茨木童子と黒髭   作:仲人

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黒髭と茨木が絡んでませんがよしなに…!


第二話

カルデア内に設けられたサーヴァントの自室、其処は仲の良い者同士が屯する場所である。

 

今日も今日とて、刑部姫の自室へと上がり込むティーチは持ち寄った漫画を黙々と読みふけっていた。その対面に座する刑部姫は、タブレットにて新たな創作物を生み出すべく睨めっこの最中である。

特に会話も無く只々紙を捲る音と、ペンタブが液晶を擦る音のみが響く部屋であったが唐突に刑部姫が口を開いた。

 

「ねぇねぇ、くろひー。マーちゃんになんかしたの?最近くろひーの事見る度にむくれてるんだけど、彼女」

 

「ほぇ、拙者なーんにも心当たりがありませんぞ。強いて言うなら…最近茨木殿とよく一緒にレイシフトしてるくらいでござるよ」

 

「いやー、身長2メートル越えの男が『ほぇ』はちょっとないと思う。流石の姫でも引いちゃうかなー…ってあの鬼っ子と仲良くなったの!?くろひー勝手に聖杯使って『色んな幼女にモテたいでござるー!デュフフww』とかやっちゃったわけ?」

 

「やだー、拙者に対してのおっきーからの評価が辛辣すぎるー…だがそれが良い。いやいや、いくら拙者でもそんな事しませんぞ」

 

いつも通りへらへらとした態度で言葉を返すティーチであったが、不意に表情を改めると読んでいた漫画『スプリガン何匹持てる?』を閉じて刑部姫を真っ直ぐ見つめ口を開いた。

 

「良いですか、おっきー。憧憬と好意は別物なんですぞ」

 

そう語るティーチの顔は至極真面目な物だったのだが、それを見た刑部姫は眉根を寄せて悪戯っぽい笑みを浮かべてみせる。

 

「なるほどねぇ、くろひーもカッコいいこと言うねぇ…姫、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 

「お願い?おっきーのお願いって武蔵殿の隠し撮りとか使い終わった箸とかの収集ですかな?」

 

「いやいや、なんで武蔵ちゃんがここで出てくるの!?じゃなくて、くろひーの憧れてるあの人にもそんなカッコいい言葉言ってみてほしいなーって」

 

その言葉に数瞬の間が空いた後に、理解したらしいティーチは捲くし立てるように言葉を返す。

 

「はぁ!?だだ、誰があんなBBAに憧れるって!?確かにそこいらの英雄よりカッコよくてちょっとイイかな?とか思ったりはしますが憧れるなんてもっての外ですぞ!」

 

男子小学生かのごとき初心な反応を見せるティーチに、刑部姫はより蠱惑的な笑みへと表情を変えてゆく。

 

「おやおやー、くろひーってばドレイク船長に憧れてたんだね?姫なんにも言ってないのに」

 

嵌められたと気づいたティーチは歯軋りしつつ刑部姫を見やるが、諦めたように溜め息を漏らして肩を竦める。

次いで口を開き口外しない条件を聞き出そうとすれば、卓上に一枚の紙切れが差し出される。そこには『ドキドキ!くろひー告白大作戦』と大々的な見出しがプリントされていた。

その下に記された内容に目を通したティーチはわなわなと震えだし、某輝く貌の槍兵の最期が如き顔で刑部姫をじっと見つめる。

 

「これをBBAに対して拙者が言えと…?」

 

「あぁ、対面じゃなくてもいいんだよ?カルデアには便利なものがいっぱいあるからねー」

 

優しい笑みを浮かべたまま刑部姫は、ボイスレコーダーを取り出してティーチへとそっと差し出した。それを受け取ったティーチは立ち上がると部屋を出て行く。

 

「…ふっふー、くろひーがドレイク船長に告白できたら一か月引きこもり券くれるって賭けは姫の勝ちだね。伊達に姫してないんだよ、マーちゃん」

 

