曲の存在は大きかった、とあかりは思っている。
曲が出来上がって目標は明確に定まった事により、練習の質は大幅に上がったのだ。
今までの基礎体力アップも引き続き行われているが、曲が出来てからは振り付け練習も行われている。
「ワンツースリーフォー!穂乃果ちょい早い!
ファイシックスセブ、ことりそこちょい遅れてるよ!」
マネージャーであるあかりは手拍子でリズムを取り、ダンスの振り付けがちゃんと出来てるかなどを見ていた。
リズムも時計の様に正確に刻み、ダンスも振り付け表を貰ったその日の内に頭の中に叩き込まなければならないが、ある事情から“普通の人間”でないあかりにとっては造作もない事である。
「はいフィニッシュ!みんなお疲れ様!だいぶいい感じになってきたよ!」
あかりは3人にスポーツドリンクを手渡し、自身も微糖の缶コーヒーを一気に飲み干す。
この缶コーヒーはコーラに並んであかりの愛飲している飲み物の一つである。
何かをする前に気合いを入れたい時や一息ついてリフレッシュしたい時にピッタリなのだ。
「ええ。穂乃果がここまで真面目にやるとは思いませんでした。
寝坊してくるものとばかり思ってましたし」
「大丈夫!その代わり授業中に沢山寝てるし!」
「それは大丈夫じゃないから」
さり気なくツッコミを入れるあかり。
「あ!」
立ち上がった穂乃果は何かを見つけ、階段下へ駆け出す。
「お~い!西木野さ~ん!真姫ちゃ~ん!!」
「大声で呼ばないで!」
「何で?」
!恥ずかしいからよ!」
「あっ、そうだ!あの曲、三人で歌ってみたから聴いてみてよ!」
あかりから音楽プレイヤーを受け取った穂乃果は真姫に勧める。
「はぁ?何で?」
「真姫自身が作った曲なんだし聴いてみなさいな」
「だから、私じゃないって何回言えば…!」
あかりの言葉を否定する真姫。
「真姫、私の耳は誤魔化せない、その歌声でバレバレだよ」
あかりはそう言った後、穂乃果の方を向いてアイコンタクトを取り、頷いた穂乃果は真姫の右耳に手早くイヤホンの片側を入れる。
「海未ちゃん!ことりちゃん!」
穂乃果の呼びかけに
「μ's!」
駆け寄ってきた海未と
「ミュージック!」
ことりも加わり
『『スタート!』』
四人の掛け声に合わせて音楽プレイヤーはその曲を再生するのだった。
翌日の昼―新入生歓迎会当日の昼。
「―了解」
あかりは通話を切るがその様子は不機嫌だった。
こんな重大なタイミングで仕事が入ったのだ。
「…ごめん。…急用が入った」
とあかりは三人に謝罪する。
「私、今はμ'sのマネージャーなのに…皆に迷惑をかけて…大事なライブにも遅れるかもしれない…」
あかりの顔は悔しさや申し訳なさでいっぱいだった。
「迷惑なんかじゃない!あかりちゃんは私達の為に一生懸命に頑張ってくれてるよ!」
「此処は私達に任せてあかりは行ってください」
穂乃果と海未の言葉に
「…ありがとう!ライブに間に合うようにちゃちゃっと終わらせてくるよ!」
あかりは礼を言い
「あかりちゃん、私達、あかりちゃんが必ず来るのを信じてるから行ってきて!」
ことりの励ましに
「約束する!」
と返してあかりは現場へと向かった。
郊外の廃工場。其処に怪獣―ある者達がジーオスと呼んでいる怪獣達が巣を作っていた。
現場から一番近くにいたのはあかりであった。
他が来るまで少々時間がかかるだろう。
あかりはジーオス達の姿を視認すると
「アデプタイズ!バトルマグナス、トランスフォーム!」
運転しているトラック―正確にはトラック型トランステクターと合体、トラックは8メートル程の鋼鉄の巨人―バトルマグナスへと姿を変えた。
ジーオス達は巣作りを中断して攻撃を開始する。
「今日はな、大切な日なんだよ…あいつらのファーストライブなんだよ…
なのに…こんな大切な日に…重大なタイミングに現れやがって…」
バトルマグナスの殺気に後ずさるジーオス達。
「空気を読みやがれ屑鉄共がぁぁぁあ!」
ジーオス達がこの日に現れたのは運の尽きであっただろう。
ジーオス達のエネルギー弾をバトルマグナスはハンドライフルや両肩のショルダーランチャーで相殺しつつ
「ガラクタのスクラップがぁぁぁぁ!」
接近戦に持ち込んで刀でジーオスの首を切断し一頭を討伐。
「金属のゴ○ブリ共め!」
別の個体に罵声とショルダーランチャーによる砲撃の雨を浴びせる。
また別の個体がエネルギー弾を放つが、バトルマグナスは首を切断した個体の胴体を盾代わりにし
「Fu○k!」
放送禁止用語を言いつつ盾代わりにした個体を投げ捨てて先程エネルギー弾を放った個体の口にハンドライフルを何発か撃ち込む。
「“俺”の手で地に落ちろ!」
