【二次創作】 after Rance X-決戦-   作:むさん

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よふけ

「おほん」

 

 テーブルの向かいに座ったコパンドンが咳払いをする。

 そのことに気づいて二人は恥ずかしそうに居直る。

 

「おまえはもうちょっと落ち着きというもんをなぁ」

 

「ボルドンさんこそもうちょっと優しさみたいなものを見せたらどうなんですかー!」

 

「あぁもう、うるさい!」

 

 そういいながら、ボルドンは気づいた。お茶が冷えてしまっている。

 

「っと、お茶を入れなおしてきます。 おいアレクこれ以上粗相をするなよ」

 

 そうくぎを刺して、全員分のカップとティーセットをトレーに乗せ厨房に消えていった。

 

 二人だけになったテーブルで、なんとなくアレクは恥ずかしくなった。ボルドンがいてくれただけで、自然にふるまえたのだと気づいて、恥ずかしくなってしまった。

 

「仲良しやね、二人とも」

 

 ニコニコしながらそう伝えるコパンドン。その言葉の裏には何もなくただただ純粋にそう思っているようだった。

 

「うらやましいわぁ、なんか。うちに子供がいたらアレク君と年が近かったかも」

 

 へー、そうなんですか。と返しかけたアレクは気づく、目の前の女性が自分と近い年齢の子供がいてもおかしくない年齢だとは、到底思えなかったからだ。

 

「え! じょうだんですよね」

 

 そういったアレクに対して、コパンドンはぷっと噴き出す。

 

「おもろいなぁ、アレク君。 お世辞も上手や」

 

「いや、本当です。 そんな風には全然見えなくて」

 

 本当に驚いたという表情をして、アレクは手をぶんぶんと横に振る。

 

「うちにも、なんや、一緒になりたいなーって思ってる人がいるんやけど」

 

 恥ずかしそうにうつむきながら、コパンドンは続ける。

 

「その男がとんでもないやつで、とんでもない女たらしでなぁ」

 

 しかし嬉しそうにコパンドンは続ける。思い出を振り返るようにかみしめながら、まるで少女のように笑う。

 

「全然、一緒になってくれへんから、言うたんや」

 

「一兆億Gであんたを買い上げる! そしたらあんたはうちのもんや!」

 

「おぉ、かっこいい」

 

「で、ためたんや。 大金持ちになった」

 

「えぇ! その男の方のためにですか!?」

 

「うん、でも、ダメやった。 金で縛れるような相手でもなかったんや」

 

「わかっとったんやけどな、どうしても諦められんくて自分に無理な目標を課してしもうたんやと思う」

 

「それが貯まってしもうて。 一兆億Gでもなびかん男なんて信じられんやろ」

 

 そういいながら、コパンドンは可笑しそうに笑う。

 

「罪な男性ですね、その方は」

 

「ほんまやで! とんでもないことをしでかすやつや! いつでもずーっとトラブルを起こす奴なんや! それにあいつのせいで泣いた女なんて星の数ほどおるんやもん!」

 

「……それでもすべて丸く収めるんやから」

 

 静かに呟いた最後の言葉から、信頼している相手だということがありありと伝わってくる。

 

「一兆憶ためて、自分のものにならんくて、ようやく気付いたことがあるんや」

 

「金ってな、全て手に入るようで、意外と手に入らないんやなって」

 

 アレクをそっと見つめ、柔らかな笑みをたくわえながらコパンドンはそう言った。

 アレクはそれを聞いて、なぜか吹き出してしまった。

 

「なんで笑うんや! うち恥ずかしいやん!?」

 

 顔を赤くしながら抗議するコパンドン。それは、本当にかわいらしい一人の少女だった。

 

「いや! 違うんです! コパンドンさんみたいな大富豪でも手に入れられないものがあるなんて、不思議だなぁって」

 

 アレクは必死に弁解をする。多くの人が求めるかなわない夢をコパンドンは手に入れながらも、たった一人の男にここまで振り回されていることがおかしかった。

 

「……ほんまやなぁ」

 

