ローゼンメイデン:別の次元の物語   作:肉羊

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たぶん転移


第一階:真紅の少女

ローゼンメイデン、という物語をご存じだろうか

大昔、天才人形師であるローゼンの手によって生み出された七体の生きた人形

通称:薔薇乙女(ローゼンメイデン)たちは究極の少女であるアリスとなるために最後の一人になるまで争った

 

積極的に戦うもの、巻き込まれた物、戦いを止めんとするもの、使命だから

彼女たちがアリスゲームという地獄に身を投じる理由は様々であった

 

ただ、彼女たちは全員が「父であるローゼンに愛されたい」それだけの為に戦っていたのは間違いない

 

やがて、運命の歯車は周り、脱落者を生むことになっていく

彼女たちは一人、また一人と倒れていった

 

しかし最後に残ることとなったローゼンメイデン第五ドールであった真紅の犠牲により、薔薇乙女は復活を遂げた、そして契約者であり、もう一人の主人公たる桜田ジュンはローゼンの力を受け継ぎ、薔薇乙女達の力を借り、真紅を蘇らせる旅へと出かける…

 

と、これが大体のざっくりとした顛末である。

 

ここで記録されていたローゼンメイデンの物語は終わった、しかしここから新たな物語が始まることになる。

 

 

 

 

 

 

2019年8月

今年は例年よりは涼しくなる、という天気予報を嘲笑うかのように猛暑が町を襲う

 

町の中の白を基調とした鉄筋コンクリートの家の中の一室

外が30度をゆうに超える猛暑が嘘であるかのように、クーラーで適温に冷やされた部屋の中、ベッドの中ですやすやと眠っている少年がいる。

 

少年は目を覚ましたのか、寝息がふっと途切れる、少年は寝ようか起きようか考えていたようだがのそのそと気だるそうにベッドから出た。

 

「あー、くっそダルい」

 

この少年は安倍川 始(あべかわ・はじめ)都内の高校に通う16歳である

容姿は丸ぶちのメガネを掛け、少し茶色がかかった髪を流行りのベリーショートにしている

 

顔は10人が見れば10人が並と答えるだろう、少し吊り気味の目は人に気難しそうな

印象を与えるが、本人は至って単純な部類だし、仲良くなった人間が彼を誉めるときは決まったように、裏表がないと言う。

 

大方、八月の夏季休暇という事もあり、クーラーが効いた部屋で惰眠を貪っていたが、目を覚ましたという所だろう

 

「はじめー起きなさいー」

「起きてるよ!」

 

母親に声をかけられて、大声で返す始、どこででも見られそうな平穏な光景である

しかし今日、ちょうど数十分後に平穏が崩れ去る事になるだろうとは誰も思わなかったろう。

 

 

 

 

 

起きてもやることは連日と変わらない、ただ飯を食い、歯を磨き

また自室に戻ってゲームやらネットやら、たまに友達呼んで遊びに出かけて、帰ってきてまた適当に遊ぶ。親の庇護下にある学生の特権をフルに行使していた

 

さて、食事と歯磨きを済ませ、自室に戻ってきた始は自室を見渡す

 

「しかし、我ながら汚ねえなぁ…面倒くさいけど片付けるか、母ちゃんに見つかったら怒られるし」

 

散らかった部屋を前に、片付けるのに掛かる手間と、小言を言わせたら右に出るものがいない母の説教の回避を天秤にかけ、面倒でも叱られるよりはマシだろうという結論に行きつき、そうして片付け始める、汚いといっても足の踏み場もないような汚部屋、というわけでもないので、みるみるうちに片付いていく

と、ここで質素な子供部屋には似つかわしくないアンティークな鞄に目が行く

 

「あれ?こんな鞄あったっけか、いや随分高そうだな」

 

プラスチックでできた収納スペース

ニトリで売ってたベッド

ブランドものとは程遠い洋服

たぶん制服と値段がどっこいどっこいだった勉強机…

と、きて明らかに見た目が浮いているアンティークな鞄

当然違和感を感じないはずがない。

 

