インフィニットオルフェンズ2   作:モンターク

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初心を忘れずに初投稿です。





硝子少女(シンデレラ・ガール)の透色和音

第4アリーナ 更衣室

 

楯無「じゃあこれに着替えたらステージに来てね」

 

一夏とオルガが楯無から手渡されたモノ──

 

それは演劇用の衣装であった。

 

ファンタジー映画などで王子様が着るような青いコートに白いシャツとズボン。コートには金の宝飾があしらわれており、袖には赤い宝石が、肩には金の肩章(けんしょう)も着いている。

そして、白いスカーフ、赤い大綬(だいじゅ)も同時に手渡される。

 

どうやらこれを着ろと言っているらしい。

 

一夏「え?」

オルガ「は?」

 

もちろん唐突に言われたため、二人は困惑している。

 

「それと……大事なのが……はい、王冠」

 

最後に手渡されたのは金の王冠。前と後ろにそれぞれ大きな赤い宝石一つと小さな青い宝石が二つ埋め込まれている。

 

それを渋々受け取りながら、一夏は楯無にこう尋ねた。

 

「あの……脚本とか一度も見てないんですけど……」

「そうだ、一体どんな内容なんだぁ?」

 

二人がそう聞くと、楯無は『心配無用』と書かれた扇子を広げながら、こう言った。

 

「大丈夫大丈夫、基本アドリブのお芝居だし、必要な指示はこっちからも出すから」

「は?」

「それじゃあよろしくね♪」

 

楯無は劇の準備のためか、そのまま更衣室から出ていった。

 

「イチカ……基本アドリブの芝居なんかあるのか?普通」

「いや、俺も聞いたことないな……つかプロでも無理だろこれ」

「バカじゃねぇか?あの生徒会長」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

二人は仕方なく王子服に着替え、ステージに立つ。

 

≪さあ、幕開けよ!≫

 

その楯無のアナウンスと同時にアリーナの屋根が完全に閉鎖され、辺り一面が暗くなる。

 

そして、すぐに映写機が動き出した。

 

≪昔々、あるところにシンデレラという少女がいました≫

 

「え?」

「……はぁ?」

 

≪否、それは名前ではない≫

 

「あ?」

 

≪幾多の武闘会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰塵(かいじん)を纏うことさえ厭わぬ、地上最強の兵士達≫

 

投影されている映像からはどう見てもシンデレラのものではないものが流れている。

 

「は?」

 

≪彼女らを呼ぶに相応しい称号…それが灰被り姫(シンデレラ)

 

「は!?」

「やっぱりバカじゃねぇか……」

 

(いくら俺でも本来のシンデレラはこんなんじゃねえってわかるぞ…)

 

火星育ちで童話すら知らないオルガも流石にこれは異常だとわかってしまう。

 

それだけ無茶苦茶なものであるからか。

 

≪王子の冠に隠された軍事機密を狙い、少女たちが舞い踊る!≫

 

「「きゃああああああああああああっ!」」

 

観客席から生徒の歓喜の声が響く。

 

「ちょっと待て!それじゃ……」

 

オルガが言いかけた後……

 

辺り一面の照明が付く。

 

「え?……なぁオルガこれって…」

「勘弁してくれよ…」

 

一夏とオルガは勘づく。

 

≪今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる…≫

 

そして、オルガは……こう言った。

 

「イチカ、俺たちは確実に殺されるぞ!」

「ええっ!?」

 

「一夏ああああああああっ!!」

 

次の瞬間、鈴が上から剣で一夏に襲いかかってきた。

 

「うわっ!?」

 

一夏はなんとか回避する。

 

「鈴、急に何したいんだよ!?」

「一夏、その王冠を今すぐ渡しなさい!」

「な、なんでだよ!急に剣なんか振り回して…説明しろよ!」

 

『大丈夫!ちゃんと安全な素材で出来てるから』

 

「そういう説明じゃねぇ!」

「だからいいから早く渡して!」

 

(早くしないと箒に取られちゃう…なんとしても奪わないと……!)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

数時間前 一組教室にて

 

楯無は鉄華団の女子五人を集め、あることを話し始めていた。

 

楯無「もし、そのオルガ君・一夏君・三日月君の王冠を取ったら、その取った相手の男子と同居できる権利をプレゼントしようと思うの」

 

箒「なに?」

シャル「でもそんなことって……」

「ふふっ、大丈夫……生徒会長権限で可能にするわ」

 

シャルと箒の疑問に答え、扇子をパタパタさせる。

 

ラウラ「ほう……だがそのように生徒会長権限とやらを濫用してよいのか?」

 

「生徒会長だから良いの♪」

 

ラウラの質問には答えになっていない答えを返していた。

 

鈴(なによそれ……)

 

なお、鈴は少し呆れている

 

「じゃ私は準備があるから……頑張ってね~♪」

 

そして楯無はそのまま教室から立ち去る。

 

箒(はぁ……まあ鈴より先に一夏の王冠を取ればいいということか…な、なに!別に私は同居したいというわけじゃないが……そうだ!最近一夏は疲れているからな、その世話をしたいというだけだ!)

