第25話『自分を変えたい』
「何がともあれこれで一安心だよ」
と一番乗りで誰も来ていない部室の中、あかりはネットに昨日アップしたばかりのある動画を見ながら安堵の表情で呟いた。
その動画とはμ'sが9人揃い“完成”してから初めての新曲『僕らのLIVE 君とのLIFE』のPVである。
この曲は昨日のオープンキャンバスで初披露した曲である。
「さてと休憩もそろそろ終わりにしてやるべきことをちゃちゃっとやっちゃいますかな」
アイドル研究部の部室の隣には空き教室があるのだが、アイドル研究部の部室の一部としてその空き教室の使用許可が正式に認められたのだ。
あかりはその空き教室をさっさと掃除をしていると
「あかりちゃーん!ビッグニュースだよ!」
穂乃果達が部室に来たのだ。
「オープンキャンパスのアンケートの結果、廃校の決定は保留になったそうです」!
「つまり見に来てくれた子達が興味を持ってくれたってことだよ!」
海未とことりの言葉通り、オープンキャンバスでのライブはμ'sの“勝利”である事を意味していたのだ。
「そして部室が広くなったよ!良かった良かった!」
くるくる周りながら掃除を終えたばかりの空き教室に入る穂乃果。
「安心している場合じゃないわよ。とりあえずは廃校が先延ばしになっただけで、生徒が沢山入ってこない限りはまだ廃校の可能性が付き纏うのよ?」
「う、嬉しいです!まともなことを言ってくれる人がようやく増えました!!」
強力な牽引役でもある絵里の加入により海未の(主に精神的な)負担は大幅に減った。
だからこそ、こんな感じに海未は絵里を引かせるレベルで感動した表情を見せるだ
「まるで凛達がまともじゃないみたい…」
「まぁまぁ、皆が揃い次第練習を始めようか」
希の言葉で練習の士気も上がってきた中
「あ、あの…今日は私、ちょっと…ごめんなさいっ!」
ことりはそう言ってそのまま部室を後にした。
「ことりちゃん、最近どうしたんだろう?」
「さぁ…あかりは何か知りませんか?」
「いや?私も何も…っと」
そう返したあかりの元に“仕事”の呼び出しが入ってきた。
「ごめん、私も“仕事”が入ったから今日はこれで!」
あかりもまた急いで部室を後にするのだった。
「あかりの仕事も何なのかしらね」
「何も話してくれないんだよね」
真姫と花陽の言葉にその場にいた皆は頷くのだった。
「さて、帰りに何か買い物でも…Oops…」
仕事を終えたあかりが面食らったのも無理はない。
彼女の視界に入ったのは赤い縁のサングラス、顔下半分を覆い隠すマスク、ピンクのマフラー、厚手のコートを着たμ'sの面々(ことり除く)の姿であった。
「どー見ても不審者にしか見えねぇよ…」
と呟かずにはいられないあかり。
「あっ、あかりちゃーん!」
あかりに気づいた穂乃果はサングラスやマスクなどを外して近寄ってきた。
「穂乃果、私でも流石にあの格好は引くよ…」
「誤解だよあかりちゃん!着たくて着たんじゃないんだよ!」
「あーうん分かってるよ」
棒読みである。
「…あれ?そういえば凛と花陽はどこへ?」
その疑問ににこは親指で最近出来たアイドル専門店を指差す形で答える。
よく見たら店の入り口辺りで凛が手招きをしていた。
「ねえ見て見て!この缶バッジの子かわいいよ!まるでかよちんみたい!」
「というか凛、そのかわいい子はどっからどう見ても花陽ご本人だぜ」
あかりの指摘に凛も漸く気付き、ただただ驚いた。
そして、凛がその缶バッチを発見したのはμ'sのコーナーだった。
「人気爆発中とは…」
あかりが感嘆してると
「あれっ!?にこのグッズはどこ!?あ、あった!」
にこは自分のグッズを探し、発見した物を並べて記念撮影をする。
そんなこんなでそれぞれが感想を言い合っている中、穂乃果はある写真をじっと見ていた。
「あれ…?」
「穂乃果、どうした?」
「これ…この写真の子、ことりちゃんだよね」
「うん…誰がどっからどう見てもメイド服を着たことりだね」
と二人が話をしていたら
「―あの!すいません!」
良く知る声が聞こえてきて、二人が顔を向けるとそこにはクラシカルなメイド服を身に纏ったことりの姿があった。
「あのっ!ここに私の生写真があるって聞いて!