最後に残った個体を刀で真っ二つにして現場にいたジーオス達を殲滅し、作りかけの巣も破壊するのだった。
トランステクターと分離したあかりは上司に通話する。
「…こちら頼尽あかり。現場に出現したジーオスの殲滅完了しました」
『了解したよ』
「これから所要につき“私”は撤収します」
あかりの上司はそう返し、あかりは急いで音ノ木坂へ戻るのだった。
あかりがジーオス達と交戦していた頃、穂乃果達もライブの準備を進めていた。
照明や音響、呼び込みは穂乃果の友達のヒデコ、フミコ、ミカがやっている。
緊張でガチガチな状態だった海未もチラシ配りなどで吹っ切れていつも通りの落ち着いた状態で穂乃果やことりと共にリハーサルを行った。
そして、開演まで残り1分程。
「こんな時って何て言えば良いのかな?」
「さぁ…」
「うーん、なんだろう…」
「μ's!ファイ、オー!とか?」
「穂乃果、それじゃ運動部です」
「穂乃果ちゃんらしくて良いけどね」
「あ、そうだ!確か、番号を言うんだよ。やってみようよ!」
「番号ですか?」
「面白そう、やろうよ!」
一泊置いて
「1!」
穂乃果が
「2!」
ことりが
「3!」
海未が
「「「μ's!ミュージックスタート!」」」
掛け声を上げるのだった。
開演時間ギリギリであかりは間に合った。
「あかりちゃん、やっと来たね」
「うん、仕事を速攻で終わらせてきたよ。それで、ライブは…!」
あかりの問いに希は自分の目で確かめて、と言わんばかりに親指で講堂の扉を指し、あかりは講堂の扉をそっと開けた。
誰もいない客席。
ステージでは穂乃果が、あの元気が取り柄の穂乃果が今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「穂乃果…」
「穂乃果ちゃん…」
それは海未とことりも同じだった。
「そりゃあ、そうだ!」
穂乃果は泣きたい気持ちを我慢しようと
「世の中そんなに甘くない!」
涙を堪えて無理にでも明るく振る舞おうとするが…その姿はあまりにも悲しく、痛々しさを感じる。
この日のライブの為に、廃校を阻止する為にこれまで頑張ってきた。
その見返りがこれだとは現実は厳しく、残酷だった。
ライブを中止にすべきか、あかりはその可能性も考えたその時
「あれ?ライブは?」
希望の光が灯った。
「かーよちん、陸上部の見学に行こう!」
凛は花陽を引き連れて陸上部の見学に行こうとしていた。
だが、花陽は本当は穂乃果達μ'sのファーストライブを観に行きたかったのだが、なかなか言い出すことが出来なかった。
「ごめん凛ちゃん!」
それでも花陽は勇気を振り絞って単身講堂へと向かった。
「あれ?ライブは?」
そして現在、ライブがまだ始まってない状況に花陽は戸惑っていた。
穂乃果も花陽と面識があったらしく、花陽ちゃん…、と呟いた後、穂乃果の表情が変わった。
「ことりちゃん、海未ちゃん、やろう!この日の為に頑張ってきたんだから精一杯やろうよ!」
ことりと海未の方を向いて言った。
「穂乃果…。そうですね」
「私も、2人と一緒に歌いたい!」
穂乃果はあかりの方を向く。
あかりは頑張れ、と言う代わりに無言で頷く。
そして、音楽が流れると共に三人のファーストライブが始まった。
他の有名なプロのアイドルと比べるとまだまだかもしれない。
だが、彼女達の“輝き”はどんなグループにも負けていなかった。
そんな“輝き”に引き寄せられる者達がいた。
何時の間にか花陽の隣に凛がいた。
真姫と希が立って見ていた。
にこは半目だが真剣な眼差しで見定めるかの様に穂乃果達を見つめていた。
あかりは涙を浮かべながらこう呟いた。
「Excellent…」
ライブが終わった後、暖かな拍手が三人に送られた。
放送室から出てきた絵里。拍手が止んだ中、彼女は穂乃果に問う。
「どうするつもり?」
それに対する穂乃果の答え。
「続けます!」
「何故…?これ以上続けても意味は無いと思うけど」
「やりたいからです!
私、今、もっともっと歌い…踊りたい…そう思ってるんです!
こんな気持ち初めてなんです!
やってて良かったって本気で思えるんです!
この気持ちをみんなに伝えたい…。
このまま見向きもされないかもしれない、応援されないかもしれない…。
…でも、一生懸命この気持ちをみんなに届けたいんです!
いつか、いつの日か必ず…ここを満席にしてみせます!」
その宣言が穂乃果の答えであり決意だった。
今回のライブは完敗であると言って良い。
だが、これで終わりではない―此処からがスタートなのだとあかりはそう思っていた。
To be continue 2nd stage…