「おーい、真島!肉まん!」
「あー、ハイハイ。」
学校の購買で肉まんを奢ってもらう肉まんくん。
「その代わりちゃんと部活には来いよ?」
「分かってるって!…別につまんなかった訳じゃないし。」
「素直じゃないですね。肉まんくんも。」
「うおっ!?…なんだかなちゃんか。いきなり横に現れないでくれよ。」
「…善処します。」
奏は自覚していないが、背の低さ(小柄さ)と研ぎ澄まされた所作は、発生する気配を薄くさせる。
今にも消えてしまいそうな儚さの中にある雅さが奏の魅力だと肉まんくんは思う。
「ところで綾瀬は?」
「今頃ウチでモデルです。」
「そんな賭けだったな。」
結果的に、あの時読まれた札は“きみがため を”。囲った肉まんくんの手の下を決まり字の前に破った太一の勝ちだった。
一勝一敗。引き分け。残り枚数的にも、主将副将とかの順番的にも大江・西田ペアの勝利だったので、少しだけおまけで、酷暑の時以外では公式戦で和服の着用をルールにすることに。
もちろん実家の呉服の大江の宣伝だ。
とはいえ、呉服の大江は経営が傾いている訳では無い。
大規模な旅館の制服の着物の専属契約が結ばれているし、海外にも、着物として以外にも色々な日本伝統布製品を販売しており、かなりの黒字である。貿易黒字に貢献している。
それはともかくとして、高校選手権はBSでも中継されるし、かなりいい宣伝になるだろう。
流石に高校選手権の本戦では暑いだろうから、浴衣に袴、もしくは絽の着物になるだろうが。浴衣なら袴にしてもだいぶ端折れるから夏にはやはりこちらがいい。
正直普通に絽でも暑い。死ぬ。(ちなみに奏は1度大会の読手を終えた後に熱中症で倒れている。)
☆☆☆☆☆
絶対の武器を持たない人にとって、情報というのはなくて困ることは無い。
かるたにおいても当たり前のことだ。
特に高校選手権の団体戦なんかでは特に重要だ。戦略を立てる上で必要なのはまず情報だ。戦略次第では強豪校を弱小校が破ることも可能だ。
「というわけで、情報戦に対応するために専任で情報担当を誰かにお願いした方がいいと思うのですけど、『情報処理の出来る頭脳』と『時間的余裕』がある人いますか?」
入ったからには勝利を目指す。それは奏がここ数年で身につけた勝利への渇望だ。原田先生の指導は“合う人なら伸びる”タイプだ。恐らく奏もそれで伸びたと思われる。
「…おれ?」
「太一か机くんしかいないでしょ!」
「僕も!?」
「そうだろ?おれと綾瀬は向かねえ。大江さんは専任読手と家関連で忙しいだろ?」
「はい。ちょっと難しいです。」
「…済まないが駒野、頼めるか?おれは家の約束があってな……母親が厳しくてこれ以上リソースは割けない。」
「確かに机くんならピッタリだよ!理論立ててかるたをするタイプだからね!」
「そ、そうかな?」
机くんは今まで強い経験者の中でたったひとりの未経験。自分は人数合わせなんじゃないかと思っていた。
自分がいなくても出来るんじゃないか。名前だけ入れておけばいいんじゃないか。そう思ってしまっても仕方のない環境だった。太一や奏が狙った訳では無いだろうが、未然に防ぐことが出来たのだ。
「それじゃあ役職も決まったところで申請出しに行こう!」
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♡宮内せんせい♡
かるた部員5人そろいました!!
人物紹介↓
部長 1-2 綾瀬千歳 いつかクイーンになります!
副部長 1-1 真島太一 器用貧乏なB級です。
書記 1-2 駒野勉 情報が命!
機器 1-8 西田優征 B級で1番丸い気がします!
会計 1-6 大江奏 日本で8人しかいない専任読手!
よろしくおねがいします♡
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学校で女帝と呼ばれる先生に提出しに行く。
「メンバーが揃ったから正式にかるた部を発足させて欲しい…と。部長は綾瀬さん以外に変えるなら認めましょう。顧問はとりあえず私が努めます。はい、解散!」
―――――というわけで、
「練習方法どうする?」
部長:真島太一
「とりあえずおれと真島で綾瀬の相手を交互にして、空いてる方が机くんに教えるってどお?」
道具等管理:西田優征
「勉です、肉まんくん。」
情報専任管理:駒野勉
「「……」」
「机」「肉」「机」「肉」
「部費3,000円…札1つですね。」
会計:大江奏
「ようし!今日は机くんと取るぞう!」
“キャプテン”:綾瀬千早
「「「………」」」
「いいですね。2回目は私がお相手します。」
「「「…………………」」」
「……西田、A級ってみんなこんなヤツらなのか?」
「真島、おれもB級って覚えてそれ言ってるか?」
B級2人は頭を抱えて、机くんは唖然として固まってる。
「強いひとと取らないと強くなれないんです。それは私がC級からB級に上がった時に思わされました。A級とB級に差があるように、B級とC級にも大きく差があるんです。周りの力が押し上げてくれるんです。」
「私は初めてかるたした時のことを今でも忘れないんだ。ものすごく強い人が相手だったんだけど、その時にもし手を抜かれてたら、今、かるたをこんなに好きになることはなかった。私も手加減なんてしない。みんなで近江神宮に、団体戦で行くの。この5人で!」
「……今年は読み手に回れなそうですね。」
少し微笑みながら奏は読み札を“置く”。
「やりましょう。まずは部長が弱いなんて洒落になりませんから私は真島くんとやりましょう。肉まんくんは読手をお願いします。」
☆☆☆☆☆
下校時間に女帝こと宮内先生が「下校時間ですよ!」と大声で言うのに若干イラッとしながら帰る奏。
その不機嫌オーラはほかの4人が引くほど。
「なんで歌の途中でドアを思いっきり開けるんですかね。さびしさに、の心の中に潜む寂しさに出家して1人になったさびしさを重ねた歌のなんたるか!」
「ま、とにかく時間が足りないな。」
「ああ。おれも西田もB級と言ってもかるたから離れてたからな。感覚の復帰と強化にはもっと取らないと。」
「取れても2試合だからなぁ…そもそもスタミナつかねぇよ。」
「確かにな。大会じゃあ勝ち残れば1日4試合はざらだ。」
その時、千早がふと思い出して呟く。
「なるほど、白波会で合宿してたのってスタミナ対策もあったんだ。」
一瞬4人は(千早は除く)なんで気付かなかった!と顔を見合わせる。
「合宿!!」
「いーじゃん!合宿!やろーよ!」
「え、でも近場じゃ場所が…」
「畳があればどこでも出来ますよ。うちでやりましょう。」