…私、もしかしてJK!?なんて思わないです。
現在、専任読手は7名しかいない。
キョコタン(呼ぶのは周防現名人だけ)こと山城今日子。
CDでお馴染みの五十嵐修。
広島出身で比較的若い廣田幸一郎。
鼻濁音の美しい牧野美登里。
小柄ながら美声と立体的な響きを持つ小峰和光。
読みのピッチが恐ろしく正確な芹沢泰治。
独特な声だがどこかしっくりくる声の九頭竜葉子。
以上7名だ。
専任読手は四段以上で、A級公認読手として5年以上の実績がある者に“試験資格が与えられる”と言っても過言ではない資格だ。
「なにはづにー、さくやこのはな、ふゆごもりー、いまをーはるべとーさくやこのはなー」
「はい、ストップ。」
中学生になってからはもっぱらA級公認読手として読手を務めている。ちなみに、A級公認読手は三段で取れるので、B級の頃つまり小学校4年生くらいにはもう取っている。
奏の歌に近いのは山城今日子専任読手だ。いわゆる歌の情報量が多いのだ。
そして、今は原田先生の伝手という名の原田先生の被害者である牧野美登里専任読手に歌い方を叩き込まれている。
ちなみに、3ヶ月後に専任読手になることが内定しているので、こうして付きっきりでの指導をしてもらっているのだ。
「せっかく情報量が多いのに、そんなに固いと何も入ってこないわよ。」
原田先生と同年代とは思えない若さ―――いや、同年代か。あの人も年齢の割に動けるし。
中三の11月の名人位・クイーン位挑戦者決定戦3番勝負の1番目の読手の名前に専任読手として名前を連ねてお披露目となる。
高校入試?あいつは死んだ。
ちなみに奏は都立瑞沢高校の推薦を貰えそうなのでモーマンタイだ。
「いまをーはるべとーさくやこのはなー。」
☆☆☆☆☆
奏が中一の頃、この世代は黄金世代と呼ばれ始めた。
若宮詩暢、綿谷新、大江奏、山城理音。
上記の世代のかるたは周りの世代に比べて際立っていた。
そして、この年、若宮詩暢はクイーンに。
大江奏は専任読手に。
そして綿谷新は公式戦・かるた会両方から姿を消した。
☆☆☆☆☆
(かるた部……別に高校生大会は出なくてもいいかな……)
奏はかるた部のチラシを掲示板で見つけた。
だが、別に魅力は感じてない。
高校に進学して、数日。奏は小学校時代に懐かしい顔2人に拘束されていた。
「肉まんくん!大江さん―――いや、かなちゃん!経験者はかるた部は入れ!」
「はいれー!」
「はぁ!?おれもうかるたなんてやんねぇよ!」
「わざわざ部活でする意味が無いです。」
「頼む、二人とも!5人揃わねぇと部にならないだ!」
「お願い、肉まんくん!かなちゃん!」
「…埒が開きませんね。…西田くんでしたっけ?あなたと真島くん、私と綾瀬さんでかるたやりましょう。全勝した方は全敗側にそれぞれ1つお願いを聞くということで。」
「引き分けた場合は?」
「お互いに願いを叶え合いましょう。つまり、あなた達が入部させたいならどちらかが必ず勝たなければならないということです。まあ西田くんはB級と言ってももと全国2位。私はA級六段の専任読手。どちらが有利かは自明ですが。」
「いいだろう。そっちの願いは?」
「太一いいの!?」
「…なら俺は前提として付きまとわないことは当たり前として、肉まん1週間分な。」
「私は…綾瀬さん。あなたがうちの家でモデルになることです。向こう3年間。」
「……分かった。放課後、部室に来てくれ。読手は当てがないからCDランダムで構わないか?」
「ああ。」「構いません。出来たら五十嵐修専任読手のものがいいです。」
「了解した。いいな?千早。」
「う、うん。」
☆☆☆☆☆
「時間です。」
ラジカセの操作と審判を担当する駒野勉が声をかける。
「「「「よろしくお願いします。」」」」
「「「「よろしくお願いします。」」」」
『なにはづに―――』
『しのぶれど―――』
西田と真島の組は西田が取った。
奏と千早の組では少し面白い形になっていた。
千早の陣の右下段にあったしのぶれど。それを奏が抑えていたところに払おうとした千早の指が札をづらしたのだ。
「私の取りでいいですね?」
「……うん。」(これがA級最年少記録選手…!)
西田VS真島、12-14。
大江VS綾瀬、8-18。
序盤伸ばされたリードはこれ以上離されないと千早も積極的に動くが、如何せん、攻めがるたは劣勢で枚数の差が開くと、崩れやすい。
(くそっ!千早のやつ圧倒されてんじゃねぇか!どうすんだよ!こっちだっていっぱいいっぱいなのに…!)
太一の焦りも虚しく、さらに差が広がる。
西田VS真島、10-11。
大江VS綾瀬、4-17。
「ありがとうございました。」
「……っ、ありがとうございました。」
西田VS真島、8-9。
大江VS綾瀬、0-17。
『ありあけの―――』
『つきみれば―――』
『ゆらのとを―――』
7-7。
『わびぬれば―――』
『ひさかたの―――』
『ももしきや―――』
『ゆふされば―――』
5-5。
シーソーゲームは終わらない。
太一が取れば肉まんくんが取る。
肉まんくんが取れば太一が取る。
(なんだよ!真島のやつ、こんなに強いなんて聞いてないぞ!)
(調子いいな……だけど、このままじゃまずい。運命戦になんてなったら勝ちの目は消える。自慢じゃないけど運はないからな!)
『こひすてふ―――』
(来た!)
2-1。
(運命戦なんて、やらせねぇ!)
太一は自分の運のなさから、相手陣どちらかが読まれると予想。だが、残る3枚のうち2枚は共札。きみがためは、と、きみがためを、だ。
自分の運のなさなら、残るこころあがくると山を張った太一は敵陣左下段に飛び込めるように力を入れる。
『たごのうらに―――』
絶対とるという気迫の中に、太一の体はいちいち空札で弛緩しない。
(真島……空札で気を抜かない…抜いてくるのか?)
『こころあてに―――』
1-1。運命戦。
肉まんくんの力は太一よりも高いことは自明だ。器用貧乏な太一は武器がない。だが、その運のなさだけは武器だ。
太一は自陣死守なんてしない。敵陣を抜く。
太一の札はきみがためは、肉まんくんの札がきみがためを。
「きみがための大山札の共札で運命戦…囲い手崩しですかね。」
『きみがためー』