 いわれて気づいて、コパンドンもつられて笑ってしまう。とんでもない男だとあらためて気づく。

 

「そういうわけでな、金で手に入らんもんを手に入れるためにいろいろやっとんねん」

 

「そしたら、なにかみえてくる気がして」

 

 そういって遠いところを見るような、しかし儚げでもなくしっかりとした意思をもって、そう言葉を締めくくった。

 

 なぜかアレクが妙に鋭い目をしてコパンドンを見つめる。

 

「コパンドンさん、もしかして赤ちゃんほしいんですか?」

 

 大きく噴き出すコパンドン、驚いて目を大きくしている。

 

「な、な、何を言うんや、君は! そんな顔して!」

 

 妙なところで勘の鋭さを発揮するアレクが、コパンドンの考えていることを打ち抜いてしまった。

 

「あ、違うんです! セクハラとかじゃなくて! その人と一緒になるのは難しいから、せめて赤ちゃんをって、考えてるのかなって」

 

 手をわたわたさせながら、必死に弁解をするアレク。女性に対して、直接言える人間はまずいないであろう言葉を言ってしまったことに、今になって恥ずかしくなる。

 

「うぅ―……。 そ、そうやアレク君の言う通りや……。 なんでぽやっとしてるくせに妙に鋭いんや……」

 

 うつむいているコパンドンから蒸気が噴き出しているのかと見間違うほどに真っ赤になっていた。

 

 

 

 

 淹れなおしたお茶をトレーに乗せたボルドンが帰ってきた。

 アレクがわたわたと手を振り、真っ赤になって顔を抑えるコパンドンがうつむいてる様子を見て、ボルドンは一言。

 

「アイスティーのほうが良かったかな……」

 

 そう静かに呟いて、立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

「おほん」

 

 状況がつかめないボルドンが仕切りなおす。手元には淹れなおしたお茶がホカホカと湯気を上げている。

 

「コパンドンさんがこの村に残る理由は何って話だが――」

 

 先ほどの申し訳なさから、空気を入れなおそうとするアレクが、声を上げる。

 

「こ、この村には!」

 

「一宿一飯の恩義があります! コパンドンさん! それが残る理由です!」

 

「恩着せがましいとはこのことやな……」

 

 燃え尽きた焚火のように若干赤い頬を隠さず、力なく答えるコパンドン。顔はうつむいたまま手元にあるカップをいじいじしている。

 

「なんなら、その一宿一飯の恩義とやらは、キャッシュでペイしたってええんやで」

 

 むっとした声色でアレクに詰める。

 アレクはそれに返す言葉がなくうぅっと詰まってしまう。

 

「おい、アレク! さっきより手ごわくなってないか!?」

 

 声を抑えアレクにだけ聞こえる大きさでアレクに詰問するボルドン。

 

「や、や、気のせいですよ。ボルドンさん、気のせい気のせい……」

 

 目をそらし明らかに動揺しているアレク。

 

「嘘をつくな! 絶対なんかあった! お前がなんかしたんだろ!」

 

「な、なんもされてへんし!?」

 

 なぜか、席を立ち声を上げるコパンドン。そしてなぜかアレクより動揺している様子。

 

「それに、き、聞こえとるから!」

 

 ボルドンを指さしながら、べしべしと音が聞こえそうなほど声を荒げる。

 

「あ、ああ、申し訳なかった」

 

 そうボルドンが言い切ると同時に、コパンドンはフ―ッと息をつきながら席に着く

 何したんだよとは声には出せないが、気になってしょうがないボルドンだった。

 

「こ、この村には魅力があります! キノコが豊富だし、キノコの里があるし、キノコがおいしいし……」

 

「お前がキノコ好きなだけだろ……って言いたいとこだが、たしかにこの村ではキノコが特産品だ、それにうまい」

 

「……別に今、おなかすいてへんし」

 

 反抗期の少女のように口をとがらせながら、そういうコパンドン。

 その様子を見てボルドンはおやっとおもった。今の、精神が揺さぶられているコパンドンには付け入るスキがある。アレクは絶対にそんな計算などしていないだろうが、これは勝機だと。そう考えていた。

