「学校が無くなる学校が無くなる学校が―」
穂乃果は机に伏してひたすら同じ単語を呟いていた。
「穂乃果ちゃん、すごい落ち込んでる…。
そんなにこの学校が好きだったなんて…」
「違います。勘違いしてるんです」
ことりの言葉に海未はそう否定した後
「どーしよう!?ぜんっぜん勉強してないよー!!
この学校無くなったら別の学校入らなくちゃいけないんでしょ!?今から試験の勉強なんて間に合わないよぉ!」
穂乃果はまくし立てる。
「やはりですね…」
予想通りの結果で溜め息をつく海未。
「海未ちゃんやことりちゃん、それにあかりちゃんは良いよー!成績良いんだから!それに比べて私はっ!」
「あかりちゃんと私達を同じ土俵で比べるのは…何せ“神童”って呼ばれてた位だし…」
苦笑いを浮かべることり。
未だに騒ぎ立てる穂乃果に
「落ち着きなさい!私達が卒業するまで学校は無くなりません!」
海未はそう言うのだった。
「―なる程、そんな事がねぇ…」
あかりは今朝の出来事を海未とことりから聞かされていた。
穂乃果は海未の懇切丁寧な説明によって『現在いる生徒達が卒業してから正式に廃校となる』という現状を漸く理解した。
「そうなら早く言ってよ~!いやぁ~!今日もパンがウマいっ!」
現金な穂乃果にもはや怒る気が失せた海未。
「でも、正式に決まったら、一年生は入ってこなくなって、来年からは二年生と三年生だけ…」
「私達一年生は卒業まで後輩無しってことになるんだよね…廃校まで最短で後三年、か…」
二年生はともかくあかり達一年生は確実に人がいなくなっていく音ノ木坂学院を見ることになるのだ。その心境は計り知れない。
「―ねえ、ちょっと良い?」
そんな中、4人に声を掛けたのは生徒会長の絢瀬絵里だった。
あかりは驚いた表情を浮かべていたが、絵里に対してではない。
「希…?」
「もしかしてあかりちゃん…?」
隣にいた生徒副会長―東條希に対してである。
「希、その新入生と知り合い?」
「うん、何年か前にアメリカで」
希の言葉にそう、と返した絵里は本題に移る。
「南さん」
「はいっ!」
「貴方、確か理事長の娘よね?…理事長、廃校の件について、何か言ってなかった?」
「…いえ、私も今日初めて知りましたので…」
そう、と呟いた絵里はその場を去ろうとする。
「あの!本当に学校、無くなってしまうんですか?」
穂乃果は絵里を呼び止めてそう問うが
「貴方達が気にすることじゃないわ
と絵里は返すのだった。
その日の放課後。
「ほな、また明日」
「えぇ、また明日」
生徒会の業務を終えた希は生徒会室を後にする。
校門まで歩くと一人の人物の姿があった。
「あかりちゃん…どうしたん?」
「この後、ちょっと良いかな?」
とある焼肉店。
「今日は私が奢るよ“仕事”で儲かってるし」
「ありがとう。でも、どんな仕事なん?」
「それは…今は言えない。言える日が来たら言うよ」
というあかりの言葉に希はこれ以上の詮索を止める。
話の流れを変えようとあかりは話を切り出した。
「まさかこの学校に入学してたなんて思わなかったよ」
「ウチにこの学校を教えたのはあかりちゃんやろ?」
「そうだったね。それと…もしかしてキャラ変えた?」
「うん、色々あってな。…で、訊きたい事があるんやろ?」
「うん、廃校の件について」
「ウチら生徒会も昨日聞かされたんよ。
今の音ノ木坂の生徒数は少なく、一年生に関しては一クラスだけ。
それに秋葉原にはUTX学院があって、其方に生徒を奪われているのが現状やしね」
「廃校になるのも分からなくはない、か…」
「そう言えば、あの3人とは知り合いなん?」
「うん、前に言ってた幼なじみだよ。
同い年なのに学年は私の方が下って何か変な感じだよ」
確かにそう言ってた、と希は思い返していた。
「そっちも大変じゃないかな?見た感じ、あの生徒会長さん、結構焦ってたというかかなりピリピリしてたというか何というか…」
「生徒会長…ウチはエリチと呼んでるんだけど、エリチは学校への思い入れが強いんよ。
多分、その所為もあるんやと思う」
「なる程、ね…。まぁ、手伝える事があれば手伝うよ」
「ええんか?ウチとしては嬉しいけどあかりちゃん、仕事とか…」
「大丈夫大丈夫。私の“仕事”は基本的に呼び出されるまでは待機という名の自由行動だから。