「へえ、いや本当に高そうだな、親父のものかな?というかいつからあったよ」

 

まるで今さっきここに置かれました、と言わんばかりの鞄に、流石の始も困惑の色を隠せない

 

「お、重いな、というかすっげえ!掘り出し物かなぁ!」

 

持ってみるとずっしりと重みを感じる、顔を近づけてみると、薔薇の刺繍がしてある

中心には刺繍とは別に薔薇のオブジェが取り付けてあり、その精巧さは見たものに思わず息を呑ませる程である

 

この男、始も例外でなく、鞄の鮮麗さに圧倒された。

 

始には別に鑑定眼はないので、これがいかなる由縁のある物なのかはよくわからない

しかし、始の素人目でもこれが優れた職人が作り上げたものであり、確かな歴史を感じさせるものであるという事がありありと感じられた。

 

「でもそうすっと、これは誰が置いてったんだろ、親父…は会社だし、母ちゃん…はあるわけないか、サンタさん?いやもっとありえねえよ、ともかく開けてみよう」

 

この時点で片付けよりも鞄そのものに興味がいっている、と、くれば次は当然鞄の中身に興味の対象が行くだろう

始は鞄をぐるぐる回して、どうやら鍵である部分を見つける

 

「お、あったあった、どれどれ~あれ?さっきまで開いてたっけか」

 

パチリ

 

鞄のカギが外れて鞄が開く、鍵を差し込んでもないのに勝手に開いた鞄を少し訝しんだが、最初から開いていたのだろうと判断し、中身を慎重にのぞき込む。

 

ごとり

 

「ん?うわああああああ!あ…ああ、人形か」

一瞬、始は鞄の中に人が入っていたのかと思い飛び跳ねるが、ここで人形であることに気が付く

 

例にもよって素人目だが、人形の服は枯れ気味の赤と黒を基調にしたドレス

人形のような顔、という美人を表す形容詞はこの少女の為にあるのだろう、と思ってしまうほど整った顔立ち

髪は金髪の縦ロールで、人形の膝まで届こうかというほど長いが、どこを触ってもまったくゴワゴワせず、人の髪を植え付けたのかと錯覚するほど違和感がない。

 

これらの特徴は始に、この人形が鞄と同じように昔の貴族のような、やんごとなきお方の所有物であったのだろうと幻想させる。

 

(しっかし本当に生きた人間みたいな人形だな、この世の人形が夜な夜な動くとか、髪が伸びたりするっていうオカルトはこういう本物に近い人形が発祥だったりすんのかねぇ…というか弄るのが怖くなってきたんだが)

 

ふにふにとほっぺを突いたり、服の生地を指で擦ってみたり、髪を撫でてみたり

 

傍から見れば変態の所業である

おまけに、どう見ても高価な品物で、触るのが怖いと思いつつも弄るのをやめない所から言って完全に好奇心に負けている

 

こういうのを研究者肌というのだろうか

 

いや十中八~九はただ無鉄砲なだけだろう

 

「さてさて、あらかた調べたけど、人形とくればいよいよもって誰がこの部屋に置いたのか分からんねぇ…母ちゃんも親父も人形を大事に保管しておくような性分じゃないんだよなぁ…あ」

 

ここで、始は人形の背中に小さい穴が空いていることに気が付いた

 

「これは、いやどう見てもゼンマイの穴だよな、からくり人形か?どれどれ」

 

なんとなく、これがゼンマイの差込口であることが分かった始が鞄の中を手で探ると

手に小さい部品のようなものが当たる、そしてこの掌に収まっている物が探していたゼンマイであることは目で見なくても感じられた。

 

「おお、あったあった、別にちょっとくらいならいいよな?元々ある機能なんだし」

 

ゼンマイを回すとキリキリと小気味いい音と、程よい抵抗が始の手に響く

 

が、それだけで何も起きなかった

 

「壊れてるのか、それともただ巻けるだけで意味はないのか、まあ壊れたんだろうなぁ…

こんな精巧な人形、どっかの部品が逝くだけで簡単にお釈迦になりそうだし」

 

