惑に気づき始めていた。キタに対してわざわざ助けると即答した彼女が、なぜここまで渋る態度をとるのか。それは、コパンドン主導で村を助けたとしても村のためにならないから。あくまで、村の主権を尊重し、対等な立場で交渉を進め、村の独立を守るためだと。そして、この未来あるふわふわした青年アレクに成長を促そうという、コパンドンなりの気遣いなのだと、気づき始めていた。

 

「な、なるほどー?」

 

 絶対よくわかっていない表情で、声色で、目をぐるぐるさせながらアレクは答える。

 

「お前、わかってないだろ……」

 

「失礼なー! わかってますけどー!?」

 

 アレクは顔を少し赤くさせながら、ボルドンに食って掛かる。それをしっしと軽くあしらうボルドン。

 

「ふふ、やっぱええもんやなぁ。 若いって」

 

 ふたりがやいのやいのしてる様を、優しい表情でみながら、静かにそうつぶやいたのだった。

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