 

「も、もしコパンドンさんが村を駐屯地として置いてくれれば、いつでもおいしいキノコが食べられますよ!」

 

 そういったアレクの声に反応して、コパンドンの耳がピクリと動いた。

 

「確かに、うちがここに兵を置けば、キノコを安全に収穫できる」

 

 徐々に商売人コパンドンが帰ってきているようだった。アレクはその言葉を聞いて、手ごたえを感じている。しかし、ボルドンは冷静さを取り戻したコパンドンに冷汗をかく。

 

「な、なら!」

 

「そしたら、うちの販路も拡大できるか……」

 

「そうです! そうです!」

 

 よくわかっていないアレクは、なんとなく調子を合わせる。おいしいキノコがいつでも食べれる話をしているアレクと、キノコの取引をしようとしているコパンドンとで、致命的にすれ違っていたが、奇跡的に話が合っていた。

 

「でも! うちはすでにキノコを十分に確保してくれとる取引先を持っとる! うんというにはまだカードがたりへんで!」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 おいしいキノコ以外にこの村にいいところなどない、量で負けてるならもう駄目じゃないか……そう考えてあきらめかけたアレクだった。

 

「そういえばアレク、なんか珍しいキノコがあるんじゃなかったか?」

 

 ボルドンが思い出したように言う。その通りだった、この村にはただのキノコのほかに黄金キノコがある、そしてアレクがたまたま発見した松たけ子も確認されている。

 

「そ、そうだ、黄金キノコもたくさんとれますよ! それに松たけ子も! あ、でも松たけ子は危ないんだった……」

 

「黄金キノコはともかく……、松たけ子ってなんや? うち聞いたことないわ」

 

「このきのこはですね、とっても希少なキノコです! 図鑑によるとこれを食べると超人的なパワーが手に入る代わりに一時間後に死ぬ効果があるようです」

 

「アレク! おまえそんなもん食べようとしたのか!?」

 

 アレクは、パワーゴリラが村を襲うことになった場合、自分がこれを食べて戦うつもりだった。でも死ぬ気ではない、量に気を付ければ死なない可能性が示唆されていたからだ。

 

「ちょっとだけ! ちょっとだけなら! 死なずに力が手に入れられると思ったんですー! おこらないでー!」

 

「おこりはしねぇが、おまえ! そういう大事なことはちゃんといえ! この馬鹿!」

 

「怒ってるじゃないですか! この嘘つき!」

 

「なんで、お前がそんなに強気でいられるのか俺にはわかんねえよ!?」

 

 確かに集会の時、意図的に効果を伏せた。混乱を起こさないためであり、いらぬ心配をかけないためだった。――そこまでしてでも村を守りたいとアレクは考えていたのだ。

 

「それを使うのはやめとき」

 

 コパンドンが思案顔のまま続ける、顎に手を当て、何かを考えているようだ。

 

「うちの知り合いに、とっても優秀な研究者がおるんやけど、その子に研究してもらったら実用化できるかもしれへんな」

 

「本当ですか!? そしたらボクも強くなれますか!?」

 

 ワクワク顔でそう問いかけるアレク。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、コパンドンさん。 あなたがこの村にいる理由は見つかったのか?」

 

「ん、あぁ、そやな。 残るわ」

 

「ほっ」

 

「なんか軽いな……」

 

 胸をなでおろすアレクと、肩透かしを食らった表情のボルドン、先ほどから思案顔のコパンドンと、三者三葉だった。

 

「村の護衛と、キノコの確認と……、いや先に村長とこまかい話をせんとあかんわ」

 

 呟きながらメモを取り思考の整理をするコパンドン。予定が詰まっている彼女に対して仕事を割り込めたのは幸運だった。

 

「なぁ、アレク。俺、キタ村長の気持ちが少しわかった気がするよ」

 

「え? ボルドンさんそんな年でしたっけ?」

 

「肩の荷が下りたってことだよ! バカ!」

 

 軽口をたたきながら、ふけた夜は過ぎていった。

 

 


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