「偶にいますね。あなたみたいに迷子になってしまう人」
ソウレイと名乗った少女の言葉に恥ずかしさで顔を赤くする穂乃果。
穂乃果は彼女に自分は今迷子であると話し、彼女はホテルやその周辺の特徴について訊ね、その場所まで案内する事にしたのだ。
「しかしホテルの名前もわからないとはな」
そう言ったのはソウレイと行動を共にしていた人物であり、彼女からゼロと呼ばれていた。
「め、面目ない…でも、ソウレイちゃん凄いね!大きな駅の大きなホテルって言っただけで分かるなんて!」
穂乃果のリアクションにゼロはリアクションがオーバーだなと思っていた。
「あっ、そのホテルには大きいシャンデリラがありましたか?」
「うん!あったよ!」
「でしたら彼処です」
「こっちに来て結構長いの?」
「いえいえ、僕達は旅人でして此処を訪れたのは数週間くらい前になりますね」
「場所がわかったのはそのホテルに行った事があるからだ」
とゼロは答える。ゼロの言葉の後、唐突にソウレイは問う。
「あの、今“迷って”たりしますか?」
「えっ、どうしてそれを…」
「何となく顔を見てたらそんな感じかなと思いまして」
ソウレイが指摘した通り―穂乃果は“迷って”いる―いや“矛盾する願い”を持っているのだ。
μ'sは三年生の卒業を以て終わりにする―そう決めた筈なのに今では皆とμ'sとしていられる時間が永遠に続いて欲しいという“決意”と矛盾した願いを持っている。
「うん、そうなんだよ…皆で話し合って決めた筈なのに…それと矛盾する願いを抱くようになって…
私、仲間と一緒に日本でスクールアイドルをやってて…三年生の卒業を以てそのグループとしての活動を終わりにするって皆で話し合って決めて納得したのに…
何故か最近になってこの時間が―皆と一緒に活動していく時間がこれからもずっと…永遠に続いて欲しいって思う様になって…」
「続ければ良いんじゃないのか?スクールアイドルという枠に捕らわれずプロのアイドルとしてデビューする道もあるだろう」
「でも…」
「あっ、勘違いしないでくださいね。ゼロはあくまでもそういう選択肢もあるって言ってるだけですから。
“願い”を優先して続ける道を選ぶか、それとも“決意”を重んじて解散する道を選ぶかは貴女達の自由で貴女達自身で選ばなければなりません。
だから、僕がとやかく言う権利はないんですが…
これだけは言わせてください。後悔だけはしない様に」
「ソウレイちゃんは後悔していることがあるの…」
穂乃果の言葉にソウレイは
「はい、あります」
一瞬だけ表情を暗くする。
「あっ、でも今は幸せですよ。ゼロとも出会えましたし」
そう答えるソウレイは笑みを浮かべており、ゼロは照れくさそうなのかそっぽを向く。
暫く3人で話ながら歩いていると
「穂乃果!」
穂乃果は自分を呼ぶ声をした方角を振り向き、其処には海未を筆頭に皆がいた。
「みんな~!」
皆の元へ駆け寄る穂乃果に
「何をやってたんですか!」
と海未は怒鳴る。
「どれだけ…心配したと思ってるんですか…」
と涙目で言いながら海未は穂乃果を抱き締める。
「うん…ごめんね」
「全く、穂乃果は昔から忘れた頃に今回みたいなうっかりを起こすんだから」
と言うあかりに穂乃果は言い返せない。
「そうだ、実は此処まで案内してくれた人達が―」
と穂乃果はソウレイとゼロを紹介しようとしたが…彼女の姿は既になかった。
「いたんだけど…」
「う~ん、もう行っちゃったんじゃないかな」
とあかりは推測する。
「とりあえず、明日も早いしそろそろ寝ましょう」
絵里の言葉に皆は頷き、ホテルへと入って行く前
「ねぇ!みんな!」
穂乃果は呼び止める。
