―――ある日のカルデア。
ティーチの部屋には今日も茨木童子の姿があった。事があろうが無かろうが部屋に来ては『吾は暇だ、汝も暇であろう。』と勝手な決め付けと共に居座っていた。
ティーチは床に腰掛けベッドの横へと背をもたれ掛け、茨木はベッドにうつ伏せて互いに漫画を読み続ける。
「茨木殿、こないだのお茶会どうでござった?また新しいコスプレしたんですよね?どんなコスプレしたんでつ?そこんとこkwsk」
「む、先日は…ちゃいな服?とやらを着せられたな。めでぃあが随分と写真を撮っておったが…服を着替えただけで何があそこまで感情を昂らせるのかが吾には分からぬ。」
「ちょっと待ってチャイナ服?そん時って確かBBAも居たんだよな…漫画呼んでる場合じゃねぇ!」
言いきる前に漫画を放り投げるとティーチは颯爽と立ち上がり部屋を飛び出すと、何処ぞの波紋使いばりに駆け出していった。その姿は正しく暴走機関車そのものだったと後に語り草になる程だったと言う。
「やはり人間の思考は分からぬな、何が良いのだ?着飾ったとて腹は膨れぬし悦楽を満たせる訳も無し...」
ぽてぽてと足を揺らしながら手にした漫画『ウマ男?~スカーレットラビット~』を読み進める。暫くしてページを捲る音のみが聞こえる室内に、突如として扉の開く音が響く。
ティーチが戻って来たのかと視線を向ければ、そこに居たのは白髪赤眼の女性だった。
「おや、黒髭殿はご不在でしたか。折角新しきげぇむを持って来たのですが…居ないのであれば出直すと致しましょう。」
首を傾げつつベッドの上で体勢を直すと胡座をかく、継いで口を開けば女性へと声を掛けてみる茨木童子。
「彼奴に用事か、あまり見ぬ顔だな…汝は何者だ?」
「おや、貴女は…確か茨木童子殿でしたか。申し遅れました、私は巴御前と申します。以後お見知り置きを。」
そう告げられて頷く事で返答とすれば、じっと巴御前を見つめる茨木童子。その視線は頭頂部から爪先までを、数度往復した後に額へと固定される。
「…ほう、汝も鬼か。その割に吾や酒呑の様な角が見当たらぬ様だが?」
その言葉に巴御前はピクリと肩を震わせる。茨木童子に気取られない様に、表情は変えぬ様努めつつ言葉を返す。
「何故、そう思われるのですか?」
その問いかけに対して茨木童子は唇を歪め、次第に瞳までも歪ませれば大声で笑いだした。
「クハハ!鬼に対して何故分かるのかだと?阿呆が、その雰囲気…匂いで直ぐに分かるわ。」
背を反らし顔を上に向けて一頻り笑った後、再度巴御前へと視線を向ければニヤリと悪どい笑みを浮かべる茨木童子。その表情に嫌な予感が走る巴御前は身を強ばらせる。
「鬼であるなら話が早い、汝も吾と共にこの”かるであ”にて暴れ回ろうでは無いか!」
「謹んでお断り申し上げます。私は既にマスターへの忠誠を誓った身、そしてマスターの意に反する行いは私の想いに反する事になります故。」
そう言われた茨木童子の表情は笑みから無、そして怒りへと変わってゆく。歯を食い縛り眉根を寄せて巴御前を睨みつける。
「何故だ、鬼として生まれたのなれば殺し…犯し…喰らうのが常であろう?ソレを良しとせぬのは何故だ。」
「私は…巴は、人の子として生きてまいりました。そんな私を”認め、愛してくれた”方が居た。であればこそ…鬼と振る舞うのは許せぬのです。」
瞬間、茨木童子の怒りが膨れ上がった。何が切っ掛けか分からない巴御前は僅かに後退り、最早怒りを通り越し殺意とも取れるソレに冷や汗を流す。
何が彼女の逆鱗に触れたのか、何がいけなかったのか思考を巡らせるものの答えは出ない。
下手に動けば今にも飛びかからんとする茨木童子を前に、負傷覚悟で振り返った直後…扉が開いて誰かが入って来た。
「いやいやいや、メディア殿ぼったくりじゃない?茨木殿の寝顔とか海賊の誉れ何日分使えば…?」
自室へと戻って来たティーチの胸元へと当たる柔らかな感触、そして見下ろせばそこには巴御前の顔。数秒の硬直の後、ティーチは静かに紳士的な愛(意味深)を暴発した。
◇◇◇◇◇
「で?茨木殿は仲間に入れたい…巴殿は入りたくないと。」
茨木童子と巴御前はベッドの上、ティーチは床に座りながら互いの言い分を聞いていた。
「そうだティーチよ、今この”かるであ”にて鬼は吾と此奴のみ!引き入れる他無かろう!」
「黒髭殿、私は既にマスターの刃となった身。刃が気ままに人を切り付ける等あってはならぬ事態、どうか茨木殿を説得してくださいませ!」
互いの言い分を聞いたティーチは内心頭を抱えていた。何ならぶっちゃけ面倒くさいとまで思う、許されるなら二人の頭蓋を撃ち抜きたい位には。
然しながら相手は鬼種と呼ばれる二人。仕留め損ねたが最後、座に返った後に召喚される度に
「なら…巴御前殿の持って来たゲームで決着をつけるのはどうですかな?ジャッジは拙者ということで。」
その言葉に両方とも暫く決めあぐねていたものの、審判がティーチであるならばと渋々了承したのであった。
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