 

鈴(まあ箒より先に一夏の王冠を取ればいいわけね……よし、このチャンス…気合い入れるわよアタシ!……って別にそんな好きに同居したいわけじゃないから!仕方ないから!)

 

シャル(オルガ、僕に王冠渡してくれるかな……もし…もし同居したら………ってそんな破廉恥なこと考えちゃダメだよ!)ブンブンブン!

 

ラウラ(ミカならすぐに王冠を渡してくれるであろう……同居できるようになれば今までのように潜入する手間が省けて起こしに行ける……更に私とミカの絆は深まるかも知れないな!)

 

一夏を狙う幼馴染二人とすでにほとんどゴールインしている二人が燃えている中

唯一あの三人に惚れてもいないセシリアは全く気が進んでいなかった。

 

セシリア(はぁ……別にワタクシはそんな権利に興味はありませんけど……棄権したいですわ……)

 

そんなことを考えているセシリアに鈴がこう話を持ちかける。

 

「そうだ!セシリア、王冠取るつもり無いならアタシを援護しなさい!」

「え?ワタクシは……」

「いいから!」

「はぁ……まぁ、わかりましたわ…」

 

鈴の気合いに押され、受けざるを得なくなったしまったセシリア

 

(まぁ、こうなってしまいますわね……)

 

「はぁ……」

 

再びセシリアはため息を付いたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

第4アリーナ 舞台上

 

(くっ、リア充組は良いわよね…取ることは確約されてるんだから)

 

そんなことを考えながら、ドレス姿の鈴は一夏とオルガに対して剣を振り回していた。

 

(だけど一夏はまだ……)

 

パンッ!

 

「グッ!?」

 

その時、希望の花(ワンオフアビリティ)咲いた(発動した)

 

「だからよ…止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

オルガの希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せたのは、一発の銃弾だった。

 

「この遠距離射撃は……セシリアか!」

 

一夏は希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せたオルガを心配して、声を掛ける。

 

「オルガ!大丈夫か!?」

「こんくれぇなんてこたぁねぇ……」

「ちっ……とにかくこっちに逃げるぞ!」

 

オルガをなんとか引っ張って壁となりそうなドアの方に逃げ込む一夏。

 

「ちょっとセシリア!なにオルガに当てちゃってるのよ!あくまでも威嚇射撃って言ったわよね!?」

「だって仕方ないですわ、どう撃ってもオルガさんに当たりそうですもの……」

 

(はぁ……なんでワタクシはこんなことしなければなりませんの…?)

 

セシリアは楯無から支給された演劇用のスナイパーライフルを構え、スコープを覗きながらも……迷っていた。

 

(三日月さんと同居できる権利は少し羨ましいですけど、あの方にはラウラさんがもういらっしゃいますし……)

 

パンパンパンッ!

 

(あとどう考えてもこれってほとんど実銃と同じくらいの威力…壁にめり込んだり、木製のドアに普通に貫通してますわね……)

 

パンパンパンッ!

 

「おわっ?!」

「勘弁してくれよ……」

 

(あの生徒会長さん、これが安全と考えていらっしゃいますの…?三日月さんなら間違いなく突っ込みますわ……)

 

「だから勘弁してくれよ……」

 

(はぁ……どうしてワタクシはこんなことを……三日月さんとラウラさんはどこに…?まぁ、あの二人ならきっと大丈夫だとは思いますけれど……)

 

パンッ!パンッ!パンッ!

