かなちゃんは黄金世代四強なのです!?   作:風早 海月

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かるた会での指導

「みんな!今日から白波会の練習に入れてもらおう!全国まで時間もないし、私の先生のとこ、力つけに行こう!」

 

千早はかるた部の部室に集まったメンバーにそう話す。

かるた部5人のうち、3人が白波会所属選手なので、そう言う。まあ、そもそも肉まんくんが真面目にかるた会に顔を出してるとは思えなかったというのもあるが……

 

「いや、おれらはいーよ。」

「なんで!?私たち東京代表になったんだよ!?やれること全部やらないと!もっとがんばろうよ!」

「え」

「おれたち翠北会の練習に行くんだよ。うちの師匠基本教えるのうまいから。机くん、強くなりたいって言うからさ。」

「え……」

「じゃ!いってきまーす!」

 

肉まんくんと机くんが部室を飛び出して走り去った。

 

「凄いな。あいつらもちゃんと自分に足りないものわかってんだよ。」

 

呆気にとられる千早に、太一は感心したように話す。

 

「よし、じゃあ私たちも行きましょう?………原田先生の説教の間へ。」

「「あー…」」

 

3人が3人とも心当たりがあるので、なんとも言えない表情になりながらも、重い足を文化センターへ重い空気の中、向けるのだった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

白波会に顔を出すと、原田先生が満面の笑みで迎えてくれる。

もちろん説教と言っても、結局のところ自分がやらないとできないことなのであーしろこーしろと怒鳴ったりはする人でもないし、しないのだが、それでも3人は原田先生の“指導”は正座で説教スタイルで傾注である。

 

「千早ちゃん、まつげくん、かなでちゃん!よく来たね!指導するとこ、いっぱいあるよ!」

 

練習場所である大広間の端で正座で座る3人にまくし立てる原田先生。

 

「まつげくんは、お手つき少ないし正確なんだけど気合が足りんよ気合が!『次はこれを読ませる!』位の気合いで札を呼び寄せんと!あとねー、もっと腰を浮かせてドンッと飛び出していくのもいいよ―――相手ビックリするよー。爪もうちょっと切りなさい、ケガさせるよ。」

「千早ちゃんは、気持ちのムラが大きいねー。もっと札に集中しなさい。全国は変人の集まりだからね。決勝戦の送り札!あれはなに?なんで友札早めに分けないの!あと、腕の振りが大きすぎ!もっと札にまっすぐ直線で行けるようにしなさい。最後に、決まり字までちゃんと聞きなさい!」

 

一通り話終えると、原田先生は膝を抑えながら立ち上がる。

 

「さて、2人はとりあえず広史くんと松末くんの2人と取りなさい。」

「あの、その前に1ついいですか?」

「ん?かなでちゃん?なんだい?」

「太一くん、今日は『守り』を意識して取って見てください。攻めずに取りましょう。」

「…分かった。」

「………」

 

今の会話を聞いていた原田先生は少しだけ目を見開いたあと、少しだけ片方の口角をじわりと上げた。

 

「さ、かなでちゃんは1回外に出ようか。隣の会議室にしよう。休憩室として取ってあるが今は誰も使わないだろう?」

「ええ。」

 

 

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原田先生はポットのお湯を急須に注ぎ、じっくりと蒸らしていく。

 

「かなでちゃんも緑茶でいいかな?」

「はい。ありがとうございます。」

 

2人分のお茶を手早く用意していく。

 

「どうぞ。」

「いただきます。」

 

ズズっと口に含むと、緑茶の旨みの苦味が舌の上に広がる。

 

「単刀直入に聞くと、“対症療法”では効かなくなったかい?」

「ええ。しかも重心が高い分ヘビートップで振りが大きくなり、ただでさえ遅い動きがさらに遅くなりました。B級にも負けるくらいには。突きならともかく、行って戻るというのは難しいですね。」

 

原田先生の言う対症療法は原田先生がよく用いる身体操作方法を奏用にアレンジしたものだ。動きが遅いこと、筋力が少ないことをカバーする操作方法だ。

だが、それでも効かなくなってしまったのだ。

 

「うーん…私が言うのはお門違いで言うべきではないのかもしれんが、それを承知で言わせてもらうけど、抑えてはいるんだよね?」

「はい。まあそれでも動かないことは無いですけど……」

「ふむ……ならば手は2つ。片方で効くかどうかは別の話で、効かないなら両方やるべきという手を教えよう。1つ目は体幹を鍛えることだ。かなでちゃんは小柄で細身なのにそれほどまでの大きさのものを抱えているのがそれを許容できるだけの身体を作る。これがまずは先決。これでダメなら……かなでちゃんにはブレイクスルーが必要だね。」

「ブレイクスルー?」

 

原田先生はお茶をぐびっと飲みきる。

 

 

 

―――美しくあることをやめなさい。

 

 

 

 

原田先生は奏にか弱い女の子から戦士への変化を求めているのだった。

 

 

 

 

 

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千早たちが試合を終えると、奇妙でそして、ここにいる男性全員がゴクリと喉を鳴らす桃源郷があった。または女性の一部からの嫉妬(?)の視線の嵐となっているものがあった。

 

薄い半袖Tシャツの上、激しく主張する本当に小ぶりなメロンが2つ入っていそうな豊かな胸。

 

それが動く度に大きく揺れる。

 

かるたをとるときよりも激しく主張するのは、奏が腹筋背筋をはじめとする体幹トレーニングを行っているからだ。

 

……大胸筋が成長するとさらに大きくなる?気にしてはいけない。

 

 

「なにしてるの?」

「見て分からないですか?筋トレです。原田先生から体幹を鍛えてやれば不調は治るかもしれないと言われたので。」

「いや、そうじゃなくて…」

「なんでここで?」

 

千早の言葉を太一が引き取って言うと、奏は諦観の交じる目をする。

 

「音を立てないようにトレーニングすると効率がいいって…」

「「ああ……」」

 

あの人の言いそうなことだと2人も呆れの入った瞳になる。

 

「ところで2人はどうでした?」

「坪口さん強い…同じA級なのに、格が違うって言うか…」

「松末さんもやばい。千早と同じ4段のはずなのに千早より取りづらい。」

 

口々にそう評するが、奏の中ではそれよりも大事なことを忘れていない。

 

「太一くん、どうでしたか?」

「分からないけど、多分いいと思う。」

「…そうですか。」

 

太一は圧倒的に攻めがるたに向いていない。確かに、ここぞの飛び出しは悪くないが、感じの良さも、流れの読みも、もっていない。

あるのは札の配置と決まり字の変化を完璧に記憶していることだ。

守りがるたなら、十分にA級でもやっていける力はある。もちろん攻めがるたでも積極的に大会に出ていれば運が良ければ勝てるくらいには強いのだが…真島太一という人の運はかるたにおいて良くないことは、自他ともに認めることであった。

 

 

 

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