その代わりに私“達”の方も何かあったら協力して欲しいかな」
「“達”ってあの子達の事も入るん?」
希の言葉に頷くあかり。
「恐らく、3人も廃校阻止に向けて動くと思う。
特に穂乃果―高坂穂乃果の行動力はすごいからね。
あの子はまるで思い立ったが吉日を地で行く様な子なんだよ。
もちろん私も何とか廃校を阻止するために出来る限りの事を色々やってみるつもりだよ。
それでも私は穂乃果が何か“ドでかい”事をするんじゃないかと楽しみでもあって期待してる。
だから、もし何かあったら彼女達に協力して欲しい」
あかりの言葉に希は
「面白そうやね。ウチも協力するで」
と笑みを浮かべるのであった。
翌日の昼休憩。
あかりは穂乃果達のクラスへ向かったのだが…
「あかりちゃん!スクールアイドルだよ!スクールアイドル!」
穂乃果に手を引っ張られ、空いた席に座らせられた。
スクールアイドルって最近何かとブームになってる学校で結成されたアイドルの事である。
あかりは昼食のコンビニで買ったおにぎりを食べながら穂乃果が持ってきた雑誌をめくる。
「なる程、だいたいわかった。
まさかとは思うけどスクールアイドルをやるって事じゃ―」
「その通りだよ!あかりちゃんもスクールアイドル、やらない?」
と誘う穂乃果。
「実は今朝、私とことりもスクールアイドルをやろう、キラキラしている、等と調子の良いことを散々言われ…」
「海未ちゃんったら、『アイドルは無しです!』なんて言って怒るんだよ!
あかりちゃん、酷いよね!」
「…う~ん、まぁ、いきなり
『アイドルやろうぜ!』
って言われて
『Oh yeah!やろうぜヒャッハー!』
なんて答えられる人はあまりいないんじゃないかな…」
苦笑いを浮かべるあかり。
「大体!穂乃果は何も分かっていないんです!
今朝も言いましたかあの雑誌に載っている彼女達は然るべき努力を積んでいるんです!
好奇心だけで始めても、上手くいくはずありません!」
「海未ちゃん落ち着いて…
穂乃果ちゃんも何か考えがあって言ってるって私は思う」
ことりは海未を宥める。
この3人のやり取りを懐かしいなと思いつつあかりは穂乃果に問う。
「じゃあ、何で穂乃果はスクールアイドルをやりたいの?」
「だってアイドルってキラキラしてるし、歌だってダンスだってすごいんだよ!?
あかりちゃん、『A-RISE』ってスクールアイドルのグループを知ってる?」
「(知ってるどころか私はそのリーダーとは父方の従姉妹だったりするんですけど)う、うん。知ってるよ」
「私ね、今朝UTX学院に行ってA-RISEがパフォーマンスしているの見て来たんだ!
それを見て『これだっ!』って思ったんだよ!」
穂乃果のお気楽さに
「話になりません!」
「あっ、海未ちゃん!」
海未は我慢の限界を超えてしまったようで
「もう一度ハッキリ言います。アイドルは無しです!」
そう言い残して教室を出て行った。
「海未ちゃんも別に意地悪したくて言っている訳じゃないと思うよ」
ことりは拗ねている穂乃果を宥める。
拗ねた穂乃果は頬をぷくーっと膨らませる。
「ことりちゃんはどうなの?スクールアイドル」
「私は良いと思うなぁ。可愛い服着られるし」
穂乃果に対し笑顔で返すことり。
「あかりちゃんは!?あかりちゃんはやるよね!」
と詰め寄る穂乃果にあかりは首を横に振る。
「悪いけど、私は“仕事”の都合とかあるし、それに…いや、何でもない。とにかく、私がやる訳にはいかないんだよ」
「それってどういう―」
と尋ねようとすることりに
「ごめん、その理由は今は話せない」
あかりはそう返し、二人は落ち込んだ表情を浮かべる。
「だったらマネージャーとかでも良いから!」
穂乃果の言葉にあかりは暫く考えてからこう口にした。
「非常事態だし、私も廃校は嫌だからね…“廃校を阻止”するまではマネージャーとして手伝っても良いよ」
「本当!?ありがとう、あかりちゃん!」
と穂乃果は笑顔で返すのだった。
自分の教室に戻る途中、あかりはこう思っていた。
(“血塗られた存在”たる私がスクールアイドルをやるわけにはいかないんだよね…
とりあえず廃校を阻止する為に穂乃果ちゃんに協力する、でもその後は…いや、今は廃校を阻止する事を考えよう)
To be continue