 

 

「くっ!どうすれば……!」

 

ドアが完全に壊れ、突破されれば、間違いなく鈴が襲いかかってくる。

 

万事休すかと思われた…が

 

「オルガ!一夏!こっちこっち!」

 

そんなところにシャルロットという天使が舞い降りた。

シャルロットはオルガと一夏にむかって手を降っている。

こちらに来ても良いというサインのようだ。

 

「おお!シャルじゃねえか!」

「シャルロット!」

 

上から飛び降りる二人。

 

「恩に着るぞシャル!……じゃあさっさと逃げちまうか……」

「あぁ、ちょっと待って!」

 

逃げようとするオルガをシャルロットが引き止める。

 

「ん?」

「その……オルガ…。できれば僕に王冠を置いていってくれると嬉しいな……」

 

シャルロットのその『お願い』を二人は聞き入れる。

 

「あ、あぁ…いいぞ…?」

「じゃあ俺も」

 

そして、二人とも王冠を取ろうと、頭の上に手をかける。

 

「ああ!一夏は待って!」

 

そんな一夏をシャルロットが止める。

 

「え?」

「その……一夏の王冠は箒か鈴に渡したほうが良いと思うから…」

「お、おう……そう…なのか」

「じゃあ俺だけ取ればいいんだな?」

 

オルガは王冠に手をかけ、頭から取る。

 

 

──が、その直後に再び生徒会長の声が聞こえ始める。

 

≪王子にとって国とはすべて≫

 

「は?」

 

≪その重要機密が隠された王冠を失うと……≫

 

「あぁ?」

「失うと…?」

 

次の瞬間──

 

「ぐあああああああああああっ!?」

 

オルガの体に文字通り、電撃が走る。

 

その時、希望の花(ワンオフアビリティ)咲いた(発動した)

 

 

≪自責の念によって、電流が流れます!≫

 

「オルガ!?」

 

「だからよ……電撃でも普通に死ぬことを忘れるんじゃねぇぞ……」

 

もちろんオルガは希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せてなんとか生き返る。

 

≪ああ、なんということでしょう!王子様の国を想う心はそうまでも重いのか……≫

 

わざとらしい声でそう言う楯無。

 

≪しかし、私達には見守ることしかできません!ああ、なんということでしょう!≫

 

「二度も言うんじゃねぇぞ……」

「う…ううっ……また僕のせいでオルガが……」

「シャ……ル?」

「僕…そんな風になるなんて知らなかったから……」

 

シャルロットはオルガを再び傷つけてしまったという自責の念で顔が暗くなってしまった。

 

「大丈夫だシャル……悪いのはあの会長だ……」

 

そんなシャルを心配させまいと、元気に立とうとするオルガ。

一回死んだが、ワンオフアビリティでなんとか回復したといういつものことである。

 

「オルガ……あんまり無理しちゃダメだよ…?命は大事にしよ…?」

「ああ、わかってる……あの会長をぶっ潰すまでは死のうにも死ねねぇ!」

 

(後で確実にぶっ潰す……!)

 

雲海での一件以来、怒ることがあまりなかったオルガですら、会長の度重なるおかしい行動により、もう沸点の限界を越えてしまっていた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

(まさかそういう仕掛けだったなんて…ワタクシ達鉄華団をなんだと思っていますの!?)

 

その楯無のアナウンスを聞いたセシリアも怒りが徐々にこみ上げてくる。

 

(……一夏さんを逃がす必要がありますわね……でしたら!)

 

「そこまでですわ!」

 

パンパンパンッ!

 

「くっ!」

 

シャルロットはどこからか取り出した強化ガラス製の盾で難なく防御する。

 

「セシリアお前……!」

 

(……ん?あの光…)

 

セシリアはスナイパーライフルのフラッシュライトをパカパカと光らせていた。

何かの信号のようであった。

 

(なるほど、そういうこと!)

 

シャルロットはセシリアの意図に気付く。

そして、一夏にこう指示を出した。

 

「一夏、先に逃げて!」

「お、おう!サンキュー!」

 

一夏は裏の方に走り出した。

 

シャルロットとセシリアの考えにピンとこないオルガは小さな声でシャルロットにこう尋ねる。

 

「…ん?どういうことなんだ?」

「僕、オルガとセシリアで派手に撃ち合いして生徒会長の気をそらす作戦だよ」

 

シャルロットはセシリアがスナイパーライフルのフラッシュライトを使った信号で提案された作戦をオルガにも伝える。

 

「そして他の皆が逃げれるようにって…そして僕達は頃合いを見て徐々に奥の方に……」

「お、おう…そうか」

 

オルガも拳銃に手を取り、セシリアに撃ち返し始めた。

 

「あぁ、わかったよ!やるよ!」

「ワタクシの射撃を舐めないでくださいまし!」

 

(なるべく当たりそうで当たらないところを狙っていきますわ……!)

