ペパロニの口調ってこれで大丈夫か? とちょっと不安な気持ちを抱えつつ書いてました。
気心知れた同級生や後輩にはこういう話し方のイメージなんですが、どうでしょう?
ちなみにペパロニが言う“あいつ”というのは以前出てきたモブ子です。
彼女の出番はここで終了になります。
よお、カルパッチョ! こっちだ、こっち~!
いや悪い悪い、あんまり遅いから先に始めちまってたよ。
え? 遅くなったのは私が仕事ほっぽりだしてさっさと帰ったからだって?
あ~……うん、ごめん。
ここは私が奢るからさ、それで勘弁してくれよ。
って、おい! アマレット、パネトーネ、ジェラート! 誰もお前らの分まで出すとは言ってねえぞ!? 何が「ゴチになりま~す!」だ、おい!
……あ~、もうわかったよ、出しゃいいんだろ、出しゃあ!
チックショー、今月厳しいのによ~。
え? 半分出すって? いや、でもよ。……悪い、助かる。
って、おい! お前ら少しは遠慮しろよ! 何高いモンばっか注文してんだよ!?
……よ~し、お前らがその気ならこっちにも考えがあるぞ。いいぜ、好きなだけ注文しな。
その代わり、お前ら次の訓練は覚悟しとけよ? 「え~!?」じゃねえ! 今更後悔しても遅えぞ! お前らまとめて地獄を見せてやるよ!
え? 最近の訓練は毎日地獄だって?
あ~、そりゃあ、まあ、な。
……。
って、な~に辛気臭い顔してんだお前ら! おら、今日は嫌なことは忘れて、とことん飲むぞ!
お? 何だよカルパッチョ、グラス空いてんじゃん。
すいませーん! 注文いいっすかー!?
*
お~し、じゃあそろそろいい時間だし解散すっか!
お疲れ! 気を付けて帰れよ~!
は~、ったくあいつらもいい加減しっかりしてほしいよな、ったく。
私が言うなって?
……そうだな。そうだよな。
私らがしっかりしなくちゃ、いけないんだよな。
何だよ? 悪かったな、らしくないこと言って。ちょっと酔いが回ってきたかもな。
なあ、カルパッチョ。この後時間大丈夫か?
そっか、なら少し付き合ってくれよ。
いいじゃんか、偶には、さ。少しでいいから、頼むよ。
そういやお前と二人で飲むのって初めてだよな。
愛しのたかちゃんと一緒にいたいのは分かるけどさ~、もうちょい部活の連中との時間も作ってくれよ。
四年が引退したら姐さんが隊長で私らが副隊長になるって話だし、私たちが皆のまとめ役にならないと。
姐さんが隊長で大丈夫かって? ……大丈夫に決まってる、とは言えないけどさ。前の姐さんならともかく今の姐さんは、な。
姐さん、やっぱ角谷さんのことが――
お、美味い! 居酒屋にしては意外と凝ってるじゃんこの料理。これどうやって……ああ、悪い悪い。で、何の話だっけ?
別に誤魔化してなんてねえよ。姐さんのことだろ?
……今日お前を誘ったのはさ、姐さんのことで聞いてほしい話があったからなんだよ。ちょっと長くなるけどいいか?
うん、じゃあ、え~と、どっから話せばいいかな。そうだな、まずは私が姐さんと角谷さんの関係を知ったきっかけからにするか。
きっかけは姐さんからタバコの臭いがしたことだったんだ。
「あれ、姐さんタバコ吸うんすか?」って聞いたら、明らかに動揺して誤魔化すもんだから、「もしかして彼氏でも出来たんすか~?」ってからかったりしてたんだよ。
姐さんはそんなんじゃないって否定してたけど、あからさまに怪しい態度だったから私も気になってさ。
だから私は姐さんのこと尾行して真実を確かめようとしたんだよ。
だって姐さんが悪い男に騙されでもしてたら困るだろうが。まあ結果的には無駄な心配だったんだけど、代わりに別の問題が出てきたんだよな。
尾行した先で姐さんは誰かと待ち合わせしててさ。こりゃマジで彼氏か!? って思ったけど来たのは男じゃなく女で、それが角谷さんだったんだ。
実は最初は誰だかわかんなかったんだけどな。いや、だってしょうがないと思うぜ? たぶんお前もパッと見じゃわかんなかったと思うぞ。
高校の時、試合の後の宴会でちらっと顔見ただけだからってのもあるけど、あの人すっかり変わっちまったからな。
無理もないとは思うけどな。大洗に何があったのかは私だって知ってる。だからあの人があんな風になっちまうのもわかるよ。
まあその後は、何だ彼氏じゃなかったのか、ってほっとしてすぐ帰ったんだ。で、その後に噂で姐さんが角谷さんのことをあれこれ世話してるって知ったんだ。
その噂もいつの間にか部活中に知れ渡っててさ、だから私は姐さんにもう角谷さんとは関わらない方がいいって言ったんだよ。
たしかに姐さんが角谷さんのことを放っておけなかったのはわかるよ。
でもさ、姐さんは本当はそんな暇なんてなかったはずなんだよ。チームの副隊長で、四年が引退したら隊長になるって前々から言われてたし、大学選抜の練習だってある。
ただでさえ忙しいのにあの人の面倒見てる暇なんてなかったはずなんだよ。
それに角谷さんに関しちゃ色々悪い噂も聞いたしさ。本当かどうか知らないけど西住さんを脅迫したなんて話もあるし、正直姐さんが自分の時間削ってまで面倒見る必要なんてないと思ったね。
