「ブルー!こいつはお前のだ!」
最後に1番大きな餌をオーウェンは掲げ、ブルーと目と目をしっかり合わせる。
そして、オーウェンが投げた餌をブルーは上手くキャッチして食べた。
「よし!」
オーウェンの掛け声にラプトル達は一斉に走り出すのだった。
「実際に見るのは三度目だが…相変わらず凄いな」
「そうだね、ヴェル」
と訓練を見ていたあかりとヴェルはそう口にした。
「オーウェン、いやはや素晴らしいものを見せてもらったよ」
とオーウェン達に近付くのはヴィック・ホスキンス。インジェン社の危機管理部門の責任者である。
「お嬢さん達もちょっと良いかい?」
あかりとヴェルを呼ぶホスキンス。
正直に言えばあかりとヴェルは“ある点”からホスキンスの事が気に食わなかった。
「で、何の用です?」
と問うオーウェンに
「野外テストだ」
とホスキンスは返す。
オーウェンとバリーはまたか、と言いたげな表情を浮かべながらあかりやヴェルと共にキャットウォークを後にする。
「まぁまぁ、せめて最後まで話を聞けよ」
「あいつらは野生動物だ。危険過ぎる」
「だが、俺は今この目でしっかり見た…恐竜と人との絆を。
軍は人間の犠牲なしで戦える手段を欲しがっている。
ドローンに頼ろうとする者達もいるがデメリットも多い。だが、奴らはそのデメリットが少ない。ハッキングの影響は受けないしモビルスーツが入れないトンネルの中にも侵入して敵を殲滅できる」
と言うホスキンス。
「ドローンは共食いをしませんよ。恐竜達は共食いをする上に主導権を握ろうとしてくるかもしれない」
と告げるオーウェンにホスキンスはこう返した。
「その時は利口な奴だけを生かし、利口じゃない奴は見せしめに殺す。
そうすれば、残ったやつも反旗を翻そうとは思わないだろう」
その言葉にあかりとヴェルはホスキンスに怒りと呆れを持った。
あかりとヴェルがホスキンスの事を気に入らない理由―それがこの“支配者気取りで恐竜を生命体としてではなく道具の様に見ていて舐めている”点だ。
逆らう者は欠陥品として処分する―そんなホスキンスの考えをあかりやヴェルは気に入らないのだ。
「ホスキンスさん、忠告しておくよ。どうなっても知らないよ、ってね」
「右に同じく」
あかりとヴェルはラプトル達やオーウェンにまた後で、と言ってその場を後にするのだった。
数時間後、あかりとヴェルはオーウェンと共にインドミナス・レックスが飼育されている施設を訪れていた。
「これは…私の想像以上にヤバいかも…」
「飼育環境とかな…」
と言うのがあかりとヴェルの意見だ。
「どういう事かしら?」
と問うたのはクレア・ディアリング。パークの運営管理者である。
「二人の言うとおり、この環境はあまり良くない。
動物を隔離して育てるという事はリスクが大きい。
ラプトルも隔離して育てているが…彼女達には姉妹がいる。社会性を学んでいるが―」
「あの子は一人ぼっちなんだよ。社会性というのを学んでない」
あかりの言葉を受けて
「じゃあ、お友達をあげろって?」
と意見するクレアにオーウェンはこう尋ねる。
「もう手遅れかもしれない。それで、こいつに加えたDNAは?」
「ベースはT-レックス。…後は知らされてないの」
「職員にもか?」
「私はただ資産を受け取って公開するだけ」
クレアはオーウェンにそう返した後、管理主任に
「餌を降ろして!」
と指示を与える。
管理主任はパネルを操作、それによって大きな肉の塊がクレーンで降ろされるが…インドミナスは現れない。
「どうしたのかしら?」
「地下にでも行ってるんじゃないのか?地下や娯楽部屋はあるのか?」
「いいえ、そんなものないわ」
クレアはパネルを操作し、赤外線センサーでインドミナスを探し始めた。
ふとオーウェンはあかりとヴェルのいる方を向いた。
何かを見上げている二人にオーウェンは声をかける。
「どうしたんだ?二人共」
