綾小路が中学生の軽井沢を救う話   作:bushom

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第1章episode3 その教室はヒーローの独壇場だった

朝、学校に着くと、いつも通り本を開く。

本の世界はいつも美しかった。あの真っ白な部屋とは違い、色がある。

そんな色づく世界が好きだから、オレはこうやって毎日本を読んでいるわけだが、あまりにも夢中になりすぎるためか、壇上にはすでに先生が立っており、朝のSHR(ショートホームルーム)は始まろうとしていた。

 

気を緩めすぎたな…。

スマホを確認してみると、すでに軽井沢からは呼び出された場所の名前が送られてきていた。

 

別棟3階の特別教室か。

人気が少なく呼び出すとしたら最適な場所だろう。

普段の授業でもあまり使われない物置きのような教室はこちらとしても都合がいい。

 

そして放課後、軽井沢が特別教室へ向かうのを見届ける。一緒に行くという選択肢もあるが、ちょっとした証拠を手に入れたいので、オレはすこし遅れて特別教室へ向かう。

あまりにも遅すぎたら、軽井沢が怪我をしかねないので、そのタイミングは重要だ。

軽井沢を駒にするという目的があるとすれば、もっとギリギリを攻めてもいいかもしれないが、今回は別にそのような目的はないので、危険を冒してまで遅れていくメリットはない。

 

教室の前までいくと、すこしドタバタしているようだった。ちょうどいい頃合いだったようだ。

スマホのカメラで教室の窓から中を撮った。無音カメラで撮ったので中にいるやつらには気づかれていないはずだ。

 

そして、オレは教室の扉を思いっきり開く。開けた時に、向こうはオレが急に現れたことに一瞬驚いていたが、すぐにドッと笑いが起きる。

まぁ、急にきた人物が根暗なやつだからだろうか。

 

 

「綾小路くん…っ!」

 

 

1人はオレが本当に来ることを信じられなかったのか言葉が出ないでいたが…さすがカーストトップ、セー君と呼ばれている男はオレに親しげに話しかけてくる。

 

 

「やぁ、急にきたから驚いちゃったよ綾小路君。どーしたの?こんなところに。あ、綾小路君も一緒に遊ぶ?楽しいよ?」

 

 

こんなオレの名前を覚えていてくれたことを嬉しいと感じなかったといえば嘘になるが、いちいち反応していても事は進まないので、オレからも話を切り出す。

 

 

「お前たち、そこで何してたんだ?偶々ここを通ろうとしたら、音が聞こえてきたから入ってみたんだが…」

 

 

すると、彼は何もなかったかのようにオレの質問に答える。

 

 

「いや?ただここで遊んでいただけさ。な、軽井沢ちゃん」

 

「い、いや…うん」

 

 

一度反論しかけた軽井沢だったが、目で威圧され、すぐに口ごもる。

 

 

「でもそれ…そのカッターで何して遊ぶんだ?もしそれを軽井沢にむけるっていうなら、それはもういじめの域を超えてるぞ」

 

「大丈夫だって。コイツ何もいいやしないからさ。そんなことより綾小路君も一緒に遊ぼうよ」

 

 

オレを引き入れて、共犯にさせようって魂胆か。

この男はおそらくオレが断るようなら次はお前をいじめの対象にしてやろうとかなんとか思ってるのだろう。

だが、そんな甘い考えはオレがすぐ打ち砕いてやるよ。

 

 

「…実はドアを開ける前に、この現場の写真を外から撮った。これを職員に、もしくは教育委員会に出したらどうなるんだろうな」

 

「…何が言いたい」

 

「もういじめなんてやめろよ。今確認したが、オレもパッと撮ったから、イマイチいじめをしているような写真には見えない。少しボケているからな。だがもし今軽井沢をそのカッターで傷つけたりしたら、この写真でも十分証拠になり得るかもな」

 

「…!セー君、もうやめたほうがいいかもよ。」

 

 

軽井沢をいじめていた1人の女子がやめることを提案する。

 

 

「お前たちがもういじめをやめれば、この写真も使えないだろうし、訴えることもしないさ。軽井沢もそれでいいか?」

 

「う、うん。それでいい」

 

「じゃあそういうことでいいか」

 

「わ、わかった」

 

 

男子たちもやめることを宣言し、軽井沢や他の女子はこれでこの騒動は終わるんだとそれぞれ思っていたかもしれない。

 

 

 

 

だが、これだけでは終わらない。

 

 

 

オレと軽井沢が教室を出ようとした瞬間、

 

 

「なーんつってな!」

 

 

セー君と呼ばれている男はこちらにむかって走り出してきた。

軽井沢に向かってカッターをきりつけようとする______。

 

咄嗟にオレはそのカッターの刃部を左手で掴む。

手からは血がポタポタと流れ落ちる。

 

 

「…さすがに痛いな」

 

「あ、綾小路くん!?手が!」

 

「へぇ〜。いつまで強がってられんのかな、インキャがイキってるぜ。その写真、俺たちでそれを消せば別に問題ねぇだろ?まぁ、後からお前をボコボコにしてやるつもりだったから、順番が入れ替わっただけだな。大人しく俺らのいうこと聞いておけばよかったのに」