姐さんも人が良すぎるっつーか……。そこが姐さんの良いところだとは思うけどさ。
本来なら無関係な私が口出しすべき問題じゃなかったのかもしれない。
でもさ、姐さんは明らかに無理をしてた。疲れが溜まってたのか体調も悪そうで倒れちまうんじゃないかって心配だった。
姐さんは真面目だから、角谷さんの世話にかまけて戦車道の方を疎かになんてしない。きっとどっちも全力だったはずだ。
戦車道だけでも手一杯なのに、土台無茶な話だったんだよ。
でも姐さんは私が何を言っても聞いてくれなかった。それどころか6月の大会が終わってからは戦車道の練習もちらほら休むようになって、私も我慢の限界が来ちまった。
いや、私だけじゃなくて他の皆もそうだった。中には実力行使に出ようなんて奴もいて、パネトーネなんかは角谷さんにヤキ入れてやるなんて言ってたから、私も慌てて止めたよ。お前ら絶対に余計なことすんじゃねえぞ、って。
とりあえずそれでひとまずは収まったけど、もう色々限界だったんだ。あのままじゃいつ姐さんは壊れちまうか分からなかったし、私を含めて周りの人間は何するか分からなかった。
それで思ったんだよ、私が何とかするしかないって。
でも姐さんは私の話なんて聞いてくれなかったから、私は角谷さんを説得するしかないって思ったんだ。
だから私は角谷さんを呼び出して言ったんだ。
姐さんと別れてくれって。
アンタといたら姐さんはダメになるって。
姐さんのためを思うなら、もう姐さんには近づかないでくれって。
最悪殴られることも覚悟してた。でもあの人は私の言葉を聞いて少し寂しそうに笑った後、「わかった」ってただ一言呟いただけだったよ。
その顔を見て後悔しなかったって言えば嘘になるな。やっぱり言うべきじゃなかったかもって思ったよ。でも私は姐さんのためにも心を鬼にしなきゃダメだって無理矢理自分を納得させたんだ。
これでいいんだって思ってたよ。
角谷さんが自殺したって聞かされるまではな。
角谷さんがいなくなってから姐さんは変わった。いや、昔に戻ったっていうべきかな。私らがアンツィオに入学したばかりの頃の姐さんはさ、何て言うかいっつもピリピリしてたろ?
勝つことがすべて。
戦車道を楽しみたい、遊びでやりたいなんて奴はお呼びじゃない。
やる気がないならやめろ。
そんなウチの雰囲気とは真逆のことばっか言っててさ。それで何度もウチの連中と衝突してた。私もよく突っかかってた。最終的に私たちの学年で残ったのは結局私とお前だけだったもんな。
まあ、うちの戦車道を立て直すために他の強豪校からのスカウトを蹴ってまで来てくれたって話だから、気ぃ張ってたんだろうけどな。
それでもあの時はまだマシだった。角谷さんの件は皆知ってたし、今はそっとしておこう、時間が解決してくれるってさ。あの絹代ですら空気を読んで黙ってたくらいだしな。
実際あのまま刺激しないでそのまま過ごしてれば姐さんも元に戻ってくれたかもしれない。
でも“あいつ”のせいで取り返しのつかないことになっちまった。
あいつはさ、元々明らかに姐さん目当てで入りましたって雰囲気のミーハーなやつで、戦車道になんてこれっぽちも興味なさそうで、それを隠そうとすらしてなかった。
姐さんも面倒見がいいからよくあいつに指導したり世話を焼いたりして、それで自分が大事にされてるとか勘違いして調子に乗ってた。
だからあんな態度を取れたのかね。皆空気を読んで大人しくしてたってのに、あの女はそんなのお構いなしにいつものノリで姐さんに話しかけてた。
角谷さんが死んだってのにそんなこと知らない、むしろ邪魔者がいなくなったって言わんばかりに嬉しそうにしてさ。
私は思ったね。ああ、こいつ馬鹿なんだなって。
噂じゃ角谷さんに絡んで酷いことも言ったらしいじゃん。……そうだな、ただの噂だな。でもあの女ならやりかねないって思うよ、私は。
姐さんもそこでようやくあいつの本性に気が付いたのかね。あるいは我慢の限界が来たのかもしれないけど。
すんげえいい笑顔で、そんなにしてほしいならいくらでも“指導”してやるって言った時は、「ああ、ご愁傷様」って思わず手を合わせて拝んじまったよ。
私も姐さんの“指導”は何度か受けたけど正直もう二度とごめんだもん。
けどあの時の姐さんの“指導”は私の時より酷かった。私も最初はざまあみろって思って見てたけど、だんだんシャレにならなくなってきてさ。
しまいにゃ泣いて吐いてもうボロボロになってるあの女の胸倉を掴み上げて無理矢理戦車に乗せようとして。
あん時は流石にマズいってことで慌てて止めに入ったよな。あのままだと姐さんはマジであの女が死ぬまで“指導”を続けてもおかしくなかったし。
止めるのも苦労したけどな。私とお前と絹代の三人がかりでようやくって、姐さんあの細い体のどこにそんな力があるんだって話だよ。見かけによらないって言うか、鍛えてんのかね。
まあ、あのバカは姐さんを訴えてやるとかふざけたこと抜かしてやがったから、後で私がきっちりシメといてやったけどな。
……そういえばあいつ、最近見ないけどどうしてんのかね?