 

パンパンパンッ!

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

楯無のアナウンスを聞いた鈴は一夏を狙うのを止めて、舞台裏へと戻っていた。

 

「くっ……あの生徒会長……!」

 

(なによ……権利を取る取らない以前に、王冠取っちゃったら一夏にも電流が流れるってことでしょ!?)

 

鈴もセシリア同様、怒りに身を震わせていた。

 

(ふざけんじゃないわよ……いくら一夏は唐変木だからって、そこまで傷つけるつもりはないわよ!)

 

そう心の中で叫びながらも、先ほどの自分の行動を思い出し、鈴は少し反省する。

 

(……まぁ、アタシも少しやりすぎたことも多々あったのは事実だけど……。はあ……もっと素直になれたらなぁ……)

 

そんな鈴に声を掛けつつ、走って近付いてくる者が一人。

 

「鈴!」

「箒!こっちに居たのね」

 

それは鈴と同じく、一夏との同居権を狙う箒だった。

 

「あぁ……でさっきの電流の話は聞いたか?」

「もちろんよ……オルガはそれで一回死んでたわ」

「やはりな……しかしいくらなんでもやりすぎだ!これでは一夏が……」

 

この状況、誰が敵で誰が味方なのか。

それが分からぬ二人ではない。

 

「あの生徒会長、男が入ってきたからそれで遊んでるのよ…きっと」

「だろうな……」

 

(くっ……あの生徒会長…私達鉄華団を舐めているのか…!?)

 

(私達の「仲間」を物珍しい遊び道具かのように……許さない…!)

 

二人の怒りはもう爆発寸前だ。

 

「……そうだ、一夏は?」

「確か私とは別方向で逃げていったはずだから、もうそろそろでこっちに来ると思う」

「そうか……なら一夏と合流してあの電流を流す仕掛けをなんとかしなければな…」

「ええ」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

その頃、三日月とラウラは……

 

「……ミカ?」

「ラウラ?」

「その…どうしたのだ?宇宙服のような格好は……」

「……いたずら対策」

「そ、そうか……」

 

三日月のその格好は前世で良く着ていた黄色いパイロットスーツであった。

 

その頭の上にはもちろん王冠がある。

 

「で、王冠を渡せば良いんだっけ?」

「あ、あぁ……だがその王冠を取るとミカに電流が…」

「大丈夫」

 

三日月はそう言うと、ヘルメットのバイザーをはめ、王冠を上から取る。

 

オルガのように電撃が来るかと思いきや、三日月のその体には不思議となにも起こらなかった。

 

それもそのはず、パイロットスーツは極限環境の宇宙でも使えるようになっているため、外側の素材は絶縁体で作られている。

 

つまり基本は何も通さない。

 

おそらく王冠と服で何かしらの仕掛けが施され、王冠を取ると服から電流が流れるような仕掛けになっていたのだろう。

 

だが、パイロットスーツだとそもそもその仕掛けを通さないため、機能しなかったのである。

 

「……うん、良いよ」

「あ、ああ……」

 

三日月はラウラにその王冠の手渡す。

 

「ありが…とう……」

「……ならこれで大丈夫かな」

 

そして三日月は邪魔だったパイロットスーツを脱ぐ。

 

「あ…ああっ!」

 

 

そこには……「王子様」が居た。

 

 

「ふーっ…やっと」

「み、ミカ…!」

 

三日月の王子様姿にラウラは言葉を奪われる。

 

(これは……確かクラリッサが言っていた……「白馬の王子様」というやつではないのか!?)

 

「ん?」

「さ、流石私の嫁だ……凄く……その…似合ってるぞ!///」

「よかった、これ動きにくかったけどラウラが喜んでくれるなら…」

 

(わ、私のために…///)

 

「その、なら私の格好は…どうだ?やはりこういうのにはあまり慣れないが……///」

「……ラウラのその衣装もかわいいしよく似合ってると思う」

「そうか…///」

「………」

 

チュッ

 

「んん!?」

 

オ~ルフェ~ンズナミダ~♪

 

三日月の唇でラウラの唇は塞がれた

その後、三日月は唇を離す。

 

「み、みか……急に……///」

「かわいいと思ったから……良いよね?」

「あ、ああ…!もっと…してもいい……ぞ///」

「た、確か王子様とお姫様はいつもキスしていると聞いたこともあるしな!うん、いいぞ///」

「うん、わかった」

 

愛し合う二人──お互いに戦場しか知らなかった王子様と灰被り姫(シンデレラ)

