神流れ   作:中崎 中蔵

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1.夢の終わり

血。

 

血を吸い続けている。自分の流血も、殺した人の血も、何もかもを。

…悍ましい。なぜ、そんなことができる。

 

…力を求めた代償か、自らの矮小さを認めぬ心の弱さか

 

「どちらにせよ、観れたものではないね。」僕はため息をつくしかなかった。この街を喰い物にしたのだ。今すぐ、打倒しなければ。

 

「能力開眼(スキル・アンロック)[コード:パラノイア]」

 

少女の声が、濁んだ水面を伝う。男の目に映る美しい容貌が、ぶれる。一となく二となく三となく…数多の影になる。

 

「原始能力(ファーストスキル)発動(アンファー)」

 

 

 

 

 

「パラノイア、ただ今戻りました。」「オォー、お疲れ様だよねぇ。」「何が『お疲れ様だよねぇ』ですか。アンタの担当区域だろうがウワバミ。」

「ノイちゃんには何もおねがいしてないけどねぇ。」

「…あなたのそういう所も大嫌いです。パラダイム。」

 

乱暴に扉を閉める。なんといっても腹がたつ、あの無責任な態度、見透かしたような言動、何を取っても。

 

アルコールがかなり入った老年の男-パラダイムは今回事件が起こったδ地区の地区長である。

もっとも、今の状況では本来の力の2割も出せないだろうが。

 

(主任にきつくいってもらわねば。)

 

主任であるパラドクスのことを思いながら、今回の事件のことを打電する。嫌が応にも、先ほどの胸くそ悪い光景が脳に戻ってくる。

 

「δ-2の切り裂き魔」、その正体はクトーニアンの降霊者であった。といっても、劣化の劣化。本来のクトーニアンの強大さとは程遠い物だったが。

 

(むしろ降霊したのは吸血鬼ではないのか?クトーニアンはそこまで吸血を好む生物ではない。)

 

数度かの化け物と対面してきた彼女にとって、先ほどの異常なまでの吸血行動は違和感があった。先程は彼の言動やほかの要因…姿形や行動様式からそのように判断したが、さらに調べる必要がありそうである。

 

報告書を書き上げ、そのままベットに横になる。

…何かとぶつかる。ああまったく、いつになったら懲りるのか。

 

「おかえり、お姉ちゃん。」「…勘弁してくれ。」

 

クマのぬいぐるみを抱きかかえ、ネグリジェに身を包んだ幼女-パラサイトは艶めかしく彼女にすり寄る。

 

「さあお姉ちゃん!早速あたしとの子供を「はいはいわかったから子供は寝ようねー」

 

じたばたと抵抗するパラサイトをつまみ上げ部屋から出す。

 

(最初はあんなんじゃなかったのになぁ…)

 

しかもどこで覚えてきたのか性的なことまでよく知っている。パラノイアよりも知っているかもしれない。

 

彼女は自らの胸に手を置いた。そして、パラサイトの先ほどのスケベな姿を思い出す。

 

(あの子があるんじゃなくて、僕がないんだよなぁ)

 

どっと疲れが出てきた。さっさと寝てしまおう。

 

 

 

 

 

 

「起きろ、ノイア。おーきーろー。」

「んっ…なんだ、まだ5時にもなってないじゃないか。」「俺はもうすぐ仕事なんだよ。」「…勝手だな君は。」

 

低く澄んだ響きのある声に、彼女は目を覚ます。

爽やかで快活そうな青年-パラディンは、γ地区のエージェントとして裏で動いているのとは別に、降霊、霊視を「生命エネルギー」という観点から分析する学者もしている。彼にとって、昨日の案件は非常に興味深い一件なのだ。

 

「何が飲みたい?コーヒーか紅茶か」「アメリカンコーヒーをくれ。話はそれからだ。」「O.K. 待ってな。」

 

彼は慣れた手つきでコーヒーを淹れる。喫茶店のバイトでもしたことがあるのだろうか。

 

「綺麗な手だな。」「朝から口説きにかかるとはお盛んだなお前。」「思ったことを言っただけだよ。」

 

彼女は無愛想にコーヒーをすする。そして、昨日のあらましを話し始める。

 

「ほー、クトーニアンとは。なかなかいい趣味してるな。」「彼の行動は悪趣味そのものだぞ。」「そんなことは百も承知だ…うちの学生でその研究をする奴がいたら、って話。」

ついでとばかりに昨日の疑問点もぶつけてみる。

 

「彼は本当にクトーニアンの降霊者と思うか?」

「間違いねぇだろ。」パラディンは即答した。

 

「…じゃああの異常な吸血行動は。」「そいつそのものが吸血鬼だったんだろ。」「なんだって?」

 

「お前は担当地区以外もしっかり知っといた方がいい。今のδ-2の異界混入率は最悪に近い。α-3の次くらいだ。正直、原種の吸血鬼がころっといた所で何もおかしくはない。」

「パラダイムの職務怠慢か?」「んなわけねぇだろ。オヤジが対処できない問題なんてねぇよ。」

「…君はパラダイムを買いかぶりすぎだよ。」「ババアにぞっこんのあんたに言われたくないね。」

 

少し険悪なムードが流れる。パラディンは息をついて

「まあここでその話をしたってしょうがない。結論、そう言うことだ。」「…なるほど、筋が通っている。報告書に付け足しておこう。」

 

パラディンはまたため息をついて、

「まぁいいけどよ、あんまり仕事ばっかりのめり込んでもしょうがねーぞ?今日は昨日ので非番になるだろうし、好きに出かけたらどうだ?」「その辺は僕が勝手に決める。」「あいあい、お前はそーゆー奴だったな。」

諦めたような調子で彼は吐き捨てると、スーツに袖を通す。

 

「んじゃ、行ってきます。」「…気をつけて」

 

 

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