あかりは一人暮らしである為、食事も自分の手で用意しなければならない。
外食やコンビニなどで買った弁当で済ませる事もあれば自分で料理して食べる事も当然ある。
そんなあかりでも料理スキルに関してはにこに後れを取っていた。
「あかり!そっちはどう!?」
「もうちょいでサラダは完成」
「ご飯の方は!?」
「うん、今丁度炊けたよ」
それぞれの役割は厳正なくじ引きで決められ、不公平が内容にしている。
本来、食事当番はことりであったが、丁寧さを要求されるサービス業でのやり方に慣れてしまっていることりのやり方じゃ時間がかかり、遅くなると判断したにこはことりの代わりに料理当番、あかりはそのサポートとなったのだ。
(流石にこだよ…まぁ、丁寧さとか気にしてたら時間がどんどんなくなってしまうような家庭にいるからね…)
とこの面子の中で唯一にこの家庭環境を知っているあかりは心の中で呟いた。
「ん~まぁ、ちょっと作りすぎたこれで良いでしょ」
「にこお疲れ様~」
「あんたもなかなかやるじゃない」
「いやいや、にこには負けるって」
というやり取りもありつつ夕食の時間である。
因みに今日の献立はカレーライスとサラダである。
「はぁぁ~!お米がキラキラ輝いているよぉ~!」
花陽の目はこの中で一番輝いていた。
尚、花陽本人の希望により、お茶碗にご飯を一割増し多くよそってたりする。
「花陽ちゃん…それ…」
「気にしないでください」
穂乃果の言葉にきっぱりそう返す花陽。
「無茶苦茶こだわってるねぇ~」
とあかりは苦笑いを浮かべる。
「あれ?でもにこちゃん、料理したこと無いって言ってたよ?」
「言ってたわよ。いつも料理人が作ってくれるって」
ことりと真姫の指摘に冷や汗をかくにことこの中で唯一事情を知っているあかり。
「ににににこ嘘―「―あああああかり?おかわりはどうする?」いただこうかな~!」
とりあえずこの事に触れてはならない、と感じた8人であった。
食事も終わって皆のお腹も良い具合に膨らんだ時、凛がある提案をした。
「よーし!花火をするにゃー!」
「良いね良いね~ここは私が引き受けるから皆も行っておいでよ!」
「駄目よ、そういう不公平は良くないわ。
皆も、自分の食器は自分で片づけてね」
流石、現生徒会長の絵里である。
「それに、花火よりも練習です」
海未の発案に皆は固まる。
「でも…そんな空気じゃないっていうか、穂乃果ちゃんはもう…」
ことりの言うとおり、穂乃果はソファーに寝転がって挙げ句の果てにはこの場にいない妹にお茶を要求していた。
「じゃあこれ片付けたら私は寝るわね」
「えー!真姫ちゃんもやろうよー花火ー」
凛のその言葉の後、花火派の凛と練習派の海未との言い争いが始まった。
「かよちんはどう!?」
凛の助けの声に対する花陽の返答。
「わ、私はお風呂に…」
ここで第3の意見である。
「私に良い考えがある!ここは寝よう!」
「あかりちゃんの言うとおりや。今日は皆疲れてるし、練習は明日の早朝、花火は明日の夜にやるってことでどう?」
「凛はそれでも良いにゃ」
「…まあ、そちらの方が効率が良いですね」
両者とも希とあかりの意見に合意する。
その後、バスタイムになったが…あかりは皆に後で入るから先に入っててと言って先に風呂へ入らせた。
表向きはやるべき事が残っているからというのであり、これも事実なのだが…
(流石にこれを見られるのは、ね…)
あかりは自身が人間でない証拠―“トランステクターとの接続端子”や自身の過去を物語る傷痕や痣・火傷の痕を見られたくなかったからと理由があったから皆へ先に入るように言ったのだった。
「ねえ、ことりちゃん」
「なーに、穂乃果ちゃん」
「眠れないね」
「あー確かに眠れないかも」
「そうやって話しているといつまでたっても眠れないわよ?