 

彼と彼女を平穏を止める者は誰一人いなかった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

三日月とラウラが愛し合っている頃、一夏はなんとか舞台裏までやってきた。

 

「はぁはぁ……ここまでくれば……」

 

そんな一夏を呼ぶ二人のドレス姿の少女達。

 

「一夏!こっちだ!」

「こっちこっち!」

 

箒と鈴の手招きに呼ばれ、一夏は彼女らの元へと急ぐ。

 

「箒!鈴!……もしかして俺を追ってここに来たのか!?」

「違うわよ!もうそんなことする気ないから!そもそも取ったら一夏に電流流れちゃうじゃない!」

 

鈴のその言葉に少し、安堵の息を漏らしながらも一夏はこう言う。

 

「あ、ああ……楯無さんもなんでこんなことをするんだよ……」

「わからん……だが確実に許せないということは確かだ」

「ええ、後で引っ叩いてやるわ……」

 

その二人の気合いに押され、一夏は少し萎縮してしまう。

 

「お、おう…そうか……まぁ、確かにこれはやりすぎだよな……オルガ死んじゃってたしよ」

 

そんな一夏を見て、箒と鈴は小声でこう話し始めた。

 

「全く、あれでもまだ怒らないとは……一夏はやはり優しすぎる……」

「同感ね……まぁ、それが一夏のいいところなんだとは思うけど」

「ああ……確かにそうだな」

 

小声で話し合う彼女らを見た一夏はただただ首を傾げるのみであった。

 

「とにかくここは少し危険だ、この梯子を登ろう。その先なら安全のはずだ」

「お、おう!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

三人は難なく梯子を登り、上に着いた。

 

「はぁはぁ……結構キツイなこれ……」

「これやっぱ動きづらいわよね………ああ、しんど」

「ああ、やはり重いな……」

 

三人が疲れてそのまま座っていると、一夏が口を開く。

 

「ところでさ、思ったんだけど」

「どうした?一夏」

「なんでこの王冠を奪い合う必要があるんだ?なんかあるのか?」

「そ、それは……///」

「そ、そうだな……///」

 

言葉を濁す二人。

当然だ、景品が「その王冠を持ってる男と同室になれる権利」である。

恥ずかしくて口が裂けても言えなかった。

 

「もしかして……」

 

「!」

 

「!?」

 

「高級スイーツ食べ放題とかそういうやつか!?」

 

「「………え?」」

 

なんとも的外れなその一夏のセリフに二人は呆れてしまう。

 

「ん?違うのか?」

 

しかし、彼のその鈍感さは今だけは渡りに船だった。

 

「い、いや……そうだ!」

「そ、そうよ!そういうのよ!」

「なるほどなぁ……だから必死こいて俺の王冠を……食べ物の景品は欲しいからなぁ……」

 

そのまま納得する一夏。

生まれつき鈍感の利点(?)がここで発揮されたようだ。まさに渡りに船である。

 

(はぁ……一夏が鈍感でよかったわ)

 

(まさかここで鈍感に助けられるとはな……)

 

もちろん箒と鈴は安堵している。

 

「と、とにかく、今は一夏のそれをどうにかする方法が先だ!一夏は……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「ふぅ……」

 

一方の三日月とラウラはキスを終えたところだ。

ラウラは少し火照っているが、三日月はなにか警戒している。

 

「……み、か?」

「ごめん、ラウラ。ちょっと行ってくる」

「そ、そうか……」

 

ラウラは少し残念がる。

もう少しこの感じに浸っていたいのだが、「嫁」にそんなわがままは言えなかった。

 

何故なら三日月の目はすでに戦場にいるくらいの警戒した目になっていたからだ。

 

「また後でね、ラウラ」

「ああ……何か来るのか?」

「うん、チョコの人の話が正しければだけど」

「そうか……」

「じゃ」

 

そのままラウラは三日月を送り出した。

 

そしてラウラも調子をいつも通りに整えて、騒がしい表の方向に歩き出す。

 

(……何かが来る…か)

 

 


 

 

一方の楯無はアリーナの管理ブースからその様子を見守っていた。

 

『こんなところじゃ、終われねぇ!』

 

『逃しませんわ!』

 

『こっちからもなんとか撃つから、オルガは後方に移動して!』

 

『わかった!』

 

もはやシンデレラなどではなく、本職顔負けの撃ち合いが始まっていた。

 

三人の迫真な演技に観客である生徒たちは見入っている。

 