あれは駄目なんです!今すぐに無くしてください!」
μ'sの面々やあかりの視線がことりに注がれていたが、当のことり本人は切羽詰まったいるらしくこちらが全く見えていないようであった。
「こ、ことりちゃん?」
声を掛けた穂乃果に
「ピィッ!」
ことりは奇声を上げ、皆の方を向くが…その動きはまるでギギギという擬音が聞こえてきそうであった。
「何を…しているのですか?」
ことりは海未の追及に答えようとせず、しゃがみ込んで、手近にあった半球とかした開封済みカプセル1セットを手に取ってそれらを両目に被せた。
「KOTORI?Whats?ドナタデスカシラナイヒトデスネ」
「が、外国人だにゃ!?」
「凛、どっからどうみても日本人の音ノ木坂学院2年生兼μ'sのメンバーの南ことりさんだよー」
凛に対し棒読みでそう言うあかり。
「ことりちゃんだよね?」
「違いマァ~ス!ソレデハ、ゴキゲンヨウ…ヨキニハカラエ、ミナノシュウ~……サラバ!」
「待ってことりちゃん!」
かくしてことり捕獲作戦(命名:頼尽あかり)が始まるのだった。
数分に及ぶ逃走劇の末、ことりは希の手によって捕獲された。
「…ここが私の働いている所です」
ことりが案内したのはシンプルさが魅力的なメイドカフェだった。
その店の奥で面々はことりへの事情聴取を行っていた。
「えっと…ことりちゃん、どうして逃げたの?」
「ごめんね穂乃果ちゃん、皆…」
「ことり、私達は別にことりを責めている訳ではないんです」
「ただ、事情を聴きたいのよ」
絵里の言葉の後、あかりは購入した例の写真を出した。
「この写真を回収すべくショップに来たんじゃないかな?」
「あ、あかり!そそそ、それって!?」
その写真に反応し驚愕したのはにこだった。
「秋葉のメイド界隅で有名な―“伝説”と呼ばれしメイドがいる。
あの写真を見た時にわかったよ。
その秋葉の伝説のメイド―ミナリンスキーの正体はことりだって事に」
一泊置いて八人から妙にシンクロした驚きの声が上がった。
「そうです…。私がミナリンスキーです…」
「酷いよことりちゃん!言ってくれればジュースとかケーキとかご馳走になったのに!」
「そこ!?」
花陽のツッコミは尤もである。
「じゃあ、この写真は?」
絵里はあかりが持っている写真を指してことりに問う。
「そ、それは…店内のイベントで歌わされて…撮影禁止、だったのに…」
マナーを守れよとあかりは心の中で憤慨する。
「何時からバイトを始めたのですか?」
「丁度μ'sが結成された頃に…秋葉原を歩いていたらスカウトされて…
断るつもりだったんだけどメイド服が想像以上に可愛くて…
それに…ずっと“自分を変えたい”って思ってたんだ…
私は穂乃果ちゃんみたいに前へ進んでいけないし、海未ちゃんのようにしっかりしてないし、あかりちゃんみたいに完璧じゃない…
私はいつも三人の後ろを付いて行ってるだけで何もないから…そんな自分を少しでも変えたかったから…」
ことりの言葉にあかりは一泊置いてから口を開いた。
「ことり、間違ってる事がある。私はことりが思っているような完璧超人なんかじゃない。
それにさ、穂乃果には穂乃果なりの良さがある様に、海未には海未なりの良さがある様にことりにはことりなりの良さがあるもんだよ」
帰り道にて。
「意外だなぁ、ことりちゃんが“自分を変えたい”って悩んでたなんて……」
「意外と皆、そうなのかもしれないわね。
自分の事を優れた人間だなんて思う人は殆どいないんじゃないかしら?だから、努力して足掻くのよ」
「確かに、そうかもしれませんね」
「そうやって成長して、成長した周りの人を見て、また成長していく。
…ライバルみたいな関係なのかもね、友達って」
絵里の言葉にあかりはある人物の姿が思い浮かんでいた。
アメリカに住んでた頃、時に支え合い、時に競い合った仕事仲間である少女―風見ヴェールヌイ。
ヴェルは今どうしているだろうか、彼女に会いたいとあかりは思った…いや、何時も思っている。
「絵里先輩にμ'sに入ってもらって、本当に良かったです!」
海未の言葉に絵里は思わず苦笑いを浮かべる。
「明日から練習メニュー軽くしてーだなんて言わないでよ?」
それから、別れ道で穂乃果と海未と別れた後、あかりは
「絵里先輩、これからちょっと“お散歩”に付き合って貰えませんか?」
と絵里に提案し
「えぇ。勿論良いわよ」
絵里はあかりの提案に承諾するのだった。
To be continue