海未とあかりを見てみなさい。ぐっすり寝てるわよ」
規則正しい生活を心掛けている海未と休める時に休むという考えが身に付いているあかりは熟睡していた。
「…真姫ちゃん、起きてる?」
「何よ…?」
「本当にそっくりやな」
「…何なの?さっきから」
回りくどい希の言葉に若干イラつく真姫はその言葉の意味についてぼんやりと考えながら眠りに就こうとしていた。
だが、その時、煎餅か何かを“食べる”音がしたのだ。
「な、何さっきから…?誰か電気付けてくれる?」
絵里の言葉に従い真姫が電気をつけると…
「…穂乃果ちゃん、何美食べてるの?」
「何か食べたら寝れるかなぁって!」
花陽に対しそう返答する穂乃果。
穂乃果の片手には煎餅が入った袋があった。
「もぉ…何よ、うるさいわねぇ。いい加減にしてよ」
皆が面食らったのも無理はない。
何せにこの現状をざっくり言えば顔面パックを貼り付け、しかも輪切りのピクルスまで貼り付けていたという良い子にはトラウマになりかねない状況だったのだ。
「これは、美容法よ。び・よ・う・ほ・う!」
「こ、怖い…」
花陽の気持ちもわからなくはない。絵里に至ってはハラショーと呟いている。
寝ようとしたにこの顔面に突き刺さった物―それは枕だった。
枕を投げた張本人である希は一瞬ニヤリとして
「あー!真姫ちゃん、何するのー!?」
「な、何を言っているの…?」
再び枕を投げる。
その枕は凛に当たり、合宿恒例の枕投げ合戦が始まった。
徐々にヒートアップする中、ぶつかり合って勢いを失った枕が寝ている海未へ落ちていったのだ。
この時、穂乃果とことりはまずい、と感じていた。
「―何事ですか?どういうこと…ですか、これは…?明日、早朝から練習すると言いましたよねぇ…そう、決めたはずですよね…?ふ、ふふふふふ…ふふふふふ…」
その姿は恐ろしいとしか言いようがなかった。
海未はまず手元に落ちていた枕をにこに向かって投げ、にこは寝かされてしまう。
「海未ちゃん、寝ている時に無理やり起こされると機嫌がとても悪いんだよー!こ、こうなったら戦うしか―」
続きを言いかけた穂乃果も海未が放った枕で寝かされてしまった。
「「だ、ダレカタスケテ~!」」
片隅で怯える凛と花陽に迫り来る海未。
海未が両手に持った枕を凛と花陽に投げようとした時だった。
絵里、希、真姫が投げた枕が海未の後頭部に命中、海未は再び寝息を立てはじめた事でこの枕投げ合戦は終了した。
「それにしても真姫ちゃん…」
口に手を当てまるで悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべる希。
「なっ、元々は希が―」
希は返事代わりに枕を投げる。
「何すんのよー!」
「自然に呼べるようになったやん、名前」
希の言葉に顔を赤くする真姫。
真姫との距離感を狭める―その為に希は枕投げ合戦を始めたのだ。
「それにしても…こんな状況であかりちゃんはよく寝てられるにゃ」
凛の言うとおり、あかりはこの合戦の間ずっと寝ていたのだ。
「―…―マ…パパ…ママ…」
「これは…寝言?」
花陽の言うとおり、あかりは寝言を言い始めたのだ。
「幸せそうね」
真姫の言うとおり、あかりは最初は幸せそうに寝ていたのだが…徐々に表情が変化していったのだ。
「パ…パ…マ…マ…!…―…!…―…―!―!」
まるで何かに苦しみ、悲しんでいるかの様だった。
更に何やら英語で寝言を言い始めたのだ。
希と絵里は顔を見合わせ、あかりの布団に入り
「大丈夫よ、あかり」
「ウチらがついとるで」
と絵里はあかりの背中を、希はあかりの頭を優しく撫でる。
その姿はまるで子をあやす親の様であった。
暫くしてあかりは安心したのか、穏やかな表情で眠り始めたのだった。
翌朝、真姫は一人浜辺に佇んでいたが、そこへ希がやってきた。
「早起きは三本の特やで」
「希、どういうつもりなのよ?」
その言葉に対し希はどこか真剣な表情でこう答える。
「…ねぇ真姫ちゃん、ウチな、μ'sのメンバーの事が大好きなん。
本人は口では否定しとるけどその中には勿論あかりちゃんも含まれてる。
ウチはμ'sの誰にも欠けて欲しくない。
μ'sを作ったのは穂乃果ちゃん達だけど、ウチもずっと見てきた。
何かあったらアドバイスもしてきたつもり。
それだけ思い入れがある」
「めんどくさい人ね、希」
真姫の言葉に希は
「否定はせえへんよ」
と笑みを浮かべる。
「おーい!希ちゃーん!真姫ちゃーん!」
皆を連れた穂乃果の呼ぶ声に二人も穂乃果達の元へ向かうのだった。
合宿の帰りの電車。
殆どのメンバーが疲れて寝ている中、希と絵里は二人で話をしていた。
「希、あかりの御両親って確か“事故”で亡くなったって言ってたわよね」
「うん、そうやけど…
やっぱり何かおかしい…“嘘”をついているか…或いは何かを“隠している”…そんな気がする」
二人はあの時、あかりが英語で言った寝言についてずっと考えていた。
あの寝言を希と絵里は聞き逃さなかったのだ。
「本人に直接訊く、と言ってもなかなか自分の事を話さないのよね…あかりは」
絵里の言葉に希は頷く。
「『憎い、殺してやる、地に墜ちろ』か…
あかりちゃん、今までどんな経験をしたんやろうか…それに『助けてヴェル』…一体誰の事なんやろうか…」
「あかりが前に年の近い娘からロシア語を習ってたって言ってのよ。恐らくそのロシア語を教えた娘がヴェルって娘だと思う」
『憎い、殺してやる、地に墜ちろ』
それはあかりが言った寝言を翻訳したものである。
あかりの“過去”とその言葉の真実が如何に“残酷”で“理不尽”で“血塗られたもの”であるのか…この時、μ'sの面々はまだ知る余地もなかった。
To be continue