(最近、ことりの様子が何かおかしい)
と言うのがあかりが思っている事だった。
まるで何かを隠しているいる様な…そんな感じである。
(まぁ、私も人の事は言えないし本人の口から言うのを待つかな…)
だが、その選択が大きな過ちである事をこの時のあかりはまだ知る余地もなかった。
夏休みも終わり、音ノ木坂学院は学園祭の準備が始まる時期となった。
勿論、μ'sの面々もライブをする気満々である。
今回のライブはラブライブへの出場を不動のものとする為の最重要事項である。
「さて、私も出来る限りの事をしないと…ツバサ達に負けてられないし!」
7日間連続ライブを行うツバサ達A-RISE、そして他の多くのスクールアイドル達もまた残り二週間のラブライブ出場枠決定に向けて最後の追い込みを掛けていた。
そんな中、μ'sの面々が練習している屋上へと向かうのだが…μ'sの面々はお通夜ムードと言わんばかりに落ち込んでいた。
「なる程…講堂使用のくじで外してこうなったんだね…」
絵里から事情を聞かされたあかりは何故μ'sの面々が落ち込んでいるのかを理解した。
音ノ木坂の学園祭での講堂の使用はくじ引きで使用出来るか、使用時間は何時かが決まるシステムになっているのだが…
アイドル研究部はハズレを出してしまい講堂が使用出来ないのだ。
「みんな、気持ちを切り替えましょう。
講堂が使えない以上、まずはどこでライブをするかだけど…」
絵里の呼びかけに各自候補を出すがなかなか決まらない。
「だったら…屋上で良いんじゃないかな?」
穂乃果の発案から屋上でライブを行うことになり、更に一曲目に新曲を披露することになったのだが…
ある日の夜、あかりの元に海未から着信が入ったのだ。
「穂乃果の様子がおかしい?」
『はい。最近の穂乃果は明らかに“頑張り過ぎ”だと思いませんか?』
μ'sがランキングで19位になった頃から穂乃果は家に帰った後もランニングをするなど練習に“頑張り過ぎ”ているのだ。
「うん、確かにそうかも…とりあえず穂乃果の方には私からも無理はしないようにと言っておくよ。
それと、ことり事について訊きたいんだけど…」
『ことりの事ですか?』
「うん、何か様子がおかしい気がするんだよ…海未は何か知らないかなって…海未?」
あかりの言葉に海未は暫く黙っていたのだ。
『あっ、いえ!』
「…何か言えない事情があるなら私は追求しないよ。
私も言えない秘密があるからね」
『すみません…あかり…』
「良いって事だよ!とにかく今は目の前のライブに集中だよ!」
そう言うあかりであったが、(最近、ジーオスの出現頻度がこれまでより高くなっている分)緊急出動が多く、その分の披露が溜まっているからか完全に油断をしていた…そして、その油断が仇となるのであった。
学園祭前日の夜。雨が降りしきる中、穂乃果はランニングをしようと玄関のドアを開けると
「あれ?あかりちゃん?どうしたの!?」
傘を差したあかりが雨の中立っていたのだ。
「仕事の帰りで近くに寄ったんだよ。
それより、あれだけ忠告したのにこんな雨が降る中、練習する気なの?」
うん、だって明日本番だから―「…呆れたよ」それどういう意味かな」
「明日が本番だからだよ。本番だからこそ休息を取って体力を温存し、万全の状態でステージに挑めるよう備える。
それに、この雨の中、外に出て走るなんて風邪を引きたいの!?ライブを滅茶苦茶にしたいの!?
これは穂乃果だけの問題じゃないんだよ!」
あかりの言葉に穂乃果は何も言い返せなかった。
「もし外に―「わかった!わかったよ!」わかれば良いんだよ」
穂乃果は靴を脱ぎ、家へ上がる。
「あかりちゃんも上がって!」
「うん、お邪魔するよ~」
そして、あかりは流れで高坂家に一泊する事になったのだった。
翌日―つまり学園祭当日。
あかりの存在もあって穂乃果は遅刻せず無事学校に到着するが…
「雨、止まないわね…」
衣装へと着替えた絵里は窓の外を見て呟く。
雨は一向に止む気配がない。
「これじゃお客さんも…」
花陽の言葉の後、皆は暗い表情を浮かべる。
「やろう!全力で歌おう!その為に頑張ってきたから!」
そんな中、皆に活を入れたのが穂乃果の言葉だった。
「今日のライブ、今までで最高のライブにしよう!」
穂乃果の言葉に皆の志気も高まった中
「ことり…良いのですか…」
「うん…みんなの志気が高まったいる時に水を差したくないから…ライブが終わったら…」
海未とことりの様子がおかしい事にあかり以外の面々は気付かずにいた。
あかりもライブが終わってから話を聞こう、今はライブに集中、と気持ちを切り替えた。
豪雨という最悪なコンディションの中、今回初披露となる新曲『No brand girls』を皮切りにライブは始まった。
その後も順調にライブは盛り上がり、そして進行し、誰もが無事に終わると思っただろう。
アンコールを受けて『これからのSomeday』を披露しライブは終了する…筈だった。
「皆さん!今日は雨の中、本当にありがとうございました!」
『ありがとうございました!』
(何とか無事に終わったね…)
とあかりが安堵し、油断していた時だった。
「次の曲でラストです!次…の曲…は…あれ…」
雨が降り続けている舞台の上で穂乃果は“崩れ落ちた”のだった。
あかりは急いで穂乃果の元へ向かい、穂乃果の身体を抱き上げ、額へ手をやると同時に密かに簡易スキャナを作動させる。
「酷い熱…まさか今までの疲労が…クソっ!ここまで疲労が溜まってる事に気が付かなかった…」
完全に油断していた自分を恨みつつ次どうするかを試行錯誤する。
「あかり、ライブは…」
「うん、このままじゃ穂乃果の身が危ない…」
絵里とのやり取りの後、あかりが出した決断。
「皆さん、申し訳ございません!メンバーにトラブルが起きました!
再開の見込みは現時点では分かりません!ですのでライブは中止です!」
「私が穂乃果を保健室へ連れて行く!皆この場をお願い!」
あかりは穂乃果を背負い、急いで保健室へと向かうのだった。
ライブから二週間後、あかりと絵里は理事長に呼び出され
「無理をし過ぎたのではありませんか?このような結果を招くために、アイドル活動をしていたのですか?」
と予想されていた正論を言われた。
スクールアイドルである前に自分達は学生であり、無理をして倒れたらそれこそ本末転倒だ。
そして、穂乃果を除いた9人で話し合い、“エントリー辞退”という結論に至った。
一方でライブの後もジーオスの出現頻度はライブ前よりも徐々に増しており、あかりはアイドル研究部に顔を出せずにいた。
尤もそれだけではない…どう顔を出せば良いのか…あかりは分からないのだ。
その日もジーオスを討伐した後、あかりの元に絵里から着信が入ってきた。
『あかり、今日も穂乃果のお見舞いに来なかったみたいだけど…?』
「ごめんね、最近は仕事が本当に忙しくて…
…そう言えば、穂乃果にあの事言ったんだよね?」
あかりの言葉を肯定する絵里。
「ごめんね…嫌な役を任せちゃって…
それにさ、皆に心配かけちゃってるよね…本当にごめんね…それじゃ」
あかりはそのまま通話を切ったのだった。
To be continue