元々動かない作りになっているのか、それとも単に時代を過ごしていく過程で壊れたのか

それは彼には分かるはずもないし、いずれの予想も外れている

もっとも…この後、この人形がどうなるかを予想できる人間はこの世に数人といないだろうが

 

「ん?」

 

かたん と何かが作動する音がした

そして、それを皮切りにゼンマイが一人でに回りだす

 

「お、おお動くんだ…」

 

ここまではまだカラクリによるものであると思っている始は成り行きを見守る

 

しかし、余裕だった始の顔は人形が一人でに起き上がったことで、徐々に歪んでいく

それが未知に対する危機感による所であったか、想像を超える物事に対する恐怖による所であったか…あるいは目の前の少女への期待で顔が思わず笑っていたのかもしれない

 

そして少女が一人でに歩き出したことで、始からは一切の余裕が吹き飛んだ。

 

「お、おいおいおい!なんだって!ちょっタンマ!」

 

元々足りない語彙力とおつむが驚愕と緊張でシェイクされてもはや始本人にも何を言っているのか分かっていないだろう、実際、どの人間がこの状況を前にしても大なり小なり驚く筈である。

 

別の次元でこの人形の契約者であった桜田ジュンも、この状況を前に震えあがり、家を震わすほどの大絶叫をしたが、それは始には知る由もない話である。

 

「あ、あ、あ」

(呪いの人形的なあれなのか?人生終わったかもしれない)

 

目の前まで歩いてくると、人形はゆっくりと目を開ける

 

その目は人形としては明らかに異質である、始にはその違和感の正体が「視線」である、とまでは流石に思考が辿り着かなかったが、勘により明確な違和感として緊張を増幅させ、それらは始の心臓を強烈にノックした

 

「おい、あの…」

 

もはや始は人形の一挙一動から目を離せなくなっていた

 

そしてそれは、まるで死刑執行人の動きを待つ死刑囚のようでもあった

 

そんな怯え切っている始を知ってか知らずか、その人形はただ一度固まる始に対して

 

ぱちん

 

「え?」

 

軽くビンタをした

 

「起こすのが遅いのだわ、まあ、今回の仕事は及第点と言ったところかしら…ジュン?」

「いや、あのジュンって誰」

 

始の中では色々な思考が駆け巡っていた、この人形は何であるか

ジュンとはどういう存在なのか そもそも何故目の前の人形はさも当たり前のように動いているのか

 

「忘れたとは言わせないわ」

 

人形にとって始が既知の関係であるかのように振る舞う口ぶりも、始にとっては更なる疑問を与えていた

 

「私の名は真紅、誇り高い薔薇乙女(ローゼンメイデン)第五ドールそしてお前は桜田ジュン、私の永遠のしもべ」

「そうでしょう?」

 

そうでしょう?と後押しをしてくる人形、真紅だが、そもそも根本から間違えている

 

「いや、そうでしょうっていうけどそもそも俺桜田ジュンじゃ…あああ、あ」

 

グルグルと彼の頭の許容量を超える情報が入ってきたため、彼の脳は思考を意識ごと飛ばすことを選んだようだ

 

フッと意識が遠のいていく

 

(いや…真紅って誰だよ、ジュンって誰だよォォォォ)

 

始の疑問に答えるものは誰もいない

結局、始の意識が戻るまで真紅は盛大な勘違いを続ける事になるが

 

そんなものは現在自分が置かれた状況を知り、始と同様に頭を抱えることになることに比べれば、まだ小さな問題である。




書きたかった

安倍川 始(あべかわ=はじめ)高校生 16歳、部活はやってない
ローゼンメイデンの知識はない、名前はまあ知ってる
「ローゼンメイデン…あのアニメでしょ?」
顔は少し怖いが、心は優しい
ちょっとひねくれてたJUMと違って直球な性格をしている
たぶん、翠星石や蒼星石も心の木を見れば真っすぐだと言うと思う
普通に家族もいるし、関係は良好な模様

アリスゲーム?怖いしそんなの反対だね

眼鏡の形がJUMと似ているので間違えられた
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