あ、そ。辞めたのか。
それだけかって? それだけだよ。他に何言えってんだよ。
自業自得だろ。ていうかあんなことがあってまだ続けるつもりなら逆に尊敬するわ。
大体私はあいつのことは前から気に入らなかったんだよ。姐さんの手前我慢してたけど、本当はすぐにでも追い出してやりたかった。
そりゃ私たちアンツィオも戦車より飯の方が大事って雰囲気だったし、他校の連中からすれば似たようなものなのかもしれないけどさ。
それでも私たちは戦車道については真剣だった。
真剣に練習して、真剣に戦って、真剣に楽しんでた。あいつとは違うさ。一緒にされたかないね。
……もういいだろ、あんな奴のことなんて。それより姐さんのことだよ。
あいつの一件以来、姐さんの状態は悪化しちまった。今の姐さんはもう仲間のことなんてただの道具としか思ってない。勝つためなら平気で仲間を犠牲にするし、それを当然だと思ってる。
このままじゃアンツィオの時みたいに皆辞めちまうかもしれない。……どうしたらいいんだろうな?
え? 私が角谷さんにしたことを姐さんに言ったのかって?
言ってねえよ。何て言えってんだよ。角谷さんが死んだのは私が余計なこと言ったせいだって?
そんなの言えるわけないだろ。
……何だよ、私が悪いってのか?
そんなこと言ってない? 嘘つけ! どうせそう思ってんだろ!?
私が余計なことしたせいで、角谷さんも姐さんも不幸になったんだって!
ふざけんなよ! 私は悪くない! 私はただ姐さんのためを思ってやっただけなんだ! こんなことになるなんて誰が思うかよ!
私は悪くなんてないんだ!!
……悪い、怒鳴っちまって。
本当はさ、わかってるんだよ。私が悪かったってことくらい。
私は馬鹿だからさ、他にいい方法が思いつかなかったんだ。なら放っておけばよかったのかもしれないけど、それもできなかった。
お前ならもっと上手くやれてたのかな。私は余計なことしないで他の奴に任せておけばよかったのかな。
今更後悔したって遅いけどな。
……私が何をしたのか、姐さんに言わなきゃいけないってこともわかってるんだ。でも私は怖いんだよ。
姐さんに責められるのが。
姐さんに嫌われるのが。
……なあ、どうすれば良かったんだ?
どうすれば角谷さんは死なずに済んだ?
姐さんは傷つかずに済んだんだ?
教えてくれよ、なあ……。
私はどうしたらいいんだよ。
姐さんに、何て謝ればいいんだよ。
どうしたら、姐さんは元に戻ってくれるんだよ。
教えてくれよ。
……お願いだから……。
ちょっといい話が続いたと思ったらこれである。
やっぱり作者の根本はネガティブなんやなって。
アンチョビの性格が中学の時はコミック版という設定がようやく活かされる時が来ました。
コミック版のあの性格からどうやってアニメ版の性格になったかは、この後書いていきます。
ちなみにアンツィオ高校時代の話についてはアンチョビ細腕繁盛記も参考にはしています。
が、アンチョビの性格が異なるため、話の展開も別物になっております。
あしからずご了承ください。
この小説に望むのは?
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救いが欲しいHAPPY END
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救いはいらないBAD END
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可もなく不可もないNORMAL END
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誰も彼も皆死ねばいいDEAD END
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書きたいものを書けばいいTRUE END