 

 

 

 

ケラケラ笑う男子たち。

その間にオレは右手でスマホを操作し、再生を開始する______。

 

 

『へぇ〜。いつまで強がってられんのかな。……』

 

 

オレは教室から出ようとする時に録音をしていた。

もちろん、オレはこのまま終わると思っていなかったからだ。というより、オレがそうさせた。

 

人間は慣れていたことを急に止めることはできない。キリトが現実世界で剣ないよぉ〜と言われるのと同じように、宇宙飛行士がたった3ヶ月ISSで過ごしただけで、地球に戻った後、空中にコーヒーカップを置こうとしてそれを割ってしまうのと同じように、コイツらは生活の一部であったいじめによる快楽を急に止めることはできない。

だから、やめることを考えるよりどうすればまたやることができるのか、と考えてしまうのだ。

 

そして、オレはこれを狙ってさせた。

もともとオレは写真の撮り方を失敗していない。

証拠不十分な写真を使おうなんてことはしない。少しこちらに不備があると思わせ、オレが考えているシナリオへと導くための1つの方法。ただのフェイク。

 

 

 

潰すなら徹底的に壊す。それがオレのやり方だ。

 

 

彼ら彼女らはその音声を聞き青ざめてしまう。

 

 

「オレの手のケガと写真と音声があれば余裕だな。…お前たちの人生、終わったな」

 

 

しかし、セー君と呼ばれる男は、

 

 

「なら、それも消させればいいってこったろ」

 

 

そうして、オレにまたカッターを向けてくる。さっきは証拠の1つとして、ケガを負ったが、これ以上は負う必要はない。

 

カッターを持つ手の手首を掴み、そのまま力を加えていく。

 

 

「い、痛…!?」

 

「人に暴力を振るうということは、自分が暴力を振るわれるのを覚悟してのことだよな?」

 

そのまま一度空いてる方の手で顔面にパンチを打ち込む。相手が飛んでいく流れに任せ、オレは手の力を緩めた。

 

 

「セー君!?」

 

 

周りの者はセー君を心配し、集まってくる。苦しみながらも、他2人の男子に向かってセー君は言った。

 

 

「コージ、ユーキ。行ってこい。データを消させないとやばいぞ」

 

「…だな。りょーかい」

 

 

コージとユーキはオレにかかってこようとする。他校とやりやったなんて噂あるが、オレからしてみれば大したことない。格闘術を知ってるか、知らないかで大きな差が出てくる。

 

例えば間合い。相手との距離の駆け引きが格闘術や武道では大切になってくる。

不用意に飛び込めばカウンターを食らうし、守りに入ろうとすると、そこに虚が生じる。

 

この2人はただ殴れればいいというような雑な動きだ。

それじゃあオレに攻撃するなんて無理だぞ?

 

相手が殴ってくるのに合わせ、オレも殴りを入れる。クロスカウンターの要領だ。

その一発でコージと呼ばれていた男は倒れる。大したことないな。

 

後ろから不意打ちを狙うようにユーキと呼ばれていた男がオレを殴ってきたが、それを手でいなし、そのまま右足を入れる。手加減してもよかったが、心を砕くのが今回の目的なので容赦しない。

 

 

「ぐはっ」

 

「弱いなお前ら」

 

「クソ、死ね!」

 

 

もう復活したのかセー君がむかってくる。

ジャブを入れ、そのままストレートパンチを叩き込んだ。

 

 

「来るなら声出すなよ。お前が一番弱いんじゃないか」

 

「クソが…」

 

 

意識を失ったようで、男3人とも動かなくなった。あっけなかったな…。

そして、軽井沢をいじめていたグループに向かって話す。

 

 

「おい、お前ら、もうこれからいじめするのはやめろよ?これは注意じゃない、警告だ。お前たちの人生終わらせることなんてすぐできるんだから、これからの生活に気をつけろ。あと、オレのことを他のやつに言いふらすな。言いふらすような場合でもお前たちの生活、終わらせてやるよ。そこの男子の怪我は内輪揉めをしたことにするか他校と喧嘩したことにするか、お前らに任せるが、オレを悟らせないようにしろよ」

 

「は、はい…」

 

 

女子は物分かりがいいようだ。

 

 

「クギは刺しておいたし、これでもうお前をいじめるやつはいないぞ、軽井沢」

 

「あ、あんた強…。ってそれより血!早く止めないと!」

 

 

そう言って彼女はハンカチを取り出す。

 

 

「あたしのハンカチなんて嫌かもしんないけど…」

 

 

軽井沢はオレの左手にハンカチを巻いてくれた。まぁまだ消毒とかしてないから後でしないといけないが。

 

 

「でも、守ってくれてありが、ど。来てくれ、てありがと、っ」

 

 

彼女の涙腺はもう耐えることができなかったらしい。

それもそうか。この少女はこれまでどれくらいいじめられてきたのだろうか。

どんないじめをうけてきたのだろうか。

 

辛かっただろうな。

 

 

彼女はオレの胸元で泣き出す。頭を撫でてやりあやしてやる。

 

太陽は少しずつ傾き、オレンジ色の光が窓から差し込んでいた。

 

 

 

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