「あれを見て」
オーウェンはあかりに呼ばれ、二人がいる窓ガラスの前まで行き
「これは…!」
壁に付けられた爪痕に気付くのだった。
赤外線センサーでインドミナスを探すクレアだったが『熱反応なし』とモニターに表示され、警報が鳴り響く。
「嘘よありえない!」
と焦り始めるクレアにヴェルは
「クレアさん、あの爪痕は何時からあったんだい?」
と尋ねる。
「昨日来た時はなかったわ…まさか…一刻も早く捕まえないと…!」
脱走、という可能性が頭によぎり、顔を真っ青にするクレアは管制室へ向かって走り出した。
数分後、オーウェン、管理主任、職員、あかり、ヴェルは熱反応がないインドミナスの檻の中に入っていた。
「こんな高い壁を15メートル近くの恐竜が登れると思いますか?」
「それはインドミナスに埋め込まれたDNAによる」
管理主任の言葉にオーウェンがそう返したその時、管制室から通信が入るが、電波が悪く途切れ途切れで聞き取りづらい。
「こちら、管理主任。どうしました?」
管理主任に対し管制室のオペレーターは焦って口調でこう言った。
『檻の中にまだ恐竜がいる!』
その言葉とオーウェンの逃げろという言葉の後、皆は一斉に出口に向かって走り出した。
その時、あかりの感が“何か”を察知した
「待って!そっちは―」
あかりが言い終えるより先に、白い前足が職員を捕まえる。
「罠に嵌まったか…!」
舌打ちするヴェル。
そして、その前足の持ち主―インドミナスは職員を喰らう。
あかりは一瞬だけ視線をインドミナスに向け、ある事に気付いた。
インドミナスの瞳に狂気と共に涙を浮かべている事に。
(そっか…この娘は憎しみに…狂気に捕らわれてる…嘗ての私みたいに)
そんな中、オーウェン達は急いでUターンしてゲートへと向かい、あかりとヴェルも後を追う。
指紋認証式のゲートを管理主任が慌てて開け、管理主任が出た後、管制室が操作したのかゲートが閉じ始める。
オーウェンとあかり、ヴェルはギリギリで通り抜けるものの、ゲートが閉じ終える前にインドミナスは己の身体を挟み込ませてゲートを破壊する。
オーウェンとあかり、ヴェルは停車されてた大型クレーンの下に潜り込み、管理主任は工事用のピックアップトラックの影に隠れる。
だが、インドミナスはピックアップトラックを軽々投げ飛ばし、隠れていた管理主任を喰らった。
「鼻が利くようだな」
「厄介だな」
「うん、これは匂いを紛らわせた方が良いね」
オーウェンとあかり、ヴェルはベルトからナイフを取り出し、ガソリンの配管である耐油ゴムチューブを切断、こぼれ落ちるガソリンをそれぞれ振りかけ、インドミナスが去るのを息を殺して待つ。
数秒後、インドミナスは此処にはもういないと判断したのか一吼えしてその場を去るのだった。
「ふう…何とかなったね…」
「しかし良く思い付いたな」
「同じ事を考えてたんじゃないか?」
というあかりの言葉にオーウェンはまぁなと返す。
「それによく冷静でいられたな」
「まぁ、人が死ぬ所はテレイター化する前に見たからね…両親と妹か弟になるはずだった者が殺される所を…」
「私もだよ…それに、私自身も…この身体は“罪を犯した代償”みたいなものでもあるから。
あの子は…インドミナスは嘗ての私なんだよ…憎しみに…狂気に捕らわれている」
オーウェンは敢えて深く追究したりしようとはしなかった。
「しかし熱探知から逃れられたり擬態能力を持ってるとは聞いてなかったぞ」
オーウェンの言葉にあかりはある考えに至った。
(赤外線無効化に擬態能力…どれも各種探知機から逃れるのに適した能力…まさか…!)
そのまさかが的中する事になるとは、この時、あかりはまだ知る余地もなかった。
「オーウェン、彼女を―インドミナスを止めよう。
“人間の傲慢の被害者”たる彼女に私はこれ以上、罪を背負って欲しくない」
To be continue