ACE COMBAT Skies of Memory   作:翔田美琴

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とあるISAF財政部門の一日 ~メビウス1の憂鬱~

「こんにちはー」

 

 エリオット・レムがいつものようにISAF財政部に姿を現した。本日は彼にとっての給料日なので、この財政部門に来た訳だが…。

 相変わらず、ISAF財政部は青ざめた表情を浮かべている。

 彼も財政部が頭を悩ませている問題は知っている。

 共に空を飛ぶあのオメガ11のことである。

 この間の空戦…あのコモナベースの空戦でも、彼は見事に撃墜され、ベイルアウトしたのである。

 

「相変わらず、青ざめていますね。司令」

「ああ…メビウス1、君か。全く、あのオメガ11と来たら、またベイルアウトしよってからに…」

「知っています。無線で聞こえました。”オメガ11、イジェクトする”って」

 

 そこで彼はあんまり聞きたくないが、あの作戦でオメガ11が何に搭乗していたのか、訊いてみた。近くにはコーヒーメーカーとマグカップが置いてある。

 何気なく、マグカップにコーヒーを入れて、一口含む。

 

「それで…オメガ11の奴、今度は何の機体を壊したのですか?」

「よりにもよって、ラプターだ」

 

 エリオット・レムはそこで飲んでいたコーヒーを思わず噴き出して、そしてむせた。

 思わず彼は怒鳴ってしまう。

 

「誰ですか!?奴にラプターを支給したのは!?」

「こちらとしても、誰だか聞きたいくらいだよ」

「全く、我がISAF財政部門の資金難はあのオメガ11にあると過言ではないな」

「全く、その通りですな」

「メビウス君。パイロットの君に訊ねるのも難だが、オメガ11には何を乗せておけばいいと思う?」

 

 彼は噴き出したコーヒーをもう一回、入れ直して、そしてこう言った。その表情は既に呆れ顔だ。

 

「もう、あいつには、練習機でいいですよ!練習機で!」

「例えば?」

「タイガーとか、フィッシュヘッドとか、そんなので十分です!」

「それか、レジプロ機でもいいんじゃないですか?」

「今の時代にレジプロ機があるのか?」

「さあ?何なら、ファントムにでも縛りつけておいたらどうです?あいつはもう、一言で言えば”ベイルアウト中毒”ですよ」

「でも、オメガ11は陸戦では最強なんだけどな」

「まあ…確かに」

 

 コーヒーを飲みつつ、ここに来たことを忘れかけていた彼は、改めてここに来た”理由”を話した。

 

「この間の報酬を貰いに来たんで、よろしくお願いしますよ」

「うっ…」

「……まさか、出せませんって言うんじゃ…?」

「そんなことないよ。きちんと君の報酬は払う。君はISAFの救世主だからね」

「あの~、声が震えてますよ」

 

 司令の顔には明らかに焦りの色が出ている。どうやら、ISAF財政部の資金難は深刻な状況らしい。

 司令の顔には滝のような汗が出ている。まあ、無理もない。

 ラプターは1機で100億円する代物だからだ。メビウス1の頭にはその100億円の無誘導爆弾が落ちている光景が浮かぶ。

 何て、コストパフォーマンスが悪い無誘導爆弾だと思う。

 せめて撃墜されるなら、ストーンヘンジの上で墜ちて欲しいものだと思う。

 そこで財政部門の司令は衝撃的なことを彼に頼みこんできた。

 

「物は相談なんだがね。メビウス君。オメガ11が壊したラプターの代金、肩代わりしてやってくれないかね?」

「はあ!?何で俺が?!奴にきちんと請求してください!俺は知りませんよ」

「でもこの間の作戦でも、メビウス君、君は1000万は軽く稼いだような…」

「遠慮しておきます」

「何で?」

「この大陸戦争が終わったら俺は除隊させていただきますから。嫁さんも貰ったことだし」

「あの噂は本当だったのか?滑走路管制官の彼女と出来てるって話は?」

「言わないでくださいよ。さっきも仲間に冷や水浴びせられたんですから」

「とにかく、嫁さんを貰ったからには今のうちに稼いでおかないと後々子供が出来たら、それこそまたどこかの戦争に”傭兵”として行かなきゃならない」

「君程のパイロットならどこでもやっていけるような気がしないでもないがね」

「冗談じゃないですよ。しばらく俺もハネムーンとか、普通の人がしていることをしたいんです」

 

 メビウス1はコーヒーを飲みながら、そんなごく”普通”な夢を見ていた。彼は腰に手をやりながら目を閉じてコーヒーを飲んでいる。彼は更に付け加える。

 

「払えないなんて言ったら、俺、ISAFやめますからね。この間も最高の戦績を収めたのにその報酬が払えないなんて軍に俺がいるってのも不平等ですからね」

「払うって。メビウス君!君がいなくなったらそれこそ我がISAFはまた敗残兵の塊になってしまう!」

「頼みますよ?オメガ11には俺が後でお灸をすえておきます」

「助かるよ。メビウス君」

「……ったく。オメガ11の奴、あいつには戦う意気込みがないのか?」

「一部のISAFの兵士の間では、オメガ隊は”ベイルアウトヘブン”なんて呼ばれているらしいな」

「妙なカルト宗教みたいな人気もあります。妙な歌もあるんだとか」

「妙な歌?」

「”射出旋風・オメガ11”ですって。”エンゲージとあらば即イジェクト!超機動ベイルアウター、オメガ11・参上!!”みたいな」

「アホだ」

「ですね」

 

 マグカップに入れたコーヒーを飲み終えたメビウス1は、きちんと置かれていた場所にマグカップを戻して、こう念を押してISAF財政部から去ったという。

 

「それじゃ、お願いしますよ。俺の報酬」

「必ず近日中に振り込む」

 

 今日も今日とて、ISAF財政部門は火の車状態だな…。

 まあ、財政部門がまだ真っ赤になって怒っていないから、まあまあ平和な方かな…と思ったメビウス1であった。

 そして、今日も今日とて、元気にオメガ11は、パラシュートを開いて空を飛んでいるのであったとさ。


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