「今日は心配をごめんなさい!」
「皆、気にしてないわよ。その代わり、明日のステージはあなたが引っ張って最高のステージにしてよね」
と笑みを浮かべていう絵里に穂乃果は笑顔で頷いて返すのだった。
翌日、ニューヨークのタイムズスクエアではライブへの準備が行われていた。
μ'sの面々はホテル内にあるジムでリハを行ってからこちらに来る予定だが、あかりは先にタイムズスクエアに来て準備を先導していた。
「『それはこの位置にセットしてください』」
と英語でスタッフに指示を出すあかり。
あかりの的確な指示とスタッフの迅速な対応によってステージはあかりの想定してたよりも早くセット出来た。
「ふぅ…思ってたよりも早く済んだね…後は本番を待つのみ」
と呟き、あかりは時刻を確認する。
時刻は丁度お昼時。
どこかで昼食を済ませておこう―と考えていた時だった。
「『あかり』!」
と聞き覚えのある声に思わず振り向くあかり。
「『オーウェン!クレアさん!レノックス!』」
アメリカにいた時の上司とイスラ・ヌブラル島で共に戦った仲間がいたのだ。
「『元気してた?』」
と問うクレアに
「『うん、何とか元気してたよ~今日は来てくれてありがとう!』」
「『共に戦った戦友の誘いだ。断るわけないだろ?』」
とオーウェンは言う。
ふとあかりはオーウェンとクレアの指にはめられた指輪に気付く。
「『その指輪…まさか…!?』」
「『あぁ、そのまさかさ』」
「『お腹の中には赤ちゃんもいるのよ』」
「『オーウェン、クレアさん、おめでとう!』」
とあかりは二人を祝福する。
「『今日のステージ、楽しみにしているぞ』」
レノックスの言葉に
「『うん、楽しみにしててよ!』」
あかりはそう返したのだった。
あかりはレノックス達と昼食を食べ終えた後、最終チェックを行い始める。
「あかりちゃーん!」
振り向くと穂乃果が手を振っていた。
「皆、ステージの方は準備万端だよ!」
「これまた凄いステージやね」
「もうちょいステージのセッティングに時間がかかるかと思ったけど、スタッフの皆さんが優秀で予想より早く済んだよ」
「それじゃ、私らも準備に取り掛かるわよ~」
にこの言葉に皆は頷いた後、控え室へと向かい、今回の衣装へと着替える。
そして、夜になり、ライブが始まった。
まずこのライブに備えて作った曲『輝夜の城で踊りたい』を披露した後、次の曲のセンターである絵里が挨拶をする。
「『皆さん、こんばんは!今日はお集まりいただきありがとうございます!
私達はμ'sという日本で活動しているスクールアイドルです。
ところで“スクールアイドル”を皆さんはご存知ですか?
スクールアイドルとは、その名の通り学校で結成されたアイドル達の事です。
今日はそのスクールアイドルの素晴らしさをみなさんにお伝えしたくて、日本からライブをしにやってきました。
それでは、最後までよろしくお願い致します!』」
絵里の挨拶の後、照明は暗転し、μ'sの面々はそれぞれの各々の定位置へと移動し、静かに曲の始まりを待つ。
そして、曲の始まりと共に彼女達は舞い始める。
着物をイメージした衣装に黄金に輝く扇子を持って舞うμ'sの面々。
その扇子を作ったのはあかりで、徹夜して作った自信作だ。
扇子が夜の街の光を反射して残像を残す光景はどこか幻想的でもあり、そんなステージの上で心から楽しそうに舞い踊る彼女達に人々は魅了される。
このライブの為に作られたその曲の一つ『Angelic Angel』。
その日、“9人の歌の女神”達は言葉の壁を越えて人々の心を魅了し、人々は“9人の歌の女神”に惜しみない拍手喝采を送るのだった。
To be continue