「凄いわね……さすが鉄華団ってところかしら?」

 

そして楯無も珍しく舌を巻くくらい見入っていた。

 

「ん?そういえばなにか忘れているような……あ」

 

ここでやっと楯無にとっての本題に気づく。

そう、オルガは目の前のモニターにしっかり写っているのだが一夏と三日月は居ない。

 

「もう、一夏君と三日月君はどこに行ったの?」

 

ピッピッピッとモニターの映像を次々と切り替えていく。

六つほど押した後、一夏と箒と鈴がその場にいる映像が映し出された。

 

「どれどれ……どんな修羅場になってるのかなぁ?」

 

音量を上げていくと……三人の声が聞こえてきた。

 

『つまり、アタシと箒が陽動を行って』

 

『そのうちに一夏が裏に逃げて、その服を脱ぐということだ』

 

『ええ、確かオルガの電撃流れた時、王冠が外された時に服から電撃が流れたように見えたからきっとその服を脱げば解決するはずね』

 

『変に装飾多いから重いと思ってたんだが、そういうのも入ってたからか……』

 

「………え?そういう方向になっちゃうわけ?」

 

三人共冷静になっているのを見て、楯無は拍子抜けしてしまった。

 

てっきり争奪戦で口論になっていると思いきや、二人は一夏の安全を考慮して

共闘して逃がそうという状況になっていた。

 

「ふーん……」

 

(ってことはあの撃ち合いも演技かしら……)

 

今もなお続く、オルガ、シャルロット、セシリアの三人の迫真の撃ち合い芝居。

 

その意図に楯無はやっと気づいたようだ

 

「鉄華団の絆ってのを甘く見てたわね……けど」

 

楯無は不敵な笑みを浮かべ、ポチッと何かのボタンを押す。

 

「お姉さん、そんなに甘くないわよ?」

 

 


 

 

「ん?」

 

一夏と箒と鈴、三人に聞こえるなにかが開いた音。

 

「この音は……なに?」

 

「わからん……だが何か嫌な予感がするぞ」

 

そして次の瞬間、楯無のアナウンスが再び流れ始める。

 

≪さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!みなさん、王子様の王冠目指して頑張ってください!!≫

 

「はぁっ!?」

 

その音の方向から騒がしい声が聞こえてくる。

間違いなく、他の生徒たちであった。

 

「まさかこれって……」

「あぁ、間違いない……」

 

箒と鈴は顔を見合わせ、お互いに頷く。

 

「え?え?」

 

そんな中、上手く状況を飲み込めておらず混乱する一夏。

 

「早く逃げろ!一夏!」

「逃げなさい!一夏!」

 

幼馴染の二人は一夏にそう発破をかけた。

 

「お、おう!」

 

そして、一夏は少なくとも自分の身が危ないということだけは確かだと判断し、そのまま全速力で逃げ始める。

 

「織斑くん、おとなしくしなさい!」

「私と幸せになりましょう、王子様!」

「王冠を頂戴!」

 

女子達のその声からなんとか遠ざかりながら……

 

「うわあああああああああああっ!」

 

「おりむー、待ってよ~」

 

(と、とりあえず裏手に回ってそして……ん?)

 

 

足を止めずに逃げ続けていると……急にその足がなにかに引っ張られ……

 

「うわああああああっ!?」

 

そのまま一夏はその下へと転げ落ちていった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「はぁ……はぁ…ここは……?」

 

一夏が落ちた先は先程使っていた更衣室だった。

 

そして目の前には……教室で一夏にISの装備の営業をしてきた巻紙礼子が居た。

 

「ここなら見つかりませんよ?」

 

「ど、どうも……あれ?どうして巻紙さんが……!」

 

教室で話した時のニコニコとした表情とは打って変わって、不敵な笑みを浮かべる彼女。

 

「はい。この機会に()()()()()()()と思いまして……」

 

「……はぁ?」

 

未だ状況を飲み込めておらず、混乱する一夏。

 

そして、巻紙礼子はその口調を乱暴なものへと変え、こう叫びながら一夏へと襲いかかった。

 

「いーからぁ…とっととよこしやがれよォッ!!」

 




今回はかなりのオリジナル場面を追加しました。
なるべく説得力というかツッコミどころを減らそうとしたゆえに……大分優しくなってる気がする……。
あと鉄華団の絆というものも改めて再確認っと…。


次回はバトルバトルバトル!の3連打です。
言うまでもなく激しいですので乞うご期待。
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