勝利を確信しほくそ笑む刑部姫だったが、この時は知る由もなかったのだ。

 

この後自室にて血反吐をぶちまけ、血文字で『むりぽ』と書いた後に力尽きたであろう姿で見つかるティーチの事を。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

時を同じくして場所はアン・ボニーとメアリー・リードのマイルーム。

其処には部屋の主であるウサギの意匠が施されたコスチュームを身に纏ったアン・ボニー、同じく主である黒のタキシードとシルクハットを身に着け胸元からは懐中時計を覗かせたメアリー・リード。

そして、その二人に挟まれるようにして椅子に座る水色のエプロンドレスを着た茨木童子の姿があった。

 

「やはりお茶会といえばこの衣装が最適ですわ。二人ともとっても似合っていますもの」

 

「まぁ、普段のバニースーツよりは着なれた男装の方が僕はいいけど…彼女は着慣れてないみたいだよ」

 

アンとメアリーの二人に視線を向けられた茨木童子はというと、椅子の上で胡坐をかきティーカップを鷲掴みにしていた。

 

「菓子を馳走してくれると聞いて来たは良いが、よもや"どれす"等というものを着る羽目になろうとは…動きづらい事この上ないわ」

 

自身の服装をまじまじと見ながらぼやくと手にしたカップの中身を飲み干し、テーブルの上に置かれたクッキーを数枚口へと放り込む。その所作は不作法なものだったが、二人は咎めることはしない。

無法者が作法をとやかく言うのはお門違いだと思うが故に、茨木童子を微笑みつつ眺めるだけだった。

 

暫く歓談しつつ茶会を楽しむ三人であったが、不意にアンが茨木童子へと質問を投げかける。

 

「そういえば茨木さん、あの男とはどういったご関係なのかしら?」

 

その言葉に首を傾げて見つめ返す茨木童子、そのまま新たに手にしたマフィンを一口で頬張ると誰の事かと思案し始めた。

 

「ほら、ティーチの事だよ。最近一緒にいるとこをよく見かけたから気になってたのさ、何か変なことはされて無いかい?」

 

アンの問いかけに付け加えるようにメアリーが答え、ようやく合点がいった茨木童子は数度頷いて空になった口を開いた。

 

「あぁ、その事か。彼奴は吾が声を掛けたのだ、吾の首魁としての恐ろしさや威厳をより増す為の助言を得るためにな。人に頭を下げるのは気にくわぬが、酒呑の為ならば吾は多少なり折れるのも厭わぬ」

 

指についた食べかすを舐め取り、残った紅茶で喉を潤すと続けざまに言葉を紡ぐ。

 

「それに吾は彼奴の中に鬼を見たのだ。世に恐れられ、死して尚倒れ伏さず、後世にまで語り継がれる悪名…何より首を求めて動き回るなど人であるはずがあるまい?」

 

キャハハと笑い声を上げて膝を叩いては楽しげに語る茨木童子、その話を二人は自然と笑みを浮かべて静かに聞き入っていた。

もし仮に彼が自分たちの船長であったならば、どれだけ楽しく暴れまわれただろうかと。そして、海賊らしい最期が迎えられただろうかと。

 

「確かに男としてはありえませんが、海賊としては申し分ありませんものね」

 

「うんうん、船長としてみるなら文句はないね。異性としては絶対にありえないけど」

 

二人は共に腕を組んで頷くとバッサリと切り捨てる様に言葉を漏らすが、それに対して茨木童子は唸りつつ再度首を傾げる。

 

「他の者も言うておったな、彼奴は男としてみれぬと。吾は特にそういった感情は持たぬが、彼奴への憧れはあるぞ?しぶとく生き残るのも鬼ではあるが、散り様が後世に語り継がれ恐れられるというのは中々に無い話であろうしな」

 

にんまりと笑みを浮かべる茨木童子は、誇らしげに鼻を鳴らして見せるのであった。

 

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